2 怪奇
大貴がこの世界に来てから約5年が過ぎた。
幸いな事に、あれから大貴を拾ってくれた家族、クライン家の人々はとても心暖かい人達で、大貴を途中で捨てることもなく育ててくれた。
初めは、今までより何世代も前の技術レベルのようで戸惑いもあったが、今ではこの生活にも慣れていた。
あれから彩花の情報は何一つないまま平凡な生活を送っている。
この5年間はいろいろなことがあった。
大貴が拾ってもらった後、名前を決める家族会議があったらしくエリーが考えたライベルと言う名前になった。
赤ん坊で話せなかった為名前があるとは言えず名前をつけてもらったが、エリー達の喜ぶ顔を見て今更そんな事かわ言えなくなった大貴は今もライベルと名乗っている。
他には、立って歩けるようになった。
こっちにきて1年くらいは、はいはいでの移動しか出来なかったが、筋力がついてきたからなのか2年が経つ頃には距離は限られるが歩けるようになった。
それからみんなに支えてもらったりしながら歩く練習をしたおかげで今では距離に関係なく歩く事は勿論、走ることも出来るようになった。
後は、言葉が分かるようになり話せるようになった。
言葉も、最初は何を言っているのか全く理解出来なかった。
とりあえず発音してみようとしても「だーー」やら「あーー」しか言えなくて大変だった。
赤ん坊の大貴が約1年で簡単な言葉を話せるようになったがみんな驚いていた。
この世界ではこれでも早いらしい。
しかし、弟の成長は嬉しいようで頭を撫でててもらったりして褒めてもらった。
大貴は、今回の事でいつも出来てた事が当たり前に出来る大切さに気付いたとか。
拙くも話せるようになった大貴は、最初に自分を見つけたアリスとケインにそれとなく自分の他にあの場所には誰もいなかったのか聞いてみた。
けれどあの時は大貴以外に人の気配は無く誰もいなかったみたいだ。
こればっかりは2人を責めることはできないと分かっている大貴は、改めて自分の手で彩花を探さなければと思うのだった。
腕輪のことについてはこの家族の年長者であるマリアが調べてくれているそうだ。
大貴が成長するとともに成長を阻害しないように腕輪も大きくなってるみたいだった。
次に、ここはどこかって事だったんだが、大貴がいた世界とは全く異なった世界のようだ。
と言っても、褐色肌に漫画や小説で見たエルフみたいに耳が尖っているアリスや、キレると竜化するシュレーダーや、頭に獣耳がついてるケインとか見ていた大貴は、薄々違う世界かなって感じていた為、それ程衝撃は無かった。
この世界には、大きく4つの種族で分けられて、元人、魔人、竜人、獸人に分けられるらしく、それぞれの種族事に別れて生活している事が普通らしい。
各種族には特徴があって、元人族は手先が多種族よりも器用で道具を作るのが得意。
魔人は、マナの内包量が多く魔法が得意。
竜人は、身体能力が高く、竜化する特殊能力があるがマナの内包量が少ない。
獸人は、頭の回転が早く、獣化でき、罠や策を作るのが得意。
もちろん、各種族個人差があり人族にも身体能力が高いものがいれば、マナの内包量が多い竜人もいる。
要するに人それぞれという訳だ。
大貴がこの世界に来る約5年前には、この4種族が国土を広げようとする中央戦争が終結し、その和平調停のシンボルとして4種族の国境を跨がって存在する第5の都市ピースフルが作られた。
今、大貴がお世話になっているこの場所はクライン孤児院と言う所で孤児院の主であるマリアが戦争の被害を受けて家族や家を失った子供達を見つけここに連れて来て育てている。
ちなみに、この孤児院は院長のマリアの他に子供が7人いる。
副院長的存在で子供の中で一番年上(12歳)で魔人のアリス。
アリスの次に年上(10歳)で常に礼儀正しい人族のシャロン。
青い瞳に少しロールのついた髪が印象的で礼儀正しさも相成って良家の令嬢に見える時もある。
すでにピースフルの学校に進学する事が決まっているため、こうやって毎日一緒にいられるのも後半年程だろう。
孤児院のムードメーカー的存在で獸人のケイン(9歳)
ケインと同じ年で男子組のガキ大将で炎のように熱い性格の竜人のシュレーダー(9歳)
赤い短髪と身体の所々に見える鱗が竜人の証になっている。
シュレーダーは、思いっきり怒ると竜化する。
成長すると自分で制御できるようになるらしいが今は竜化すると理性がなくなるため暴だしてしまう。
前に、シャロンと口喧嘩をして言い負かされたシュレーダーがキレて竜化して大騒ぎになった。
あの時はマリアが弱点の後頭部を思い切り叩いて衝撃を与えて気絶させて暴走を止めた。最終的に院の一部が崩壊しただけでけが人も出なかったので事なきを得た。
いつもシュレーダーにくっついている魔人のトビアス(8歳)
魔人特有の褐色肌が銀色に輝く髪の毛を引き立たせている。
基本は、シュレーダーの後を金魚のフンのようについて行くトビアス。
昔、シュレーダーに助けてもらってからなついている。
つい最近誕生日を迎えた甘えん坊の人族ライオット(7歳)
金色の肩まで伸びた髪の毛ととろんとした目が特徴だ。
勉強や仕事の手伝いで出来ない事があるとすぐにマリアさんや姉兄に甘えて助けてもらう甘え上手だ。
気が利いて世話焼きな獣人のエリー(7歳)
水色の髪と頭でピコピコしたまるい耳がとても愛らしく見える。
新しい弟ができたのがうれしいのか家族の中で一番俺のお世話してくれたのがエリーだった。
今でも一緒に外に行ったり遊んだりしている。
大貴が普通に歩いたり食べたりできるようになるまでは全員で世話をしてくれた。
女性陣は勉強や新しい服を作る時にも、一緒に連れて面倒見たり、まだ歯が生えそろってない時には、食べ物をすりつぶして食べやすくしてくれた。
男性陣も、少し乱暴な扱いもあったけど、外に食料を取りに行くときに内緒で連れて行ってくれたりして可愛がってくれた。
この時、女性陣に俺を外に連れて行ったのがバレてシャロンとシュレーダーが喧嘩して、いい負けたシュレーダーが竜化したのはいい思い出だったりする。
ここからが、前の世界≪地球≫と一番違うところなのだが、この世界には魔法ってものがあるようだ。
属性は火、水、土、雷、風の大きく5つと、光、闇の特殊なものがあり、この他にも複数の属性を同時に使う事で色々な魔法を使う事が出来る。
一般の人が使える属性は1つか2つ、多くても3つだといわれている。
こればかりは相性の問題や得意不得意があるようだが、努力によっては使う属性を増やすことも出来るそうだ。
魔法を使うにはマナがの制御が必要不可欠らしい。
マナとはこの世に存在するものが常に放出しているもので、マナを自分の身体に宿す事で魔法を使う事が出来る。
一般の魔法使いは魔法を使用するたびマナを宿すか練り出す必要があるが、上級者になると普段から宿したままにする事ができるそうだ。
身体がマナの電池だと考えるとしっくりくるかもしれない。
宿せる量には個人差があるが、自分自身が練り出すマナは平等になっており最大まで作り出すほど限界値は上がるらしいみたいです。限界まで使うと筋組織が超回復して前よりも力が強くなる筋肉に例えるといいのかもしれない。
この前、エリーに連れられてマリアが魔法で野菜に水をあげる所を見せてもらった。
空中に水の玉が浮いてたいるのを見てこうふんしてしまった
魔法が使えるかもわからないが使えるなら絶対に覚えようと考えている。
♦♦♦
大貴がこの世界に来て約5年が経過し、普通に会話ができ、みんなと同じように動けるようになったころ。
外が灰色の雲で少し陰り、あと数分すれば雨粒が落ちてきそうな頃、クライン孤児院の道場(大貴が勝手に言っている)にマリアと子供たちが集まり、魔法についての講義を始めるところだった。
ライベルも自分で勉強部屋に向かい、今はエリーに抱えられながら座っている。
「それじゃあ、今日は魔法の練習するわよ。ライベルは、まだ理解出来ないと思うからお兄ちゃんお姉ちゃんの練習を見ててね」
「わかりました」
マリアの言葉にライベルが返事をすると各人精神を集中し始める。
「それじゃあ、まずはいつものようにマナを宿すのではなく練ってみて」
そう言われると子供達の身体がマナに包まれ淡く輝き出した。
シュレーダーは赤、エリーとトビアスは青、アリスが緑、シャロンが白、ケインとライオットは黒に包まれた。
「いいわ。そしたら、シュレーダーは指先に火球、エリーとトビアスは水球、アリスは土球、シャロンは光球、ケインとライオットは闇球を作り出して」
全員が身体から生まれるマナを指先に集めようと集中する。
すると、最初に変化が起きたのはアリスだった。
アリスの指先に光集まると、光が土に変わっていきが約3cmの土の球が出来上がった。
アリス以外はまだ指先にマナを集めている段階ようだ。
「ちゃんと出来上がりをイメージするのよ! アリスはそこから4つの土球を作り出して!」
「「「「「「「はい!!」」」」」」」
7人がそれぞれ目標を達成しようと自分の指先に全神経を集中する。
それを見ていたライベルは自分ももしかしたら使えるんじゃないかという衝動に駆られ、見よう見まねで魔法の練習を始めた。
(マリアさん曰くイメージが大事らしいな。身体からマナを練るって感覚は気を練る感覚と同じなのか? まあとりあえずやってみるか)
ライベルは人差し指を立てて身体に力を入れる。
まず、気の中心、へその穴から握りこぶし1つ程下にあるといわれている臍下≪せいか≫の一点と呼ばれる場所に力を入れ身体から力みをなくす。
そこから、身体から常に発生しているエネルギーをイメージする。
すると、ライベルの身体から赤い光が現れ身体を包み始めた。
(おっ?こんな感じでいいみたいだな)
「え?」
ライベルの身体がマナに包まれているのに最初に気がついたのはマリアだった。
そのマリアの声にアリス、エリーと次々と気づき練習をやめてライベルに視線を送る。
そのことに気が付いていないライベルは、そのエネルギーを人差し指に集中させるイメージを作る。
(魔法といっても実際にはマリアさんの魔法しか見たことないし、あの水球でいいか)
そこからマリアが野菜に水をあげる時に使っていた拳大の水の玉を想像した。
指先にマナが集まりだし、光が空中に浮き上がり少しずつ水球に変質していく。
「う、ウソでしょ……」
マリアはまだ基本もあまり教えていないライベルが魔法を使っていること、しかも赤色の光、いわゆる火属性のマナを使って、別属性である水属性の魔法に変化させていることに驚愕していた。
普通なら魔法の勉強を始めてからマナを自分で練りだすまで早くても8週間近く、そこから魔法に変化させるのに12週間がかかると言われている。
もし、別の属性のマナから別の属性の魔法をに変化させようものならよほどの天才か良い教師に恵まれない限り2年近くかかってもおかしくない中級でも上に位置する技術だ。
マリア戦争後に本格的に魔法を覚えてからこの技術ができるようになるまで約3年も費やした。
もちろん今の子供たちの中では一番進んでいるアリスですらまだ練習すらしたことがない技術だ。
それを今、ライベルは見よう見まねでやろうとしている。
信じられない光景に呆然とするしかないマリアたち。
その間に、マナを変化させ終わったライベルはただその水球を見つめていた。
(できた…… 生まれて初めて魔法を使えた!)
初めて使ってみた魔法が成功した喜びと達成感がライベルの心を満たした。
その瞬間集中が切れ、形を維持していた水球は形を崩しライベルの手を軽く濡らしてしまった。
手がぬれたライベルを見て我に返ったマリアたちは、練習を一時中断してエリーがライベルの着替えを取りに行き、ほかの子供たちが濡れた床を掃除をし始める。
マリアは、その間にこれからどうするかについて思案にくれたのだった。