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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

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第39話 集結する星の鼓動

女神国エンシアの王都。

この世界で最も美しく、マナに愛されたと言われる白亜の城塞都市は今、ドス黒い絶望に飲み込まれようとしていた。

「ひるむな! 結界を維持しろ! 一匹たりとも通すな!」

近衛騎士団長の叫びが、爆発音にかき消される。

王都を包囲しているのは、地平線を埋め尽くすほどの虚無獣の大群。

そして、その先頭に立つ数体の「人型」――虚無将軍ヴォイド・ジェネラルたちだった。

彼らは言葉を発しない。

ただ、指揮者のように腕を振るうだけだ。

すると、虚無獣たちが黒い霧状の「影」へと変化し、城壁や物理結界を煙のようにすり抜けていく。

「だ、だめだ! 剣が当たらない!」

「魔法も効かない! 奴ら、実体がないぞ!」

城壁の上で兵士たちが悲鳴を上げる。

物理攻撃無効。魔法攻撃対消滅。

最強の矛と盾を持っていたはずの人類は、成すすべなく蹂躙されていた。

ズズズズ……!

正門前の空間が歪み、巨大な虚無将軍の一体が、門を「透過」して城内へ侵入する。

その手が、逃げ遅れた兵士に伸びた。

「や、やめ……」

ドガァッ!!

兵士が消滅する寸前、横から飛び込んだ影が、将軍の腕を蹴り飛ばした。

「……チッ。やっぱ殴った感触がねえな」

我波 がば・どうが、痺れる足を振りながら着地する。

その背後には、荒い息を吐くレア・エルフェリアの姿があった。

二人は国境要塞から不眠不休で駆け戻り、そのまま防衛戦に参加していたのだ。

「道! 無事!?」 「ああ。だが、分が悪い」

道が睨みつける先で、蹴り飛ばされたはずの虚無将軍が、ゆらりと立ち上がる。

その体は陽炎のように揺らぎ、ダメージを受けた様子はない。

「攻撃が当たるのは一瞬。向こうが『触れてくる』時だけだ。

 カウンターを合わせようにも、数が多すぎる」

道一人なら、神業的な回避とカウンターで凌げるかもしれない。

だが、守るべき王都は広大だ。無数の「影」が壁を抜け、市街地へ雪崩れ込んでいる。

「……終わりだ」

「王都が落ちる……!」

兵士たちの心が折れる音が聞こえた。

空を覆う黒い雲。迫りくる不死身の影。

希望など、どこにもないように見えた。

――その時だ。

ヒュオオオオオオオッ!!

東の空から、突風のような「音」が届いた。

いや、それは風切り音ではない。

何か巨大なものが、超高速で飛来する音だ。

「……なんだ?」

虚無将軍が空を見上げる。

次の瞬間。

ズドォォォォォォォォン!!!!!

王都の東門付近に着弾した「それ」は、凄まじい衝撃波を撒き散らしながら、群がる虚無獣たちを吹き飛ばした。

土煙が晴れると、そこにはクレーターの中心に突き刺さった、一本の巨大な「氷の槍」があった。

そして、その上に仁王立ちする、見覚えのある巨躯。

「ガハハハハ! 待たせたな道! 相変わらず貧弱な壁じゃのう!」

「……バルド!?」

道が目を見開く。

北方・氷刃王国へ行っていたはずのドワーフ、バルドだ。

彼は一人ではない。

その後ろから、氷の盾を持った騎士団と、戦斧を担いだドワーフの連合軍が、地響きを立てて現れた。

「通信が切れたくらいで死んだと思うなよ!

 ワシらドワーフと氷の騎士が手を組めば、影ごとき氷漬けにして砕くのみじゃ!」

バルドの豪快な笑い声に、戦場がどよめく。

だが、驚きはそれで終わらなかった。

ゴオオオオオオッ!!

今度は南の森が燃え上がった。

紅蓮の炎を纏い、砲弾のように突っ込んできたのは、獣人族の戦士たちだ。

その先頭を走るのは、虎の耳と尻尾をなびかせた少女。

「遅いよバルドのおっちゃん! 一番乗りは私たちがもらうはずだったのに!」

「リィナ!」

チーム「風」の攻撃手、リィナだ。

彼女が引き連れているのは、炎の国の巨漢戦士たちと、獣人連邦のスピードスターたち。

本来なら相性最悪の「炎」と「獣」が、互いに手を取り合い、高速の炎となって戦場を駆け巡る。

「影だろうが何だろうが、燃やし尽くすまで殴ればいいんだよ! いけえええッ!」

そして、最後は西から。

ヒュンッ。

音もなく、虚無将軍の足元の砂が爆発した。

「……お待たせ。ちょっと砂嵐で遅れたわ」

砂煙の中から現れたのは、長い耳を持つエルフの美女――ライラだ。

彼女の背後には、砂漠の民である沙海拳宗の武闘家たちと、エルフの弓兵部隊が控えている。

静と動。砂と風。相反する二つの力が、美しい陣形を描いて展開する。

「ライラ……!」

レアがへたり込みそうになる足を踏ん張った。

涙が溢れてくる。

生きていた。みんな、生きていた。

それだけではない。

彼らは各国の生存者を率い、かつてない規模の「異種族連合軍」となって、この王都へ集結したのだ。

「……へっ、役者は揃ったな」

道がニヤリと笑う。

絶望的な包囲網は、今や逆に、世界中の猛者たちによる「逆包囲網」へと変わっていた。

「レア! マニュアルだ!」

「ええ!」

レアが懐から『世界統一カバディ戦術教本』を取り出し、高々と掲げた。

同時に、拡声魔法を最大出力で発動させる。

『全軍、聴きなさい!』

王女の声が、戦場の隅々まで響き渡る。

それは震える少女の声ではない。世界を統べる指揮官マエストロの声だ。

『敵は物理無効の「影」! 普通に殴っても当たりません!  だから……「掴む」のよ!』

バルド、リィナ、ライラ、そして各国の戦士たちが一斉にレアを見る。

『ドワーフと氷刃は最前列で壁を作り、敵を受け止めなさい!

 獣人と炎国は遊撃隊! 敵を壁へ追い込みなさい!

 エルフと沙海は後方支援! 敵の足を止めなさい!』

レアがタクトを振るうように手をかざす。

『そしてキャプテンが敵を掴んだ瞬間……全員で「繋がる」の!

 世界中のマナを、エネルギーを、一つの巨大なチェーンにして、奴らの「虚無」に流し込む!

 腹が裂けるくらい、私たちの「生」を食らわせてやるのよ!』

その言葉の意味を、戦士たちは瞬時に理解した。  殴り合いではない。これは「綱引き」であり、命の押し付け合いだ。

「「「オオオオオオオオオッ!!!」」」

世界中の咆哮が重なった。

大地が震える。

虚無将軍たちが、初めて「後退」の姿勢を見せた。

彼らも本能で悟ったのだ。

目の前に現れたのは、ただの餌ではない。

自分たちを捕食しうる、巨大な「星の獣」だと。

「さあ、始めようぜ」

道が前に出る。

その背中には、世界中の仲間たちの視線と、信頼と、エネルギーが繋がっている。

「これが俺たちの、最初で最後の『世界合同作戦グランド・ミッション』だ。

 ……カバディッ!!!」

道のキャントと共に、人類史上最大の反撃が始まった。

星の鼓動が一つになり、虚無の闇を打ち払う光となって炸裂する。

次はいよいよ、決着の時だ。


氷の槍、炎の突撃、砂の爆発。 死んだと思われていた仲間たちが、世界中の戦士を引き連れて帰ってきました!

レアの指揮の下、種族を超えてつながる「逆包囲網」。

しかし、敵も奥の手を出してきます。

虚無将軍たちが融合し、天を突く巨人「虚無王」へ。

触れるだけで消滅する相手を、どうやって掴むのか?

空から「あのタイツ軍団」が降ってきます!

次回、第4章クライマックス。 『世界カバディ』。

星中の命を繋いで、ぶん投げろ!!


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