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9.エビとブロッコリーのサラダとチキン(?)ステーキ

 明日から侯爵邸へ異動という最後の日。騎士団の夕食メニューはチキン(?)ステーキとエビとブロッコリーのサラダにした。ここに来て一番作ったメニューかもしれない。


ステーキはこんがりと焼き目をつけるため、フライパンの上に鍋を乗せるというちょっと異様な光景を厨房に生み出してしまった過去があるが、今はそれが普通の様子となっているのだから、人間「おいしい」には勝てない。


『ぐるうぅぅぎゅるるるr』

「また腹なってんぞ~」

「仕方ないじゃないですか、調理前なんですから!」


調理前、料理の事を考えると余計にお腹が鳴ってしまう。おやつを食べてもこうなのだから、これはもう恒常的に料理を作り続けるしか対応策はない、と思う。


「だめだ~。お腹すぎすぎ!サラダの仕込みしちゃいます」

「まったく……ちゃんと休みなさいよ、エルヴィラ。ここだけではなく、侯爵様のところでもね」

「はーい」


わかってはいるけれど、疲労と空腹を天秤にかけてしまうのはよくない。でも空腹に耐える方がつらい時だってある。今のように。 休憩していたテーブルを片付け、ひとりキッチンへ向かう。


 ブロッコリーを小房に分け、沸かしておいたお湯にとぽとぽと入れていく。鍋の中がきれいな緑になったらすぐにすくいあげ、水切りのボウルに入れていく。ざっと湯切りをすると青く香る湯気が登ってきた。次々とさっと茹でてはあげていくのがおもしろくなってしまい、いつの間にか調理台の上にこんもりと小さな森が出来上がっている。


「よしよし、お腹も収まってきたわ」


 お腹が鳴らなくなっても、まだお腹が空いた感覚はぬぐいきれない。次はエビだ。

 背腸をすうっと抜き、切れ込みを入れていく。今日はサラダだから多少丸まってもいいのだけれど、切ったところがぷりっとするのも口当たりが楽しくていい。軽く茹でてこちらもざるにあげておく。緑の森の隣に、うす桃色の山が現れた。サラダの仕込みはこれでいい。


「エルヴィラ、もうそこまで終わったのかい」

「はい、マシューさん。お腹の具合もおさまってきました!」

「厄介なお腹だねぇ」

「あはは。でもこんなに作れるのも、今日が最後なんですよねぇ」

「明日からは集中作業になるんだ、それはそれで大変でしょ」


 確かに、それはそう。じゃあ今日は思う存分、大量の料理を作らせてもらおう。冷蔵庫で待ち構えているのは、先日の魔獣退治で手に入った魔獣の肉……つまりチキン(?)。


 コカトリスの本体は限りなくチキンに近い。毒性もないに等しいが、討伐後に魔導師の方が解毒を行っているため、安心して食べることができる。騎士団員はとにかくよく食べるが、予算上こういった魔獣の肉はありがたい食材なのだ。一般の店舗に降りる事もたまにはあるが、よほど大量討伐でない限りはこうして騎士団で食べ終えてしまうのが常だ。


 どう見ても巨大なとりもも肉にしか見えない肉塊。今日はステーキにするから、柔らかく火が通るようにしたい。フォークでぷすぷすと穴を開け、塩と白ワインをもみこんでいく。一人前ずつに切り分けたらボウルに入れ、白ワインを少しふりかけてもういちど揉み込んでいく。昨日の保存状態がよかったのか、肉はよくしまっている。解凍もうまくいったみたいで、調味料も白ワインも、あっという間に吸い込まれていく。


 そうしてちょうどよく常温に戻ったチキン(?)を皮目を下にしてフライパンに並べ、弱火でじっくりと焼いていく。ここで大事なポイント、肉の上によく洗った重い鍋を乗せる。こうすることで肉が浮かず、ぱりっとした焼き目をつけることができるのだ。複数枚を一度に焼けるのも利点。でも見た目は……フライパンの上に鍋。


 焦らずじっくりと待ち、パチパチっと音が変わったところで鍋を外して裏返す。とてもおいしそうな焦げ目のついた皮にガーリックを刻んで混ぜたソースをかけると、白い湯気とじゅーっ!という音と共に、凶暴とも言える爆裂おいしそうな香りが厨房に充満した。


「エルヴィラ、早くはやく!」

「えっ、ま、まだですよ!待っていてください!」

「この匂い、たまらねー!」


 いつの間にか帰ってきた騎士団の皆さんが、厨房のお渡し口に殺到してしまっていた。おいしそうですよね!おいしいですよ!!焼けたものから盛り付け、どんどん定食の形に盛り付けていく。カウンターに出す側から奪い取られていくので、手を休める暇がない。


 ちょっとは感慨深い最後の食事になるかと思っていたけれど、そんなことはなかった。配膳が一息つくと、みんながおいしく食べてくれるのを、いつも通り満たされた空腹感と料理を出せた満足感いっぱいに眺めていた。


「明日からは、寂しくなるねぇ」

「ありがとうございました、マシューさん。本当にお世話になりました」

「困ったことがあったら言いにおいで。なんだったら戻ってきたっていいんだからね」


 そう微笑んでくれたので、なんだかちょっと泣けてくる。


「その時は、相談に来ますね」

「いつでもおいで。待ってるよ」


 ちょっとだけしんみり、していたのに。


「エルヴィラ、おかわり!」

「俺も!」


 騎士団の皆さんの胃袋、ほんとに底なしで……好きでした。はらぺこの自分を満たしてくれた、大切な職場。次は自分が、侯爵様を満たす番です。


[続く]

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