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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第5章:虚無獣包囲網

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第49話 崩壊する理(ことわり)と、始まりの呼吸

「……エラー。計測不能……。  

 熱い……うるさい……予測できない……」

調停者アービターは、数千人の「人間」たちに揉みくちゃにされながら、

意識の奔流に溺れていた。

視界が埋め尽くされる。

ドワーフの髭のチクチクした感触。

獣人の荒い鼻息。

エルフの尖った指先。

炎と氷の温度差。

そして、遠くから送られてくる魔族たちの重苦しいプレッシャー。

それらが一斉に、防御壁を無視して流れ込んでくる。

(なんだこれは。こんな不純物ノイズを抱えて、なぜ個体崩壊しない?)

調停者の演算回路あたまが焼き切れる寸前、一つの「記憶」が流れ込んできた。

それは、目の前にいる男――我波 がば・どうの記憶。

息ができない苦しみ。

一人ぼっちだった異世界。

そこで差し伸べられた、リュミエラの手の温もり。

背中を預けた仲間の重さ。

「……理解不能です。  

 なぜ、不揃いなままで……統合しようとしないのですか?  

 完璧な個になれば……誰も必要ないのに」

「完璧? ……くだらねぇ」

道が、調停者の胸倉を掴んだまま、至近距離で睨みつける。

その瞳は、もう敵を見る目ではなかった。

間違ったルールに縛られた選手を諭す、指導者コーチの目だ。

「誰かが何かに長けていて、何かに疎い。

 当たり前だろ。  

 全部できる奴なんていねぇし、いたとしてもつまらねぇ。  

 ……だから、補い合うんだよ」

道は、背後にいる多種多様な仲間たちの気配を感じながら言った。

「誰か『完璧な奴』に管理を任せて、思考停止してちゃダメなんだ。  

 『自分には関係ない』って世界から目を背けたら、  

 世界はいつか、俺たちにとって住みにくい場所になっちまう」

「……住みにくい、ですか? 私の管理は完璧で――」

「お前にとってはな。だが、俺たちにとっては『窒息』だ」

道は言葉を重ねる。

「これはボランティアじゃねぇ。『自分のため』だ。  

 自分が笑って生きるために、他者と関わる。  

 面倒でも、喧嘩しても、手をつないで、理解し合う。  

 そうやって、自分たちが生きやすい世の中を、自分たちの手で作っていくんだよ」

道は、調停者の胸に手を当てた。

「一番避けなきゃいけないのは『分断』だ。  

 関わることをやめた時、世界は死ぬ。  

 ……お前のその『孤独な部屋』みたいにな」

ドクン。

調停者の白い体の中で、今まで無かったはずの音が鳴り始めた。

外部からの干渉によって生まれた、疑似的な鼓動。

「……不快です。  

 リズムが一定じゃない。

 予測できない。  

 ……とても、落ち着かない」

調停者の頬を、一筋の雫が伝った。

涙ではない。

白い陶器のような肌がひび割れ、そこから光が漏れ出しているのだ。

「でも……温かい」

調停者は、掴まれていた道の手に、自分の手をそっと重ねた。

拒絶の結界はもうない。

システム管理者である彼が、自ら「接触」を選んだのだ。

「システム修正アップデート。  

『個の分離』を破棄。  

『相互補完による世界構築』を……新たなルールとして承認します」

パァァァァァァァァンッ!!

調停者の体が光となって弾け飛んだ。

爆発ではない。

彼を構成していた膨大なマナが、霧散して世界へ還元されていく。

『……ありがとう、異界のレイダー。  

貴方のカバディ(接触)は、痛かったけれど……悪くなかった』

最後に残った思念が、道の脳裏に優しく響いた。


◆◆◆


ズズズズズズ……!

調停者が消滅したことで、

白い荒野――『虚無巣核ヴォイド・コア』の維持システムが崩壊を始めた。

天井の霧が晴れ、空間に亀裂が走る。

「おい、崩れるぞ! ここはもう持たねぇ!」 バルドが叫ぶ。

「脱出しましょう! 空間が閉じる前に!」 レアが叫び、全員へ指示を飛ばす。

「総員、再連結!  帰り道はジェットコースターになるわよ!  

 振り落とされないように、死んでも離すな!」

「「「了解ッ!!」」」

数千人の兵士たちが、再び手をつなぐ。

今度は戦闘のためではない。生きて帰るためだ。

「ノワール! 出口をこじ開けろ!」 道が叫ぶ。

「フン、魔族使いの荒い男だ。……魔族隊、構え!」

ノワールがパチンと指を鳴らすと、

彼と配下の魔族たちが一斉に空中に浮き上がり、

あの「空気椅子」の姿勢のまま、一列に連結した。

重力制御によって生み出された、漆黒のドリル列車だ。

「我らが道を切り拓く!

 『魔導・重力穿孔グラビティ・ドリル』ッ!」

ズガガガガガッ!!

ノワールを先頭にした魔族トレインが、崩れゆく天井の空間をねじ切って穴を開ける。

「乗れェェェッ! カバディ特急だ!!」

道の号令と共に、

ドワーフ、獣人、エルフ、炎、氷、沙海……全ての種族が一つになり、

魔族トレインの後ろに巨大な光の蛇となって繋がる。

「行くぞオオオッ!!  ストラグル!!!」

光の奔流が、次元の穴へと吸い込まれていった。


◆◆◆


ザパァァァァンッ!!

冷たい水しぶきと、潮の香り。

世界連合軍の面々は、北の海のど真ん中に放り出されていた。

「ぷはッ! ……しょっぱい!」

リィナが海面に顔を出して海水を吐き出す。

「生きてる……? 生きてるぞ!」

「戻ってきたんだ!」

兵士たちが、浮き輪代わりになったドワーフたちの鎧にしがみつきながら歓声を上げる。

空を見上げると、世界を覆っていた毒々しい紫色の雲が、嘘のように消え去っていた。

そこにあるのは、突き抜けるような青空と、眩しい太陽。

そして、海面に漂っていた黒いインクのような汚れも、

浄化されたように透明な青へと戻っていく。

「……終わったのか」

道は、波間に漂いながら、空を見上げた。

隣にはレアが浮いている(ドレスが重くて沈みかけているのを、道が支えている)。

「ええ。虚無獣の反応、完全に消失。  

あの『調停者』がマナに還ったことで、世界の循環が正常化したのね」

レアが、濡れた髪をかき上げて微笑む。

その笑顔は、今まで見たどの表情よりも晴れやかだった。

「……やったな、道」

ライラが、ずぶ濡れのエルフ耳を振るわせながら泳いでくる。

「カッカッカ! まさか神様をハグして倒すとはな!」 バルドも豪快に笑う。

そして上空には――。

「フン……。高貴な私は濡れるわけにはいかんのでな」

ノワールと魔族たちが、海面すれすれで「空気椅子」のまま浮遊していた。

足元には重力バリアが展開され、水滴一つ寄せ付けていない。

その徹底したプライドの高さに、道は呆れを通り越して笑ってしまった。

「ははは! お前ら最高だよ!」

世界中から集まった、数千人の戦士たち。

種族も言葉も文化も違う彼らが、今は同じ海に(一部は海上に)浮かび、

同じ空を見上げ、同じ勝利を喜び合っている。

道は、大きく息を吸い込んだ。

「スゥゥゥゥ……ッ」

肺いっぱいに満ちる、この世界の空気。

もう、毒ではない。

美味しくて、愛おしい、日常の匂いだ。

「……ふぅ」 道はゆっくりと息を吐き出した。

それは、戦いの終わりを告げる安堵の呼吸であり、

この世界で生きていくための、新しい「最初の呼吸」だった。

道は空を見上げ、誰に聞かせるでもなく、静かに呟いた。


「……帰還バック成功、だな」


世界という巨大なコートでの、最大のレイドが終わったのだ。

「……帰ろうぜ。みんなが待ってる」

道の言葉に、全員が拳を突き上げた。

「「「オオオオオオオオッ!!!」」」

太陽の光が、海上の英雄たちを祝福するように照らしていた。

虚無獣大戦、終結。

世界は守られ、そして「繋がった」のだ。

調停者は消え、世界のマナ循環は正常化しました。

崩れゆく空間から、魔族トレインに乗って脱出! 青い空、青い海。

もう空気は痛くありません。

これにて、虚無獣との戦いは終結です。

……あれから一年。

世界はどうなったのか? カバディはどうなったのか?

次回、最終話『カバディ、カバディ、カバディ』。

最高のフィナーレ、そして「最強のあの人」の襲来!?


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