19 模擬戦 (1)
この世界の一年は年初の月から始まり、春壱の月、春弐の月、夏壱の月、夏弐の月、秋壱の月、秋弐の月、冬壱の月、冬弐の月、年終の月の10の月からなる。俺がこの世界にやってきたのが秋弐の月、シャロンがピースフルに行って、留守中にグラハ達が襲ってきたのが年初の月と言うことになる。
この暦は、中央戦争後4種族共通の暦として作られ完全に定着していないものの徐々に一般大衆に受け入れられつつある。ちなみに、月に四季の名前が付いているが、孤児院の周辺は気候の変化があまりなく、冬の月はちょっと肌寒いかな?くらいで、夏も気温が少し高くなるくらいだ。
あれから約5か月が過ぎ、俺がこの世界に来てもうすぐ一年になる。 孤児院の周辺には獣除けの結界の他に人除けの結界が張られている。
会議が終わった数日後マリアさんはフロン村に赴き、孤児院を襲ったグラハ山賊団がどのような結末に至ったかをアレンジを加えて話して回り、家族に手を出したら制裁を加えると言い残してきたそうだ。グラハ山賊団は地元でも力のある集団だった事と、マリアさんが有名だった事が賊達の抑制力となりその後孤児院に襲ってくる事は無くなった。
見張り役として考えていたゴーレムとライガーは、フェイと何度も話し合って案をねり、ひと月程前にようやく誕生させる事ができた。名前は、ゴーレムが「ゴン」、ライガ―が「ボル」となった。
ゴンとボルができるまでにあたって、どうやって自我を与えるかを与えるか、ボルの場合は命をどうやって生み出すかと言う点が最大の難所だったが、フェイの前の世界での知識と俺の知識を照合して、ゴンの場合は核となる部分を創り、そこに自己学習能力と主(この場合は俺)に基本は従う事を付ける事で形になり、ボルは、幼体からなら生み出せる事が分かり、誕生に至った。ボルに関してはただ出来たというしかない。フェイの前の世界での経験が活きた結果なのだが、唯漠然と出来たって分かるだけでとても説明できるような現象じゃなかった。
ゴンは、核が周りの岩石を集めて形になるようにしたが、それだけでは侵入者に負ける可能性があった為、核の周りには俺かフェイの最大攻撃位の威力がないと壊せない強度のバリアを常に核の周りに展開させ、体は岩石ではなく個人的に最強の金属と考えてるダマスカス鋼を創り、それをベースにさせて防御を完璧に近い状態にした。攻撃パターンもすでにいくつかインプットして、地属性の魔法を使えるようにしてある。勿論、口からビームも、マナを口元に収束、発射と言う形で再現し、試し打ちは空に200mの氷塊を浮かべて発射させ、結果は貫通、粉々に破壊となった。
思ってたよりも威力が高かったため、最弱、弱、中、強、最強と段階を設定し、普段は最弱で撃つようにしといた。最弱でも、当たり所によっては死んじゃう可能性があるから充分なんだよな。
ボルは、体に毛が生え始めた位の状態で誕生し、生まれた際に刷り込み現象が起きて最初に見た俺が親だと認識したらしくいつも俺の後に付いて来る。知能も高いみたいで、お座り、お手、おかわり、伏せといった動作を直ぐに覚えて、こっちの言っている事も理解しているみたいだ。
生まれて1ヶ月しか経っていないが、俺の足首位だったのが、既に腰位の高さにまでなり、後数ヶ月したら身長は完全に抜かされそうだ。
技は、牙や爪の攻撃の他に天属性の魔法を使えるようにし、機動力、中距離、遠距離の戦闘でも活躍できるようにした。今は、まだ風を少し操る程度しか出来ないみたいだが、将来的には天属性の魔法を使いこなせるようになるだろうと考えてる。
今は、森に入る事も許されてるからいつも森に行くシュレやトビーと一緒に行かせて経験を積ませてる。
まだ、野生の動物に手を焼いているようだけど、ベビラピをくわえて帰ってくる事もしばしばあるので、すぐに慣れるだろうと踏んでいる。勿論、狩りに成功すれば顎や耳裏、をグリグリっと搔いて褒めてあげる。すると、気持ち良さそうに目を細めながらされるがままになったり、お腹を見せてお腹をなでてと意思表示してきたりするからもう可愛くてしかたがないんだ。その仕草は女性陣に大人気で結構甘やかされて育ってます。ちなみに、男性陣は大きい身体に技の実験で見せたロケットパンチやビームを見て目を輝かせて興奮して暇を見つけてはゴーレムの所に行ってるみたいだ。ゴンは、もう自分のフォルムを調整できるみたいで、子供達と遊ぶ時は身体の角ばった部分をなくしたり、時には身体を分解して子供サイズにまで変えられるようになってたからビックリだ。余ったパーツは空中にブロック状にして浮かべて待機させており、たまに俺の練習として多方面から攻撃してもらったりして役に立っている。ゴンのおかげでゴーレムのイメージが変わっていく毎日といっても過言ではないかもしれないな。
道具の製作は今やっている最中だ。魔電話はに関しては順調に工程が進んでいる。形は端末式ではなく、腕輪に宝石がついたデザインを採用した。端末式と違って持ち運びが楽なことと、耐圧、耐水、耐熱などの高性能なものにしようと考えているから端末式よりも頑丈なイメージをしやすいからで、すでに試作機も出来上がっている。腕輪の中心には、宝石型の投影機をつけており、テレビ電話のような感じになっている。最終的には、SFで見るような立体の電話にする予定だ。
逆に、転移符の方は作業が進んでいない。行きたいところに転移符を一枚張っておけば、他の転移符を使うことでいつでも行けるってものにしたいんだけど、イメージがはっきりしなくて全然進んでない。
とりあえず、試作段階として転送盤を作ってみた。これは、特定の場所を固定した状態にしておいて盤にのればその場所にランダムでいけるというものだ。今のところ結界内でしか使えないっていう制限があるがここから発展できればいいなぁと軽い気持ちでいる。まずはこれからやる模擬戦で使ってみようと考えている。
とりあえず、新しい家族が受け入れられたってことだな。
孤児院の時計の針が13時を指そうとする頃、早めに昼ご飯をとった孤児院に住む9人と1体と1匹は、玄関前に集合し、1週間に1度行われる模擬戦の準備をしている。
「みんな集まって~、もうそろそろ始めるわよ」
孤児院の院長であり家長でもあるマリアさんがみんなに声をかける。動きやすいように、金色の長髪を頭の上に丸めてあり、大人の色気がにじみ出る豊満かつ鍛え抜かれた無駄のない体は緑色の半袖Tシャツに紺色のホットパンツを纏っている。訓練用の片手剣を腰に2本さしていて、どうやら今日の模擬戦に参加するみたいだ。
「ハ~イ♪」
最初に返事をしたのは、孤児院の4男で最近4歳になったライオだ。トレードマークだった長髪をバッサリと切り、短髪になったライオは、赤の半袖に水色の短パンを履いて、腰には木製のナイフを2本ぶら下げている。今までは何かと甘えたり、家の中でエリーと遊んだりしていたインドア系だったが、心境の変化があったのか最近はシュレ達の後に続いて良く森に行くようになった。俺としては、子供は外で動いた方がいいと思ってるから凄く嬉しかったりする。
「もう準備できてるよ♪」
ライオの後に続いて返事をした最年長でいつもまとめ役を買ってでるアリス。短く切った赤い髪に、白と青柄の半袖Tシャツにスパッツを履いていて、褐色の健康的な肌がこれでもかと言う位に見えている。最近は、マリアさんの弟子兼手伝いと言う名目でギルドのクエストについていき、経験を積んでいるみたいだ。マリアさんもアリスに合わせて低難度の依頼を受けているようだが、殆ど手助けなしでクリアしているそうで、アリスも自信になっているみたいだ。それでも、「母さんには全然かなわないから」と天狗にならずに毎日のトレーニングに精を出している。最近のスタイルはマリアさんを真似た魔法剣士で、今は訓練用の片手剣を腰に差している。
「もしアニキにあたってもまけないぜ!」
「ほ~、そりゃ楽しみだぜ! 当たっても手加減なしで行くからなっ!」
少し離れた場所から、孤児院の子供みんなの兄貴分的存在で長男でもある竜人族のシュレーダーとシュレの弟分であり、孤児院の3男のトビアスが歩いて来る。
シュレは、頭にタオルを大工風に巻いて黒のアンダーアーマーのようなピチピチの半袖にテカテカ光った膝元まであるズボンを履いている。
身体の要所にある竜人族特有の鱗は殆ど剥がれており、今は素肌が晒されている。
最近は、マリアさんがクエスト中に竜人族の知り合いから龍化をコントロールする練習方法を聞いてきたらしく、マリアさんの監視の元で色々試しているようだ。成果も出てるようで、今日の模擬戦ではそれを使うと言ってたな。背中に木製の両手剣を背負っていて、表情からはやる気がの高さが見てとれる。
トビーは、青色の生地に黒で背中に「炎」とプリントされた半袖に、サッカー選手のような青いトレーニングパンツを履いている。
褐色の肌には狩りや模擬戦で付いた傷跡がいくつか残っている。本当は傷跡を消すように治せるのだが、トビーは傷は男の勲章だと残すように言ってきたからその通りにした。エリーも、綺麗に治したかったようだが渋々従っていた。こういう考え方は男特有のものだから、女の子には分からないよな~。
この半年は、魔人族特有の強みである内包魔力量の多さを生かす為に、武術練習よりも魔法練習に力を入れてきていて、マナコントロールの上手さは子供達の中でも随一になっていて、基礎能力でずっと上を行くシュレの強化した状態にも引けを取らないほどになった。
手には、俺が誕生日にプレゼントした、2丁の魔銃を持っていて、手の中で器用にクルクル回している。
「ぼくはいつでもへいきだよ~」
「わっ、わたしもじゅんびできたよ」
最後に、獣人族のケインとエリーがやって来た。
ケインは、黒地にオレンジのチェックの入ったポロシャツに、黒の半ズボンを履いている。目には俺お手製で視力強化が付与された眼鏡をかけている。眼鏡には他にもボタンを押すと自動マナ索敵や目標との距離を測ったりと結構な自信作になっている。肩には自作の弓と鏃が丸まった矢の入った矢筒を掛けている。
エリーは、フリルがついた白のワンピースを着ていて、水色の髪はツインテールに結んである。手にはこの半年前から扱い始めた木製の棍棒を持っている。エリーは、半年前の事件で改めて人に傷付けるような武器を使いたくないと思ったらしく、俺の棒術を教える事になった。一応剣術の練習もさせているがあくまで自衛として覚えてるみたいで本職は治癒みたいだ。まあ、エリーの人柄が滲み出た決定だから俺としては満足してるんだけどな。
「ウォン!」
「…………」
俺の足元と横には、青と白の体毛に、頭から2本の角が生え始めたボルと、身体を子供の大きさにしたゴンがいる。
ボルとゴンには対人戦の経験を積んでもらうために模擬戦に参加してもらう。
「もし俺と当たったら真剣勝負だかんな!」
俺の相棒であるフェイが隣で燃えていらっしゃる。フェイは子供モードの状態で俺の小学校の左胸にふぇいと名前ステッカーが貼られた半袖と紫色の体操パンツを履いている。ぶっちゃけ言って、懐かしい気持ち3割、恥ずかしいのが7割って所だ。なんでいつもそんなチョイスなのか分からないわ。
そして、俺は陸上用パンツに赤のタンクトップを着ている。今日の模擬戦は楽しみにしてたからな。誰と当たってもいい勝負が出来るだろうな。
「みんな準備が出来たみたいね。それじゃあ、今日の模擬戦の説明をするわね。今日は、1対1で武器、魔法共に使っていいわよ。場所は、森に模擬戦用に張った結界内よ。結界内では相手の攻撃を受けたら当たった箇所が威力に応じて制限されるから気をつけてね。模擬戦は、相手から一本取った時点で終わりよ。審判は、私とベル、フェイがやるわ。何か質問がある人はいるかしら?」
「はい」
「はい、ケイン」
「おかあさんもぶきをもってるけどもしかしてさんかするの?」
「するわよ♪ 直接成長を確認いたいから当たったら全力でくるのよ♪」
やっぱりか。予想通りマリアさんはやる気満々のようだ。
「はーい」
「はい、アリス」
「もし、ゴンと当たったらどうするの? 私たちの攻撃じゃあ、通用しないと思うんだけど」「そこは、みんなと同じ条件でやってもらうから心配しなくていいわよ。ゴンもそれでいいわね?」
「……」
何も話さないけど頷いたからわかったんだろう。早く喋れるようになって欲しいな。
「他にあるかしら? ……………ないみたいね。それじゃあ、組み合わせを決めるわよ」
マリアさんは、ズボンのポケットから11本の棒を取り出した。棒の先端には赤、青、黄、緑、黒の色が付いた棒が2本ずつと色のついてないものが1本あった。
「余った人は、私が相手になるからね。みんな順番に引いてね」
マリアさんに言われ、全員が順番に引いていく。
「俺は緑だけど緑の人は誰だ?」
孤児院の入り口前、軽装をした9人と1匹と1体は先端に色が塗られた棒を回りが見やすいように顔の前に持っている。
フェイとケイが赤、エリーとアリスが青、俺とゴンが緑、ボルとシュレが黄、ライオとトビー、余りはマリアさんだった。
「あれっ? この場合って母さんはどうするの?」
「まさか、自分が余るとは考えてなかったから決めてなかったわ。どうしようかしら?」
11分の1を引くとは、マリアさんも凄いな。あんなに気合い入ってたのに闘えないのは酷だしな。
「俺が母さんとやりたいな」
「ベルと? ……そうね。それじゃあよろしくね。みんな対戦相手は分かったわね? 順番は赤から行く
わよ」
「「分かった!」ぜ!」
ケイとフェイが元気に返事をする。
「こういうたたかいは、さんぞくとやっていらいだよ。よろしくね、フェイ!」
「あれから頑張ってたのはよく知ってるぜ! 手加減なしで行くから覚悟しとけよ!」
「いいよ。でも、かつのはぼくだよ!」
「へっ、言ってろ!」
ケインは、手を握りながら、力強くフェイを見つめ、フェイも拳をゴキゴキ鳴らしながら負けない位の
目力で見返している。
「2人とも気合い入ってるわね。5分経ったら合図を出すからそれまでは始めちゃだめよ」
「よっしゃあ! 先に行かせてもらうぜ!」
「あっ?! ズルいぞ!」
マリアさんの言葉に先に反応したフェイが一足早く転送盤にむかって駆け出し、ケイが文句をいいなから慌てて動き出す。
さあて、どんな試合になるかな? 経験も技術もフェイが上回ってる以上ケイの勝ちは望み薄だけど、それでも今回のルールが特殊だしやりようはあると思うんだよな。
「どっちが勝つと思う?」
「やっぱりフェイじゃねえか?」
「おれもアニキと同じだな」
「ボクも!」
「わたしも……」
アリスの問いかけに子供全員がフェイだと答える。
さて、どうなるかな?
―――???side―――
中心都市ピースフルから約30~40km程離れたフロン村にある宿屋の一室、部屋には木のベッドに薄い布を数枚敷いて出来た布団と一枚の薄い掛け布団が用意されていて、木の窓の隙間からは光が差し込んでいる。外はすでに日が頂点近くまで昇っており、外から商人や村人達の活気溢れる声が聞こえてくる。
その部屋に薄紅色の長髪を1つに結っていて長年使っているかのように所々糸がほつれている灰色の半袖と紺色のショートパンツを着ている1人の女性と首程まで切られた金髪と部屋には不釣り合いな真新しい赤と白の横縞にプリントされた半袖のTシャツと可愛らしいウサギが前にプリントされているベージュ色の短パンを着たの人の少女が外に出る準備をしている。
2人の前には荷物が入った手提げ《てさげ》袋が置かれておりどちらも荷物をベッドにだして整理をしている。
「ふむ、着替えた服もしまったし準備はこれくらいか。忘れ物がないように気をつけないとな」
荷物を折り畳んで袋に入れた女性が他にしまう物がないか確認している。
「はい! 私も大丈夫です。 先生、今更こんなことを聞くのもなんですが本当にいいんですか?」
女性の問いかけに元気よく返答しつつもどこか恐縮している少女。
「いいとは何をだい? 私にはまったく思い当たる節がないのだが?」
「こうやって一緒に来ていただいてることです。私としては馬車でフロン村に来てからラージの森を抜け
ようと考えていたので、先生の飛行魔法のおかげで予定よりも早く帰れるうえに道中の危険も皆無になっ
ていいことづくめなのですが、先生もこの休みで自国に戻られたりといった予定があったのではないですか?」
「それなら心配いらないよ。向こうは娯楽が少ないから戻ってもすることはないし、こっちにいても厄介
事を押しつけられるだけだからね。それに来るごとにわざわざ挨拶しに来てくれる義理がたい可愛い弟子の娘を1人で帰らせる訳にもいかないだろ? それに君やマリアから聞いていた家族に興味があったしちょうどよかったんだよ」
女性ははそう言うと女子に笑いかける。
「それならいいんですが……」
女子は、まだ納得しきれていないようだがすでにここまできているためその言葉に甘えることにした。
「それにしても、何度みてもその服は本当にいいものだな。あまりおめかしに興味がない私でも一度でいいから着てみたいと思ってしまう」
女性は女子が着ているシミ1つない綺麗な服を触りながら呟く。
「家に行けば母の服もありますし弟達にも事情を話せば作ってくれると思いますよ。私も先生が綺麗な服を着ている所を見てみたいです」
「そうか? それでは楽しみにしていようか」
女性は期待で言葉を弾ませながら服から手を離し手提げ袋に手を伸ばす。
「それでは、準備もできたし村で食事をとったら向かうとするか。それでいいかな?」
「大丈夫です。幸いフロン村は他の村にはない珍しい料理が多くありますから先生の口に合う物もあると
思いますよ」
「おいおい。私はいいとこの出身なんだから料理なんて基本食べられれば何だって食べる種類だぞ?」
「それは失礼しました」
女性の優しい反論に女子は笑みを浮かべながら訂正する。
2人は、部屋に忘れ物が無いことを再度確認すると会話をしながら外に向かっていった。