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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

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第40話 世界(カバディ)

人類の反撃が始まったその時、虚無将軍ヴォイド・ジェネラルたちが奇妙な行動に出た。

彼らは互いの体を液状化させ、中心の一点に向かって急速に融合を始めたのだ。

「……逃げる気か? いや、違う!」

我波 がば・どうが警戒の声を上げる。

融合した黒い塊は、王都の城壁よりも高く膨れ上がり、天を衝く巨人の姿へと変貌した。

頭部には王冠のように捻じれた角。

その体は「影」よりも深く、光さえも吸い込む「虚無」そのもの。

虚無王ヴォイド・ロード

この星の生存本能が生み出した、文明をリセットするための最終兵器。

『オオオオオオオオオオ……』

虚無王が咆哮するだけで、空間に亀裂が走り、物理結界がガラスのように砕け散った。

圧倒的な質量と、存在の否定。

奴が足を一歩踏み出すだけで、大地が円形に消失していく。

「で、でかい……! あんなの、どうやって掴めって言うのよ!」

リィナが尻尾を逆立てて叫ぶ。

奴の体は完全な虚無だ。

触れようとした端から、こちらの手が消滅してしまうだろう。

「……掴ませてやるさ」

その時、空から重低音が響いた。

見上げれば、黒い雲を割って、巨大な「円環」が降ってくる。

それは数百人の魔族たちが空中で肩を組み、高速で回転しながら落下してくる姿だった。

「待たせたな、道! レア姫!」

「ノワール!?」

空飛ぶ円環の中心で、ノワール・ヴェイルが叫ぶ。

彼ら魔族軍は、マナの放出ではなく「重力制御」で空を飛び、駆けつけたのだ。

「総員、展開!

 『魔導・無限軌道メビウス・トレイン』・重力檻グラビティ・プリズン!!」

魔族たちが虚無王の頭上で円を描き、ワッせワッせと猛烈なピストン運動を開始する。

発生した超重力が、虚無王の巨体を地面に縫い付けた。

『グ、オオオオ……!?』

虚無王の動きが止まる。

重力だけは、実体のない影をも逃がさない。

「今だ道! 奴をこの星に繋ぎ止めろ!!」

ノワールの合図と共に、道が走った。

恐怖はない。

迷いもない。

背後には、信頼できる仲間たちがいる。

「うらぁぁぁぁぁっ!!」

道は虚無王の足元に滑り込み、その巨大な足首(のような影)に両腕を回した。

ジュッ!

皮膚が焼けるような音がして、道の腕から煙が上がる。

虚無が道の存在を侵食し始めたのだ。

だが、道は離さない。

「ストラグル(捕縛)ッ!! 繋げぇぇぇぇ!!」

道の叫びに応え、リィナが飛び出し、道の腰をガッチリと掴んだ。

そのリィナの腰をバルドが掴み、バルドの腕をライラが掴む。

獣人が、ドワーフが、エルフが、人間が。

次々とその列に加わり、王都の広場を埋め尽くす長大な一本のチェーンが完成した。

「全軍、循環パス開始!」

城壁の上で、レア・エルフェリアがタクトを振り下ろす。

「呼吸を合わせなさい!

 この星に生きる全ての命を、道へ!

 食らえ、『世界鎖ワールド・チェーン』!!」

ドクンッ!!

世界が脈動した。

数万、数十万の戦士たちが一斉に息を吸い込む。

大気中のマナが枯渇するほどの勢いで吸い上げられ、チェーンの中を奔流となって駆け巡る。

エルフの繊細な波長調整。

ドワーフの強靭な増幅回路。

獣人の爆発的な加速。

魔族の重力による圧縮。

……全ての種族の特性が混ざり合い、

光り輝くエネルギーの濁流となって、

先頭の道へと注ぎ込まれる。

「ぐ、うおおおおおおおおっ!!」

道は歯を食いしばり、全身の血管を浮き上がらせて耐えた。

背後から押し寄せるのは、星そのものの質量だ。

普通なら体が破裂して消し飛ぶ。

だが、彼には「カバディ」で三人の師の英才教育によって鍛え上げられた鋼のインナーマッスルと、

何より「仲間を繋ぐ」という強靭な意志があった。

「受け取れェェェ! 虚無王ッ!!」

道は、受け取った全てのエネルギーを、掴んでいる虚無王の体内へ叩き込んだ。

『ガ、アアアアア……!?』

虚無王が悲鳴を上げる。

奴は「無」だ。

あらゆるエネルギーを消滅させる穴だ。

だが、注ぎ込まれる量が、消滅させる速度を遥かに上回っていた。

許容量オーバー(オーバーフロー)。

空っぽの胃袋に、無理やりコンクリートを流し込まれるようなものだ。

虚無であるはずの奴の体が、内側から光り輝き、輪郭を持ち始める。

実体化もどれ!

 この世界に!

 俺たちの目の前に!

 引きずり出してやるッ!!」

道が更に強く締め上げる。

虚無王の体が黒から白へ、そして硬質な物質へと変質していく。

「存在」を強制されたのだ。

『カ、バ……ディ……』

虚無王の口から、掠れた声が漏れた。

それは敗北の言葉か、あるいはこの星のことわりを受け入れた証か。

「トドメよ! 全員、全ての『生』を注ぎ込みなさいッ!!」

レアが叫ぶ。

道は血管が切れるほどの力で、実体化し始めた虚無王を締め上げた。

「これが俺たちの、捕縛ストラグルだぁぁぁぁぁっ!!!」

道の絶叫が響く。

それに呼応するように、世界中の戦士たちも喉の限りに吼えた。

「「「ウオオオオオオオオオオッ!!!」」」

「「「いけえええええええええッ!!!」」」

「「「押し込めぇぇぇぇぇぇッ!!!」」」

数万人の魂の咆哮が重なり、物理的な衝撃波となって虚無王を貫いた。  

実体化し、硬直したその巨体に、ひびが入る。

ピキ、パキ、バキキキキッ……。

そして。

ドッゴォォォォォォォン!!!!!

虚無王は内側から砕け散った。

破片は光の粒子となり、天へと昇っていく。

それはまるで、星が深呼吸をしたかのような、清々しい最期だった。


◆◆◆


戦いが終わり、朝日が昇る。

王都の広場には、疲れ果てて眠る兵士たちや、抱き合って喜ぶ異種族たちの姿があった。

もはや種族の壁などない。彼らは一つの鎖で繋がった「仲間」なのだから。

「……終わったわね」

城壁の上で、レアが朝焼けを見つめる。

その隣に、包帯だらけの道が座り込んだ。

「ああ。……しんどかったぜ、まったく」

道は笑い、痛む体をさすった。

彼の手のひらには、虚無王を掴んだ時の火傷が残っている。

だが、それは名誉の負傷だ。

「ねえ、道。虚無獣はいなくなったのかしら」

「さあな。奴らはこの星の自浄作用だ。文明がある限り、またいつか現れるかもな」

道は空を仰いだ。

だが、もう不安はない。

「でも、次はもっと上手くやれるさ。

 俺たちには『カバディ』がある。

 手をつなぎ、呼吸を合わせ、生きていく術がな」

レアは微笑み、道の手をそっと握った。

その手は温かく、力強かった。

「ええ。……ありがとう、キャプテン。

 あなたが教えてくれたこの熱を、私は一生忘れないわ」

風が吹く。

それはかつてのような不穏な風ではない。

新たな時代を運ぶ、優しく、力強い風だった。

異世界に迷い込んだ一人のカバディ選手。

彼が伝えたマイナースポーツは、種族を超え、国境を超え、世界を救う「生存戦略」となった。

その伝説は、長く、長く語り継がれることになるだろう。


「これが俺たちの、捕縛ストラグルだぁぁぁぁぁっ!!!」

数万人が手をつなぎ、星のマナを循環させ、虚無を実体化させて粉砕する。

これにて第4章「世界巡業・王都防衛編」、完結です!

……しかし、これで終わりではありません。

虚無王は倒しましたが、奴らを生み出していた「ネスト」と、それを操る「真の黒幕」はまだ深海に眠っています。

本当の平和を取り戻すまで、チーム《風》の戦いは終わりません。

そしてその前に、解決しなければならない大問題が。

「ドワーフと獣人、仲が悪すぎて連携が取れない問題」。

これを解決するには……「手つなぎ合宿」しかありませんね?

次回、最終章(第5章)『調停者とカバディ』編、スタート!

敵の本拠地へ殴り込み!

そして明かされる、この世界の「バグ」の正体とは――。

最後まで、キャントを止めるな!

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