婚約者が“10股”かけてた! ~ハーレムとか言ってるけど、普通に気持ち悪いから婚約破棄します~
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「ねえ、知ってる? エドワード様、また女の子と一緒にいたらしいわよ」
「また?」
「ええ。今度は男爵令嬢ですって」
学園の昼休み。
そんな噂話が、私の耳にも入ってきた。
「そう」
私は紅茶を一口飲む。
婚約者――エドワード・フォン・グランツ伯爵令息。
確かに、彼は女性との距離が近い。
誰にでも優しく、よく笑い、女性から相談を持ちかけられれば親身になって話を聞く。
そのせいか、女性関係の噂は絶えなかった。
「婚約者がいるのに、よくやるわよね」
「本当に。リリアーヌ様も大変ね」
「……まあ」
私は肩をすくめた。
正直に言えば、面白くはない。
けれど、私たちはまだ学生だ。
卒業後の正式な結婚まで時間はある。
それに、私との婚約を破棄するような明確な行動を取ったわけでもない。
多少の遊びくらいなら。
そう思っていた。
……実際に、その現場を見るまでは。
---
ある日の放課後。
私は図書室へ向かう途中、中庭を通った。
そこで、エドワードを見つけた。
「エドワード様……」
彼は一人の令嬢と向かい合っていた。
距離が近い。
あまりにも近い。
「君だけだよ」
「本当ですか?」
「ああ。僕がこんなことを言うのは、君だけだ」
……なるほど。
私は足を止めた。
しばらく眺めていると、令嬢がエドワードの腕に手を絡める。
彼も嫌がる様子はない。
私はため息をついた。
「……学生の間だけ、ですわよ」
そう呟いて、その場を離れた。
私は寛容な婚約者だった。
少なくとも、そのつもりだった。
---
数日後。
エドワードから呼び出された私は、学園の応接室にいた。
「リリアーヌ。今日は君に話しておきたいことがある」
「何でしょう?」
妙に嬉しそうだ。
嫌な予感がした。
「僕には、愛する女性がいる」
「……そうですか」
「一人じゃない」
「…………」
私は黙って彼を見た。
「二人でもない」
「…………」
「三人でもない」
嫌な予感が、どんどん膨らんでいく。
「十人だ」
「…………十人?」
「そう!」
エドワードは胸を張った。
「僕は十人の女性と愛し合っている!」
私は、言葉を失った。
十人。
十人。
……十人?
「最初は僕も悩んだんだ」
彼は真剣な顔で語り始める。
「誰か一人を選ばなければならないのかって。でも、気づいたんだ」
「……何に?」
「全員を愛せばいいんだって!」
「…………」
「僕は誰か一人を捨てるようなことはしない!」
「…………」
「僕は十人全員を幸せにしてみせる!」
その瞬間だった。
「……気持ち悪い」
ぽつり。
考えるより先に、口から出ていた。
「え?」
エドワードが固まる。
「……今、何て?」
「気持ち悪い、と」
「…………」
「普通に気持ち悪いですわ」
「そ、そんな……」
エドワードは傷ついた顔をした。
「君は……そんなに僕が愛されていることが嬉しいんだね?」
「…………」
私は、しばらく彼を見つめた。
何をどう解釈したら、今の言葉からそうなるのだろう。
そして、私の目から温度が消えた。
「……どこまでお目出度い頭なのかしら?」
「なっ!?」
「私は、貴方のその思考回路が理解できませんわ」
「だ、だって僕は――」
「もう結構です」
私は立ち上がった。
「婚約を破棄いたしましょう」
「待ってくれ!」
「嫌です」
「僕たちは婚約者だぞ!」
「ええ。だからこそですわ」
私は扉へ向かった。
「……ただし」
振り返る。
「この話は、これだけでは終わりませんわよ」
---
翌週。
グランツ伯爵家の応接室には、エドワードとその両親。
そして、十人の令嬢と、それぞれの家族が集められていた。
私は一枚の書類を机の上に置いた。
「まず確認いたします」
私は全員を見回した。
「エドワード様。先日、貴方は十人の女性と交際していると仰いましたね?」
「あ、ああ……」
「こちらにいらっしゃる十名で間違いありませんか?」
「……そうだ」
「では、次です」
私は別の書類を取り出した。
「こちらは、エドワード様がそれぞれの女性に送った手紙です」
「なっ!?」
「『君だけを愛している』」
一枚。
「『僕の本当の気持ちを理解してくれるのは君だけだ』」
二枚。
「『婚約者との関係は形だけだ』」
三枚。
「『卒業したら、君との未来を考えたい』」
四枚。
「……まだありますわ」
エドワードの顔が青ざめていく。
「こちらは、密会の日付と場所」
「……」
「こちらは贈り物の記録」
「……」
「こちらは目撃証言」
「…………」
私は最後の書類を机に置いた。
「そして、こちらが決定的な証拠です」
「ま、待ってくれ!」
エドワードが叫んだ。
「違う! これは全部、本当に彼女たちを愛していたから――!」
「それは結構です」
私は微笑んだ。
「貴方が何を思っていたかなど、今は問題ではありません」
「…………」
「婚約者がいる身で、複数の女性と交際していた」
「それは……」
「事実でしょう?」
「…………」
「では、次に参りましょう」
私は十人の令嬢へ視線を向けた。
「皆様」
「…………」
「エドワード様を愛していらっしゃったのですよね?」
十人は互いの顔を見合わせた。
沈黙。
やがて、一人が小さく口を開いた。
「だって……」
「ねぇ……」
別の令嬢が続く。
「婚約者がいるのに……」
「他の人が好きになるような人……」
「ええ……」
「無理ですわよね」
「…………」
エドワードの顔が引きつった。
「な、何を言ってるんだ……?」
「私たち、本命は別にいますもの」
「そうですわ」
「エドワード様は、その……」
「遊び相手としては、まあ……」
「ちょうどよかったと言いますか……」
「…………」
「んなっ!?」
エドワードが絶叫した。
「お、俺を愛してるって言ってくれたじゃないか!」
令嬢たちは再び互いに目を合わせた。
「……社交辞令ですわ」
「それに、婚約者がいる男性に本気になるなんて」
「面倒ですもの」
「ですから、私たちも本気では……」
「待て!」
エドワードが叫ぶ。
「じゃあ、僕だけが本気だったのか!?」
「……そういうことになりますわね」
「そんな……!」
私はため息をついた。
「内輪揉めはもうよろしいですか?」
「…………」
全員が私を見る。
「では、最後に一つ」
私は笑顔で告げた。
「貴方方にも、もちろん慰謝料を請求しますね」
「「「え?」」」
「人の婚約者に手を出している時点で、同じ穴の狢ですから」
私は満面の笑みを浮かべた。
「何を自分たちは悪くないみたいにおっしゃっているんですか?」
「…………」
「貴方方にも責任はあります」
「そ、そんな!」
「嫌ですわね」
私は紅茶を一口飲んだ。
「証拠は、全部揃っておりますもの」
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数週間後。
婚約は正式に破棄された。
エドワードは女性十人から振られ、婚約者からも捨てられ、さらに複数の家から慰謝料を請求された。
その後どうなったのかは知らない。
知りたいとも思わない。
私は窓の外を眺めながら、紅茶を啜った。
恋愛とは、難しいものなのだろう。
けれど。
少なくとも私には、十人も必要ない。
一人でいい。
心から愛し、愛される相手が一人いれば、それで十分だ。
「愛する人は、一人で十分ですわ」
そう呟いて、私は静かにカップを置いた。
お読み頂き、ありがとうございます。




