24 模擬戦が終わって (2)
夕食を終え、各自の食器等の片づけが済んだ後、俺、フェイ、マリアさん、ミーナさんの4人は会った際に約束していた「俺とフェイの事」について話すために応接間に来ていた。
俺たちが話している間、子供達には自由にしてるように言っており、今はみんなで俺が教えたトランプで遊んでいるみたいだ。
どこから話そうか考えている俺達の目の前には、エリーが気を利かせて持って来てくれた紅茶にミルクをいれてを美味しそうに味わっているミーナさんがいる。
マリアさんは、俺の右側に座っていて話の補足などをしてくれるみたいだ。
俺は、何から話すか決めるために左側に座ってテーブルに置かれたクッキーを食べているフェイに念話で話しかける。
『なぁ、何から話す?』
『あん? そんなの俺たちが異世界から来たって事からだろ?』
何当たり前の事聞いてきてんだよ、と言う様に返してきた。
『それはそうなんだけど、一応の確認したんだよ。いきなり異世界から来ましたって言うのか?』
『実際そうなんだから言うしかないだろ。後は、ミーナの判断だろうが』
『…………それもそうか』
『そうそう。さっさと説明始めようぜ?』
そう言うとフェイから念話が切られてしまった。
面倒くさいからって俺に説明押し付けやがったな!?
ふぅ、一回落ち着こう……
ミーナさんの方を見ると、ミルクティーの入ったカップをテーブルに置いて、フェイと一緒にクッキーを食べている。
「この食べ物はなんて言うんだい? こんなに甘い食べ物は始めてだよ。食感も今まで感じた事の無いみたいだ」
「それは、クッキーって言って、ベルの世界では一般的に食べられてるお菓子だぜ。ちなみに、さっきミーナが飲んでいたのもベルの世界の技術で作った飲み物で紅茶って言うんだぜ!」
「そう…… この食べ物はクッキー、飲み物はコウチャというのか?」
「ああ! しかも、紅茶にも種類があってミーナのはミルクを入れたからミルクティーって言われてるんだぜ」
「このほかにもいろいろな飲み方があるのだな?」
「ああ!」
「それは他の物も飲んでみたいな」
何か、紅茶談義に花が咲いてるんだけど!? ていうか、普通に俺のいた世界とか普通に話してるんだけど!!?? そのままふぇいが全部話しちゃえばいいじゃないか……
『早く話せよな』
そんな、俺がの気持ちを知ってか知らないでか念話で急かしてくるフェイ。
俺は、この何とも言えない気持ちを抱き、溜息をつく。
「はぁー、それでは僕達の事をお話しますね? と言っても殆どの事をシャロンから聞いていると思いますが……」
「いや、私も大まかにしか聞いていないから話してくれると嬉しいよ」
「分かりました。さっきも言いましたがこの話は他言無用でお願いしますね」
「勿論だ。私の命に掛けて誓おう」
ミーナさんは胸に手を当てて宣誓する。
俺はそれをみてマリアさんにアイコンタクトを取ってから話し始める。
「それでは、まず根本的な事からお話しします。僕とフェイはこの世界の住人ではありません。この世界とは異なる世界から来ました。僕の前の世界での名前は浅沼大吾と言います。年は21になる位でした。でも、今はみんなから貰ったライベル・クラインって名前があるのでそっちで呼んでください」
「俺はフェイだぜ。前の世界での名前はなかったがベルの世界じゃ俺の事をフェニックスとか朱雀とか呼んでたらしいぜ。前の世界では、命を司る聖獣?として世界の命を管理していた。この世界では、火、天、闇を司る者みたいだな。まぁ、今まで通りフェイって呼んでくれていいぜ」
俺とフェイの自己紹介が終わるとミーナさんが眉間を押さえている。
「…………すまない。いきなりで悪いが質問させて貰っていいか?」
「どうぞ」
「ベルの事は分かった。だがフェイの話がイマイチ理解出来なかった。今の話を聞くとまるで神のような事をしていたように聞こえたのだが?」
「ベルやマリアも同じ事言ってたし、それであってると思うぞ? あっ、でもさっき言ったみたいにみんなと平等に扱ってくれよな。特別扱いは疲れるんだ」
「…………分かった。次の質問だが、さっきフェイが話していた君の世界と言う事だな? と言う事は、ベルとフェイはそれぞれ違う世界から来たと言う事なのか?」
ミーナさんは冷静な態度で疑問を投げかけてくる。それもそうだ。先ほどフェイは、紅茶やクッキーは「ベルの世界の物」といった。という事は、必然的にベルとフェイの世界は一緒ではないのかと考えるのも無理はない。
そして、その質問にはフェイが答えた。
「俺とベルではいた世界が違うぜ。ベルの世界は、魔法が存在しない世界だったからな。その分科学って呼ばれるものが異常に発達していたけどな。俺の世界は人がいない世界だったからな」
「…………魔法が存在しない?」
ミーナさんはあり得ないとでも言うように呟く。確かにもし俺が逆の立場で科学がないと言われたらその人物を疑うだろう。だけど、某作品で言っていたように
「あり得ないと言う事はあり得ない」
「?」
ミーナさんは言葉の意味が分かっていない様で首を傾げている。
「僕の世界にある書物に書いてあった言葉です。世界は広く人一人では知らない事が溢れている。ミーナさんが何年生きているか分からないですけど、今ミーナさんの目の前にはこうしてこの世界にはない技術があると言う証拠があり、実際にその世界から来た僕がいる以上、あり得ないと言う事はないんですよ」
「ふむ。確かにベルの言う通りだな。私の知らない武術といい、風呂といい、この料理といい、ベルの世界はこの世界よりもずっと先に進んでいるようだ」
俺の言葉に、ミーナさんが頷く。言葉が足りないかと思ったけど一応理解してくれたようだ。
「ちなみに、補足して置きますけど、武術はともかく、風呂や料理は僕が生まれる何十年、何百年も前からあった技術です。僕の知っている武術の一つは二千年前から存在していたと言われています」
「二千⁈」
俺の説明にミーナさんと横で俺たちの様子を見ていたマリアさんが愕然としている。そういえば、マリアさんにも言ってなかったっけか。まぁ、この世界の歴史は知らないけどやっぱり長い年月だよな。
「そうです。それに僕のいた世界ではこの世界で言う魔人族、獣人族、竜人族がいない、ヒト族しかいない世界でしたから、それだけ発展速度は早かったと思います。もしかしたら、将来的にこの世界のヒト族も同じような技術を生み出すかもしれませんね」
と言っても、地球は化石燃料を元に技術が進歩してきたけど、こっちは魔法がメインだからそこまで似た技術は出てこない様な気がするけど……
「ちなみに、ベルの考えではベルのいた世界に比べてどれくらい差があると思うかな?」
「そうですね…… とりあえず、僕は孤児院から出た事がないんでアテにはならないですけど、技術だけなら五百年位は差があるんじゃないかと……」
「そうか。では、ヒト族がベルの世界のような技術を生み出すまではまだ長い年月がかかるということかな?」
「それは一概にも言えないです。この世界は分からないですけど、僕の世界には化石燃料と呼ばれる物があってそれを用いた技術が発達していました。その技術を開発した人も、1人の天才があっという間に作った技術もあれば、何人もの人が時間をかけてやっと出来た技術もあります。たった今ヒト族で新しい技術が生まれたかもしれないですし、他の種族で生まれたかもしれません。さっき似たような事を言いましたが絶対はないんです。それを一々気にしていたら身が持ちませんよ。ただ言えるのは、僕の世界の技術、特にこの世界の発展に影響を与えたり、兵器になるような技術はむやみに明かさないと言う事です。勿論、例外もありますけど僕は1つの種族を贔屓する事はありません」
「分かった。その言葉を信じよう」
「とりあえず、僕達がそれぞれ別の世界から来たと言う事は理解して貰えましたか?」
「ああ。概ねだがな」
そう答えると、カップを手に取ってミルクティーを飲む。
その間にフェイに念話を送りこれから話そうと思っている事について相談する。
『これから彩香の事について話そうと思ってるんだけどどうかな?』
『そうだな…… 今まで話した感じ裏がある様には見えないし俺は大丈夫だと思ったぜ。まぁ、最終決定はお前にまかせるぜ』
そう言われてフェイの方を見ると笑顔で返された。
『……言うよ。俺やみんなだけじゃ出来る事が限られるし、協力者が多い方が見つかる可能性も上がるしな‼』
『そうか。ダイが決めたならそれでいいぜ』
『ありがとうな』
俺はそう伝えると、一息つき終わったミーナさんに向き直る。
「これで僕たちの事は細かい話以外は全部話しました。それで、今の話を聞いてもらったうえでミーナさんに頼みたいことがあります!」