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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

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第36話 王女の描く設計図(グランドデザイン)

魔族領シャドウバルでの指導を終え、チーム「ウィンド」の一行は、帰路の大型馬車に揺られていた。

車内には、我波 がば・どうとレア・エルフェリア、そしてノワールの姿がある。

他のメンバー――ライラ、リィナ、バルドはここにはいない。

彼らは魔族領へは同行せず、世界中に散らばる他の主要国家へと「カバディ伝導」の旅に出ていたからだ。

道一人では回りきれない世界を、育った仲間たちが分担して救う。

それがチーム「風」の出した結論だった。

「……道、みんなから報告書が届いたわよ」

レアが通信用の魔道具から吐き出された羊皮紙の束を手に取る。

その顔には疲労の色が濃いが、瞳だけは爛々と輝いていた。

「まずは東方、沙海拳宗メルダに向かったライラから」

レアが羊皮紙を読み上げる。

武術の達人が集う砂漠の宗教国家。

そこへ派遣されたのは、エルフの狙撃手ライラだ。

『あいつら、頭が固い武術バカばっかり!

「手をつなぐなど武人の恥」とか言うから、

 全員の眉間に風の矢を撃ち込んで黙らせてやったわ!

 で、砂の上じゃ踏ん張れないって泣き言を言うから、

 逆に砂を利用することを教えたの。

 手をつないで重心を安定させ、

 受けた衝撃を全部足元の砂に流す。

 そうしたら、敵の足元の砂が爆発して相手が転ぶのよ。

 傑作でしょ?

 名付けて『沙海流・流砂りゅうさカバディ』。

 これでもう、砂漠で転ぶのは敵だけよ』

「……ライラらしいな。相変わらずスパルタだ」

道が苦笑する。

衝撃を砂に逃がす「アース」の原理だ。

理にかなっている。

「次は南方、炎のフレアに向かったリィナからの報告ね」

灼熱の火山地帯にある、巨漢たちの国。

担当は、獣人のスピードスター、リィナだ。

『暑い!

 むさ苦しい!

 ここの人たち、マナが熱すぎてすぐオーバーヒートするの!

 だからね、私が獣人流の「循環」を叩き込んであげたよ。

 熱いマナを一人に留めないで、チェーンの中で高速回転させて冷やすの。

 で、殴る瞬間だけ一点に集めてドカン!

 名付けて『炎国流・紅蓮ぐれんカバディ』!

  今じゃみんな、涼しい顔して爆発パンチ撃ってるよー!』

「冷却と爆縮か。

 エンジンの扱いに長けたリィナならではの指導だな」

 ノワールが感心したように頷く。

「最後は北方、氷刃王国グラシア。バルドからの報告よ」

 極寒の地にある騎士の国。

 担当は、守りの要であるドワーフ、バルドだ。

『ガハハ!

 騎士どもは真面目じゃが、槍と盾に頼りすぎじゃ!

 ワシがドワーフ流の「盾」を見せてやったら、

 腰を抜かしおったわ。

 奴らは集団戦術フォーメーションは得意じゃから、

 盾を構えたまま手をつなぐやり方を教えた。

 衝撃を耐えるんじゃなく、氷のようにツルッと滑らせて弾き返す。

 名付けて『氷刃流・鏡面きょうめんカバディ』。

 あの鉄壁の反射陣形、ワシらドワーフでも抜くのは骨じゃわい!』

三者三様。

それぞれの種族や国柄に合わせ、見事に「カバディ(圧導)」を定着させてきたようだ。

「……これで、全部揃ったな」

道が深く息を吐き、背もたれに体を預けた。

エルフ、ドワーフ、獣人、魔族。

そして沙海、炎、氷刃。

世界の主要な七つの勢力が、カバディという一つの規格で繋がったのだ。

「ああ。お疲れ様、道。……でも、ここからが本番よ」

レアが羊皮紙の山をテーブルに広げた。

そこには、七つの流派の特性が、魔力数値や戦術図としてびっしりと書き込まれている。

「道、あなたが広めたのは『種』よ。

 でも、それらはバラバラに芽を出した。

 このままじゃ、いざ世界合同作戦グランド・ミッションとなった時に、

 互いの長所を潰し合ってしまう」

レアは羽ペンを走らせながら、独り言のように呟き始めた。

「エルフの高周波は、獣人の聴覚を破壊しかねない。

 炎国の爆熱は、氷刃国の氷の盾を溶かしてしまう。

 ドワーフの重量級チェーンは、沙海の流砂の上では沈んでしまう……」

「……問題だらけだな」

「そう、問題だらけ。カオスよ。……でもね」

レアが顔を上げた。

その瞳は、難解なパズルを前にした子供のように、

あるいは戦場を支配する指揮官のように、妖しく輝いていた。

「バラバラだからこそ、繋げられるの」

レアは一枚の新しい羊皮紙を取り出し、猛烈な勢いで図面を引き始めた。

「見て。まず基本となるのは、獣人と魔族の連携よ」

レアが描いた図には、広範囲を走り回る獣人のラインと、

一点に待ち構える魔族の円陣が描かれている。

「獣人の『狩猟網』は追い込みに特化しているけど、決定打に欠ける。

 魔族の『無限軌道』は絶対的な拘束力があるけど、足が遅い。だから……」

「獣人が獲物を追い立てて、魔族の重力圏に放り込むのか」

「正解。名付けて『重力蟻地獄グラビティ・アントリオン』。

 これなら、どんなに素早い虚無獣も逃げられないわ」

さらにレアの手が動く。

「次は沙海拳宗とエルフの組み合わせね」

レアは砂漠のような波線と、そこに突き刺さる鋭い矢印を描き込んだ。

「沙海流の『流砂』で敵の足場を崩して、動きを止める。

 そこにエルフの『高周波』を一点集中させるの」

「動けない的に対して、防御不能の音波攻撃か……」

「ええ。流砂に足を取られた敵は、逃げることも耳を塞ぐこともできない。

 言うなれば『共振処刑台レゾナンス・ギロチン』よ」

「……えげつねぇな」

道は顔をしかめたが、その有効性は否定できなかった。

「そして最後は……氷刃王国、炎の国、そしてドワーフの三種族合同。これが最強の火力になるわ」

レアは図面一杯を使って、壮大な配置図を描き始めた。

ジグザグに配置された氷の盾(鏡面)と、その終点に待ち構えるドワーフの壁。

「まず、氷刃流の『鏡面』を細かく分けて、斜めに配置して『光の回廊』を作るの。

 そこへ炎国流の『紅蓮』を撃ち込む」

「……鏡合わせにして、反射させるのか?」

「ええ。反射するたびに熱エネルギーは加速し、圧縮される。そしてその出口には――」

レアが力強く図の終点を指差す。

「ドワーフ族が『焦熱溶鉱炉・剛壁』を展開して待ち構える。

 ただし、一箇所だけ穴を空けておくの」

「なるほど……! 加速して暴れまわるエネルギーを、

 ドワーフの強靭な肉体の壁で受け止め、

 強制的に収束させて……」

「その穴から一気に撃ち出す!

 名付けて『氷炎の巨鎚フロスト・ギガ・ハンマー』 !!」

道は図面を見つめ、ゴクリと唾を飲んだ。

氷の鏡による加速。

炎の爆縮エネルギー。

そしてドワーフの肉体による砲身。

三つの種族が完璧に噛み合った時、

それは虚無獣の巨体をも一撃で粉砕する、

神のハンマーとなるだろう。

「……すげえな」

道は素直に感嘆した。

それは単なる足し算ではない。

七つの異なる流派を、

カバディという共通言語(OS)で接続し、

互いの弱点を補い合い、

長所を何倍にも増幅させる「掛け算」の戦術。

「道、あなたが教えたのは『個の強さ』と『群れの強さ』。

 ……私が作るのは、その群れ同士を繋ぐ『世界の強さ』よ」

レアの手元で、バラバラだった七つの図形が、

一つの巨大な魔法陣のように美しい構造体へと組み上がっていく。

表紙には、『世界統一カバディ戦術教本ドラフト』の文字。

「お前、いい監督になれるな」

「監督?」

「ああ。俺はキャプテンとして現場を走る。

 でも、勝つための絵を描くのはお前の仕事だ、レア」

道はレアの書き上げた戦術図を指差した。

「頼むぜ、名将。

 世界中の戦士たちが迷わないように、最高の指示サインを出してくれ」

レアは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに、少し照れくさそうに頬を染めた。

「……ふふ、任せておいて。

 あなたたちを無駄死になんてさせない。

 私の描く設計図グランドデザインに、敗北の文字はないんだから」

レアは再びペンを握った。

その背中からは、かつての「守られるだけの姫」の弱さは微塵も感じられない。

彼女もまた、この旅の中で覚醒したのだ。世界を導く「戦術指揮官」として。

馬車は王都へと進む。

その荷台には、世界を救うための「最強の理論」が積み込まれていた。

やがて訪れる大戦において、この羊皮紙の束が、

何万という命を繋ぐ希望の設計図となることを、

彼らはまだ知らない。


「流砂で止めて、高周波で刺す」 「氷で反射させて、炎を加速する」 レアが描いたのは、種族の長所を掛け算する「世界統一戦術」。

もはやカバディというより、戦略兵器の設計図です。

さあ、いよいよ実戦テスト。

国境の砦で、エルフとドワーフが共闘します。

しかし、新しい力を手に入れた彼らは、大事なことを忘れていました。

次回、『国境の不協和音ディスコード』。

調子に乗ると、痛い目を見ます。

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