忘れた。
「ねぇ、なんで人って忘れちゃうんだろうね?昔、とっても大切にしていた想い出も、仲良くしていた友達の顔もいつかは忘れてしまう。」
唐突に、彼女は……キミはそう言った。
「忘れる事は人にとって大切なんだよ。」
「どうして?忘れた事を自覚するととっても悲しいよ?そして人は酷く落ち込むよね」
ボクは青い空を見ながら。
「忘れるって事はね、昔あった【大切なモノ】のそれ以上に【大切なモノ】を見つけたっていう証拠なんだと思うよ。だって、いつも見ている家や、犬や猫、そしてこの空の事は忘れない。それはきっとボク達にはさほど【大切なモノ】じゃないって事だと思うんだ」
「ふぅ、ん……そっか…じゃあキミもいつかはワタシの事を忘れちゃうのかな?」
にか、と子供っぽく…まるでからかうような微笑みでキミはボクを見た。
「どうして?」
「キミにとってワタシは【大切なモノ】なんじゃない?」
ボクはキミの顔を見ずに、ふ、と顔を綻ばせた。
「大丈夫だから……キミは忘れないよ」
「それってワタシがキミにとって【大切なモノ】じゃないってこと?」
「さぁ?どうとってもらっても構わないよ」
「じゃあさ、どうしたらキミにいつか“忘れてもらえる”ようになるのかな?」
「キミが、ボクが絶対に忘れないような…とびっきりのサプライズをするとか?そうしたら【いつかの大切なモノ】に負ける【大切なモノ】にはなるんじゃない?」
「そっか。」
そう言うキミの横顔は、どこか悲しそうだったのだろう。
ボクには、キミの泣きそうな微笑みを見られなかった。
それから直ぐ、なのか…暫くしてなのか
キミがボクの目の前から消えた。
ボクがキミにいつか言った とびっきりのサプライズ で。
唐突だった。急にだった。
何も分からないまま、キミはボクにはどう足掻いても届かない所へと行ってしまった。
サプライズのおかげなのか、キミの存在はボクの中で【大切なモノ】に変化したのだろう。
だって
キミの顔を思い出せないから。
あの他愛もない話をした顔も。
悲しげに微笑んだあの笑顔も。
何のかも、顔という顔が思い出せない。黒く、インクのように滲んで、朧気に再生される。
あの時言った言葉だって、キミに本音の言うのが恥ずかしかった。怖かった。
なのに、あの時の言葉が全てを壊した。ボクがキミを壊してしまった。
ねぇ、誰か教えてください。
キミの顔は、どんな顔だった?
キミはどういう風に笑っていた?
ねぇ、誰か教えてください。
キミの名前を。
キミに伝えようとした言葉を。
・・・・何だコレ。
この話はちょっと前に立ち読みした本から思い浮かんだモノです。
ボクがキミに言った 忘れる の意味は作者が考える 忘れる の意味です。
そりゃあ、色んな人の分だけその意味はあると思います。
貴方にとって 忘れる とはどういう事だと思いますか?
…と言ってみる。