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九話 vsイヴァ



 予知者アリアを含めたガッダリオン組四人が、もう遅いと言うのに、今から町へ出ると言って観光に出かけたのを良いことに、俺は一人、フェストースの勇者であるイヴァの下を訪れていた。


 別れ際に発した騎士との訓練という言葉通り、彼は城内にある騎士の訓練場にいて、鎧を着込んだ騎士を相手に練習用の木剣を振るっていた。


 訓練場に一歩踏み入ると、彼はその一瞬でこちらに気が付いたようで、騎士との訓練を中断し、こちらに視線を寄越した。


「こんなに遅い時間までやるんだな」

「……ハクタ・ミナヤマ、だったか。僕に何か用か?」

「それが目的で来てるんだよなぁ。ほら、交流会っていう名目だろ?」


 汗を拭う彼に近付くと、彼は、木剣の切っ先を向けてきた。


「さっきも言ったが。僕は、お前たちの協力など必要ない」


 その態度は、王の前と変わらない。あくまでも、魔王の討伐は一人で行うと言うのだ。


「そうは言うがな。実際問題、魔王と戦って勝てるか?」

「何を知った風に。こちらに来たばかりなのだろう、お前たちは」

「ああ。昨日こっちに来たばかりだ」


 その問いに返すと、彼は『ふん』と鼻で笑った。


 俺は今、存在しないハクタ・ミナヤマとして、ここに存在している。昨日召喚されたばかりの俺たちは、本来、戦う力を有していない。戦いのある世界から来ているならまだしも。


 勇者の儀式で呼ばれた今までの勇者は、どれも、そういう『戦えない人間』ばかりだった。イヴァの脳内では、俺たちも、それと同じだと括り付けられているのだろう。



 尤も、国同士が繋がっていて、事前に俺が元勇者だという情報が流れていれば、そうでないことは分かるだろうが。排他的な国だというから、そこまで手が回っていないのか。どちらにせよ、好都合には変わりない。



「碌に戦えもしないくせに……それで、交流会だと? 笑わせるな」

「生憎、人を笑わせる才能には恵まれなくてさ……残念だよ」


 イヴァが、ただでさえ機嫌が悪そうだというのに、さらに顔をしかめた。


「……馬鹿にしているのか?」

「いや……ただ、他の魔王より強いって言うじゃないか。本当にお前一人で倒せるのか?」

「倒す。何があってもな」


 彼のその言葉からは、強い意志のようなものが見える。何としてでも倒す、という強い心は見えるが……厳しいか。



 一括りに魔王といっても、その中での強さというものは当然存在して。今回復活が予知された紅蓮の魔王(ルウスボルデ)は、話を聞く限りでは、その上位に君臨する魔王だ。


 だとすれば、仮にこの男が全盛期の俺くらいの力を有していたとしても、一人では厳しいはず。

 それ以上の力があるとするなら、話は変わってくるが——何なら、今、確かめてみてもいいか。



「そっか……」


 俺は右腕の先に空間を開き、同じように、近くにいた騎士の手元にも開いた。

 その空間の歪みに腕を突っ込み、掴んだのは騎士が手にしていた木剣。少し抵抗はされたが、その柄をぐっと掴むと、思い切り引き抜いた。




 そして、無防備なイヴァの左腰から右肩を目がけ、逆袈裟斬りの要領で剣を振り抜こうとした。




 残念ながら——防がれてしまったが。




「お前……突然、何をするっ!?」



 同じ木剣でそれを防いでいたイヴァ。激しくぶつかり合ったせいで、剣を持つ腕がビリビリと痺れてしまっている。


 まさか、召喚されたばかり勇者が、いきなり剣を持って不意打ちを仕掛けてくるとは思わなかったのだろう。よくもまああれを防いだものだ。



「何。他国の勇者がどんなもんか知りたくてね。交流会(・・・)だろ?」

「ふざけた真似を……」


 そう言いながら、イヴァは木剣を構えた。やる気は十分。隙も見えない。


「言っておくが、僕は今、機嫌が悪い」

「へえ、そうなのか。そいつはお気の毒に。あんまり怒り過ぎると、健康に悪いぞ」

「お前のせいだ……!」


 全力で踏み込み、心臓を狙って繰り出された突きを、身体を捻って避け、そのまま回転してイヴァの背中に一撃を加える。



——が、俺としたことが忘れていた。



「効くか、そんなもの!」



 こいつ、鎧着てんじゃん。ちょっとズルイな。


 ガキィンと甲高い音が響き、木剣が跳ね返される。最低限手加減した一撃だったから、鎧にダメージはない。

 それが分かっていたから、敢えて避けなかったのか。イヴァは次の攻撃に移っていた。



「まっ、俺布地っ」

「僕は、機嫌が、悪い!」



 一見乱雑に、しかし的確に急所を狙った攻撃を避け、いなし、捌いていく。


 だが、元々剣技があまり得意ではない俺では分が悪いのか、少しずつだが、押されている。

 剣技だけで言えば、かなりの実力だ。勇者であり、魔王を一人で倒すと豪語するだけのことはある。

 しかも、あまりにも的確に頭や心臓を狙ってくるもんだから、一撃でも喰らえば恐ろしい。


 かと思えば、剣を持つ腕や、防御の薄い足を狙って行動を制限しようともしてくるのだから、これまた恐ろしい。



「くっ……お前、何なんだっ!」

「勇者だ」

「違うっ!」



 素直に答えただけなのに。



「くそっ……!」



 押されているとはいえ、反撃も忘れない。装甲の薄い関節部分を狙って時折、突きを食らわせると、その度に、一瞬だけイヴァの動きが鈍る。

 それが効いたか否か。イヴァは大きく後退すると、再び剣を構えた。


 あれだけ動いたというのに、息は一つも切れていない。体力も十分。長期戦には向いてそうなスタミナだ。


「ハクタ・ミナヤマ……お前、まさか手を抜いているのか?」

「まさか。勇者相手に手加減なんて」


 魔法は最低限の能力強化だけだし、特別な装備は使っていない。輪廻のローブは防御力紙だから実質私服だし、これは手加減ではない。

 むしろ、剣に関してはほぼ全力だ。でないと、いつ打たれてもおかしくはない。


「あいも変わらず、軽口を……」

「これが素なんだ。悪いね」


 軽口を叩いているつもりはないが、そう聞こえるのなら、仕方ない。


 イヴァはさらに機嫌悪そうに、顔をしかめた。どんどん眉間にシワが寄っていく。そこまで、俺の態度が気に入らないだろうか。



 すると、何を考えたのか。彼は大きく息を吐いた。



「……いいだろう。終わらせる」



 それが何を意味するのか、一瞬だけ理解するのが遅れた。


 理解した瞬間には、イヴァの構え方が変わっていた。身体を俺から見て半身にし、右手で構えた剣を大きく後ろに引いている。



 木剣のその茶色い切っ先から、黄金色の輝きが溢れ出し、それが収束した。







「放て……『ガング・ロアー』っ!」






 その言葉と共に、引かれた剣が、目にも留まらぬ速さで突き出された。

 俺とイヴァとの間にはそれなりに距離がある。ただ突いただけでは届くはずもない。




 ただし、その技の名を聞いた瞬間に、俺は咄嗟に木剣を前に構え、魔力を集中させて防御の姿勢を取った。




 次の瞬間。





「うぐっ……!?」



 黄金の光がレーザービームのようになって放たれると同時に、トラックが全力で突っ込んできたような衝撃が前方から襲い掛かってきた。

 その衝撃で、俺の身体は木剣ごと後ろへと吹き飛ばされ、壁に激突して止まった。




 光が収まった後。ミシミシと音を立ててそれを受けていた木剣は、握っていた柄と剣身の一部が辛うじて残っているだけで、他の部分は木っ端微塵に砕け散ってしまっていた。




 苦痛に刈られながら見れば、イヴァは剣を突き出したままの状態で静止していた。

 いや……剣というには無残だ。イヴァの持つ木剣もまた、柄だけを残して消滅していた。



 彼はゆっくりとその姿勢を崩すと、柄だけになった木剣を投げ捨てた。

 多少息は上がっているようで、肩で息をしながら、吐き捨てるように言った。



「……僕は、お前たちの協力など、必要ないっ」



 それだけ言うと、近くにいた騎士からタオルを奪い取り、フラつきながら訓練場から出て行ってしまった。




 後に残されたのは、ボロボロになった木剣の残骸が二つと、凹んだ壁。それから、呆然とした騎士たちだった。









   * * *










「あいたぁっ!?」

「動くなよ」


 夜も深くなり、戻ってきた四人に保護される形で、俺は城の中にある客室へと連れてこられた。

 イヴァの奥の手……『ガング・ロアー』というその技で壁に激突した俺は、主に背中と腕に軽傷を負ってしまっていて、今まさに明に治療されているところだ。


「全く……私たちの知らないところで無茶しすぎでしょ」

「いや、観光に行くって言ったのお前らじゃん……」

「あ、あはは……」


 俺たちはあくまでも勇者との交流を目的にフェストースに来ている。だから、優先させるべきはイヴァとの協力関係の構築だ。


……だというのに、真っ先に観光に行ったのはこいつらで、俺が正しいはずなんだけど。ちゃっかり服とか買ってるし。



「で、でも、それってイヴァさんの技でそうなってるんですよね?」


 十島が手を叩いて言った。


「ああ。必殺技っぽいのな」

「元勇者の水無月君に、それだけ傷を負わせられるなら……本当に、魔王も?」


 その隣で、水城もウンウンと頷いていた。


 確かに、魔力を集中させて防御し、それを貫通してダメージを与えてきたというのは、素晴らしいことだ。かなりの威力があるってことで、その対象が俺だから、十島たちからすれば『すごいこと』なんだろう。



 けど。



「いや、無理だな」

「断言できるのか?」



 『ああ』と頷く。



あの威力(・・・・)じゃ無理だな。あれの三倍くらいの奴を連発できるなら話は別だが」


 そもそも、今の俺は、全盛期の力の二割から三割程度の力しか出せていない。その俺の防御を突破したと言っても、それほど大したことじゃあない。

 それに、見たところあれ一発で相当体力を持っていかれるようだ。それだと魔王を倒すのには足りない。



 それを説明したが、いまいちそのパワーバランスが分かっていないのか、三人は首を傾げた。


「ま、よく分からんが。白羽が無理って言うなら無理なんだろうな。おしまいっ!」

「いでぇっ!?」


 手と背中に布を巻き、治療を終えた明が、思い切り背中を叩く。悪魔め。


「ったく、もう少し優しくしてくれよ……」

「はいはい。で、その後は仲良くなれたのか?」


 治療道具一式を箱に仕舞いながら、そう聞いてきた。


「なれたと思うか?」

「いや」


 即答で、否定された。


 一番最初に会った時も、あれだけ拒絶されたんだ。俺が必殺技でボコられたなんて聞いたら、そりゃあそうなる。


「ありゃ時間かかるなぁ……何かきっかけでもあれば別だけど」

「きっかけねぇ……随分嫌われてるみたいだけど?」



 明の言葉に同意した。


 嫌われてるのは分かっている。これで弱々しい勇者なら、別に、交流会などしないが……、



「でも、戦力的には申し分ない」



 あの剣の腕と、技。魔王を倒すにあたって、あの実力の男を放っておくのは惜しい。

 最悪、協力関係になくとも、俺たちが勝手に協力してしまえばそれまでなのだが、やはり、それだと連携が取れない分、総合戦力はガタ落ちだろう。



 どちらにせよ。イヴァの行方は分からない上、これから何をするにしても、全員疲れ切ってしまっている。十島と明は馬車に揺られて観光していただけだけど。



「まあ……もう遅いし、続きは明日にするか」

「そうだね。私も、もう疲れちゃった……」

「あはは……あれだけ走った後にお買い物したからね」


 水城が大きなあくびをした。こいつに関しては、今日はもう休ませてやってもいいだろう。というか、後に響くから早く休んでほしい。よくもまあ買い物行く元気があったもんだ。


「そういうとこ元気だよなぁ、女子って」

「娯楽は別腹!」


 ビシィ! っと人差し指を突きつけてくる水城。


「別腹なら、明日から訓練の時間増やしても大丈夫そうだな。増やしても娯楽があれば問題ないだろ?」

「ちょっ、それだけは勘弁してっ!?」



 四人で笑いながら、フェストース滞在一日目は終了した。

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