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七話 王都リガロア



「ひぃぃぃん!!」



 まるで馬のような奇声を発しながら、あまり整備の行き届いていない街道を疾走するのは、アクアスを展開した水城。

 それを一度、車体の中から気の毒そうに眺め、明と十島は再び魔法の発現訓練に戻った。


 人力車の中は魔法によって改造され、外観よりも広い。四人が中にいてもかなりの余裕があり、明と十島の二人も気兼ねなく自主練習ができていた。

 同行していた予知者アリアは、瞑想をしているのか、静かに目を瞑ったまま動かない。それなりに揺れはあるはずなのだが、大したものだ。さっき一度吐いていたが。



 そして、人力車を引く水城。アクアスを展開して、かなりの速度で走ってはいるが、他の場所から魔力がダダ漏れだ。このままではガス欠も早く、効率も悪い。疲れも溜まる一方だろう。


「水城。身体から無駄な魔力を出しすぎだ。魔力は血液と同じようなものだと考えろ」

「そんなこと言ったってぇえ! こんなぶっつけ本番の破茶滅茶な訓練ある!?」



 ふむ。ぶっつけ本番……外に出ていきなりは獣が多くて怖いってことか?



「この速度なら獣だって蹴散らせる。大丈夫だ」

「心配はそこじゃないんだけど!?」



 違った。




 水城を観察していると、後ろからちょんちょんと肩を叩かれた。振り返れば、それを為していたのは、先程まで訓練をしていた十島だ。


「水無月君、ちょっといいですか?」

「どうした、十島?」


 彼女は何だか、指をモジモジと絡めている。


「私、なんだかできそう(・・・・)な気がするんですけど……ここで大丈夫なんでしょうか?」



 ああ……なるほど。能力、或いは魔法の感覚を掴んだはいいが、この密閉され、尚且つ走行中の人力車の中でそれを発現していいのかという心配か。

 昨日の水城の能力の発現を見たから、その心配も尤もだ。発現した瞬間走って壁に埋まっていたのだから。


「なら、少しだけ魔法で保護しておこう。気兼ねなくやっていいぞ」

「なんか希菜子にだけ優しくない!?」


 前方で文句を言う青髪の馬のことは置いておき、俺は馬車内、主にアリアを除いた勇者組を重点的に囲うようにして、空間魔法で孤立した空間を生成した。こうすれば、多少威力のある魔法が発射されたとしても、馬車は無事で済む。無論、高威力のものが発されれば、これも無事では済まないだろうが、恐らく心配は無用だ。



 そのことを説明すると、十島は瞼を閉じた。集中しているのだろう。




 やがて、彼女の内側にあった魔力が、彼女の身体から発せられていく。それなりの量の魔力だ。






 そして——ポンっという音と共に、『そいつ』は現れた。





「これが……私の魔法……?」





 呆然として呟いたのは、能力を発動した十島本人。俺だって驚きだ。



「……キモいな」

「気にしてたのに!?」




 そいつは、目玉だった。目玉というより、最早眼球。眼球が宙に浮いて、漂っている。

 その数、三。大きなものが一つと、そいつに取り巻いている小さいのが二つ。



 端的に言って、かなりキモい。ゲームに出てきたら、『デビルアイ』だとか、そういう名前がついたモンスターだろう。それが三つも、しかも浮いているのだから、キモさも増すというものだ。




 水城のような装備型ではない。装備型ならば、何かしらの形で十島が装着できなければならない。

 だが、それ自体が魔法であるように見えない。どちらかといえばモンスターだ。



 ならば……使役魔法。この目玉は本当にモンスターで、それを使役するのが彼女の能力であり、魔法。




 或いは。




「それか……ビットか?」

「ああ、確かに。それっぽいな」



 それまで話に参加していなかった明が、興味深そうにその目玉を見つめた。



 ビット。基本的には宙に浮かんでいる、支援型の小型機。ロボットアニメによく出てくる装備だ。



「何ですか、それ?」

「小型機みたいなものだ。こいつらを通して魔法が使えるんじゃないかな。試してみるか?」

「あ、はい。なら」



 簡単な説明をして、十島が魔力を練り始めたのを見て、孤立空間を少し厚くした。魔力が勿体ないが、人力車が壊れてしまっては元も子もない。



「えっと……こう!」



 ドォン、という大きな音がした。宙に浮かんでいた目玉……その大きな一つから、太いレーザーのようなものが発されたのだ。魔法の使い方は教えていないというのに、こうも容易く使うとは。威力が低いのは、要練習だろう。




 だが、便利な能力だ。



「当たりだな」

「これなら、遠距離からも攻撃できるな。十島さんは後方支援タイプってことになるのか?」

「だろうな。今のところ、バランスは良い」


 水城と俺が前衛。十島が後衛。パーティーのバランスは良い。宙に浮かんでいるなら、目玉だけを前へと飛ばすことも可能だろう。本人は後ろにいて、目玉だけを前に飛ばすという擬似前衛戦法も可能となる。




「……すごい。私、魔法が使えたんですね……」



 自分の手を見つめながら、十島がつぶやいた。宙に浮く目玉も、横からそっと覗き込んでいる。気持ち悪い。



「信じてなかったのか? あれだけ使って見せたのに」

「その……実感がなかったんですよ、まだ」

「まあ、そうだな。俺も最初はそうだった」


 最初に召喚された時は、俺も、実感がなかった。けど、すぐに適応してしまった。ここまで優しくはなかった(・・・・・・・・)から。


 魔法なんてものは、日本には……地球には存在しない。漫画やアニメの中だけの話だ。それに慣れろっていうのは難しい話だが、まあ、実感が湧いたっていうならそれに越したことはない。



 それがこれほどキモい目玉なのは、少し遠慮したいが。


「あ、けど……夜中に使ったら、ちょっと怖いですね?」

「できれば使わないでくれると助かるかな……俺もあんまり得意じゃない見た目だよ」

「待って、私、気になる! 見たいんだけど!」


 明が言った瞬間、前で走っていたはずの水城の声が届く。そんなことを言ってられるくらい、余裕が出てきたか。なるほどなるほど。



「六〇キロ先で交代するか」

「それ一時間後じゃん!」

「一二〇キロがいいか?」

「六〇キロでお願いします!」







 そんなこんなで、交代しながら走り続けることおよそ九時間。約五〇〇キロほど走ったところで、俺の番の時、目の前に大きな壁と門が見えてきた。



「勇者様。目の前に見えますのが、フェストースの首都、王都リガロアです」

「ああ。やっと着いたな」



 その場でゆっくりとスピードを落としていき、停車する。人力車と繋いでいた魔力の綱を解除し、四人に出るよう促した。



「ふぁぁ、大きな壁だね……フィロフィスにはなかったよね? なんでこの町は?」


 車体から降りながら、水城はその壁を見て感嘆の声をあげた。


 ガッダリオンの首都、フィロフィスには無かったような巨大な外壁。珍しいのは確かだ。


「フェストースは諸外国に対し、少々排他的なのです。それが、フェストースの勇者様がガッダリオンへ来なかった理由の一つでもあるのです」

「排他的、か……嫌な予感しかしないなぁ、本当」


 明のその言葉に同意した。他の国に対して排他的な国など、入る前から嫌な予感しかしない。


 できれば、穏やかな勇者交流がしたいところだけど……どうなるもんか。

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