8.プリンは硬めが美味しいと思う派です
ハンバーガーを持参しての遠征はとてもうまくいったようだ。むしろ泊まりになるかと予想していたけれど、夕方には部隊が帰ってくるとの連絡が入る。
「誰も大きな怪我もなかったようだね」
「ええ、よかったです。侯爵様もご活躍されたみたいですね」
「急に前線なんて、大丈夫だったんでしょうか……」
厨房で夕飯の支度をしながら、今日の噂話。どうやら侯爵様は某かの成果を得たらしく、伝令が帰城時間と共に侯爵様の功績を伝えていた。魔物討伐後の処理で活躍されたとのことだけど、一体何をされたのか。 そういえばそもそも、侯爵様が使える魔力はどんなものなのか。
魔力の分類というか、属性的なものも実はある。庶民は生活魔法が使えたら便利、くらいだけれど、貴族ほど魔力があると、特殊性を求められる仕事をしている事も多い。魔物の討伐に関しては特に重要視される部分だ。騎士団には火や風、氷属性の人が多い。
自分が料理に与える魔力はそれぞれの人の中で当人の特性を底上げするような力があるので、騎士団で重宝された。侯爵様は魔力がほとんど無かったようだけど、今回エルヴィラの魔力をとりこんだことで、どんな変化があったのかは気になるところ。
「昼の支度が早かった分、時間に余裕があるね。デザートも作ろうか」
「いいですね。疲れた方にも食べやすいものにしましょう」
相談の結果、騎士団でもファンが多い大きなプリンを作ることにした。四角く作って切り分けるプリンは量の調整がしやすく、少量でいい騎士の皆さんにも好評。
「侯爵様、甘いものも割とお好きなようですし」
「そうだね、お好みの物を作ってあげなさい」
「ええ」
なんといっても次の雇用主だ、手厚くするに超したことはない。今日使ってしまった魔力も補填できるようにしよう。
それなりに希少価値のある砂糖をキャラメルにするのは特別な時に限っている。今回は魔物退治をしてきたのだから、許されるだろう。 フライパンに砂糖をどさっと入れると、それだけで背徳感と何かよくわからない満足感が湧き上がる。 弱火でじっくりと煮溶かしていくと、きれいな黄金色に色づく。ここに水を加えてキャラメルソースを作る……のだが。
バチン!!
「あっつ」
跳ねてしまうのは予想していたが、手の甲にちょうど当たってしまう。その瞬間、背後からひやりとした冷たいものが手を覆った。
「大丈夫か、エルヴィラ」
「え、侯爵様?」
予定の帰城時間より早く、侯爵様が帰ってきた?
「先に馬で帰らせてもらったんだ。やけどしたのか?」
「は、ええと、いえ、だいじょう……あれ、本当に大丈夫です」
油が跳ねて赤くなったはずの場所がなんともない。手の上はまだ、ひんやりしている。
「よかった、でも気をつけてくれ」
「はい、ええとこれって……」
「ああ、私の魔力だ。どうやら氷の属性が高かったみたいでね」
「へぇ!!便利ですね!!」
ああ……と、周りから残念そうなため息が聞こえた。
「それで、何を作っていたんだ?」
「あ。プリンです。侯爵様、プリン召し上がれますか?」
「……そうだな」
ほんのり、表情がゆるんだ気がする。これはお好きかもしれない。
「お食事の後でお出しするので、食堂で休んでいてください」
「わかった。手はもう大丈夫か?」
「ええ、痛みもありません!ありがとうございました」
確かに一瞬、赤くなったはずのそこにはもう、何の痕も残っていない。氷魔法、べんり〜。キャラメルソースの仕上げに魔力を足しておくことを忘れずに。
その後、続々と出かけていた騎士の皆さんが帰ってきた。昼のハンバーガーはそれなりにボリュームはあったけれど、それでもお腹がすいているようで、互いの武勇伝を語りながら次々とごはんがたいらげられていく。
「侯爵様の氷魔法、素晴らしかったですね!」
「本当に助かりました……」
端々に聞こえてくる侯爵様の話に、つい聞き耳を立ててしまう。魔魔獣には食べられるものもあり、今回のものはその対象だったそう。使える部位を切り分けて、全て冷凍させて持ち帰ることができたのは侯爵様の功績らしい。そのために魔導塔から試作品の冷凍庫を持っていったというのだから、準備万端だ。
「魔導塔から……?」
「試作品を……?」
だいぶ異例のことをしたみたいだけど、そこはそれ。食材が多く手に入ったということで。
「エルヴィラ、そろそろプリンを出そうか」
「あ、そうですね!切り分けます!」
四角い容器に作ったたっぷりのプリンを、大・中・小の3種類に切り分けてお皿にもりつける。やけどしそうになりながら作ったキャラメルソースは各自が好きなだけかけられるように、コップに入れてスプーンを刺した。
「フルーツありましたよね」
「いちごとバナナとブルーベリーがあるよ」
「じゃ、それもセルフで盛れるようにしましょう」
バイキング形式のデザートは騎士様たちにも好評だ。けど。
「侯爵様の分だけ、盛り付けしますね」
「ああ、頼んだよ」
大きめの皿にプリンを乗せ、フルーツを丁寧に盛り付ける。しばらく忘れていたけれど、盛り付けも丁寧にすることで魔力を乗せることができる。がんばってきた侯爵様にはたくさん補填をしてさしあげなくては!最後にたっぷりとキャラメルソースをかけると、プリンがきらきらと輝いた。
「侯爵様、お待たせしました。プリン・ア・ラ・モードです!」
「これは……すごいな」
「うわ、侯爵様のすごい!俺もやろ〜」
「俺も!」
周りの騎士たちが覗き込んではおかわりをしに行く。騒ぎの中で侯爵様がするりとプリンをすくい、口に運ぶ。
「……うん、とてもおいしい」
「よかった!……です」
魔力も一緒に味わうように、ゆっくりと匙を進めていく。なんだか周りの視線が生暖かいので、厨房に戻りまーす。
[続く]




