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俺と不死鳥と異世界トリップ  作者: ネギ抜き
第1章 孤児院編
16/35

13 暴走

   ―――フェイside―――



 ベル達が山賊から仲間の居場所を聞き出している頃、フェイは家事が終わったエリー達と一緒に集会広場で一休みしていた。

 テーブルの上には、水が入ったコップと野菜が入ったパンが乗っていて雑談をしながら和んでいる。

「ねえ、フェイって他の世界の神様なんだよね? 神様ってどんなことするの?」

 パンを片手に持ったアリスが俺に質問する。

「神に近い存在であっただけで実際に神様では無かったけどな。俺は命を司る存在として世界に定着していたから、その世界の生物の一生が終われば、その命の情報をすべてリセットして転生させたりしてたよ」

「そうなんだ。それじゃあ、私たちの本当の父さんと母さんを生き返らせる事ってできる?」

「悪いが……、それは出来ない。まず、魂があったとしてもその依り代がないいんじゃ話にならないし、時間も経ち過ぎてる。……期待にこたえられなくて悪いな」

「ううん。ダメもとで聞いてみただけだから大丈夫だよ。それに、私たちにはマリアお母さんがいるし、フェイには、トビアスの命も救ってもらったからね」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 俺は、社交辞令だと思いつつも感謝の言葉を口にする。

「ねえ、フェイはこの世界にも神様はいると思う?」

「どうだろうな…… 神様かは分かんねえが、俺とは違う何かなら感じるぜ?」

「それってどこにいるの?」

「説明はできねえけど、世界全体にその何かがいる気がするんだよ…… もしかしたら、神様なのかもな」

「そっかぁ…… 教えてくれてありがとね」

「いいって。これぐらいお安いご用さ。また何かあったら聞いてくれな」

 アリスは「うん!」と返事をすると飲み物のお代わりをとりに調理場に向かった。

「やっぱり、フェイって神様なんだね……」

「うん、フェイ君って神様なんだね……」

「かみさま?」

 ケインとアリスが顔を見合せながらつぶやき、意味がよく分かっていないライオは首をかしげている。

「俺は神に近い存在であって神本人ではねえよ。俺にだって出来ないことがあるしな」

「そうなの?」

 ケインは納得できていないようだ。

「そうなんだよ。この話はこれで終≪しま≫いだ。それよか、少し外が騒がしいな……」

 院の外から聞こえるドタバタした物音に不思議に思うフェイ。俺の声にエリー達もようやく気がついたのか外に耳を傾ける。

「ちょっと確認てくるから動かないで待っててくれ」

 俺は、3人にここにいるように伝えて入り口に向かう。

 外からは未だに物音が絶えない。

 いったいなんだってんだ? マリアが客連れて帰ってきたのか?

 考え事をしながら玄関まで行くと、外から複数の銀刃が扉から突き抜きでていた。

 剣が外に引き抜かれると、扉が蹴破られ複数の男たちが院内に入ってきた。

 入ってきた男たちは、1人を除いて腰に抜身≪ぬきみ≫の両刃刀をさしている。除いた1人は最後に院内に入ってきた男で、周りの男達よりも2回りほど大きく、背中には斧を背負っている。

「頭ぁ、こんなところにガキがいまずぜ? どうしやすか?」

 入ってきた男の一人が、一番最後に入ってきた男に尋ねる。

「あん? いつもと同じで縛っておけ。しかし、こんな森の奥に立派な建物が建ってるとは思わなかったぜ。噂も馬鹿にするもんじゃないな」

「おい、おめえらいったい何者≪なにもん≫だ? いきなり玄関壊して入ってくるとは礼儀がなってねえんじゃねえか?」

「この糞ガキ!? 誰に向かって口きいてやがる!」

 リーダーっぽい男に言ったつもりだったんだが、部下のほうが反応してきやがった。

「お前みたいな下っ端には話してねえよ。そこのリーダーっぽい奴に聞いてんだ」

「りーだー? 知らねえ言葉を使うガキだな。俺達はグラハ山賊団で俺が頭≪かしら≫をしてるグラハだ。それにしてもボウズ、上等な服着てんじゃねえか。食料だけだと思ったら結構な掘り出し物も眠ってそうだ。さすがマリア・クラインの住処だな」

 たまに、近くの村に売りに出してたからその噂を聞いて狙ってきたってところか。よりにもよってマリアとダイキがいない時に来るなんて運が悪いな……

「悪いがお帰り願おうか。もうすぐマリアも帰ってくることになってんだ。あんたらもマリアのことは知ってるみたいだし怪我はしたくないだろ?」

「ガハハ! クラインが当分帰ってこないことはもう知ってんだ。そんなこけおどしは通じないぜボウズ」

「俺がお前らよりも強いっていう可能性もあるぜ?」

 俺は身体を半身にして構えながら言葉を口にする。見た感じ数は15人か。もしかしたら他に仲間がいるかもしれねえけど今は居ない奴の事を考えてもしょうがねぇ。

「ほー、言うじゃねぇか。そんな線の細い身体で俺たちに勝つって?」

 グラハは挑発だと受け止め髭に埋まった口元を吊り上げる。

 魔法が使えれば一掃できるんだが、ダイキが近くに居ねえからしょうがねぇ。武器が面倒くせえが近づいてぶち込むしかねえか。

 山賊達に仕掛けるタイミングを探る。向こうも多くの場数をくぐって来ているようで、不用意には仕掛けてこない。

 そのまま数秒間睨み合いをしていると中から様子を見にアリスが出てきてしまった。

「フェイ~、さっきの音何だったの? エリー達には動くなって言うし……ってあんた達誰なのっ!?」

「ばっ!? 出て来るなって!」

 俺は、部屋から出て来たアリスに意識をズラしてしまった。

「今だ! やれ!!」

 そして、その隙を見逃す奴らではなかった。

 グラハの指示で目の前にいた3人が腰に差した剣を抜いて襲いかかって来る。

「部屋のドア開かないようにして入られないようにしてろ!!」

 そのうちの1人が俺に向かって剣を振り下ろして来たので、剣を避けながら踏み込み、鳩尾を右手で突き上げた。

 その間に他の手下2人がアリスの元に殺到する。


「クソっ! アリスとケインでライオとエリーを守れ! 組み手の時と同じようにやれば大丈夫だ! すぐに行くから何とか耐えててくれっ!」

 アリスは頷きながら急いで部屋に戻ってドアを閉める。

 中では俺の声を聞いていたケイン達が家具を移動して入り口を塞いでいるみたいだが、2人掛かりで無理やり開けて入って行く。

 俺は、これ以上中に入れないように通路をふさぐ。

「すぐに行くだと? 確かにボウズは腕が立つようだが、この人数を相手には無理だろう」

「それがどうした! 俺はマリア達から留守を預かってんだ! 無理かどうか関係ない! やるんだよ!!」

 グラハに対して啖呵を切る。すると、待っていた相棒≪ダイキ≫から連絡が入った。

<おい、フェイ聞こえてるか? 大事な話がある。聞いてくれ>

<今はそれどころじゃねぇ! 知らない連中がいきなり襲ってきやがって相手してる最中なんだ! 数が多すぎて手が回らねぇ…… 早く帰ってきてくれ!>

<っっっ!! 分かった! 今そっちに向かってる最中だ! もう少し耐えてくれ>

<頼むぜ! もう部屋の中に押し入られてるんだ。出来るだけ早くしてくれ>

 そう言って念話を切る。

 これで、何とかなる算段はついたな…… 後は、こいつらを足止めすればいいだけだ。

 俺が、先の事を考えていると、不意にグラハが斧を大きく振りかぶり、集会広場に続く壁に向かって振り下ろした。

 壁は斧の衝撃で壊れ、衝撃で建物が揺れている。

 グラハは、穴の方に首をクイっと動かし手下達に合図を送る。

「お前らはこっから中に入ってさっさとガキ共を捕まえてこい」

 手下達は「ヘイ!」っと返事をすると穴から部屋に入って行く。

「行かせるかよっ」

 俺は、急いで穴に走り出し手下達を止めようとするが、グラハの斧が進路を塞ぐ。

「ボウズは俺の相手をしてくれるんだろ?」

 グラハは嫌らしく笑いながらも、目で俺を牽制してくる。

 壁ぶち破るとかどんだけなんだよ! アリス達じゃあの人数は絶対に無理だ。はぁ、やりたくねえけど方法はこれしかねえか。マリアには後で謝ろう。

わりいな。オッサンの相手してる場合じゃねえんだ。後にしてく…………れっ!」

 俺は、話しながら左手を伸ばして壁を触ると、重心を下げながら、体重を身体の右半身に溜めながら右腕を上げ限界まで伸ばす。グラハからみれば珍妙な事をやっているように見えるが、この動きにはちゃんとした意味がある。右腕が限界まで伸びきった瞬間に体重を左半身に移動させながら今度は左腕を限界まで伸ばす。すると、ただ触れているだけに見えていた壁が粉々に吹き飛んだ。この技は、ダイキの記憶にあった技で体重を何倍にもして威力を上げる技法らしい。グラハは目を丸くして驚愕していたが、そんなことには目もくれず部屋に入っていく。

 部屋に入ると、顔や腕に殴られた後や薄い切り傷が痛々しく残っているアリス達が部屋の角に集まっていてそれを手下達が囲んでいる。その輪の外には最初に入った手下2人が床に転がって気絶しているのが見える。どうやらアリス達が倒したみたいだな。

 手下たちはいきなり壁に穴が開いたことに驚きこちらに視線を向け、アリス達は俺の姿を見て安堵の表情を浮かべている。

 俺は身体を低くして走り出し、手下達の間を縫ってアリス達の前に出る。

「2人も倒すとは良く頑張ったじゃねえか! 後は俺に任せとけ!」

 俺は、手下共が不用意に手を出せないように殺気を込めて威嚇しながら身体を傷だらけにしたアリスとケインを褒める。初めて?の命のやり取りで限界だったようで、2人とも腰を抜かして座り込んでしまう。

 目の前には、山賊がボス含め12人か。不利な状況だが、そろそろダイキ達も着くだろうし、手下は弱いからもう少し気張るかなっ!




   ---フェイsideoutーーー




 俺は、フェイの念話が切れてから『飛行』のスピードを限界まで飛ばして向かい、2、3分で孤児院に着いた。

 孤児院は、入口の扉が剣で切りつけられた痕が残ったまま無残に倒れていて、外の菜園は酷く荒らされているように見えた。後ろでシュレとトビアスが身体を震わせているが、気にしてる暇はない!

 俺は、急いで院内に入ると、通路の壁に2つの穴が空いていて、その穴の先に隅に追いやられながらもアリス達を守っている相棒≪フェイ≫とそれを取り囲んでいる山賊達、身体が一回り大きく、その体長より少し小さいくらいの斧を持ったリーダーらしき人物がいるのが見える。俺は、変わり果てた孤児院≪いえ≫にショックを受けながらも部屋に入る。

「お前らがグラハ山賊団だな? 俺の家族が世話になったみたいだな?」

 俺の声に気がついて、リーダーらしき人物が振り返る。

「おお、これまた小さなボウズが出てきたな。この中で一番ガキみたいじゃねえか。俺達がグラハ山賊団だが、ボウズはどこでその情報を知った?」

「それは、森の中で年甲斐もなく宝探ししてた心優しいおじさん達が簡単に教えてくれたよ。今頃、来もしない助けを呼んでるころじゃないかな? それよりも、あんたがグラハであってるか?」

「部下が世話になったようだな。俺がこの山賊団の頭≪かしら≫をしているグラハだがどうした?」

「あんたにいくつか聞きたいことがあってな。1つはあんた達がここを襲ったのはここの食料が狙いか?」

「そうだ。フロン村でここのうわさを聞いてな。金になると思ったからここに来た」

「2つ目、あんた達は俺達がいることを知らなかった。今更だが見逃して帰ってくれないか? そうすれば、あんた達にもこれ以上危害を加えるつもりはない」

「ガハハハハ! お前もそこの赤髪ボウズみたいな事言うんだな。だが、その提案は却下だっ! 部下が何人もやられたみたいだし、食料以上にお前らが着てる服は上等なもので金になると見た。それにここには……、魔人や獣人のガキもいるようだしな! こいつらは上流階級様に売れば大金になるし繋がりも持てるからな。この機会を捨てられるとは思えねえな」

「そうか…… 交渉決裂だな。お前らには家族と家を傷つけた報いを受けてもらうっ!」

 俺はそう言って腕輪を棍棒に変化させる。フェイも俺が近くに来たので魔法を使う気みたいだ。

「珍しいもの持ってるじゃねえか。へん! やれるものならやってみな!」

 グラハ達も武器を構えなおす。

 いつもは家族の平穏な生活を送る部屋が一触即発の雰囲気に包まれる。

 しかし、その空気を壊したのは、ベルでもフェイ達でも山賊達でもなく遅れて入ってきたシュレとトビアスだった。顔を怒りで真っ赤にしたシュレは奥にいるフェイ達を見た後に射殺さんばかりに山賊達を睨む。

「お前らが…… お前らが俺達の家を壊したのか? なあ、お前らが俺の大切な家族を傷つけたのかっ!?」

 普段とは違うシュレの迫力に俺はただ動けずにいた。

 そして、その異常さに気がつかないグラハは不用意に言葉を紡ぐ。

「俺達がやったから何だって言うんだ? そこのボウズたちみたいに俺が相手にしてやるとでもいうのか? まさか竜人もいるとはな。お前らは家族そろって仲良く貴族様に売ってやるよ」

 すると、シュレの顔が普段の顔色に戻り、怒りの表情が仮面をかぶったように一瞬で無表情になった。

 それを見た俺とフェイ以外の家族達の顔色が一気に悪くなる。

「ヤバい…… これはヤバいよ! ベル! すぐに兄貴から離れるんだ!」

 トビアスが顔を青くしながら俺に向かって叫びだす。

「ベル! トビアスの言う事を聞いて! 早く離れないと巻き込まれちゃう!」

 アリスもライオを胸に抱えて声を上げる。ケインとエリーは魔法の準備をしていたフェイを後ろから抱き抱えてうずくまる。

「おい! 一体どうしたんだ?」

 俺が後ろから引っ張るトビアスに聞く。

「兄貴がキレちまった! しかも、この感じは前にシャロン姉≪ねえ≫と喧嘩したとき以上にヤバい気がするんだ!! 前は外だったから大丈夫だったけど、こんなところで龍化したら天井が壊れちまう!」

 トビアスが俺を無理やり部屋の外に連れ出されると、シュレの身が紅いマナに覆われてしまった。マナの中のシュレは身体が変化し始め次第に巨大化する。

「おい、お前らも早く隠れろ! 巻き込まれるぞ!!」

 グラハが、未だに呆けている手下に指示を飛ばす。

「おい! 早く行けよ!! 巻き込まれちまうだろ!」

「うるせえ! 俺が先だ! 退け!!」

 下っ端達が我先にと外に逃げ出そうとする。

 シュレの変化は、頭が天井に当たっても変化が止まる事がなく、そのまま天井を破り、3mを越えたところで止まった。

「な、なんだこれは……」

 天井の瓦礫から逃れた山賊の1人が頭上を見上げてつぶやく。

 さっきまで人だったものは、高さ3mを越える「龍」≪ドラゴン≫になったのだ。龍は、西洋龍の姿で、身体は赤い鱗に覆われて、瞳は黄色く光り、後ろには長さが2m程の尻尾が生えている。

「GYAAAAAAAAAAAAA!!]

 すでに人語を話せないのか、鼓膜を破りかねない声で咆哮を上げる。


 最近は、平穏な生活が続いていたから忘れていたが、俺はトビアスに抱えられながら姿を変えたシュレを見て再度認識させられた。

 

 ああ、俺は異世界ににいるのだ…………と。

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