表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第5章:虚無獣包囲網

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/70

第47話 無限の軍勢と、女王の演算

「クソッ! また起き上がりやがった!」

我波 がば・どうの拳が、目の前の虚無獣を粉砕する。

だが、白い砂となって崩れ落ちた敵は、数秒と経たずにズルリと再構成され、

何事もなかったかのように襲い掛かってくる。

場所は『虚無巣核ヴォイド・コア』の深層部。

白い荒野を進む世界連合軍の前に立ちはだかったのは、数百、数千の「不死身の兵隊」だった。

「キリがありません! 倒しても倒しても、地面から湧いてきます!」

氷刃騎士団の隊長が悲鳴を上げる。

彼の氷剣は既に数百体の敵を斬り伏せているが、

敵の数は減るどころか増えているようにさえ見えた。

重力圧縮グラビティ・プレス!」 ノワールが手をかざし、

一区画の敵をサイコロステーキのように圧縮して潰す。

しかし、その肉塊すらも互いに癒着し、巨大な泥人形となって復活する。

「……厄介だな。物理的なダメージは通っているはずだが、

 『死』という概念がないようだ」

ノワールが忌々しげに舌打ちする。

彼らのスタミナは無限ではない。

手をつないでエネルギーを循環させているとはいえ、精神的な摩耗は限界に近づきつつある。

「終わりなき戦い」という絶望が、精神攻撃よりも深く、彼らの心を蝕み始めていた。


◆◆◆


「……違う」

後方のドワーフ防衛陣の中、レア・エルフェリアは戦場を凝視していた。

彼女の瞳には、王家に伝わる解析魔法『女神の天秤ディバイン・スケール』が展開されている。 視界には無数の光のラインが走っていた。

「敵が再生しているんじゃない。

 この『場所フィールド』が、彼らを再利用リサイクルしているんだわ」

レアは気づいた。

虚無獣が倒されるたび、その残骸である白い砂が、

地面の下を通る「血管」のようなパイプラインに吸い込まれ、

再び敵の形となって押し出されていることに。

この白い荒野全体が、一つの巨大な「循環システム」なのだ。

「システムを止めない限り、私たちは一生このサンドバッグを叩き続けることになる……」

レアは唇を噛んだ。 解決策はある。

地面の下を流れる「マナの血管」――その供給結節点ノードを破壊すればいい。

だが、そのノードは戦場のあちこちに点在しており、

乱戦の中で正確に狙うことは不可能に近い。 言葉で指示していては間に合わない。

(どうすれば……。私の「目」を、全員に貸すことができれば……)

その時、道の言葉が脳裏をよぎる。

『指先から伝わる情報を共有し、全員が一つの生き物になる』

レアは顔を上げた。

彼女はドレスの裾を翻し、防衛陣を飛び出した。

「姫様!? 危険です!」

護衛のドワーフが叫ぶが、レアは止まらない。

彼女は最前線で拳を振るう道の背中へ駆け寄ると、

その空いている左手をガシッ! と掴んだ。

「道! 私を『回路パス』に入れて!」

「レア!? お前、戦闘タイプじゃ……」

「いいから繋いで!  私の『視界』を全員と『同期シンクロ』させるわ!」

道の目が驚きに見開かれ、そしてニヤリと笑った。

「……へっ、無茶しやがる。  

だが、そいつは面白ぇ!」

道が握り返した瞬間、レアの意識が「圧導」のネットワークに接続された。

数千人の兵士たちの息遣い、筋肉の熱、焦燥感……それらが一気に流れ込んでくる。

普通の人間なら発狂するほどの情報量。

だが、レアは王女としての強靭な精神力でそれをねじ伏せ、逆に自分の意思を流し込んだ。

『総員、傾聴リッスン!  

 これより、敵の「再生回路」を断つ!  

 私の「目」に従って動きなさい!』

キィィィィン……!

その瞬間、戦場にいる全員の脳内に、奇妙な映像が浮かんだ。

それはレアが見ている世界。

白い荒野の地面の下に脈打つ、赤黒い「血管」と、それが交差する「急所」の光景だ。

「なんだこれ!? 地面が透けて見えるぞ!」

「ここを狙えってことか!?」

『ええ。言葉はいらない。

 私が「そこ」を見たら、そこが標的ターゲットよ!』

レアの視線移動アイ・トラッキングに合わせて、全員の体が動く。

これはもはや指揮ではない。

レアという「脳」が、数千の手足を直接動かしている状態だ。

「エルフ隊、3時の方向! 地下2メートル!」 レアが視線を向ける。

「見えたッ!」 ライラたちエルフが、何もない地面に向けて一斉射撃を行う。

ドゴォォン! 地面が吹き飛び、露出した「赤い血管」が破裂した。

すると、そのエリアにいた虚無獣たちが、砂のように崩れ落ちて二度と再生しなくなった。

「効いてるぞ! 次だ!」

「炎隊、氷隊! 正面12時! 凍らせてから砕け!」

「了解ッ! 『冷凍粉砕フリーズ・クラッシュ』!」

レアの視線誘導に従い、的確な破壊工作が行われていく。

彼女は戦場の全てを俯瞰し、最適な兵種を、最適なタイミングで動かしていた。

それはまるで、

彼女が得意とする机上の盤面遊戯シミュレーション・ゲームのように洗練されていた。

「すげぇ……。あいつ、本当に戦いの素人かよ」 道は、手を繋いだレアの横顔を見て舌を巻いた。 彼女の手は震えている。

冷や汗もかいている。

だが、その瞳だけは王者の輝きを放ち、戦場を支配していた。

「……道、右!」

「おうよ!」

レアが視線を向けた先、死角から迫っていた巨大な再生個体。

道は考えるより先に体が反応し、その「核」を正確に撃ち抜いていた。

再生停止シャットダウン。エリアクリア』

レアが呟くと同時に、最後の虚無獣が崩れ落ちた。

今度こそ、白い砂は動かない。

静寂が戻った荒野に、兵士たちの荒い息遣いだけが響く。

「……やった……か?」

勝利を確信した瞬間、レアの膝から力が抜けた。

「っと!」 道が慌てて支える。

「おい、大丈夫か?」

「……ええ。ちょっと、情報量が多すぎて……知恵熱が出そう……」

レアがこめかみを押さえて苦笑する。

数千人と感覚を共有するという荒業。

脳への負担は計り知れない。

だが、彼女はやり遂げた。

「よくやった。  お前は最高の『監督カントク』であり……俺たちの『司令塔』だ」

道はレアの頭をポンと撫でた。

普段なら不敬だと怒るかもしれないが、今のレアは心地よさそうに目を閉じた。

現場で戦う選手プレイヤーたちを導き、勝利へ導いた彼女は、

紛れもなくこのチームの監督だった。

「……進みましょう。血管の供給元ソースが、この先にあるわ」

再生システムを破壊されたことで、白い霧が晴れていく。

その先に現れたのは、荒野の果てに鎮座する、

黒曜石で作られた巨大な「玉座」のような建造物だった。

そして、その玉座には。

一人の「人間」が座っていた。

いや、人間ではない。 人の形をしているが、

その肌は陶器のように白く、

目には白目がなく、

全黒の瞳が虚空を見つめている。

全身から溢れ出るマナの量は、あの「虚無王」すら赤子に見えるほどだ。

「……ようこそ、異物の皆さん」

その男(?)が、口を動かさずに、全員の脳内に直接語りかけてきた。

「私は『調停者アービター』。  

この星のバグを修正するために遣わされた、管理システムです」

ラスボス――あるいは、黒幕の登場。

世界連合軍の前に、最後の絶望が立ち上がった。


レアの覚醒により、再生システムを破壊! ついに玉座へ辿り着きました。

そこにいたのは、世界をバグだと断じる管理者「調停者アービター」。

「混ざるな、個に戻れ」 彼が指を鳴らした瞬間、全員の手が強制的に弾かれました。

連携チェーン封じ。

カバディ最大の危機です。

しかし、道は笑います。 「守備アンティができないなら……全員で攻撃レイドすればいいだろ?」

次回、『数千の攻撃手レイダーと、たった一人の守備手アンティ』。

ひとりぼっちの神様を、全員で囲んで「タッチ」します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ