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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

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第37話 国境の不協和音(ディスコード)

ウィンド」の馬車は、エルフの森とドワーフの山岳地帯が接する国境地帯

――要塞都市ベルグ・ミールに到着した。

ここは、レアが考案した「異種族合同戦術」を試験的に運用する、世界初の実験場である。

「おお! 待っておったぞ、道! レア姫!」

出迎えたのは、この要塞に駐留しているドワーフの守備隊長ガンテツと、

エルフの弓兵部隊長フィリアだった。

二人はそれぞれの種族を代表する指揮官だが、その表情には奇妙な「自信」が漲っていた。

「道殿、心配には及びませんぞ。我らドワーフは『焦熱溶鉱炉』により、

遠距離攻撃すら手に入れましたからな!」

「私たちエルフもです。

 『高周波キャント』があれば、

 苦手だった接近戦も敵が近づく前に殲滅できます」

我波 がば・どうは、その言葉に微かな違和感を覚えた。

彼らは「強くなった」のではない。

「勘違い」をしている気がする。

その予感は、すぐに最悪の形で的中することになる。


◆◆◆


ウウウウウウウウウッ!!

要塞に敵襲を告げるサイレンが鳴り響く。

「虚無獣だ!

 二方向から接近!

 上空より『飛行型(ガーゴイル種)』多数!

 地上より『突撃型(オーガ種)』多数!」

最悪の組み合わせだった。

空を飛び回るガーゴイルと、強靭な肉体で突っ込んでくるオーガ。

本来なら、ドワーフが前でオーガを止め、エルフが後ろからガーゴイルを落とすべき場面だ。

だが、彼らは「新しい力」に酔っていた。

「エルフ隊、構え! 接近するオーガなど、我らの『高周波』で脳を揺らして終わりです!」

「ドワーフ隊、前へ! 空のコウモリごとき、我らの『エネルギー弾』で撃ち落としてくれるわ!」

あろうことか、彼らは相性の悪い敵に向かってしまった。

自分たちはもう、かつての弱点だらけの種族ではないと証明するために。

「放てェッ!!」

両軍が同時に、必殺の圧導カバディ技を繰り出す。  しかし、結果は無残だった。

キィィン……!

エルフの高周波は、オーガの分厚い脂肪と筋肉に吸収され、突進を止められない。

ドワーフのエネルギー弾は、空を舞うガーゴイルに軽々と躱され、逆に防御力がゼロになった隙を突かれて空襲を受ける。

「な、効かない!? 嘘でしょう!?」

「ぐあああッ!? 盾が……力が入らん……!」

エルフはパニックに陥り、ドワーフは鎧を溶かされて悲鳴を上げる。

戦場は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図となり、崩壊の一途を辿った。

「道! 助けないと! このままじゃ全滅するわ!」

レア・エルフェリアが叫び、戦場へ駆け出そうとする。

だが、その肩を強い力が掴んだ。

「待て、レア」

「放して! 見殺しにする気!?」

「違う」

道はレアの耳元に顔を寄せ、誰にも聞こえない声で囁いた。

「今、俺たちが正面から介入したら、あいつらは一生『圧導』の本質を理解できねぇ。

 ……自分の愚かさを噛み締める時間が必要だ」

「でも、死んでしまったら元も子もないわ!」

「死なせはしねぇよ」

フッ。

道の気配が消えた。

レアが瞬きをした次の瞬間、隣にいたはずの道の姿は掻き消えていた。

カバディレイダーの奥義――呼吸を完全に制御することによる、究極の隠密行動ステルス


◆◆◆


戦場では、絶望的な殺戮劇が続いていた……はずだった。

「ひぃッ!?」

一人のエルフの少女が転倒し、目前にオーガの巨大な棍棒が振り下ろされる。

誰もが「死んだ」と思った。

だが。

ガィン!!

不可解な金属音が響き、棍棒の軌道がわずかに逸れた。

棍棒は少女の髪を数本散らしただけで、地面に激突する。

「え……?」

少女は震えながら、自分が生きていることに驚愕した。

一方、ドワーフ側でも奇妙な現象が起きていた。

ガーゴイルの鋭利な爪が、無防備なドワーフの喉元を切り裂こうとした瞬間。

バシッ!!

見えない何かに爪が弾かれ、ドワーフはかすり傷一つで済んだ。

(……なんだ? 今、誰かに襟首を引っ張られたような……)

戦場全体で、そんな「奇跡」が頻発していた。

致命傷になるはずの一撃が、紙一重で逸れる。

死ぬはずの落下が、何かにクッションされて助かる。

その全ては、戦場を疾風のように駆け抜ける「見えざる影」の仕業だった。

道は呼吸を消し、気配を断ち、超高速で戦場を移動していた。

決して敵を倒しはしない。

ただ、戦士たちの死に直結する攻撃だけを、

指先一つ、

足払い一つで微修正し、

軌道を変えているのだ。

(くそっ、世話の焼ける連中だ……!)

この神業を可能にしているのは、師・セリアから授かった『静の呼吸』、そして道の特異体質だった。  

こちらの世界の生物は、体内にマナを取り込んでいるため、生きているだけで体からマナが滲み出てしまう。

このマナの放散が、気配探知の目印となってしまうのだ。  

隠密の達人であるセリアは、『静の呼吸』によってマナの流動を極限まで減らし、

滲みを最小限に抑えることで気配を消していた。

さらに、体表面に光学迷彩のマナ膜を展開することで、視覚的にも姿を欺く。

マナ膜は安定した状態なので、滲み出てしまうマナとは違い、マナとしては感知されない。

だが、道はさらにその上を行く。  

この世界で唯一の『マナ不導体』である道は、呼吸を止めるだけで、

外部へのマナの滲出を物理的に完全に遮断できるのだ。

これで気配は消える。  

問題は視覚的な隠蔽だが、それも解決済みだった。  

道の体内で育っている「マナ結晶」。

現在、拳大にまで成長しているその高密度のマナの塊から、

カバディの技術である『圧導』の要領でマナを引き出し、体表面へと伝える。  

そうして展開された高密度のマナ膜は、完璧な光学迷彩となる。

セリアが体内に薄く蓄えられたマナを高度な技術でやり繰りし、短時間しか姿を消せないのに対し、

道は言わば「大容量バッテリー」を直結しているようなものだ。  

一箇所に蓄えられた結晶からエネルギーを取り出すため、持続時間は桁違い。  

マナ不導体による完全遮断と、マナ結晶による無尽蔵の光学迷彩。  

この二つが組み合わさることで、道はこの世界最強の隠密インビジブルと化していた。

活動のための必要最低限の呼吸を行い、風のように走り抜けながら、内心で毒づく。

彼の目的は「死なせないこと」であり「勝たせること」ではない。

痛い思いはさせる。恐怖も味わわせる。だが、命だけは繋ぎ止める。

それは神業に近い、超人的な隠密防御ステルス・アンティだった。

「隊長! 負傷者多数! ですが……不思議と死者はゼロです!」 「なんだと!? この乱戦でか!?」

 ガンテツとフィリアは、報告を聞いて耳を疑った。  だが、現状が「運良く」首の皮一枚で繋がっていることに変わりはない。  そして、その幸運も長くは続かないことを、彼らは本能で悟った。

(今は運が良いだけだ……次は死ぬ!)

(何か……何か変えないと、全滅する……!)

極限の恐怖と、道の隠密サポートによって生まれた「猶予」が、彼らの思考を正常化させた。

プライドなどという無駄な荷物を捨てさせた。

オーガの棍棒がフィリアに迫る。

ガーゴイルの爪がガンテツを狙う。

道のサポートの手が届かない、同時多発的な死の瞬間。

「…………ッ!!」

二人の体が勝手に動いた。

ガンテツは空の敵を無視してエルフの前へ飛び出し、フィリアは地上の敵を無視してドワーフの背後を狙った。

ドガァァァン!!

ガンテツが体を張ってオーガを弾き飛ばす。

キィィィィン!!

フィリアの放った高周波の刃が、ガンテツを狙っていたガーゴイルを撃ち落とす。

カチリ。

パズルのピースがハマった音がした。

「ドワーフ隊!

 全員、エルフの前へ出ろ!

 攻撃などするな、

 エネルギーは全て『防御アンティ』に回せ!

 一歩も通すな!」

「エルフ隊!

 ドワーフの背後へ!

 矢を捨てなさい!

 私たちの声で、空の敵を全て撃ち落とすの!」

戦場が動く。

正しい配置に戻った彼らは、もはや無敵だった。

ドワーフの鉄壁がオーガを止め、エルフの狙撃がガーゴイルを落とす。

一方的な殲滅戦が始まり、道のサポートなど必要ないほどの完璧な連携が完成した。


◆◆◆


戦闘終了後。

要塞には、勝利の歓声ではなく、

安堵の溜息と、

互いを称え合う静かな声が響いていた。

「……ふぅ」

戦場の喧騒から離れた丘の上。

レアの隣に、いつの間にか道が戻っていた。

その呼吸は乱れておらず、服に汚れ一つない。だが、その額には玉のような汗が浮かんでいた。

「……お疲れ様、道。全員無事よ」

「ああ。肝が冷えたぜ。……だが、気づいたみたいだな」

道が見下ろす先では、ガンテツとフィリアが握手を交わしていた。

互いに命を救い合い、自分たちの過ちを認め合った、真の連携の握手だ。

「……我らの、奢りでした。ドワーフの盾がなければ、私は死んでいました」

「いや……ワシらこそ。エルフの援護がなけりゃ全滅だったわい。……すまんかったな」

その光景を見て、道はニヤリと笑った。

「どっちが優れているかなんて関係ねぇ。

 お互いの穴を埋め合うために、その力を使う。

 ……ようやくスタートラインだな」

「ええ。あなたの『見えざる手』のおかげね」

レアがハンカチを出し、道の額の汗を拭う。

兵士たちは誰も知らない。

自分たちが生きているのは、運が良かったからでも、奇跡が起きたからでもない。

この無愛想な英雄が、誰にも知られず戦場を駆け回り、死神の鎌を弾き続けていたからだということを。

「行くぞ、レア。

 俺の役目は終わりだ。

 あとは『監督』の出番だろ」

「ふふ、そうね。

 たっぷり説教して、そして褒めてあげるわ」

夕焼けに染まる要塞。

その影には、世界を救うために泥を被り、決して名乗らない「最強の守護者」の姿があった。

国境で生まれたこの絆は、やがて来る本当の絶望に対抗する、唯一の希望となるだろう。

慢心から全滅しかけた部隊を救ったのは、決して姿を見せない道の「隠密防御」でした。

見えざる手に守られ、ようやく「互いの穴を埋め合う」ことの重要性に気づいた戦士たち。

これで準備は整いました。

しかし、敵も待ってはくれません。

世界同時多発の通信途絶。

そして現れたのは、「物理無効」に進化した新種の虚無獣でした。

次回、『崩れゆく砂時計と沈黙の地図』。

カバディの天敵、「触れない敵」が現れます。


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