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壱:いつか、その時が来るまで

鏡音レン溺愛中、梨です。

更新は不定期ですが、少しずつ書いていきたいなーとは思っています。

古きよき桜の華

其れの(もと)で唄い舞し、山吹の()

今は(ただ)運命さえも忘れ、世の全部(すべて)を巻き込もうとするかのように髪をなびかせる

…終焉を迎えようとしている世界の為に



「山吹の女御様」


はらはらと舞い散る桜の下で舞っていた少女に、一人の女性が声を掛けた。


「外は寒く暗い故、もうお入りにならないと…」


山吹の女御と呼ばれた彼女は、口元を扇子で隠し、不機嫌そうな目で女性を見つめた。前から見ると、ひとつ結びにしている山吹色の髪と膝からいくらか上を出している短い十二単、そして自己流に細工した形の靴が目立つ。


「桜が咲いているのよ。それほど寒くはないわ。それとも、何かしら。桜に、山吹であるこの私が負けるとでも?…蒼華(そうか)の更衣」


蒼華の更衣はそれを聞いて、慌てたように首を振った。


「いいえ、そのようなことはっ」


山吹は一瞬感情の無い目を蒼華に向け、扇子をぱちりと閉じた。


「でもまあ…いいわ。あなたの言う通り、今日は終わりにする。寝具を用意させなさい」


「はい、ただいま」


安堵したように目を伏せた蒼華は、そそくさと歩いていった。主のきまぐれに振り回されるのは、いつものことだ。

さて、山吹とは一体何者なのか。

彼女は、生まれてすぐに両親を亡くした。父親は帝の兄弟の内に入り、彼の存在と山吹の入内があれば、山吹は容易に権力を握ることができた。しかしその頃都で流行っていた病に倒れた父は山吹が物心付く前にあの世行きになり、母親も哀しみのあまり川に身を投げた。独りで取り残され、後ろ盾のいなくなった彼女が権力を持つなど、常識では無理な話だった。

それでは、なぜ今山吹は、拙い少女でありながら女御という重要な地位についているのか?それは、彼女を育てた蒼華に理由がある。蒼華は、山吹を引きとった際、何か異様なものを感じとったという。いつか、この子はこの都に嵐を起こす。そう思った蒼華は、それが不吉なものではいけないと考え、都で質素な暮らしをさせようと決めた。だがしかし、その願いは叶わなかった。山吹は成長するに連れ、教えてもいないことを覚えるようになってきたのだ。ある時は貴族のように上品な和歌を詠み、またある時は蒼華を蹴鞠に誘った(蹴鞠は本来、貴族の男性が嗜むものである)。周りの者は山吹と蒼華について不吉な噂を囁きはじめ、それは帝の耳にも伝わった。そこで、帝は自分の監視下に置くつもりで山吹と蒼華を入内させたのだ。最初は訝しんでいた彼も、山吹の人間離れした能力や蒼華の甲斐甲斐しく世話をする姿を見初め、二人を女御と更衣の地位に上げた。そうだ。言葉通り、山吹は人間離れした能力を持っていた。



「山吹の女御様、寝具を用意いたしました」


蒼華がぼんやりと夜桜を見つめている山吹を呼ぶと、山吹は蒼華に退()くように命じた。素直に頭を下げ、出ていく蒼華を見送る。

一人になると、山吹は袂から一枚の紙を取り出した。ヒノキの香が広がる。


「いつか…その時がくるまで」


自分の筆跡と自分が付けた香りを確認するこの時だけ、山吹は目に感情を宿らせる。青みがかった黒目に、静かな興奮の色が浮かんだ。


「秘密に、しておこう」




閲覧ありがとうございました!

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