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八話 フェストースの勇者



 フェストースの首都、リガロアに到着した俺たちガッダリオンの勇者一行は、リガロアの兵士の案内のもと、フェストースの現地勇者がいるという王城までやってきていた。どの国でも、勇者がまず城で訓練をするという常識というかテンプレのような展開は変わらないらしい。



「勇者様と国王陛下が、この先で待っておられる。くれぐれも無礼のないように」

「はいはい、無礼のないようにね」


 上流階級の貴族だろうか。ピシッと決まった派手な装飾の服を着込んだ男に言われ、その先の扉を開け放った。



「陛下。ガッダリオンの勇者四名、予知者一名をお連れいたしました」



 謁見の間っていうやつだ。その奥に玉座があり、そこに若い男が座っていた。

 ルイナ王に比べれば、随分と若い。孫と祖父程度の差もあるだろう。


「ご苦労。下がれ」

「はっ」


 案内してきた貴族と兵士が下がり、反対に、俺たち五人は進んだ。


 王らしき人物のそばに跪いていたのは、これまた若い男。俺たちと同じで、まだ一〇代だろう。白銀の鎧に身を包み、腰には黄金の鞘を持つ剣。この男が勇者か。



 後々戦力になると考えれば、確かに、あまり礼を欠いていても仕方がない。四人……いや、アリアを除いた三人に目で合図を送り、王の前で膝をつく。


「お初にお目にかかります、陛下」

「うむ」


 王は座したまま、俺たちの姿を見回した。事前に勇者が四人と予知者が一人来ることを聞いていたのだろう。勇者が四人も召喚されるという異例の事態にも、あまり驚いてはいない。


「お前たちが、ガッダリオンで召喚されたという異世界の勇者か?」

「はい。ハクタ・ミナヤマ(・・・・・・・・)と申します。後ろの三人は、男の方からアカリ・ヒノと、ミズキ・トオシマ、そしてキナコ・トオシマ」


 そう名乗ると、少し後ろで『ヴェッ』という小さな呻き声が聞こえた。幸い、王と勇者は気が付いていないらしい。


「そうか。俺はフェストースの現国王、クロニア=イル=フェストースだ。よろしく頼むぞ、勇者たち」

「はい。それで、そちらが……」


 隣にいた勇者らしき男のことを質問しようとした時。王は右手を挙げこちらを制止させた。


「下手な礼儀は必要ないぞ。これから共に戦うことになる仲間だ。対等な立場といこうじゃないか」

「……助かる。まだこちらの礼儀もよく分かっていないんだ」


 どうやら……この国の王は、気さくな人間らしい。排他的な国家と聞いていたから心配していたが、その上に立つ者は案外まともだ。


「質問に答えよう。この者が我がフェストースの勇者、イヴァ=シュターロンだ」


 王が言うと、イヴァは静かに俯いた。


 端正な顔立ちだ。日本でなら、アイドルやホストでもやっていそうな男。


 俺は立ち上がって、イヴァへと近付いた。そして、友好の証にでもと、握手を求めた。


「よろしく頼む、イヴァ」

「……一つ、先に言っておこう」


 イヴァはそう言うと、差し出した俺の手を払いのけた。顔からは明らかな拒絶の意思が見え、こちらを拒んでいることが分かる。


「僕は、お前たちの協力など必要ない。魔王なんて僕一人で十分だ……陛下。騎士たちとの稽古がありますので」


 言うなり、イヴァは足早に立ち去ってしまった、




……なるほど。これは確かに、困ったもんだ。



「悪いな……フェストースの民はああいうのが多いんだ。特にイヴァはな」


 申し訳なさそうに言ったクロニア王は、立ち上がって、階上にある玉座からこちらへとやってきた。


「あんたはどう思う?」

「どう、とは?」

「あいつ一人で、本当に魔王を倒せると思うか?」


 フェストースの勇者、イヴァ=シュターロン。彼は魔王など一人で十分だと言ったが、それだけの実力はあるのか。

 魔力や立ち振る舞いを見ていた感じでは、確かに、並の人間よりは強いが……とてもじゃないが、魔王を相手にできるほどの器ではないように見えた。


 それを、この国の人間が認識しているのかどうか、確かめたかった。



 クロニア王は、俺が聞くと、少しも躊躇う様子なく答えた。


「無理だな」

「……随分とはっきり言うな。自国の勇者だろ?」

「ああ。だが、実際にそう思うだろう?」



 俺に振るな。



「強そうだが……あのプライドは邪魔になりそうだな」


 『そうか』と笑ったクロニア王は、俺の肩に手を置き、そのまま後方へと歩いていく。


「滞在中は好きに寛げ。城のものに何か言われるかもしれないが、あまり気にしないでほしい」

「そうする。勇者イヴァとの交流はこちらで勝手にしていいか?」

「むしろ、頼みたいくらいだ。俺も手を焼いている」


 そう言って、謁見の間からいなくなってしまった。



 取り残されたのは、俺たち勇者と、予知者アリアだけ。他国の謁見の間に、四人だけを取り残すとは……。



 緊張や不安が去ったことでほぐれたのか、三人は立ち上がると、一斉に伸びを始めた。


「いや、あの王様は良い人そうだな……」

「ああ。想像以上にな」


 あのクロニア王への印象は満場一致だ。やはり、排他的な国と聞いて、もっとキツイイメージをしていたんだろう。

 確かに、性格は少々キツイだろうが……不快感はない。むしろ、あれくらいで接してくれた方がこちらも楽だ。




 問題は、やはり。




「でも、あの勇者君……同い年くらいでしょ? なんていうか、キツイ性格してるね」

「私もそう思います」



 イヴァだ。あれも勇者である以上、人間しかいない今のガルアースでは貴重な戦力。魔王を倒す上で必要不可欠になってくるだろう。

 だが、今のままでは到底力を貸してもらえる様子でもない。一人で突っ込んで事故死でもしそうな勢いだ。


「まずは、あれと仲良くなるところからか……先は長いな、本当に」



 苦労は絶えないね、勇者ってのも。

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