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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第5章:虚無獣包囲網

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第43話 二段ベッドの上下と、指先の会話

「……あのな、言っておくが」

「なんだ」

「スープが飲めん」

世界カバディ連盟本部の巨大食堂。

そこは今、戦場よりもピリピリとした、しかしどこか滑稽な空気に包まれていた。

テーブルに向かい合って座っているのは、

炎のフレアの巨漢戦士と、

氷刃王国グラシアの騎士だ。

彼らは共に屈強な男性同士だが、

その右手と左手はガッチリと、

恋人のように指を絡ませて繋がれている。

我波 がば・どうの命令通り、食事中も解除は許されていないからだ。

「貴様がスプーンを持つたびに、私の腕が引っ張られる。スープがこぼれるのだ」

「知るかよ!

 そもそもお前の手が冷たすぎて、俺の右半身の血流が悪くなってんだよ!

 凍傷にさせる気か!」

「こっちの台詞だ! 貴様の手は溶岩か! 氷の魔力回路が狂う!」

カチャン、カチャンと食器がぶつかる音が響く。

他のテーブルでも同様だ。

道は配慮として、基本的には「同性同士」で、かつ「相性の悪い種族」をペアに指名していた。

だが、それでもストレスはマッハだ。

獣人の女性戦士は、

魔族の女性兵士が無表情で食べるリズムが気になって肉を喉に詰まらせ、

ドワーフの男性兵士は、

エルフの男性兵士が野菜の筋を取る細かい作業にイライラして貧乏ゆすりをしている。

世界最強の戦士たちが、スプーン一杯のスープを飲むために、

顔を真っ赤にして四苦八苦しているのだ。


◆◆◆


「……地獄絵図だな」

食堂の隅で、道が苦笑いしながらコーヒーを啜る。

隣には、優雅に紅茶を飲むレア・エルフェリアの姿があった。

「でも、見て。誰も手を離そうとはしていないわ」

レアがカップの縁越しに視線を送る。

「トイレや入浴時は『魔法の伸縮ロープ』に切り替えてプライバシーを確保する

 ……という逃げ道を与えたのが功を奏したわね。

 完全に拘束されていたら、今頃暴動が起きているわ」

「ああ。そこまで鬼じゃねぇよ。

 だがあいつら、真面目だ。

 『手を離した方が負け』だと思っているし、

 何より『キャプテンの命令オーダー』を遂行できない無能だと思われたくない。

 ……必死に耐えている」

確かに、文句は言いつつも、彼らの指は白くなるほど強く握られていた。

「仲良しこよし」ではない。

これは彼らにとって、敵と戦う前の「自分との戦い」なのだ。


◆◆◆


その日の深夜。

各国の宿舎では、奇妙な就寝風景が繰り広げられていた。

個室を与えられた隊長クラスの部屋。

ここだけは、立場の違う二人がペアを組まざるを得なかった。

エルフ代表のライラ(女性)と、ドワーフ代表のバルド(男性)である。

「……最悪」

ライラは、二段ベッドの上段から、恨めしげに声を漏らした。

彼女はベッドの柵からダラリと左腕を垂らしている。

その手は、下段から伸びるバルドの右腕と、ガッチリと握り合わされていた。

男女同室ではあるが、流石に添い寝ではない。

二段ベッドの上下という配置で、かろうじてプライバシーと健全さは保たれていた。 だが、一晩中腕を伸ばし続ける体勢がキツイことには変わりない。

「おいヒゲ達磨、寝返り打たないでよ。私の腕が持っていかれる」

「うるさいわい! ワシだって腕を上げっぱなしで血が下がらんのじゃ!  

……だいたい、なんでワシと貴様がペアなんじゃ。

他にもいただろうに」

バルドが下段からブツブツと文句を言う。

ライラも言い返そうとして……ふと、口を閉ざした。

繋いだてのひらを通して、バルドの脈動が伝わってきたからだ。

ドワーフ特有の、大地のように重く、遅い鼓動。

対してエルフの鼓動は、小鳥のように速く、繊細だ。

最初は不快なノイズだった。

だが、静かな部屋でその「ズレ」を感じ続けていると、不思議な感覚に陥った。

(……意外と、温かい?)

ライラは驚いた。 ドワーフのマナは、ただ硬いだけだと思っていた。

だが、無防備な睡眠状態の彼から流れてくるのは、マグマのように熱く、

しかし暖炉の火のように安定した、安心感のある波動だった。

それは、神経質なライラが普段感じている「張り詰めた弦」のような緊張を、

ゆっくりと緩めてくれるような重厚さを持っていた。

(お爺ちゃんの家の暖炉みたい……)

ライラは無意識に、自分の張り詰めていた神経を、その「温かい流れ」に委ねてみた。

自分の速すぎる鼓動を、バルドのゆったりとしたリズムに重ねるように。

スゥ……。

下段からは、バルドの豪快ないびきが聞こえてくる。

普段なら殺意を覚える騒音だが、今はそれが、頼もしいベース音のように聞こえた。

「……悪くないじゃない」

ライラは小さく呟き、垂れ下げた手をギュッと握り返すと、泥のような眠りに落ちていった。


◆◆◆


翌朝。

朝練のためにグラウンドへ集合した戦士たちの顔つきは、昨日とは明らかに違っていた。

目の下のクマは酷いが、纏っている空気の「角」が取れている。

「……おい、エルフ」

バルドが、繋がれたままの手をぶら下げて、隣のライラに声をかけた。

「貴様の指、細すぎて折れそうじゃ。もっと肉を食え」

「余計なお世話よ。……でも、貴方の手からの熱、カイロ代わりにはなったわ」

ライラがふん、と鼻を鳴らすが、その手はバルドの手をしっかりと握ったままだ。

二段ベッドの上下で一晩過ごした奇妙な連帯感が、

二人の間に「戦友」のような空気を生んでいた。

道がその光景を見て、ニヤリと笑った。

「よし。顔色が少しはマシになったな。

 なら、昨日の続きだ。

 ペアのまま、全力疾走ダッシュ100本!」

「「「イエッ・サー!!」」」

以前のような悲鳴はない。

彼らは走り出した。

身長も、歩幅も、身体能力も違う異種族同士。

本来なら走りにくくて仕方がないはずだ。

だが。

「っと……!」 炎の戦士がつまづきかけた瞬間、

隣の氷の騎士が、繋いだ手を引いてバランスを立て直させた。

言葉での合図はない。

繋いだ手から伝わった「重心のズレ」を感知し、反射的にサポートしたのだ。

「悪い!」

「礼には及ばん。貴様が転ぶと私も巻き添えだからな」

別の場所では、獣人が魔族の歩幅に合わせてスピードを調整し、

魔族が重力制御で獣人の負荷を減らしていた。

(……すごい) レアが目を見張る。

昨日までは「相手に合わせよう」として、頭で考えて失敗していた。

だが今は、「相手を感じて」体が勝手に動いている。

手首の脈動、体温の変化、筋肉の収縮……

それらを「情報」として共有し、自律神経レベルで同期し始めているのだ。

「これが『カバディ』の本質か……」

沙海拳宗の達人が、繋がれた相手エルフの呼吸に合わせて砂の上を滑りながら感嘆する。

「個を捨て、全となる。我々が求めていた境地が、

 まさか『手をつなぐ』ごときで得られるとは」

道が腕を組み、満足げに頷く。

「そうだ。

 カバディは『狩り』だ。

 言葉で会議してる暇なんてねぇ。

 指先から伝わる0.1秒の情報を共有し、全員が一つの生き物になる。

 ……回路パスは繋がったみたいだな」

道は笛を咥えた。

「よぉし! 基礎訓練は終わりだ!

 今からペアを『4人組カルテット』にする!

 難易度倍増だ! 泣き言言うなよ!」

「望むところだァッ!」

「やってやるわよ!」

グラウンドに、頼もしい声が響く。

昨日までの不協和音は消え、そこには、異なる楽器が互いの音を聴き合いながら奏でる、

まだ拙くも力強い、新たな「交響曲」の始まりがあった。


文句を言いながらも、手をつないで寝ることで「相手の脈拍」を知ったライラとバルド。

言葉よりも深い部分で、同期シンクロが始まりました。

これで基礎はバッチリです。

さあ、次は実戦。 舞台は足場の悪い「海の上」。

揺れる船上で、即席ペアの真価が問われます。

次回、『海上の防壁と、呼吸する波』。

氷の上を炎で滑る!?

新しい連携が炸裂します!


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