後日談第7話 息子・道の実力テスト
「イイ話だったネ! ミーも感動で涙が出そうヨ!」
女神国のテラス。
聖子の馴れ初め話が終わり、温かい空気に包まれていたその場に、場違いな拍手が響き渡った。
アロハシャツの男、ヴィクラムだ。
その横には、腕を組んだ巌も立っている。
「男性陣は人払いされていたというのに……ヴィクラム師匠……盗み聞きですか?」
後から追いついてきた道が、ジト目でヴィクラムを見る。
自分は母に「男はあっち行ってなさい!」と言われて素直に待機していたのに、この師匠はこれだ。
「ノンノン。タイミングを見計らっていただけヨ」
ヴィクラムはニカっと笑い、バチンと指を鳴らした。
「聖子マミーの『お嫁さんチェック(精神面)』は合格。
……なら、次はダディとミーによる『実力チェック(肉体面)』の時間だヨ」
ヴィクラムの眼鏡が、キラリと光った。
「道ボーイ。君がこの1年でどれだけ強くなったか。
そして、君の仲間たちが『君を支えるに足る実力』を持っているか……。
試合で証明してもらうネ」
「試合……?」
「イエス。カバディだヨ」
その言葉が出た瞬間、場の空気がピリリと引き締まった。
最強の師匠たちが、遊びではなく「カバディ」を口にする。
それは、彼らにとっての「真剣勝負」を意味していた。
「ルールはシンプル。
我々『チーム・ペアレンツ(親)』3人。
対するは、道ボーイ率いる『チーム・ウィンド(風)』7人。
ただし、君たちは魔法・スキル・異能の一切を禁止するネ。
純粋な肉体と技術だけで勝負するヨ」
「なっ……!?」
ドワーフのバルドが声を上げる。
「いくらワシらが魔法などを禁止されていようとも、3対7じゃと!?
化け物揃いのアンタらとはいえ、人数差がありすぎる!
それに、ワシらもこの数日でアンタらから『技術』を学んだんじゃぞ? 後悔するぞ!」
バルドの言う通りだ。
通常、カバディは7人対7人。
守備側が7人いれば、攻撃手を囲んで捕まえるのは容易になる。
いくら達人とはいえ、3人のみで7人を相手にするのは不利に見えた。
「フッ……。数など関係ない」
重い口を開いたのは、巌だった。
「群れるだけの羊が100匹いようと、虎は一匹で全て狩る。
……それだけの話だ」
巌が、ただそこに立っただけで、気温が数度下がった気がした。
圧倒的な「個」の暴力。
人数の有利など、この男の前では誤差ですらない。
「……上等じゃないか」
ノワールが立ち上がった。
「姿勢を正された私の『魔導圧縮姿勢』……試してみたかったところだ」
「あたしたちだって、もう『お手』をする犬っころじゃないよ!」
リィナも牙を剥く。
「……やりましょう、道」
レアが、道の隣に並んだ。
「お母様に認めてもらうためです。逃げられません」
「……ああ、そうだな」 道は覚悟を決めた。
この人たちを超えなければ、本当の意味で「一人前」とは言えない。
「受けて立つよ、父さん、母さん、師匠。
……俺たちの『異世界カバディ』を見せてやる!」
◆◆◆
場所は、WKA中央スタジアム。
観客はいない。
完全なる非公開試合だ。
【チーム・ウィンド(7名)】
道(攻撃手/守備の要)
レア(司令塔)
ノワール(守備/右コーナー)
バルド(守備/左コーナー)
リィナ(攻撃手/スピードスター)
ライラ(守備/支援)
獣人の若手(守備/カバー)
【チーム・ペアレンツ(3名)】
巌(攻撃手/守備)
聖子(守備)
ヴィクラム(攻撃手/守備)
「3人だと、誰かが攻撃に出たら、守備は2人になる。
……普通に考えれば、守備側が圧倒的に不利だ」
道が冷静に分析する。
カバディは、相手の守備の人数が少なければ少ないほど、捕まえるのが難しくなり、また相手の攻撃手を囲むこともできなくなる。
「だが、相手は『あの3人』だ。常識で考えるな」
「始めようか」
ヴィクラムが審判役の自動人形を起動させた。
コイントスの結果、先攻は『チーム・ペアレンツ』。
最初の攻撃手は――。
「……行くぞ」
白い道着の巨岩、巌がゆっくりと歩み出た。
「カバディ、カバディ、カバディ……」
低い、地底から響くような詠唱。
巌がセンターラインを越え、異世界チームの陣地に入った瞬間。
ズンッ。
「……ッ!?」
ノワールたちが、思わず半歩下がった。
重力魔法ではない。
ただの「圧」だ。
巌が一歩近づくたびに、空間が物理的に狭まっていくような錯覚。
「(これが……源流のカバディ……!)」 道は冷や汗を流しながら、チーム全体にサインを送る。
『囲むな。距離を取れ。不用意に近づけば、骨ごと持っていかれるぞ』
7人が半円状に広がり、巌を警戒する。
だが、巌は動じない。
口では一定のリズムで詠唱を続けながら、その瞳は冷徹に獲物を品定めしていた。
「カバディ、カバディ、カバディ……」
(……さて。どの獲物から狩るか)
巌の視線が、右コーナーのノワールで止まった。
「カバディ、カバディ……」
(……貴様か)
「ッ!」
ノワールが身構える。
聖子に矯正された完璧な姿勢で、重心を落とす。
今の彼なら、どんな衝撃も受け流せるはずだ。
だが、巌はノワールに向かって、無造作に右手を伸ばした。
速いわけではない。
しかし、あまりにも自然で、あまりにも迷いのない動き。
「(来るッ!)」 ノワールが迎撃の体勢に入った、その時。
巌の体が、フッとブレた。
「な……!?」
目の前にいたはずの巌が消えた。
いや、違う。
巌は、ノワールの意識が「右手」に向いた瞬間に、「歩法」だけで視覚の死角へ滑り込んでいたのだ。
「カバディ、カバディ……」 (よそ見をしている暇はないぞ)
耳元で、死神の囁きが聞こえた気がした。
「しまっ――」
ドォォォォォン!!
ノワールの体が、宙を舞った。
魔法ではない。
死角からの、純粋な掌底による突き飛ばし。
あの魔族最強の将軍が、紙屑のようにコート外へ吹き飛ばされた。
巌は、空中のノワールに一瞥もくれず、センターラインを踏み越え、余裕で自陣へと戻った。
「……カバディ」
そこで初めて詠唱を止め、大きく息を吐いた。
「1ポイント」
審判人形がブザーを鳴らす。
たった一撃。
触れさせもせず、反応させもしない。
「……姿勢は良くなった。だが、『目』が泳いでいる」
巌は静かに告げた。
これが、「最強の父」の実力。
「……冗談じゃないわよ」 レアが震える声で言った。
恐怖ではない。武者震いだ。
「全員、気合を入れなさい! ……私たちの『本気』は、ここからよ!」
道が吠える。
「ああ! 魔法なしでも……俺たちは『繋がって』いる! 反撃開始だッ!!」
最強の家族による「実力テスト」。
その合格ラインは、遥か雲の上にある。
始まりました、親子対決。 父・巌の圧力だけで、ノワールが吹き飛ばされました。
「個」の頂点に立つ父に対し、道たちは「群れ(チーム)」で挑みます。
ヴィクラムの変幻自在の攻撃を、バルドたちの連携で止められるか?
そして、再び迫る父の突進。 7人の「盾」が試されます。
次回、『激闘! 源流 VS 現代(静かなる対話)』。
止めるか、吹っ飛ばされるか。ギリギリの攻防です!




