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十話 理由



 フェストース滞在二日目。俺は他の三人と予知者アリアを城に残し、朝から一人で町へと繰り出していた。その理由も簡単。昨日は色々とあって見そびれたが、この町の現状を知っておきたかったからだ。

 聞いた話だと、フェストース……特に、ここ、王都リガロアの人たちは、他国の人間に対してかなり排他的らしく、観光に訪れる人も限りなくゼロに近いらしい。

 尤も、この国の現国王、クロニア=イル=フェストースのような例外もいる。彼はそこまで余所者に厳しくはない。むしろ、この現状を変えたいと願っているようだ。



「しっかし……三〇〇年も経ってるっていうのに、どこの国も、そう進歩してないんだな」



 ガッダリオンも、このフェストースも。俺がガルアースから離れていたのは実に三〇〇年という長い期間だが、それにしては、昔と風景にそう差異がない。日本人の感覚では……まあ、有り体に言えば『ファンタジーによくある中世風』の世界。勿論、科学が発達しているはずもなく、町の中では、鎧を着た騎士や、買い物帰りの主婦などが大勢闊歩している。ガッダリオンの首都、フィロフィスでは冒険者風の格好をした奴らも多かったが、こちらではそういった人間は少ない。他国の人間が少なく、自国の騎士たちで防衛を賄っているためだろう。



 だからだろうか——時折、妙に『刺さる』視線を感じた。



「排他的、ね。なるほど、こりゃあ大変だ」



 イヴァの件もそうだが、俺としては、国全体としての協力が欲しい。そうなると、イヴァだけでなく、もっと根本的な改革が必要になってくるだろう。

 ただ、今までそうしてきたものを急に変えろ、というのも無茶な話だ。だから尚更、難しくて頭を抱えているわけなんだけど。



「……んぉ?」




 と、そこで俺は気になるものを発見した。




「ギルド……一応、あるにはあるのか」



 大きな木造の建物。掲げられたのは、二本の剣が描かれた大きな看板。



 ギルド。俗に言う『何でも屋』だ。この国には無いものかと思っていたが、なるほど。自国の人間が主だとは言え、そういった組織もやはり必要になるか。



 その重々しい扉を開き、中に入ると、そこは俺が知っているギルドよりも、ほんの少し穏やかな雰囲気を醸し出していた。


 真っ先に掲示板へと向かい、リガロアでの主だった依頼を確認するが……どうやら、ここのギルドは『平和』らしい。



「魔物の討伐依頼は……全部騎士がやってるのか? だとすると、この国の主戦力は、やっぱり自国の騎士か……」



 大抵、ギルドに寄せられる依頼は『討伐依頼』と『その他』に二分される。討伐依頼というのは、その名の通り魔物や野生の獣の討伐、その他はそれ以外。この町のギルドには、主に『その他』の依頼が多く寄せられているように思える。

 これは大方、魔物の討伐や獣の討伐は騎士たちが行なっているということだろう。町の中で、ギルド所属のギルダーらしき連中が、やけに軽装備だったのもそれが理由か。



 そうなると……もし紅蓮(ルウスボルデ)の力がこの町で溢れ出したとしたら、頼りになるのはギルダーではなく騎士。イヴァを含めた。



「おい」



 ふと、後ろから声をかけられる。



「うん?」

「見てるだけなら退け。邪魔だ」

「ああ、悪い。どうぞ」



 大柄の禿げた男だ。男は俺を押しのけるようにして、掲示板から一枚、紙を引っぺがすと、カウンターの方へと向かった。

 その去り際、『これだから余所者は……』と放たれた言葉を、確かに聞き逃さなかった。



(やっぱり……なんでここまで排他的なのか気になるな)



 三〇〇年前。俺が勇者として活躍していた時代には、フェストースはおろか、ガッダリオンさえも存在しない国だった。或いは、その元となる国くらいはあったのかもしれないが、かなり小規模なものだった。

 それが、三〇〇年かけて発展し、こうやって進化した。その間に何があったのかを知らなければ、問題の解決には繋がらないだろう。





——ぐぅぅ。




(……一旦戻るか)



 腹の虫も、ちょうどよく鳴いたところだ。一度、王城へと戻ることにした。











 城に戻ると、執事らしき人に用意してもらった食事を高速で平らげ、王への謁見を取り付けさせた。謁見が叶ったのはそれからたった一五分ほど後の話で、俺は早速王の自室へと向かった。



「ミナヤマです」

「入っていいぞ」



 王の自室の扉を叩くと、即座に返答がくる。俺はゆっくりと扉を開くと、入室した。



 流石、王の自室とあって洒落た大きな部屋だ。その中央にあるテーブルに、彼はいた。優雅に茶を飲みながら。



「話があると聞いたぞ、勇者」

「ああ。少し、訊きたいことがある」



 クロニアはティーカップを置くと、向かい側に座るよう促した。

 それに従って彼の向かいに着席すると、彼は机の上にあったティーポットから、恐らく、同じものだろう。茶を注いだ。



「すまない。いただく」



 味は……紅茶に近い、が、微妙に違う気もする。この国特有の何かなのかもしれない。美味いのは確かだ。



「それで……訊きたいこととはなんだ?」

「んむ……ああ。町に出て一層気になったんだが、何故、フェストースの人間はそこまで排他的になった? その理由が訊きたい」



 そう訊くと、クロニアは『ふむ』と考え込んだ。



「初めからそうだったわけじゃないだろ? 何か理由があったはずだ」

「ああ、理由ならあった。俺がまだ生まれてすらいない頃の話だがな」

「いつの話だ?」



 そう訊くと、クロニアは静かに語り出した。



「そもそも、この国は、一八〇年前に建国されたんだ。二人(・・)の男によってな」

「二人?」



 この国、フェストースは今から約一八〇年前に建国された。紅蓮の魔王(ルウスボルデ)が現れ、封印されたのが今から二〇〇年前。つまり、フェストースが建国された時には、既に例の魔王は封印されていた。

 そして、この国は、ある二人の男の手で建国された。だが、現在、この国の王はクロニア=イル=フェストースただ一人だ。


 となると、残る一人は一体。



「一人は、初代国王、ルグレット=フェストース。俺の先祖様に当たるお方だ」

「もう一人は?」

「アルバレス、という男だ。ルグレット=フェストースの親友だとされている」



 二人は元々旅人同士で、偶然出会ったところで意気投合。親友になった。そして、この地で長く続いていた戦乱を収めたのち、フェストースを建国した。

 フェストースの初代国王、ルグレット=フェストースは誰にも分け隔てなく接する、今のフェストースの人間とは真反対の性格の男で、故に、誰からも慕われていた。

 また、アルバレスも彼と同じく、慕われる人間であった。



「ルグレットを王にしたのは、アルバレスの案だったと、記録には残っている」

「アルバレスはどうした?」

「側近として、影からアルバレスを支えていたらしい。最初はな」

「最初()……?」



 そこで、クロニアの言い方に何か違和感を感じた。ルグレットと共に国を造ったアルバレスは、ルグレットを王にし、自らは側近として彼に仕えていた。


 最初は。


 そして、この国の現状。そこから考えられる可能性としては……、




「成る程……裏切ったな?」

「察しが良いな。流石勇者だ」



 クロニアはパチパチと手を叩いた。


 この国の現状を考えると、過去に何か問題があったことは確かだ。余所者を異常に嫌う……というより、信用していないのだろう。その理由を考えれば、自ずと分かってくる。


 ルグレット。或いは、アルバレス。どちらかがどちらかを、裏切ったのだと考えれば、多少は辻褄も合う。



「裏切ったのはアルバレスか?」

「そうだ。いや、本当に裏切ったのかどうかは……分からんがな」



 少し言葉を濁すクロニア。



「どういう意味だ?」

「アルバレスは国を造ったんだ。自身の名を冠した『アルバレス』という国をな。そして、攻め込んできた。それこそが最大の裏切りだったんだよ」



 二人で造った国を裏切り、アルバレスは新たに国を造った。そして、フェストースへと進軍させた。


 だが、それだけではない、とクロニアは言う。彼は確かに、本当に裏切ったのかどうかは分からないと言った。つまり、『裏切っていない』という可能性もあるということだ。何の根拠もなしにそんなことを言うとは思えない。



「分からない、というのは?」



 茶を一口飲んだクロニアは、大きなため息をこぼした。



「記録では、ある日を境に、アルバレスは『狂ってしまった』とされている。突然訳の分からないことを言い出したり、奇行に走ったり……とな」

「……洗脳か?」

「さあな。奴自身の意思での裏切りだったのか、或いは誰かに洗脳でもされていたか……今となっては分からんよ」



 何せ、既に一八〇年も経ってしまっているのだ。今更、確かめようもない。



 一つ確かなのは、その事件もあって、当初からこの国では排他的な雰囲気が漂っていたということだ。



「民が排他的なのは他国の人間にだけだと思っているだろう? 少数だが、他者ならば問答無用で忌み嫌う人間もいる」

「国王が親友に裏切られているからな。まあ、人間不信になるのも仕方ないか」



 ずっと親友だと思っていた男に裏切られ、戦にまで発展したのだ。お国柄、人間を信じられなくなるのは致し方ない。

 問題なのは、それが今でもまだ続いてしまっているということだ。別にそういう国ならば口を突っ込むようなことはしないが、魔王の復活が予知されている今、国同士が手を取り合うことは必須。せめて、ガッダリオンとだけでも手を組んでもらわねば。



「イヴァが俺たちのことを嫌っているのも、それが理由か?」

「そうだ。どうも、イヴァの先祖様の大事な人が、その時の戦で殺されたらしい。だからだろうよ」

「なるほどねぇ……お家柄か」



 信じるな。それをずっと、生まれた頃から言われて続けているんだろうな。そう考えると少し不憫だ。



 大体話すべきことは話し終えたのか、クロニアは背筋を一度引き伸ばすと、『さて』と続けた。



「ところで、急にそんなことを訊いてどうした? 民に何かされたか」

「いや。気になっただけだよ。魔王が現れたら、そう悠長なことも言ってられないからな」

「ああ……手を取り合わなくてはならないが、狂ってしまったものは、そう簡単に元には戻らんからな」



 一度折り曲げてしまった紙は、何をしても、その折り目が消えることはない。この国だってそうだ。一度狂ってしまった以上、完全に元に戻すことは不可能。時間をかければその限りではないが、残念ながら魔王が復活するまで、猶予は二ヶ月しかない。


 だから、戻さない(・・・・)。排他的だというその方針は、否定しない方向でいこうと思う。



「おかしくなるには、おかしくなるための理由がある。元には戻せないよ。戻す気もないけどね」

「……どういう意味だ?」

「さあね」



 俺が言っていることが理解できなかったのか、クロニアは訝しむようにこちらを見つめた。それを気にせず、残った茶を飲み干すと立ち上がった。



「良い話が聞けたよ。感謝致します、陛下」

「なに。この程度で良いなら、いくらでも協力しよう」



 態とらしく腰を折ると、彼は愉快そうに笑った。



「なら、もう一つ。イヴァが今どこにいるか、分かるか?」

「この時間なら……修練場だろう。場所は分かるな?」

「ああ。少し話してくるよ」



 椅子を引き、扉へと向かう。その途中、真剣なトーンで背中に声を投げられた。



「イヴァのこと、よろしく頼むぞ」

「任せてくれ」



 自信満々にそう答えると、扉を開いて王の自室を後にした。そのまま回れ右をして、修練場へと向かう。昨日、俺とイヴァで壁をぶち壊した、あの場所だ。



 修練場に到着すると、騎士たちが訓練する音と共に、その周りを周回するようにしてアドバイスをしているイヴァがいた。勇者であり、あれほどの剣の腕を持つイヴァは、騎士たちの剣の師でもあるのだろう。



 一歩、踏み入れると、その瞬間にイヴァがこちらを向いた。部屋の温度が少し下がったような気がした。



「よう、イヴァ」

「……ちっ」

「そんなに嫌そうにしなくても」



 こちらにも聞こえるほど露骨に舌打ちをし、憎たらしいものを見るような目で睨んでくるイヴァ。その後ろで、騎士たちが萎縮している。昨日の件もあって、機嫌の悪いイヴァを怖がるのも無理はない。



「少し話せるか?」

「断る」



 即答だった。



「そうツンツンせずに。王様からの命令だぞ」

「ちっ……」

「だからそんなに嫌そうにしなくても」



 よろしく頼む、とクロニアからも頼まれているのだ。陛下の命令とあるなら、イヴァも俺のことを無下にはできまい。


 イヴァは依然として乗り気ではない雰囲気で、少し後ろにいた騎士に声をかける。


「タウエル」

「はっ」



 タウエル、という三〇代半ばほどの騎士は、イヴァに続いての手練れなのだろう。彼は先程までイヴァがいたポジションにつくと、他の騎士たちに指導を始めた。


 イヴァはそのまま手近にあったタオルを乱雑に手に取ると、額の汗を拭いながらこちらへと来た。



「来い。中庭だ」

「おう。どこへでも」



 ズンズンと歩くイヴァの後についていく。彼が向かったのは、城の中庭。学校のグラウンドほどの大きさもあるその隅で、彼は立ち止まった。



「話とは……なんだ?」



 振り返り、睨みつけるようにして言うイヴァ。どうやら、相当嫌われているらしい。とても仲良くできそうな雰囲気ではない。


「何……陛下からこの国のことを訊いてさ。イヴァが俺たちのことを嫌うのは、お家柄か?」

「……訊いたのか」


 イヴァの家名……シュターロン。彼の先祖の大事な人が、アルバレスとの戦によって亡くなった。だから、イヴァが俺たちのことを嫌うのは、他者を信じるなと代々言いつけられてきたからだと考えていた。それがシュターロンの考えだとするなら、他所の家の家庭内事情に無理に首を突っ込むのは、野暮というものだろう。



「どうなんだ。そういう家柄だって言うなら、俺は別に、無理に仲良くしろとは言わない。だけど、魔王を倒すために、協力はしてほしい」

「ふん……協力、か? 笑わせるな」



 彼の答えは、俺の言葉を切り捨てるようなものだった。



「そこまで知りたいのなら、教えてやる。僕がお前たちを嫌うのは、お前たちが『勇者』だからだ」

「なに?」



 イヴァが一歩踏み出した。俺に向かって。



「何の苦労もせず、召喚されただけの異世界人が勇者? そんな虫の良い話があるか」



 鼻で笑いながら、そう言った。


 確かに、そうだ。俺たちのような異世界から召喚された勇者は、その時点で強力な力を得る。だから、召喚されたその時点から、既に『勇者』なのだ。いや、『勇者』として召喚されたと言い換えてもいい。



 成る程、イヴァの中身が読めてきた。



 イヴァは、真っ直ぐと俺の目を見つめている。その赤い瞳の奥に、若干の憎悪や嫉妬といった、負の感情が見えるような気がする。



「僕は、生まれた時から勇者として育てられてきた。ずっと、勇者という肩書きの下で生きてきた」



 現地勇者にも二パターンある。ある時力に覚醒し、俺たちのように、突然勇者に選定される者。もう一つは、生まれた時に選定され、勇者として育てられてきた者。


 イヴァはそのうち、後者なのだろう。幼き頃より勇者として育てられてきた。俺には想像もできないが、きっと、辛く苦しい人生を歩んできたんだろう。


 日本で言えば、プロのアスリートの子供や、芸能人の子供に近いもの。親や周囲からの期待や重圧。そういったものに負けないよう、死なないように、生きていくしかない。



 イヴァは再度踏み出し、俺の胸倉を掴んだ。





 だから。





「だから、何の苦労もせず力を得て、勇者としてもてはやされているお前たちが、気に食わない」




 憎悪と、嫉妬。まさにその通りなのだろう。彼はこれまで勇者として壮絶な人生を歩んできた。それがある日、突然、召喚されただけで力を得た『ぽっと出』の勇者が現れたのだ。反対の立場なら……俺だって、彼らに嫌悪感を示すかもしれない。




「……生まれてからずっと、そうやって生きてきたのか?」

「そうだ。それが、僕の運命だった」



 運命。そんな悪魔的なものに魅了され、勇者になった。否、なってしまった(・・・・)



「そうか……そんな時に、俺たちみたいなのが出てきたら、そりゃあ嫌うよな」

「理解したなら、もう話しかけるな。お前たちの協力は必要ない」



 掴んでいた胸倉を離し、イヴァはそのまま後ろへと歩いていく。修練場へと戻るのか、どこか違う場所へと向かうのか。それは分からないが、今の話を聞いた以上、その後を追いかける気は無かった。




 だけど、一つだけ、確かめておきたかった。




「最後に一つ、訊いていいか?」

「なんだ?」



 その背中に声をかけると、イヴァは振り返らずに応えた。




「イヴァ、お前……『頑張れ』って言葉、好きか?」




 その問いに、イヴァは暫く悩んだようだったが、やがて答えることもなくそのまま立ち去ってしまった。



 確かに、慈悲もないな。無慈悲で、残酷な言葉だ。





 イヴァが立ち去った後、俺は近くの茂みでやり取りを覗き見していたそれに、目を向けた。



「おい、十島。目玉、ちょっと見えてるぞ」



 目玉だ。人力車の中で発現した、十島の能力。それが、木陰から少しだけ見えていた。まあ、見えていなくても気付いてはいたけど。



 見つかっていると分かった十島は、その更に奥から苦笑いを浮かべながらやってきた。その隣に、水城と明。三人揃ってのご登場だ。



「あ、あはは……」

「二人で歩いていくのが見えたからさ。悪いな」

「いいよ。三人にも関係ある話だろ?」


 寧ろ、三人にこそ関係のある話だ。



 目玉の能力を閉じた十島と、隣にいた水城。それから明の三人は、なんだかバツの悪い、何とも暗い表情だった。


 その理由はとっくに分かっている。俺と違い、この三人はイヴァの言う『ぽっと出の勇者』そのものだ。まだ戦いも経験していないし、何かを殺したことすらない。

 だからだろう。イヴァの言葉を、もろに食らっている。



「その、水無月君。今の話……やっぱり、私たちが浮かれてた、ってことだよね」

「私たち、勇者って言われて、浮かれて、ここまで来て……でも、イヴァさんは生まれた頃からずっとそうやって育ってきて……なんだか、恥ずかしいです……」



 ここに来て直ぐの三人……特に、この二人はどこか浮かれているようだった。それは、俺の目から見ても確かだ。今までと違う日常。自分たちに目覚めた特殊な力。修学旅行当日のような気分だっただろう。


 けど、イヴァの話を聞いて、それではいけないと痛感した。覚悟はあった。でも、その覚悟は『したつもり』の覚悟、仮初めのものだった。



「……確かに、イヴァの言うことにも一理あるよ。あいつは現地の勇者。ぽっと出の俺たちが気に食わないのは当然の思考だと思う」



 イヴァの話は、十割正しい。彼らのような現地勇者、それも幼少期から辛い鍛錬を重ねてきた者たちにとって、最も憎いのは俺たちのような、召喚されただけで強力な力を得た者たちだ。

 だからこそ、俺も反論ができなかった。したくなかった。




「でもそうなると、引っかかるんだよなぁ……」




 イヴァの言動。それを考えるに、彼が嫌っているのは俺たちのような『召喚組』だ。恐らく、歴代の召喚組にしても同じだろう。

 が、それを考えれば、少し妙なことがあった。昨日のことだ。召喚組を嫌っているにしては、それと相反することがあった。



「引っかかる?」

「ああ、いや、こっちの話だ」



 聞こえないように小声で呟いたはずのそれが、明には聞こえていたのだろう。聞き返されたが、言葉を濁した。



「それより。ちょうど集合できたんだ。このまま外行って、訓練するか」



 そう提案すると、三人はいつにも増してやる気に満ち溢れた表情になった。



「うん。私たちも勇者なんだもん。頑張らなきゃ」

「はい!」

「俺も。早く、力を使えるようにならないと」



 イヴァの事情は分かったし、何はともあれ、結果的に三人がやる気を出してくれたのは結果オーライとして捉えるべきなのかもしれない。

 けど、最後のイヴァの沈黙は……やはり、そういうことなのだろうか?



(頑張らなきゃ、ね……)



 引っかかる点は幾つかあるが、今はひとまず、これで良しとしよう。

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