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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
エピローグ 最強の家族と師

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後日談第5話 親友コンビとドワーフの酒盛り

「ガハハハ! 飲むんじゃ飲むんじゃ!  ドワーフの火酒ウォッカは、喉が焼けるほど美味いぞぉ!」

ドワーフ居住区にある、岩をくり抜いて作られた大衆酒場。

そこに、ドワーフ族の英雄バルドの豪快な笑い声が響いていた。

彼の向かいに座っているのは、我波 巌とヴィクラムだ。

テーブルには、樽のようなジョッキが林立している。

「ほう。これはなかなか……度数が高いな」

巌は、琥珀色の液体を一息に煽ると、満足げに頷いた。

「喉越しが良い。昔、インドの師匠(爺さん)に飲まされた薬草酒に比べれば、水のように飲みやすい」

「オー、イエス。あの酒は酷かったネ。マムシとサソリが丸ごと入ってたヨ」

ヴィクラムもまた、顔色一つ変えずにジョッキを空にする。

「……な、なんじゃと?」

バルドの目が点になる。

この酒は、人間なら一口で気絶するほどの度数がある。

それを「水のように」だと?

「お前さんら……肝臓はどうなっとるんじゃ。  魔法で解毒しておるのか?」

「ノンノン。呼吸ヨ」 ヴィクラムがニヤリと笑い、自分の腹をポンと叩いた。

「アルコールは毒素ネ。

 だから、『代謝加速の呼吸メタボリック・ブレス』で、肝機能を一時的に3倍にして分解してるヨ。

 これなら、いくら飲んでも『ほろ酔い』をキープできるネ」

「……あ、悪酔いしない呼吸だと!?」

バルドが身を乗り出した。

ドワーフにとって、酒は命の水だが、二日酔いは宿命の敵だ。

それを制御できる技術など、国宝級の価値がある。

「教えてくれ! その技術があれば、ワシらは24時間飲める!」

「ハハハ! 今度じっくり教えるネ。  ……それより、バルドさん。貴方の筋肉、いい『鍛え方』をしてるネ」

ヴィクラムが話題を変え、バルドの丸太のような腕をさすった。

「硬いだけじゃない。芯がある。  

相当、過酷な環境で生きてきたネ?」

「おうよ! ワシらは地下の岩盤を掘り、魔物と戦って生きてきた!

 落盤事故も、溶岩の噴出も、この肉体ひとつで耐え抜いてきたんじゃ!」

バルドが誇らしげに胸を張る。 ドワーフの強さは、環境への適応力だ。

「ふむ。落盤か……」 巌が、おつまみのナッツを指で粉砕しながら呟いた。

「私も昔、似たようなことがあったな。  インドの修行場で、崖崩れに巻き込まれた時だ」

「が、崖崩れ?」

「ああ。師匠が『避けるな、受け止めろ』と言うのでな。

 落ちてくる岩石を、全て掌底しょうていで粉砕しながら登った。

 ……あれは良い稽古だった」

「……は?」 バルドが耳を疑う。

岩を避けるのではなく、砕きながら登る?

「ミーも酷い目にあったヨ」

ヴィクラムが肩をすくめる。

滝行たきぎょうって知ってるかい?

 滝に打たれて精神統一する修行なんだけどネ。

 師匠の選ぶ滝は、高さ100メートルくらいあるのヨ。

 水圧で首が折れそうになるのを、首の筋肉だけで耐えて、ついでに滝を逆流して登れって言われてサ」

「た、滝登り……生身でか!?」

「イエス。滑る苔の上を、足の指のグリップ力だけで登るんだヨ。

 落ちたら、下の滝壺にはワニが待ってるしネ」

「ワニ!?」

「ああ、懐かしいな」 巌が遠い目をする。

「あのワニも、良いスパーリング相手だった。

 カバディのタックルは、ワニのデスロール(回転噛みつき)を止める要領でやれば、大抵の人間は転ばせる」

「…………」

バルドは、持っていたジョッキを取り落としそうになった。

(こ、こいつら……魔境の住人か?)

ドワーフの過酷な環境など、彼らの「日常(修行)」の前では、アスレチック広場のようなものではないか。

魔法のない世界で、なぜこれほど強いのか。

その理由が、常軌を逸した「師匠(老人A)」と、死線を越えてきた経験値にあることを思い知らされた。

「ガハハ……! 負けたわい!」

バルドは膝を叩いて笑った。

「人間ってのは、ひ弱な生き物だと思ってたが……。

 お前さんらみたいな『化け物』もいるとはな!

 気に入った! 兄弟ブラザーと呼ばせてくれ!」

「うむ。良き酒だ、兄弟」

「チアーズ(乾杯)、ブラザー!」

種族を超えた友情が芽生えた、その時だった。

ガラララッ!

「もう! 男ばっかりで飲んだくれて!」

酒場の扉が開き、エプロン姿の聖子が入ってきた。

手には大きな鍋を持っている。

「げっ、聖子……」

「マミー、これはただの異文化交流デ……」

「言い訳しない!

 アンタたち、空きっ腹で強い酒ばっかり飲んで! 胃が荒れるでしょ!

 ほら、これ食べなさい!」

ドンッ! 聖子がテーブルに鍋を置く。

蓋を開けると、湯気と共に、甘辛い醤油と出汁の香りが広がった。

「こ、これは……?」 バルドが鼻をひくつかせる。

「肉じゃがよ。

 市場で似たような芋と肉を見つけたから、煮込んでみたの。

 ……ドワーフさんたちも、どうぞ」

聖子が小皿に取り分け、バルドたちに渡す。

見た目は、ただの煮込み料理だ。

だが、一口食べた瞬間。

「!!?」

バルドの動きが止まった。

口の中に広がる、ホクホクとした芋の甘み。

肉の旨味。

そして何より、芯まで染み渡るような、優しい味付け。

それは、岩塩と直火焼きばかり食べてきたドワーフにとって、未知の衝撃だった。

「なんじゃ……これ……。

 口の中で、溶ける……?

 それに、この味……なんだか、懐かしい……」

バルドの目から、一筋の涙がこぼれた。

地下の穴倉で、母親に抱かれて眠った幼き日の記憶。

そんな根源的な「安心感」が、この料理には詰まっていた。

「おいおい、泣くほどマズかったか?」

巌が心配そうに覗き込む。

「ち、違うわい! 美味いんじゃ!

 美味すぎて……涙が出たんじゃぁぁぁッ!」

バルドが鍋を抱えて号泣しながら食べ始めた。

他のドワーフ客たちも、「お袋の味」に伝染し、次々と涙を流して肉じゃがを貪り食う。

「あらあら、よく食べるわねぇ」

聖子はニコニコしながら、彼らの背中を優しくさすった。

「いっぱい食べて、大きくなるのよ(もう大きいけど)」

酒場は、むさ苦しい男たちの嗚咽と、「おかわり!」の声に包まれた。

最強の父と師匠が「武勇」で認めさせ、 最強の母が「胃袋」で屈服させる。

我波家の完全勝利だった。


マムシ入りの酒を水のように飲む男たち。

そして、肉じゃがで異種族を陥落させる母。

我波家のカースト最強は間違いなくお母さんですね。

舞台は王城のテラスへ。

女子会にて、聖子と巌の「伝説の馴れ初め」が語られます。

虎を素手で叩きつけた父の背中。

それ聞いたレア様の反応は……?

次回、『伝説の馴れ初め』。

最強の母による「お嫁さんチェック」が入ります。



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