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十七話 戦の終端

 ギルダーと共に戦うことは、中々に労力の必要な作業だった。


「あっ!」

「あづぅっ!!」


 背中に、ファイアーボールらしき魔法が直撃する。防御に魔力を割いていなかったせいで、まともにその熱ダメージを受けた。危ない。俺でなければ死んでいた。


 ただでさえ、魔物との乱戦に慣れていないフェストースのギルダー。そこに、突然見知らぬ男が現れたのだ。元からあってなかったような連携が更に崩れ、さっきから、味方の魔法が何度もこちらに飛んできている。そんなことを言っている間にも、風の刃が飛んできた。当たれば首が飛ぶやつだ。


「ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!」

「気にするな! そのまま最大火力で撃ち続けてくれ!」


 だが、威力は十分。魔物を屠るには丁度良い威力だ。俺は人より頑丈だし、俺に当たるのを恐れて威力が弱くなるくらいなら、俺に当たってでも、そのまま撃ち続けてほしい。




 そのまま、暫く戦い続けた。他の奴らの戦況も気になるし、あまりここだけに加勢し続けてはいられない。


 目の前のオークの頭部を叩き潰し、奴の持っていた大剣を奪い取って、思い切り投擲した。大剣は直線上の魔物を串刺しにしながら、真っ直ぐに飛んでいった。


「魔法使いはそのまま攻撃続行! 魔力が尽きたら町に下がれ! 戦士はとにかく、魔法使いに敵を近づけるな!」

『り、了解っ!』

「良い返事だ、危なくなったら遠慮なく下がれ! 『いのちだいじに』だぞっ!」


 最後に、魔法使いの周囲にいた魔物を片付け、離脱する。これだけ言ったんだ。死にそうになったら逃げるだろう。



 それから、幾つかのパーティーに混ざって、戦闘を繰り広げた。戦線を押し上げつつ、押されているパーティーに加わっては、戦況を改善して離脱する。それを繰り返すうち、魔物は目に見えてその数を減らしていた。



「ハク……ハクタさんっ!」

「ん?」


 遠くから、イヴァの声がする。なんだ?


 すぐさま最前線にいたイヴァを視認し、駆け付ける。イヴァの前方には、オークより長身で、細身。ゴブリンを縦に引き伸ばしたような魔物がいた。


 あれは……オーガか。凶暴性が高くて、『人食い鬼』とも呼ばれている魔物だ。騎士ならまだしも、ギルダーには荷が重い相手だな。


 しかも、それが群れている。オーガはあまり群れるような魔物じゃないんだが、それも魔王の復活とやらが影響してるのか?


「すみません、手を貸してください。他の者たちは下げてしまって」

「ああ。背中は任せろ」


 イヴァと背中を合わせ、オーガの群れと対峙する。こいつになら、安心して背中を任せられる。和解した途端に頼りがいのある仲間に変貌だ。


 イヴァと同時に、オーガへと接敵する。背後からイヴァの声と肉を斬る音、それから、オーガの悲鳴が聞こえてくる。


 後輩には負けてられないな。俺も、少し良いところ見せてやるか。



 俺が現役時代に『極魔師(スレイグロード)』と呼ばれていたのは、文字通り、魔法使いだったからだ。肉体を使い、主に肉弾戦を得意とする魔法使い。それが俺だった。


 特に多用していたのが、属性魔法を肉体に纏う『スタイル』という戦い方と、空間魔法を乱用した戦い方だ。


 空間魔法はさっき見せてやったし……今度はこっちを使ってやろう。



「ファイアスタイル」



 拳と脚に炎を纏う。主に、炎による敵への持続ダメージを目的としたスタイルだ。まあ、一撃で倒すなら意味もないんだけど。


「うわっ、何ですかそれ!」

「かっこいいだろ? 後輩に、先輩の戦い方ってやつを見せてやりたくてな」


 炎を纏った拳で、次々とオーガの肉体を貫いていく。倒した後のオーガの死体に着火して、炎上した死体を振り回し、周囲の敵を一気に蹴散らす、といった戦い方も披露した。流石に引かれたが。



 炎は終了、次はこれだ。



「ライトニングスタイル」



 今度は、手足に雷を纏う。攻撃が当たった敵の動きを、少しの間止められる。水の中で使えば自分も感電する、という問題点はあるものの、強敵相手にも通用する優秀なスタイルだ。

 また、雷を網目状にして放出することで、周囲の敵を硬直状態にさせることもできる。効かない魔物も多いが、オーガには……効く。


「イヴァ、上手く避けろよっ!」

「はいっ!?」


 拳に纏った雷を糸状に練り上げ、投網のようにしてオーガたちへ放った。網に触れたオーガたちは感電し、その場で動かなくなる。


「避けたか?」

「避けましたけど二度目は勘弁してください!」


 感電したオーガたちを、イヴァと共に屠っていく。楽な作業だ。


 硬直時間が終わる頃には、オーガの数は元いた半数以下にまで減少していた。人が食えると思って意気揚々としてやってきたのに、勇者二人が現れて……こいつらが不憫に思えてきた。


 せめて、楽に終わらせてやろう。まだ何の被害も出していないお前たちに恨みはないが、勇者である以上、人類の敵とやらは倒さなくちゃならないんだ。悪いな。


「さて……最後の仕上げだ。いくぞ、イヴァ」

「はいっ!」






「……皆、無事かな……後退してくる人がやけに多いけど……」


 勇者組の中でただ一人、町での後方支援をしていた明は、前線に出る四人の身を案じていた。


 ここへきて、町へと後退してくる者たちが増加している。怪我人は少なく、魔力の枯渇などが原因である者が殆どだ。

 そして、彼らが口を揃えて言うには……『勇者が、前線で暴れている』と。


 一人は、フェストースの現地勇者、イヴァ。そしてもう一人は、ハクタ・ミナヤマ、つまり、白羽のことだという。


 皆の話だと、ハクタとイヴァは協力して戦線を押し上げ、残った魔物を殲滅しているらしい。それが本当のことなら、二人は無事に和解が出来たということだ。




「火野くーん!」



 と、そんな風に思案している明のもとに、佳奈と希菜子がやってきた。二人は数名の怪我人を引き連れ、その怪我人を道中にいた救護班に預けると、真っ直ぐに明のもとへと向かった。


「二人とも! 無事かっ!?」

「うんっ! 私たちは大丈夫!」


 佳奈も希菜子も軽傷を負ってはいるようだが、命に別条は無さそうだ。明は救急箱から包帯を取り出すと、二人の治療を始めた。


「白羽は?」

「水無月くんなら、前線に出てくれてます。イヴァさんと一緒に、ものすごいスピードで魔物を倒してますよ」


 治療を受けながら、希菜子が言った。


「じゃあやっぱり、あの二人、和解したのか?」

「うん。魔王の泥? ってやつも、無事に倒せたんだって」

「魔物の殲滅が終わるのも、時間の問題だと思います」


 二人からその言葉を聞いた瞬間、明は全身から力が抜けていくのを感じた。


「良かった……二人も無事なんだな……」

「無事というか……むしろ、戦いが始まる前より生き生きしてるというか……」

「……は? なんで?」


 てっきり、二人は勇者としての使命か何かで、必死になって戦っているものだと思っていた明は、思わず首を傾げてしまった。


 佳奈と希菜子は目を合わせ、苦い笑いをこぼしながら、先程見たあの光景を思い出した。


「それが……イヴァさん、水無月くんのファンだったみたいで……」

「……どういう状況?」



 二人の言っていることの意味が理解できなかった明は……理解できないまま、黙々と治療を続けたのであった。

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