表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第5章:虚無獣包囲網

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/70

第50話 カバディ、カバディ、カバディ

虚無獣大戦から、一年。

世界は劇的に、しかし賑やかに変わっていた。

かつて種族間の断絶と恐怖に支配されていた大陸は今、一本の「線」で繋がっている。

国境線ではない。

コートのラインだ。

女神国エンシア、王都中央広場。

かつて武闘祭が開かれたこの場所は、改修され

「世界カバディ連盟(WKA)中央スタジアム」と名前を変えていた。

今日は、その記念すべき第一回世界大会の決勝戦が行われる日だ。

「わっせ、わっせ! 尻尾を上げるな! 腹筋に力を入れろ!」

スタジアムの裏手で、野太い声が響く。

魔族のノワール・ヴェイルだ。

彼は今、魔族代表チームの監督として、

若手選手たちに伝統(?)の「空気椅子トレーニング」を指導している。

その横には、「ノワール式・重力体幹メソッド」という教本が山積みになっており、

飛ぶように売れていた。

「……相変わらずね、あのナルシストは」

あきれ顔で通りかかったのは、エルフの女王代理となったライラだ。

彼女はエルフ代表チームの繊細なユニフォームに身を包んでいるが、

その手にはドワーフ族の特産品である「焼き菓子」が握られている。

「ガハハ! 文句を言いながら食うなよ、ライラ!」

背後から豪快に笑いながら現れたのは、ドワーフ族の英雄バルドだ。

彼は引退し、今は「異種族混合リーグ」のコミッショナーとして、世界中を飛び回っている。

かつて犬猿の仲だったエルフとドワーフは、

今や「最高の喧嘩友達」として、リーグの名物コンビになっていた。

「リィナ! 走りすぎだ! まだ試合前だぞ!」

スタジアムの屋根を走り回っているのは、獣人のリィナだ。

彼女は現役最強の攻撃手レイダーとして、子供たちの憧れの的になっている。

「だってぇ! じっとしてると息が詰まるんだもん!」

平和だ。 戦いの火種が消えたわけではない。

しかし、彼らはもう武器で争わない。

拳と、呼吸と、タッチで競い合う「ルール」を手に入れたからだ。


◆◆◆


スタジアムの貴賓室。

レア・エルフェリアは、窓からその賑わいを見下ろしていた。

彼女の頭には、正式に戴冠した「女王」の冠が輝いている。

「……本当に、変わったわね」

レアが呟くと、背後のソファで準備運動をしていた男が顔を上げた。

我波 がば・どうだ。

彼は相変わらず、動きやすい服(こちらの世界で作った特注のジャージ風衣服)を着て、

テーピングを巻いている。

「ああ。いい『熱』だ」

道が、包帯を巻き終わった手を開閉させる。

あの大戦の後、調停者が消滅した際に生じた余剰エネルギーにより、

一時的に「元の世界への道」が開いたことがあった。

しかし、道はそれを見送った。 迷いはなかった。

「……後悔していない? 道」

レアが振り返り、静かに問う。

「向こうの世界には、カバディの母国がある。

プロリーグがある。  

ここよりも洗練された、あなたの求めていた環境があったはずよ」

道は立ち上がり、レアの隣に立った。

眼下のスタジアムでは、異なる種族の子供たちが、手をつないで走り回っている。

ドワーフがエルフを支え、魔族が獣人と笑い合っている。

「洗練されてるなんて、つまらねぇよ」

道は笑った。

「俺がいた世界じゃ、息が詰まった。  

 『正解』が決まっていて、そこから外れるとはじき出される。  

 ……でも、ここは違う」

道は、スタジアムに入場してくる選手たちを指差した。

「凸凹で、不格好で、常識が通じなくて、すぐ喧嘩する。  

……だからこそ、手をつなぐ意味がある。  

俺は、この『未完成な世界』で、こいつらとカバディを作っていくのが楽しくて仕方ねぇんだ」

レアが、ふわりと微笑んだ。

それは王女の顔ではなく、かつて武闘祭で道の手を初めて掴んだ、あの時の少女の笑顔だった。

「……そう。なら、女王命令オーダーよ」

レアが道の胸に手を当てる。

「今日のスペシャルマッチ。  

伝説のチーム『ウィンド』のキャプテンとして……

世界中に、最高のカバディを見せつけてきなさい」

道はレアの手を、自分の手で強く握り返した。

了解ラジャ。……行ってくる」


◆◆◆


『さあ、お待たせいたしました!  

 本大会のメインイベント!  

 世界を救った英雄たちによる、

 ドリームマッチの開幕です!!』

大歓声の中、道がコートに足を踏み入れる。

その背後には、頼もしい仲間たちが並んでいた。

腕を回し、不敵に笑うバルド。

弓の代わりに、鋭い視線を構えるライラ。

屋根から飛び降り、着地を決めるリィナ。

そして、「特別参加」として優雅に空気椅子で滑り込んでくるノワール。

対戦相手は、世界中から選抜された「次世代ネクスト・ジェネレーション」の混成チームだ。 彼らの目は、憧れの英雄を倒そうとギラギラ輝いている。

「へっ、いい目をしてやがる」

道はセンターラインに立った。

対面のアンティたちが、身構える。

その構えは、道たちが教えたものより進化し、

種族の特性を活かした独自のスタイルになっていた。

(ああ……。繋がったな)

道は深く息を吸い込んだ。

この世界の空気は、もう痛くない。

土の匂い、仲間の汗の匂い、そして熱狂の匂い。

すべてが肺の奥底まで染み渡り、血液となって全身を駆け巡る。

「……スゥゥゥ……ッ」

静寂。

数万人の観客が、固唾を飲んで見守る。

道の前傾姿勢。

それは、この世界で最初に「カバディ」を見せた、あの日と同じ構え。

だが、今の道は一人ではない。 背中には仲間がいる。

正面にはライバルがいる。 そして、この世界中が、彼の一挙手一投足に注目している。

道は、ニヤリと笑った。

「カバディ」

その一言が、世界への号砲となった。

「『カバディ、カバディ、カバディ、カバディ……ッ!!』」

道が踏み込む。

大地を蹴り、風を巻き起こし、敵陣へと切り込んでいく。

次世代チームが連携して襲い掛かる。

それを道は、仲間たちと培った技術と、魂のフェイントで躱していく。

指先が伸びる。

勝利へ。

未来へ。

そして、まだ見ぬ誰かとの「接触タッチ」を求めて。

この世界は広い。 まだまだ、繋がれる手はたくさんある。

我波 道の、そして異世界カバディの本当の戦いは、ここから始まるのだ。

空はどこまでも青く。

その下で、熱き魂の詠唱キャントが、永遠に響き渡っていた。

――その時だった。

青空の一角が、ピキリと音を立てて小さくひび割れた。

そこから漂ってきたのは、マナの匂いでも、潮の香りでもない。

強烈な「スパイスの香り」と、 道が何よりも聞き慣れた、

そして恐れていた「お母さんの怒鳴り声」だった。

「……げっ」

英雄・我波 道の顔が、虚無王を前にした時よりも青ざめた。

本当の試練は、どうやらこれかららしい。


――カバディ、カバディ、カバディ!!


「カバディ」 その一言から始まった異世界生活。 今や世界中が手をつなぎ、その言葉を叫んでいます。 最高の仲間、最高のライバル、そして最高のカバディ。

これ以上のハッピーエンドはありません!

……と思った矢先に空が割れ、聞き覚えのある怒鳴り声が。

どうやら道の戦いは、まだまだ終わらないようです(主に家庭の事情で)。


これにて『異世界カバディ』本編完結です! 最後まで並走していただき、本当に、本当にありがとうございました!

皆様の応援カバディがあったからこそ、ここまで走り切れました。

もし「面白かった!」「熱かった!」と思っていただけたら、 ぜひ【☆☆☆☆☆】評価とブックマーク、感想をいただけると嬉しいです!

それでは、またどこかのコートで! カバディ、カバディ!!

あ、まだ物語は続きます。後日談として、道の3人の師匠が登場します。これがまた面白いですよ。もう少し、お付き合い頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ