1 発見
2つの赤い太陽からの日光で生い茂った木の影が辺りが薄暗くなっている獣道を、2人の子供が何も入っていない布の袋を持って歩いている。
1人は茶色の短く切られた髪に薄青の瞳をした小さい男の子。
頭には耳がついていてピョコピョコ動いていて機嫌のよさを表現している。
もう1人は、赤い髪を三つ編みに結んで、茶色の瞳をした女の子。
耳は人のような丸い形ではなく少し尖っていて褐色の肌をしている。
2人とも所々ほつれたり、汚れてたりしている薄茶色の上着と短パンのようなもの着ている。
子供達は、現在食料の備蓄が少なくなってきている為、家から少し離れたところにある川沿いにに向かっている。
「さーて、今日の夕ご飯は何にしようかな? 昨日はベビーラピッドの丸焼きだったし、今日はリバーをさばいてサラダをつけようかな?」
「ええ~野菜はいらないよ。お肉だけにしよう?」
女の子のつぶやきに男の子が苦言を示す。
「だーめっ!好き嫌いはダメって言ってるでしょ!!それに、ケインは男の子でしょ?たくさん動くんだからその分食べないと後で食べれなくてお腹空いちゃうよ?」
「む~、アリス姉のイジワル…」
アリスに言い負かされてしまいケインはむくれてそっぽを向いてしまった。
「この後の夕ご飯作る時も手伝ってくれたらお肉少し多くしてあげるよ」
「本当!?」
ケインはアリスの言葉に目を輝かせ川の方向に走りだす。そのまま数メートル進むとこちらに振り返って私を呼んだ。
「アリスも早く早く~」
アリスはそんなケインを見ながら早足でついて行った。
川沿いについたアリスとケインは、桶に水を汲んだ後に今日の夕飯の予定であるリバフラの捕獲にかかった。
リバフラは川に生息していて体長20センメリから30センメリ位のものが多い。
たまに50センメリの大物もいる私たちの主食のひとつだ。
特徴は長い後ろ足と舌で捕まえようとすると長い後ろ足を生かしたジャンプで逃げてしまう。
反撃してくる事はほとんどなく知能は内に等しい為、1人でも簡単に捕まえられるが2人で追い込んで捕まえたほうが効率がいいため1人が追いこみもう一人が近づいてきたところを捕まえているのである。
捕まえた後は紐で足を縛って袋に入れて手軽に持ち帰られるようにしている。
狩りを始めてから約30分が過ぎた頃、10匹ほど捕まえたアリス達は、サラダに使う山菜を摘みに少し上流にある繁殖地へ向かった。
川の上流には山菜や薬草が多数繁殖している場所があり、アリス達が偶然見つけた秘密の場所だ。
アリスは今日もいつもと同じように摘んで帰ろうと考えていたが、ケインの声がそんな考えをかき消した。
「アリス姉!こっちに来て!?」
張り切って山菜を探しに奥まで進んでいたケインが大声でアリスを呼んだ。
アリスは、その声にケインに危険が迫っているのかと考え急いで向かった。
しかし、そこにいたのは白い布にくるまれた赤ちゃんだった。
赤ちゃんはすでに頭から黒髪が生えていて、瞳は左目が赤、右目が黒で、腕には金色の腕輪がついていて、「うーー」と唸っている。
(なんでこんな森の奥に赤ちゃんだけがいるの?誰かが連れてきた?)
アリスは、周りの気配を探るが人の気配がなく、なんでこんな所に赤ちゃんがいるのか考えに耽って≪ふけって≫いるとケインがこちらの顔色を伺うように上目使いに訪ねてきた。
「ねえアリス姉、この子どうしよう?」
アリスは、数秒考えるとケインに指示を出す。
「うーん、このまま置いてはいけないしとりあえず連れて帰ろうか。
私が赤ちゃんを連れて行くから、ケインはリバフラと水を持って先に帰って。
そして、お母さんに赤ちゃんの事伝えておいて」
「わかった。じゃあ先に帰ってるね。
伝えたらすぐに戻って来るから!」
ケインはリバフラが入った袋とが山菜が入った袋を持って走って行った。
アリスはケインを見送った後、赤ちゃんをふらつきながら抱っこして孤児院を目指して歩き出した。
「あーー、うーーー!」
「はいはい、今家まで連れて行くからもう少し我慢しててね」
お腹が空いたのか赤ちゃんが私の裾を引っ張りながら泣いているので歩みを速めた。
―――大貴side―――
(一体どうなってんだ?)
渦潮にのまれて意識を失った大貴が目を覚ますと遠くから水の流れる音はするもののさっきまでの海岸にはないような景色が映っていた。
(ついさっきまで海にいたはずなのに何でこんなところにいるんだ?)
大貴は、自分の視界に移っている木々を見て状況を整理しようとする。
まず第一に、自分の身体がおかしなことになっている。
何故なのか分からないが赤ん坊になっているのだ。
一度周りを見渡そうとしようと首を回そうとしたが全く動かず、身体も全く動かない。手足も短くとてもじゃないが身体を支えられるようには見えない。
助けを呼ぼうにも、言葉が話せず「あーー」や「おーー」、「うーー」といった言葉しか話せないから叫ぶしかない。
第二に、自分のいる場所が見知らぬ場所だという事だ。
大貴は、気絶する前に彩花と海に行って渦潮に巻き込まれたところまでの記憶はあるが、そこからなぜこんな森の中にいたるまでの記憶がない。
気が付いたらここにいたのだ。
しかも、誰がやったのかわざわざ大貴の身体は白いタオル?に包まれている。
そして最後に、一番重要なのが大貴の周りに人の気配、正確には彩花のいる気配がないことだ。
もちろん、大貴に人の気配を探れるといった特殊能力などない。
しかし、どんなに叫んでも返事は何一つ返ってこず、風や葉っぱがこすれる音しか聞こえないのである。
大貴の記憶が正しければ、気絶する直前に手を伸ばしてくる彩花が見えていたのだ。
自分の置かれた状況を完全に把握したわけではないが、仮に何かに巻き込まれた場合近くに彩花がいてもおかしくないと考えたのだ。
しかも、自分の身体を考えると彩花も幼児化している可能性が高い。
(くそっ…… 彩花を探しに行きたいがこれじゃあ動けない。
完全に詰んでる…… これからどうすればいいんだ)
どうしても、ネガティブなことしか思い浮かばない大貴は、とりあえず一部の希望にかけて声を出し続けることにした。
すると、運が良かったのか数分としないうちに大貴の視界の中に幼稚園児くらいの男の子が近づいてくるのが見えた。
(頼む! 気づいてくれ!!)
そんな思いを込めて泣き叫ぶと、その少年はこちらに気づき小走りで近づいてきた。
大貴は、その様子を見て心の中でガッツポーズをとる半面、その少年に対して微妙な違和感を覚える。
(何でこの子はこんな傷んだ服を着てるんだ? あの海岸近くが田舎って言ってもさすがにこんなに傷んだ服は来てる人はいないだろ。ここって日本じゃないのか? それに、あの頭の上で動いてるものって何か見覚えあるんだけど、あれっていわゆるケモミミってやつじゃないのか? 何で貧乏なのにこの子はコスプレなんかやってるんだ?)
大貴は、少年が近づいてくる間に様々な疑問や戸惑いが浮かんでくる。
「☆☆★★☆☆」
少年は大貴に近付くと来た方向に向かって大声で何かを叫びだす。
(英語ではないみたいだけど…… これは一体何語なんだ?)
大貴は少年が何を言っているのか理解できずなんとか自分の記憶にある言語につなげようとする。
だが、大貴が今まで習ってきた外国語ではないらしく何も分からない。
すると、今度は少年が来た方向から少年より少し年上位の少女が走って来た。
どうやら、さっき少年が叫んでいたのはこの少女を呼ぶ為だったらしい。
少年と少女は短い時間で会話をすると、少年は少女が持っていた袋を預かって何処かに走り去って行った。
少年を見送った少女は、大貴に近づくとしゃがみ込み抱き上げる。
そして、立ち上がるとそのまま来た方向に向かって歩き出した。
(ちょっと待ってくれ!まだ近くに彩花がいるかもしれないんだ!)
大貴は、なんとか思いを伝えようとするが、口からは「あーー!うーーー!」といった声しか伝わらない。
動きにくい腕を使って少女の服を引っ張るも笑顔で話しかけられるだけで、探そうとしてもらえない。
(クッソ~!)
大貴はそのまま少女に抱かれて自分がいた場所から離れて行った。
―――大貴sideout―――
周りが森に囲まれた場所に不自然に存在する白い建物。
その建物の敷地内にある庭でこの建物の主が菜園に水をあげている。
水をあげると言ってもジョウロやホースを使っている訳ではない。
空中には水の玉が浮いていてそこから小雨を降らすように水をあげている。
「だいぶ育ってきたわね。もうちょっとすれば収穫できるし、これで食卓も少し豪華になるかしら」
この建物は、孤児院になっており現在は大きな種族に分けると人と魔人と獸人が2人ずつと竜人が1人の計7人の子供達を養っている。
この子達はいずれも5年前までその4種族の間で起きていた中央戦争の孤児で、戦争が終わってから各地を旅していたこの建物の主が見つけた子達だ。
この建物、孤児院の主、マリア・クラインは人の部類に入り現在は27歳。
金色の片口まで伸びた髪と碧いクリっとした目が印象的だ。
マリアは5年前の中央戦争に兵士として参加していたが、戦争に関係のない子供達が親を殺され家を失って途方に暮れる姿を見て疑問に思った為、戦争が終わってから孤児院を作った。
ここでは言葉や文字、自分の身を守る技術の基礎を教えていて、5歳になった時に4カ国の戦争調停の際に作られた都市、ピースフルの学校に進学するかどうか決めさせるようにしている。
出来れば孤児院だけだけじゃなくもっと広い世界を見て多くの人と接して欲しいからだ。
もちろん進学するかここに残るかは個人の意見を尊重している。
そうやって、戦争で心身共に傷ついてしまった子供達が将来幸せな生活を過ごせるようにと言う思いでこの孤児院が生まれた。
そんな、可愛い子供達に出来るだけ色々な料理を食べさせてあげようと旅先で見つけては食用植物の種を手に入れてこの菜園で育てていた。
「アリスにケインはまだ帰ってこないかしら?
別に魔法で水を精製しても疲れないのにわざわざ水汲みに行くんだから。
ちゃんと褒めてあげないといけないわね」
マリアは、熟れてきたレンの実を手に取りながらそんな事を考えていた。
すると、孤児院の門の方から切羽詰まったケインの声が聞こえてきた。
「マリアお母さ~ん!!」
いつもはあまり大きな声を出さないケインの必死な声に、魔獸が出たか、王国の兵が向かって来ているのかと思ったマリアは、水やりを中断して門の方へ走った。
私が駆け寄ると、ケインはリバフラが入った袋と山菜の入った袋を持って息を切らしていた。
「マリアお母さん!あのね、すごく大変なの!ええっとね、スッゴく大変なの!!」
「ケイン落ち着いて。何があったの?アリスが一緒だったはずだけどどうしたの??」
マリアは興奮して上手く話せないケインを宥めなつつ質問していく。
「落ち着いた?私が質問するからそれに答えてね。まずはアリスはどうしたの??」
「ええっと、アリスは今帰って来てる途中だと思う」
ひとまず落ち着いたケインは簡潔に答えていく。
「そう。急いでたのは魔獸に襲われたから?」
ケインは首を横に振る。
「それじゃあ、野盗に襲われた?」
これも、首を横に振る。
(魔獸でも野盗でもないとすると後は……)
「どこかの国の兵士を見かけた?」
「ううん。あのね、山菜を摘んでる時に赤ちゃん見つけたんだ!」
ケインが少し興奮気味に話す。
マリアは、ケインの行ったことを一瞬理解できずに固まってしまったがすぐに詳細を聞きだす。
「赤ちゃんって魔獸の赤ちゃん?」
「違うよ。多分人の子供だと思う。アリス姉がここに置いて行く訳にはいかないからって連れて来るよ。僕はお母さんに伝えるようにって言われたから先に帰ってきた」
ケインは興奮気味なままにその時の様子をマリアに語りだす。
(アリスとケインが山菜を採りに行く場所って川の上流にある場所よね?そんな所に赤ちゃんだけがいるのはおかしいわ。なにが起こっているの?)
マリアは少しの間色々な可能性について考えたが、結論がでずまずは動く事にした。
「わかったわ。それじゃあ、私はアリスと赤ちゃんを迎えに行ってくるから、ケインはミルクが残っているか確認、シャロン達には赤ちゃんのベッドを準備しておくように言っておいて」
マリアが指示を出すとケインは元気に返事をして孤児院の中に入って行った。
孤児院と森をつないだ一本道を赤ちゃんを抱っこしているアリスが歩いていると、孤児院の方から凄い勢いで走ってくるマリアが見える。
マリアは、アリスを見つけると減速してアリスの前で止まった。
「師匠!」
「師匠じゃなくてお母さんでしょ?」
マリアを昔の癖がでてしまったアリスを苦笑しながら注意した。
アリスは、マリアが最初に拾った子供で5歳の時に進学を進めたが、マリアの手伝いをしたいと言う事で孤児院に残っている。
初めて会ったのはアリスが4歳になるかどうかの時だったが「マリアさんに弟子入りしたい」と言って、師匠と呼んでいた。
孤児院を立ち上げた時にお母さんと呼ぶようになっていたが、この不思議な出来事のせいか感覚が昔に戻っているようだ。
「まあ今はいいわ。その子がケインが言っていた赤ちゃんね」
マリアがアリスが抱いている赤子を見ながら話しかける。
「うん! 見たところ普人族の赤ちゃんだと思うんだけど、黒髪に赤と黒の瞳は今まで見たことなくて…… そのまま放置できないので連れて来たの……」
マリアは、赤ちゃんをまじまじと見る。
「なるほどね。確かにこんな容姿は珍しいわね。まあ、近くに人の気配もないし預かり手もいないからとりあえず院に連れて行きましょう」
「わかった! そしたらみんなでこの子の名前を考えないといけないね!!」
アリスは声を弾んませながら話す。
どうやら、新しく家族ができるかもしれない事を喜んでいるようだ。
「そうね。じゃあ院に帰りましょうか。もう師匠って呼んじゃ駄目よ?」
「うん!」
「その子持つの私がかわる?」
「大丈夫! ここまで来たんだから私が連れてくもん!!」
元気に返事をしたアリスは、赤ちゃんに「あなたは今日から私たちの新しい仲間だよ!」やら「あなたの名前は何にしようか?」と嬉しそうにしゃべりかけている。
マリアはその様子を見ながら念のため周りを探りながらアリスと一緒に孤児院に戻った。
「ただいまー!」
「ただいま、みんないい子にしてた?」
院に帰ってきた二人は、玄関を開けると6人の子供たちに出迎えられた。
「アリス姉、お母さんおかえりー」
「アリスお姉さま、マリアお母様おかえりなさい」
「アリスお姉ちゃん、お母さんおかえりなさい」
「二人ともおかえりーー!」
「「おかえりー!」」
院に入ると最初にあいさつを返してくれたのはケインだった。
それにシャロン、エリー、シュレーダー、トビアス、ライオットが続いて迎えてくれた。
「お母様、この子が新しい家族ですか?」
赤ちゃんの頭をなでながらニコニコして聞いてくるシャロン。
「この子が私のいもうとになるんだー」
顔を覗き込みながらはにかむエリー。
「ちげーよ、弟に決まってるだろ!」
エリーの後ろから赤ちゃんを見るシュレーダー。
「「そーだそーだ」」
その横で背伸びをするトビアスとシュレーダーに肩車されているライオット。
「みんなどいてよ!」
みんなが邪魔で赤ちゃんを見れないケイン。
「ちょっ、みんな近づきすぎ!!」
みんなが赤ちゃんに詰め寄ってきて驚くアリス。
「みんな落ち着きなさい。赤ちゃんが困るでしょ?」
それをみて一度離れさせようと声をかけるマリア
それに「うーーー!」と、みんなの声に反応する赤ちゃん(大貴)。
みんなが一息ついたところでマリアがシャロンとケインに声をかけた。
「シャロン、赤ちゃんの寝るところの準備できてる?」
「はいお母様。今はみんなの寝室に置いてあります」
「ケイン、ミルクの予備は残ってた?」
「うん。10個分残ってたよ」
「そう…じゃあ今日は私がご飯を作るから食事のときにみんなで赤ちゃんの名前を考えましょう」
「「「「「「「はい!私たち『俺たち』も手伝います!!」」」」」」」」
そう言って全員で調理場へ消えていった。
こうして、クライン孤児院に引き取られた大貴は彩花どころかどんな状況なのかも知らない状況で新しい生活が始まった。