弐;妖艶に微笑む
鏡音レンの暴走を聞きながら頑張ってました。
…テスト週間だ…
ある日山吹は、質素な着物を着て宮中から抜け出していた。いつも縛られたままの生活だと、体がなまってしまう。蒼華が月の見かたを教えてくれていたので、山吹は十六夜の日に都へ遊びにいくことにしていた。また、十六夜の日は蒼華が用があると言って宮中にいないので、山吹が出ていってもそれほど騒ぎにはならない。
「ほら早く、厩から出ておいで」
おおよそ貴族の女性らしからぬ格好で、垣根の外から厩に向かって口笛を吹く。するとすぐに、山吹の愛馬が闊歩してきた。
この馬は山吹がまだ歩いて都に行っていたとき、大通りで迷子になっているのを見つけ、保護したものだ。仔馬が不安そうに歩き回っているのを見てかわいそうに思った山吹はその辺りにいた人を訪ねて回ったが、誰もこの黒い斑点のある馬を知っている者はいなかった。仕方なく馬を連れて帰り、それ以来、低薔薇と名付けられた彼は、山吹の唯一無二の親友となっている。
大衆に利用されている脚や腕などの露出が多い服だと、馬にも乗りやすい。まあ、山吹にとってははいつもの自己流十二単を質素にしただけの服だが。彼女は短めの振袖と山吹色の髪をなびかせ、壁を蹴る勢いを利用して低薔薇に飛び乗った。このまま裏門から出ていくのだが、その前に寄るべき場所がある。
「低薔薇。わかるわよね」
愛馬の耳元で囁き、首を裏庭の倉の方に向ける。ここには山吹の家系の者しか入れず、すなわち、今は山吹しか入れない。この中には『桜橙剣』が納められており、これを使うと自然の様々な力を操ることができるという。
「う…きしむわね」
重い扉が、いつもよりもきしむように感じられる。嫌な音に耳を塞ぎながら倉の中に入り、山吹は剣を手に取った。見た目は、柄の部分に漆が塗ってあり、桜の絵が点々と描かれている。刃は薄い金色で塗られ、日にかざすと光って見える。彼女はこれを鞘に収めてから着物の内側に忍ばせた。出ていくついでに、ヒノキの香りが染み込んでいるあの紙があるかどうかも確かめる。
準備が整うと、山吹は再び低薔薇に跳び乗った。門をそっと押して外に出る。このときの開放感が、山吹は一番好きだ。
山吹色の髪を持つ女御として山吹は有名なので、人の通らない裏道を選んで散歩をすることにしている。目立つと、宮中に連れ戻されかねない。低薔薇の足には厚い布が貼り付けられていて、足音はほとんどたたない。山吹はゆっくりと道を歩きながら、たまに垣間見える大通りに出ていかないように気をつけていた。
そのまま何の気なしに歩いていると、山吹は見たことのない道を通っていた。帰るのには低薔薇の鼻があるので別に困らない。山吹は周りの見慣れない建物を興味深々に眺めながら馬を進めた。しばらく観察していると、この辺りの建物には共通点があることがわかってきた。
まず、窓には格子がはめられていて、小さな個室を覗くことができる。また、必ずそこからは酒類の匂いがして、灯りは点いていなかった。一軒を確認すると、『華部屋』という名前が付いていた。
「ねえ、あなたは誰?」
山吹が個室を覗いていると、急に背後から声がかかった。本能的に体を動かし、服の上から剣をまさぐる。何も言わずに素早く振り向くと、そこには見慣れない格好をした少女が立っていた。歳は山吹と同じくらいだろうか。彼女がもう一度言う。
「あなたは誰?」
山吹は不思議に思った。この髪の色のおかげで、都で自分を知らない者はいない。こんな質問を誰かがしてくるのは、初めての経験だ。山吹は、答えの代わりに質問を返した。
「あなたこそ、誰なの?」
少女は妖艶に微笑んだ。
「質問に質問で返すと、テストが0点になるんだよ。…ああ、あなたはテストの存在を知らないかぁ…残念」
山吹は瞬時に剣があることを確かめた。
「意味のわからない言葉を…!馬鹿にしているの?」
少女はやんわりとたしなめた。
「まあ落ち着いて。私は敵意があってあなたに話しかけたんじゃないの。ただ、あなたに感じるものがあってね…」
そのまま一呼吸置いて、話を続ける。
「あなた、自然の力を操れるんでしょ?その剣を使って」
閲覧ありがとうございました。
前書きにも書いた通り、テスト週間です応援してやってください。