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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
エピローグ 最強の家族と師

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後日談第4話 母のヨガと、魔族の柔軟性

「痛い痛い痛い痛いッ!? 骨が! 私の高貴な骨が軋んでいるぞッ!!」

魔族領にあるノワールの居城。

そのトレーニングルーム(元・拷問部屋を改装した)に、魔族将軍ノワール・ヴェイルの悲鳴が響き渡った。

彼は今、かつてない体勢を強いられていた。

四つん這いになり、片足を天井に向けて垂直に上げ、さらに背中をありえない角度で反らしている。

ヨガの『鳩のポーズ(変形)』だ。

その背中に、エプロン姿の我波 聖子が容赦なく体重をかけている。

「はい、もっと胸開いて! 息止めない!  

 ……あーもう、ガチガチじゃない!

 岩なの? アンタの体は岩石なの?」

「ぐぎぎ……! こ、これは何の拷問だ……!  

 我々魔族は、強靭な肉体と魔力があればそれでいいのだ……! 柔軟性など……!」

「ハァ? 何言ってんの」

聖子は呆れたように溜息をつき、さらにグイッとノワールの腕を引いた。

「いい? アンタたち魔族は、普段から『魔力』を垂れ流しすぎなのよ。

 体が硬いってことは、血管も魔力回路も詰まってるってこと。

 そんな淀んだ体じゃ、良いマナなんて循環しないわよ!」

「な、なに……?」

「それに、アンタが得意なその『重力』。

 あれ、魔法じゃなくて、体の中でエネルギーを圧縮して出す技なんでしょ?」

聖子の指摘に、ノワールが目を見開く。

そうだ。彼の重力は、魔法的なマナ放出ではなく、

自身の質量と存在感を極限まで圧縮することで発生させる物理現象に近い。

道はこれを「圧導」と呼んでいたが、原理は同じだ。

「インドの爺さん(師匠)が言ってたわよ。

 『内なるインナーパワーは、ゴムまりと一緒じゃ』ってね。

 アンタの体は今、硬い石ころなの。

 石をいくら潰しても縮まないでしょ?

 でも、柔らかいゴムなら、ギューッて縮んで、ドーン! って弾ける。

 ……わかる?」

「……柔軟な肉体の方が、より『圧縮』できる……ということか?」

「そ。だからほら、ここ! 股関節! 老廃物溜まってるわよ!」

「あだだだだッ!! そこはリンパ節……貴様、詳しいな!?」

聖子の指が、ノワールの急所ツボを的確に攻撃する。

激痛。

だが、その直後、ドクンと血流が奔り、滞っていた魔力の流れがスムーズになるのを感じた。

「……信じられん。体が軽い」

ノワールが立ち上がると、全身の魔力回路がクリアになり、

さらに自身の「核」となる重心がブレなくなっていた。

これなら、かつてない高密度の重力を生み出せる。

「ふふ、礼を言うぞ聖子殿。

 では、この新たなる肉体で、私の最強の奥義を見せよう」

ノワールは自信満々に、あのお決まりのポーズをとった。

 背筋を伸ばし、膝を曲げ、虚空に座る――世間一般で言うところの『空気椅子』だ。

「見よ! これぞ我が至高の……『魔導圧縮姿勢マギ・プレス・スタンス』ッ!!」

「……は?」

聖子の目が、スッと冷たくなった。

「な、なんだその目は」

「アンタ、それ何?」

「何って……『魔導圧縮姿勢』だが?

 この姿勢で丹田に魔力を極限まで溜め込み、臨界点で解き放つのだ」

「名前はどうでもいいけど、どこが『圧縮』なのよ」

聖子がバシン! とノワールの膝を叩いた。

「膝がつま先より前に出てる!

 背中が反ってる!

 お尻の穴が締まってない!

 ……そんなの、ただ『和式便所で踏ん張ってる人』よ!?」

「ワシキ……ベンジョ……!?」

ノワールがショックでよろめく。

彼の誇り高き『魔導圧縮姿勢』が、トイレ扱いされた。

「いい? ヨガにも『椅子のポーズ(ウトカタアーサナ)』っていうのがあるの。

 本物の椅子っていうのはね……こうやるのよ!」

聖子がスッと腰を落とした。

その姿勢は、美しかった。

膝は出さず、股関節を引き込み、背骨は天に向かって真っ直ぐ伸びている。

太ももプルプルなどしていない。

大地に根を張った大樹のように、微動だにしない。

「う……美しい……」

側近の魔族たちが思わず声を漏らす。

「アンタたちのも見せてみなさい! その……トレインとかいうやつ!」

「は、はいッ!」

魔族たちが慌てて整列し、ノワールを先頭に肩に手を置き、

『魔導・無限軌道メビウス・トレイン』の陣形を組んだ。

ワッせ、ワッせ……と回転を始める。

「ストォォォォップ!!」

聖子の雷が落ちた。

「汚い! ラインがガタガタ!

 前の人の肩に体重かけすぎ! 楽してんじゃないわよ!

 全員、背骨を一直線に繋げるイメージ!

 『気』を丹田(へそ下)に落として、足裏で地面を掴む!」

「こ、こうですか、マダム!?」

「そう! 呼吸を合わせて! 吸ってー、吐いてー!」

聖子の指導の下、魔族たちのフォームが矯正されていく。

猫背が伸び、腰が入り、全員の重心が一つに繋がった、その瞬間。

ズズズズズズ……ッ!!

「な……!?」 ノワールが驚愕した。

まだ出力全開にしていないのに、空間が歪み、床がミシミシと悲鳴を上げている。

「これが……正しい姿勢の効果なのか!?  

 魔力消費は半分以下なのに、重力密度が倍増している……!」

「当たり前でしょ。

 ホースが折れ曲がってたら水が出ないのと一緒。

 体を真っ直ぐにして、循環を良くする。

 ……そうすれば、アンタたちの『圧縮』は、もっと強くなるわ」

聖子は満足げに頷き、そしてニッコリと笑った。

「さ、コツは分かったわね?

 じゃあその姿勢のまま、あと30分キープ!」

「さ、30分……!?」

「地獄だ……!」

「文句言わない!

 あのインドの爺さんのシゴキに比べれば、こんなの休憩時間よ!」

その日、魔族領には、悲鳴と共に、かつてない強大な重力場が発生し、

城の地盤が数センチ沈下したという。

最強の母は、戦わずして魔族をレベルアップさせた。

「正しい姿勢」という、逃れられない正論によって。


「お尻の穴を締める!」 聖子さんのスパルタ指導で、魔族の「無限軌道メビウス・トレイン」が劇的に進化しました。

正しい姿勢は世界を救いますね。

身体を動かした後は、ドワーフの酒場へ。

巌とヴィクラムの「肝臓」の強さが明かされます。

そして、聖子さんが作る「肉じゃが」が、ドワーフたちを泣かせます。

次回、『親友コンビとドワーフの酒盛り』。

胃袋を掴まれたら、もう逆らえません。

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