21 師匠登場
(フェイとケインの勝負はやっぱりフェイが勝ったか。でもケインも善戦したな。最後はフェイも手加減忘れて本気でやってたし。てゆうか……)
2人の戦いをディスプレイ型魔具『テレビ』で見ていた俺は帰ってきたフェイにジト目を向けながら念話で話し掛ける。
『最後の決め技はやりすぎだろ!! ケインがフォースを使ったままになってたから良かったけど下手したら頭蓋骨骨折で死んでたんだぞ!?』
『わっ、悪いとは思ってるんだぜ? 俺もやり過ぎだって反省してる』
俺の言葉に、フェイは狼狽しながら答える。やはり、本人もやりすぎたと思っていたようだ。
『ハァ~ 俺と同化してるせいなのか分からないけど負けず嫌いが出ちゃうのは解る。だけど、あんな技使わなくても正拳とかでも良かったんじゃないか? 裏拳当たった時点でケインの意識は殆ど飛んでたみたいだし、HPも半分位だったんだから』
『いや、あんな大技決められるチャンスが少ないじゃねぇか? そう思ったら身体が勝手に動いてたんだよ……』
フェイはそう言って視線をみんなに囲まれて気絶してるケインに向ける。
転送されて直ぐにエリーとマリアさんが駆け寄り治療を初めた。どうやら、命に別状はないみたいで気絶してるだけみたいだ。俺も脈と呼吸を確認したので間違いないだろう。
子供たちも、心配して周りを囲んいるが無事が確認されているので今は続いている治療の様子を見守っている。
『ケインが何事もなかったから良かったけど、今度からは気をつけろよ』
『分かってる。でも、意識が戦闘モードに入っちゃうのはどうしようもないぜ……』
『それは、これから考えていこう。このままだと実戦的な模擬戦が出来ないからな。とりあえずフェイも治療手伝ってこいよ』
『ああ、行ってくるぜ!』
俺に言われるとフェイは駆け足でケインの下に向かった。
(これは一回模擬戦中断してマリアさんと話し合った方がいいな。主に安全面でルールを決め直さないと……)
俺は、ケインの方が落ち着いたら模擬戦についてマリアさんに相談しようと心に決めた。
数ミニ後、マリアさんが治療を終えたのを確認した俺は小走りで近づき先程考えていた事を口にする。
「母さん、この後の模擬戦どうする?」
「う~ん、私は続けても大丈夫だと思うわよ?」
「でも、このまま続けるとまた大怪我する人が出るかもよ?」
「ケインの事は想定外と言えば想定外だけど、言い方は悪いけど死にそうにならないと分からない事ってあると私は考えてるの。私もそうだったしね。ケインも、以前に盗賊の下っ端を倒した事を自信に持ってたみたいだけど世の中には強い人は沢山いるもの」
「確かに、母さんの言う事も一理あると思うけど、今の子供たちに教えるような事かな?」
そういう事を教えるのも大切だけど限度ってものがあると思うんだけどな。まだ、みんな小さいし早すぎじゃないかな?
そう思ってた俺の心の声が聞こえたのかマリアさんが言葉を続ける。
「不満に思うかも知れないけどこれからあの子達には、ピースフルの学校に行って勉強してもらうのは言ってあったでしょ? はっきり言うと、あの子達の戦闘能力は普通の同年代の子供たちよりもずっと上なの。だからこそ向こうに行っても向上心を忘れないようにして欲しいから、こういうのは早い方がいいの。と言っても自分たちより年下のベルとフェイがずっと上にいるから大丈夫だと思ってるけどね」
ここの子供たちはやっぱり特殊なのか。まあ、この世界に住んでる子供がみんなあいつらみたいにしてるならどんだけ意識高いんだよって話だしな。
「子供たちには悲しい想いをしてきた分幸せになって欲しいと思ってるの。幸いと言っていいのか分からないけど、この世界は実力主義な面があるから最低限の実力さえあればギルドの仕事だけで充分生活出来る。まあ、みんな私なんかより優秀だからいろいろな所から誘われるだろうけど。私が子供たちに教えられるのは戦い方≪1人でも生きていける力≫と考え方≪困ってる人を助けようとする優しさ≫って事だから」
マリアさんは少し離れた所で目を覚ましたケインに話し掛ける子供たちを見て、笑みを浮かべながら話す。
「子供たちはみんな優しさを忘れずに育ってくれてる。これからもその事を忘れないように見守って行かないと」
マリアさんはそう言うと俺に視線を向ける。
「もちろんベルとフェイも一緒よ。あなたたちも私の大事な家族だもの」
「…………ありがとうございます」
面と言われるとやっぱり恥ずかしいな。でも、悪い気はしないな。父さんと母さんもこんな風に思ってくれてたのかな?
よし! もし、元の世界に戻れて父さん達に会ったら聞いてみよう!
「一番年下のベルにこんなこと言うのも違うと思うのだけどこれからも子供たちのいい目標であり続けてくれたらと思っているわ。と、話がずれちゃったけど私は模擬戦を続けても大丈夫だと思うわよ」
「分かった。それじゃあさっきと同じ感じで行こうか」
そこで俺はふと気になった事があったのでマリアさんに尋ねる。
「そういえば、俺とフェイって世間と比べてどれくらいの強さなの?」
「そうね~、ギルドでのランクを目安にするけど、ギルドにはランクがG~Sまであるんだけど、一般平均男性位の強さでG、そこからギルドが指定した依頼の難易度とかで色々ランクが上がったり下がったりするの。ちなみに私はBランクで、グラハ山賊団はDランクに位置づけされてたわね。ギルドのランクが絶対とは言えないけどたぶんだけど頭のグラハはDランク位のはあったと思うわ」
そうか、グラハの強さでDランク位なのか。元騎士団の小隊長だったって言ってたから強い部類だったのかな?
それにしてもマリアさんでBなのか。武勇伝を聞いてる限りAだと思ってたけど上には上がいるもんだな……
「ベルは魔法をほぼ使わないでグラハを倒したみたいだから魔法なしでもそれ以上の強さはあると思うわ。魔法ありなら私と同等かそれ以上の力があると思うわ」
「そっか。ちなみに母さんが俺達にランクをつけるとしたらどれくらいかな?」
「そうね~、単体ならベルがDかC、フェイがB。2人が一緒の状態ならAかBってところかしら? ベルはまだ身体が小さいし大きくなってリーチが伸びてきて経験を積めば体術だけでBかそれ以上まで行くと思うわ。それに、フェイがいなくても魔法を上手く使えるようになったらもっと行くかも……」
今の俺はD~Cランク相当の力なのか。リーチは時間が過ぎれば改善してくるだろうから、今の課題は魔法を使う時にフェイの力に依存し過ぎてる面を直していかないとな。1人で出来ることが増えればそれだけフェイが自由に動けるし、いろんな状況に対応できるようになるな。
よし! これからも頑張ろう!
「わかったよ。これからもご教授宜しくお願いします!!」
「こちらこそよろしくね。といっても、ベルには今までと同じように子供たちの先生もしてもらうけどね」
「もちろん! 母さんほど教えるのは上手くないけどね」
「何言ってるのよ。私の師匠≪せんせい≫より全然上手だから大丈夫よ」
「誰の教え方が下手だって言うんだい?」
「「えっ?」」
まじめに話したものどこか気恥かしくなって軽口を言っていると、上から知らない声が聞こえてきた。 何事かと思いその方向を向くと赤い髪の女性とフードをかぶった子供くらいの身長の人物が空から降りてきているところだった。
「そうか…… マリアは私の事をそんな風に思っていたのか…… 残念だよ」
「せっ、師匠!? お久しぶりです!! 今の話は……」
師匠!? この人がマリアさんの話に偶に出てくるマリアさんの師匠!?
えっ? だって、見た感じマリアさんと同じくらいかちょっと上くらいにしか見えないぞ?
もっと年配の人を想像してただけに衝撃も大きい。今のマリアの声で知らない人が気付いた子供達がゾロゾロ周りに集まってくるが、俺は衝撃が抜けず放心しており、その間にも話しが進んでいく。
「ハッハッハ、わかっている。久しぶりに可愛い弟子にあったからからかいたくなっただけさ。それよりも……ほら、半年ぶりなんだからしっか挨拶をしないと」
女性が、フードをかぶった人物を促すと、その人物はフードを脱ぎ中から、見知った顔の金髪の少女が姿を現した。
「お母様、みんな、久しぶりです。シャロン・ピースフルただいま戻りました!」
半年ぶりのシャロンに子供達(俺とフェイ除く)は個々で名前を呼びながら抱きついていく。
俺と俺の横に移動してきたフェイも言葉を返す。
「おかえりなさい、シャロン。師匠、わざわざシャロンをここまで送ってくださってありがとうございました」
マリアさんは、シャロンを迎えながら師匠にお礼を言って頭を下げる。
「そんなに畏まらなくてもいい。たまたま校内を歩いていたらちょうど帰省しようとしていた彼女に会って、聞いたら馬車で帰るというから気になっただけさ。それに、あのまま学院に残っていても面倒くさいだけだしそれなら弟子の家に厄介になろうと考えたわけさ。彼女からは興味深い話も聞いていたしね」
そう言うと、女性は俺に視線を向けてくる。
えっ? 俺の事なのか?
「興味深い話と言うのは僕の事でしょうか?」
赤い長髪を三つ編みで1つに結っているマリアさんの師匠と呼ばれる女性に俺は低く聞き返す。
横では、俺の空気に反応してるのかボルとゴンが女性を威嚇している。
「そう、警戒しないでくれ。君の話は学院や此処までくる間にシャロンから聞いていたから一度会って見たかったって意味で言っただけで他意はないよ」
そう言って笑いかけてくる女性。ええっと名前は…………全然知らないな。
「自己紹介が遅れたな。私は、ミーナ・シエスタだ。種族は見ての通り魔人族で魔法と片手剣を得意にしている。もう知ってるだろうがマリアに魔法を教えていた。出来れば、君たちの事について教えてくれればと思っている。これからよろしく頼む」
そう言って、右手を差し出して来る。
「はじめまして、ライベル・クラインです。種族はヒト族で得物は棍術を得意にしてます。僕は魔法が苦手なので気付いた点とか教えて頂けると嬉しいです」
俺は、差し出された手を握り返しながら挨拶を返す。
「フェイ・クラインだ。ベルの相棒だ。種族はわかんねぇ。戦闘手段は何でも使えるが基本は素手で戦うぜ。何かと世話になりそうだからな。宜しく頼むぜ!」
続いてフェイがミーナさんと握手を交わしたところで俺は気になっていたことを質問する。
「ちなみに、シャロンからはどんな事を聞いてましたか?」
すると、ミーナさんは呆れが入った笑みを浮かべる。
「シャロンからは、君とフェイ君だったかな? が、シャロン君の服や魔具、見たことない物を作る事が出来るって事、フロン村の最近の発展に貢献しているらしいという事、初見でいきなり魔法を使え、武術に関して異様な知識を持っている事、最後に、兄弟の中で一番大人びてるって事かな。他のはともかく、最後に言った事はどうやら本当のようだな。全部話半分位に聞いていたがこうなって来ると他の話にも信憑性が出てきてしまうから困るな。それに君の隣にいる魔物は君に従っているみたいだ。長い事生きてきたがそんな魔物は見た事がない。その事についても知りたいな」
そうか、殆ど話してるな。まあ、それだけシャロンが心配してるって事なのかな?
『さあ、どうするかな……
この人はマリアさんの師匠って言う位だし、もしかしたら元の世界に帰る方法も知ってるかもしれない。魔法も詳しく教えてくれそうだし、マリアさんの話だとギルドランクもAらしいから権力?を持ってる人と繋がりを持てる。メリットの方が多いと思うし異世界から来たって話してもいいと思うんだけどどうしよう?』
俺は、隣にいるフェイに念話を飛ばす。
『別にいいんじゃねぇか? マリアの師匠だし、シャロンがあそこまで話してるって事はそれだけ信用出来るってことじゃね? 見た感じ口が軽そうにも見えねぇしな』
フェイは、どうやら話す事に異論はないようだ。
一応の確認でマリアさんに視線を向けると軽く頷く。
「話し合いは終わったかな?」
俺がミーナさんに視線を戻すとそう言ってきた。
もしかして、俺とフェイの念話が聞こえてんのか!?
「いや、何を驚いてるのか知らないが、私が話終えてからずっと黙ってると思えばマリアと目で会話するし誰だって何かやってると思うだろ?」
ああ、そう言う事ね~。
俺が、心の中で納得してるとフェイから念話がくる。
『俺達の念話は、高ランクの精神干渉してくるようなやつじゃないと絶対聞こえねぇよ』
でも、やっぱりビビるじゃんか?
まあそれは置いておいて話を戻すか。
「ええ、また後でお話させてもらうとして、これからどうしようか?」
「そうねえ、シャロンも帰ってきたし、師匠をそのままに出来ないから中止にして2人の為にご馳走作ろうかしら?」
「うん? 何かしていたのかい?」
「子供たちの模擬戦をやっていた所でした。でも、まだ1試合しかしてませんしいつでも出来るのでこれから出迎えの料理を作ろうかと……」
「そう言う事は別に気にしなくていいよ。それよりも、模擬戦というのはまさかとは思うがそこにある結界でやっていたのかい?」
そう言ってミーナさんは森にの一部を囲っている結界に視線を向ける。
「はい」
「あれをマリア1人で?」
「いえ、殆どベルとフェイが作りました。私は足りない魔力の追加と結界の張り方を教えたくらいです」
「こんな小さな村な充分覆えるような結界をこんな子供2人の力で張ったというのか? しかも、そんなものが模擬戦用に作られたと言うのか?」
まあ、ミーナさんがここまで喰いついてくるのも無理ないか。俺達もマリアさんにこのアイデアを出した時は驚きを通り越してあきれられてたしな。といっても、凄いのはこれを作るために色々考えてくれたマリアさんと、それを制御して再現したフェイであって俺は何もしなかったのと変わらない感じなんだけどな。
「今のところはそういうことになりますね。できるだけ実践的にやりたかったので」
「っ………。何だこの温度差は。マリアにだってこれがどんなことか分かっているだろ?」
「ええ。私も初めてこの話を聞いた時は充分に驚きましたよ。でも、これで驚いていたら後で話す事についていけなくなりますよ」
「これでも充分に驚いたんだが、これ以上になにかあるのか……」
「まあ、それは後ほどお話します。ベルとフェイもそれでいいわね?」
今までミーナさんと話していたマリアさんが俺達に視線を向けながら聞いてくる。
「うん」
「おう」
特に断る理由もないので俺達は了承の返事をする。
マリアさんは、俺達の返答を聞くとこれからどうしたいかをミーナさんに尋ねる。
「それで、どうしますか?」
「この機会にマリアの子供たちの実力をみせて貰おうか。実際に見た事がなかったから前々から気になっていたんだ。ぜひ模擬戦を見せてほしい」
「分かりました。師匠の要望にこたえて続けましょう! それじゃあ、次はシュレとボルの試合にしましょうか。準備は出来てる?」
「おうっ!」
「ウォン!」
1人と1匹は、すぐにでも戦えるという事を表現するかのように大きな声で答える。
「それじゃ、さっきの試合と同じ感じで行くからあの転送盤にのって移動を始めてね。また5ミニ後に開始の合図を送るわ」
「わかった!」
「ウォーーン!!」
マリアさんの言葉を聞いたシュレとボルは転送盤に向かって走り出した。
2人が結界内に転送された後にミーナさんがまた驚いていてマリアさんに説明を求めていたけどそれは無視する方向で行こう。
さて、今度はどうなるかな?