6 入学前
それから2日後。
ピースフルの街に2色の陽光が差し始めた頃、入学式への楽しみから余り寝付けなかったライベルは、少し身体を動かそうと考えみんなを起こさないようにこっそりと家を出る。
「今日はどのコースを走ろうかな?」
家の前で身体を伸ばしながらどこを走ろうか考える。
すると、家の扉が開き中からシュレーダーとトビアスがやってきた。
「おはよう。今日は起きるのが早いな」
「本当だ。さては緊張して眠れなかったか?」
2人は身体を伸ばすライベルに気付くと笑いながら朝の挨拶をしてくる。
「おはよう。2人こそ早いな。何時もこんな時間だったっけ?」
「いや、今日は早く目が覚めたからな。母さんとシャロン、エリーも今起きてたぞ」
「俺も兄貴と同じだよ。何となく身体を動かしたくてな」
2人は答えながらライベルと同じように身体を伸ばす。
これは、大貴が教えた訳ではないがいつもやっているのを見て2人が尋ねてきたため教えたらするようになった事だ。
今では、マリアも余裕がある時はストレッチをする位に浸透している。
「これから走るんだろ?俺たちと一緒に行かないか?」
身体をほぐし終えたシュレーダーがライベルに提案する。
ライベルは、それを断る理由がなかったので了承する。
「なあ、2人共入学式の時はどうだった?」
朝食が出来るまでという事で居住区画の中を走っていたベルが隣を走るシュレーダーとトビアスに質問する。
「どうだったと言ってもなぁ。とりあえず、各国の代表挨拶が長かったくらいか?」
シュレーダーは、遠い目をしながら答える。
「そうだね。俺の時は学長の話も長くて面倒だったな」
トビアスもシュレーダーに続いて答える。
「そうそう、あったあった!」
「いや、そういうんじゃなくてさあ~こう緊張したとかないのか?」
ライベルは、自分の聞きたかったこととは違う答えに少し困惑する。
ライベルが聞きたかったのはその時何があったかではなく、その時何を思ったか、考えていたかなのである。
それをシュレーダーとトビアスに伝えると二人はきょとんとしながら答えた。
「いや?確かに周りはうるさかったけど特に変わった事はなかったぜ!」
「俺もアニキと同じかな~俺の場合シャロン姉だけじゃなくてアニキのもあったけど気にはしなかったな」
「……そうなのか」
大貴は質問する相手を間違えた事に今更気付いたのだった。
それから約1時間。
雑 談をしながらの走り込みを終えたライベル達は、汗を流す為にシャワーを浴びた後に広間に来ていた。
広間には、今日の入学式の準備がある為早めに学校に行かなければならないミーナとシャロン、エリーがいる。
テーブルの上にはすでに無発酵パンとジャム、庭で採れた野菜で作ったサラダに野菜スープ、それに鳥肉のスパイス焼きが置かれていて3人はすでに食事を始めていた。
「みんなおはよう」
ライベルは、朝の挨拶をしながら自分の食事を準備しにキッチンに向かう。
シュレーダーとトビアスもライベルに習って挨拶をした後に自分の食事を取りに行く。
「おはよう。みんなで走り込みか?」
「おはよう。3人共精が出るわね」
「おはよぅ。私が準備するから3人共座ってていいよ」
ライベル達の挨拶に、ミーナが微笑みながら、シャロンが少し呆れながら、エリーはキッチンに向かう為に立ち上がりながら返す。
「いや、エリーは座って食べててよ。自分の事は自分達でやるって」
「そうそう。エリーは気にしすぎだって」
「2人の言うとおりだぜ。それにエリーは入学式の準備があるんだろ?」
「ううっ、分かった」
言い負かされたエリーは少し涙目になりながら席に座り直す。
その姿を見たライベル達はどこか居た堪れない気持ちになり足早にキッチンへ向かった。
「エリーは自分の入学式の時はどんな感じだった?」
料理を載せた皿を持って戻ってきたライベルは、エリーの隣に座りながら尋ねた。
「えっ? わ、私? 私の時はずっと緊張してたからあんまり覚えてないよぅ。ただ、シャロンお姉ちゃんが話しかけてきてくれたし、ケインとトビーも近くにいたから大丈夫だったよ」
ライベルに尋ねられたエリーは、軽く笑いながら答える。
「そっか…… シャロンはどうだった?」
「そうね、やっぱり家族の中で初めて入学してたしお母様のこともあったから今思うと少し気負い過ぎてたかもしれなわね。でも、やっぱりどういう事を学べるのかっていうわくわく感も強かったかな」
「そっか…… 二人ともありがとう」
ライベルは、答えてくれた二人に感謝の言葉を伝える。
「何だ? もしかしてベルは緊張してるのか?」
その様子を見て少し不振がったミーナがからかい半分でライベルに尋ねる。
「うーん、そうなのかな? ただみんなの意見を参考までにって思ってたんだけど」
「そうだな。やはり今までシャロン達が学年トップクラスの成績を毎年残してきただけに今年のベルに対する期待は学内外ともに高いと思うぞ。噂の事もあるしな」
「その噂ってロペスさんが言ってたやつか。実際はフェイが力を貸してくれてるから凄いだけで実際の俺は普通なんだけどな」
「いやいや、それは流石に謙遜しすぎだ。そもそも、ベルの年でマウンゴブリン≪山鬼≫を1匹だけでも倒せる人が何人いるか知らないが数えるほどしかいないだろう。それに、数年前にお前は1対1で山賊団の頭を倒したのだろ? 充分自信を持っていいことばかりやっているよ」
「グラハの時か…… あの時は無我夢中だったからな~」
ライベルはそう言われてグラハとの戦いを思い出す。
あのときが、ライベルにとって対人戦で初めて命をやり取りをした時だった。
「ベルはもっと自分に自信を持てって! 俺やトビーが模擬戦で10回やったって半分勝てれば良い位なんだからな! まるで俺達が弱いみたいじゃないか!」
「アニキ…… 俺達は実際弱いじゃないか」
シュレーダーがライベルに発破をかけるがトビアスがそれに水を差す。
「それは、大人達とやった時だろうが! 学校の奴とやったら誰にも負けねえよ!」
「確かに、学校の生徒ならアニキ達以外にならそんなに負ける気はしないけど……」
「だろ? ようするに俺たちだって学校で負けないんだから俺達より強いベルが他の奴らに負けるなんてことはまずないんだよ!」
「そうよ。それに勉強だって私よりも色々なこと知ってるじゃないの。私これでも首席で進学してるんだからね?」
シュレーダー達の話を聞いていたシャロンが口を開く。
「いや、そんなことはないって。シャロンの方が全然頭がいいよ」
「私がベルの時は何も知らなかったのよ? それで充分よ。実際アリス姉さんみたいに学校に行く必要だってないんだから」
「あら、みんなおはよう。名に話してるの?」
シャロンがベルに話していると水色のパジャマを着たマリアが起きてきた。
「ベルが変な事言ってるからみんなでどれだけ凄いか教えていた所だよ」
そう言ってシャロン達は今までの経緯を話す。
「なるほどね~。要するにベルは自分の力がフェイによる力のお蔭だから本当の自分は弱いと思っている。ズルをしているような状態の自分がこんなに期待されてていいのかみたいな所かしら?」
マリアはそう言って食事を一時やめているベルを見る。
「……まあそんな所かな」
「入る前からそんなこと考えてたって仕方ないじゃない。男の子ならシュレ位考えるより先に行動する方がちょうどいいの!とりあえず学校に行ってみてそれでもダメだったら考えなさい!」
マリアは寝起きとは思えない程に熱く語り掛ける。
「いくら此処で色々話したって信じられないでしょうし後は自分で確かめてみなさい」
言い切ったマリアは、満足したのか、もう言う事がなくなったのか、ベルの返事を待たずにキッチンに消えて行く。
「私達が言いたい事はマリアが全部言ってくれたから私達からはこれ以上言う事はないな。ほら、シャロンとエリーは荷物をとりに行ってきなさい。もうそろそろ行かないと準備に遅れてしまうぞ?」
ミーナは、未だにライベルに話そうとするシャロンと、それをオロオロとして見ているエリーに時計に視線をやりながら声をかける。
「本当だわ!それじゃあ、ベルはまた後でね!シュレとトビーは警護の仕事任されてるんだから遅れないようにね!」
「ほっ、本当だよぅ。あっ、ベルはあんまり考え過ぎちゃダメだよ。ベルが凄いのはみんな知ってるんだからねっ!」
シャロンとエリーはそう言い残してドタバタしながら広間を出て行った。
「さて、それじゃあ私も行こうかな。ベル、もう少し自分を信じてみろ。ランクA、Bの実力者に此処まで認められている奴はそういないんだぞ?自分を信じられないならベルを信じている私たちを信じてみてくれ」
ミーナはそう言い残すとシャロン達に続いて部屋を出た。
残されたライベルは、シュレーダー、トビアス、キッチンから戻ってきたマリアと共に重い空気の中で残った食事を口に運ぶのだった。
どうも!
もう12月になって今年も残すところあと1ヶ月となりました
今年は3・11に大震災があったり、金融危機があったり、世界中で自然災害が頻繁におこったりと、この小説を読んでくれた方たちも色々考えさせられたと思います。
実際私も、実家の仕事場が流されたり先輩がなくなったりと命について、家族についていろいろ考えさせられる1年になりました。
今年は悲しい出来事が多かったと思いますがこれからも精いっぱい頑張っていけたらと考えています。
とりあえず、目下の目標は内定をもらう事です
以前にも途中で書かせていただきましたが12月から就活が忙しくなるので不定期更新になると思います。
しかし、失踪することは全く考えていませんので長い目で待っていただけたらと思っています
最後に、今年残り1カ月そして来年以降、幸運に恵まれることを、この小説を読んで少なからず前を向いて頂ければと願っています。