7 登校
前回までのあらすじ
入学式当日を迎えたダイキは、周りから期待をうける中、自分の能力がフェイに依存している事に疑問を感じていた。
そこで、マリアやミーナに相談したものの解決せずに入学式に向かうのだった。
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ピースフルの朝はとても早い。
日が登ると共に、守護団の訓練が始まり、その声に起こされた店舗を持っている人達が開店にむけて準備を始める。
しかし、今日のピースフルの朝はいつもとは少し違う。
今日は、年に一度の各学校の大規模な入学式があり、守護団は訓練をせず朝から街の見回りを始めており、露店もすでに準備を終え、何時でも開店出来るようになっている。
露店や店舗を持った商人達は、金払いのいい新入生の関係者は勿論、イベント見たさにやって来る人達も朝早くから外を歩き回っている為、年に数回あるかのビジネスチャンスに少しでも売り上げを伸ばそうと早朝から店を開いているのだ。
守護団は、ピースフルの学校に来る新入生の8割が家名や国でも影響力の大きい子供と言う事があり、不測の事態を事前に防止、万が一起こったとしても迅速に解決する為に常に気を張っている。
その守護団の中には、騎士候補の生徒も混ざっており、経験を積ませること、実際の任務に就き意識を高くさせることを大きな理由に、主に先輩騎士2人と生徒1人で組ませている。
シュレーダーとトビアスもすでに先輩騎士と一緒に南門近くの見回りを行っていた。
「はあ~、毎年入学式には少なからず関わってたけど今年は特に人が多いな」
「そう?
去年もこんな感じじゃなかったっけ?」
真新しい騎士服に腰に両刃剣を差した少年2人が周りの喧騒に耳を傾けながら話している。
「こら、無駄話するのもいいがちゃんと仕事もしろよ?」
「そうだぞ
ただでさえ人が多いんだから集中しろよ?」
シュレーダーとトビアスが話しながら歩いていると、年の近い獣人と竜人の先輩騎士2人に注意される。
「分かってますって!
何たって今日は弟の晴れ舞台ですからね!」
「ならいいがな
今日は、一年で1番大事な時期なんだから話してても気を抜くなよ?」
「「はい!」」
元気に返事を返す二人。
そんな4人の数歩下がったところでやりとりを無精ひげを生やした魔人族と白髪が見え始めた元人族の2人が見守っている。
「若い奴らは本当に元気だな」
「何言ってんだ。お前だってまだ100歳を超えたくらいだろ?」
「いやいや、まだじゃなく、もう100歳なんだよ
もう一生の折り返しにきちまってるからな
流石にあいつらみたいにははしゃげねぇや」
魔人の年配騎士は遠い目で前を歩きながら騒がしくしている4人を見つめながら言葉を紡ぐ。
「こうやって他種族がおんなじ任務について同じものを守るなんて昔は考えられなかったからな。
特に戦時中は今こうやってお前らといるなんて想像も出来なかったからな」
「ああ、そうだったな……
あの時は、自分達以外の種族はすべて敵と思って戦っていたからな
実際、他種族を絶滅させるまで戦争は終わらないと思ってたから、今こうやって若い奴らが分け隔てなく話してる姿を見ると終わったんだなぁって実感するよ」
「ああ、本当にな……
もう終戦≪あれ≫から10年以上経ったんだよな」
「ああ、だからこそ今の生活をずっと続けていけるように気張らないとな!」
「おう!
まずはひよっこ共をしっかり育てないとな!!」
お互いに意気込んだ二人は、先ほどよりも騒がしくなった4人を注意すべく歩を速めた。
♦♦♦
「さて、もうそろそろ行くか?」
「…………ああ」
クライン家の2階にある大貴とフェイの部屋。
家族達に自分の苦悩を明かしてから朝食をとった大貴は、自室にあるベッドの上で丸くなってマリアやミーナに言われていた事を考えていたが、時間になったことを確認したフェイが声をかける。
学校に登校する時間は9時30分。
大貴は部屋にある時計に視線を向けると、針は8時半を示していた。
大貴は、学校が指定した制服に着替えると必要最低限の荷物を持ち部屋を出る。
フェイは、自身の1mほどあった子供モードから約20cmくらいの赤い鳥に変化させ大貴の横を飛びながら大貴の後に続く。
大貴が入学する「ピース第一総合学校」はクライン家から歩いて3キロ程離れた教育区画にあり、歩いて20分から30分程かかる。
大貴達が家を出ると、住宅区画にも関わらず種族にかかわらず多くの人々が行きかっている。
しかし、その多くは大貴達が向かう方向と同じ方に向かっており今日の入学式を一目見ようと遠路はるばるやってきた人たちのようだ。
そして、道路中央にはを馬にひかれた豪華な馬車が何台も行き来している。
そんな風景にもこの数年で見慣れてしまった大貴とフェイは、何の感慨も示さず、入り乱れた人混みに紛れながら石畳みの道路を歩いて学校に向かう。
『なあ、なんか俺達見られてないか』
学校に向かう途中にある大通りに出た頃、周りの視線に気が付いたフェイは少し気だるそうにしている大貴に念話で声をかける。
『そうだな。
この感じは甲子園出場を決めた時にも感じたな。
まあ、俺達はいろんな意味で注目されてるみたいだししょうがない』
そんな感じで話していると、時折喧騒の中から「あの子が噂の?」という声や、「ああ、あの子が……」と言った声が耳に入ってくる。
『それにしても、さっきの問題はお前の中で決着付いたのか?』
フェイが少し声のトーンを下げて尋ねてくる。
『いや。まだ実感してないからな。
でも、やってみなきゃ分かんないし、自分なりに全力を出せばいいかなってちょっと開き直ってみようかなって思い始めたよ』
大貴はフェイの問いに視線を変えずに返す。
『そっか
まあ、ダイキがそれでいいならいいんだけどさ』
そういってフェイは会話を終える。
『なあ、それよりもこれから行く学校ってどういう事を学ぶんだろうな?』
『うーん、どうなんだろうな
どんなことを学ぶにしても日本の学校の感じにはならないかもな』
『俺的には漫画とか小説に出てくるプライドが高い貴族様とかいるのかがすっげぇ気になってんだよな』
『シュレとか何かしら勧誘とかされてたみたいだしもしかしたらいるかもよ?』
『だよな!
ああ、早く学校行こうぜ』
『分かったよ』
大貴はシュレにせかされて歩を速めるのだった。