表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/70

第35話 漆黒の下半身と空気椅子の輪舞曲(ロンド)

サバンナの熱狂を後にしたチーム「ウィンド」の一行は、

大陸の最果て、

かつて虚無獣によって壊滅的な被害を受けた地――

魔族領シャドウバルへと足を踏み入れた。

そこは、昼なお暗い薄闇の世界だった。

空には常に厚い雲が垂れ込め、大地は黒く焼け焦げている。

しかし、その廃墟の中には、再建された黒曜石の建物が静かに、そして力強く立ち並んでいた。

「……静かだな。獣人の国とは大違いだ」

我波 がば・どうが馬車を降り、冷ややかな空気を吸い込む。

隣に立ったのは、魔族の代表であり、チームの影の守護者であるノワール・ヴェイルだ。

彼は漆黒のコートをなびかせ、サングラスの奥の瞳を故郷に向けた。

「我ら魔族は静寂と孤独を愛する。

 ……だが、復興のためには形振り構っていられない事情もある。

 道、笑わないと約束してくれ」

「事情? お前がそこまで言うなんて珍しいな」

ノワールが珍しくバツが悪そうに顔を背ける。  道は首を傾げながら、案内された地下大修練場の扉を開けた。


◆◆◆


「「「フンッ……! フンッ……!」」」

地下空間に、押し殺したような呼吸音が響いている。

道は目の前の光景に、言葉を失った。

そこには数百人の魔族の戦士たちがいた。

彼らは、いかにも魔族らしい威厳に満ちている。

漆黒のマント、

棘のついた肩当て、

貴族のようなフリル付きのシャツ、

あるいは重厚な鎧。

それぞれが個性的で、強者のオーラを放っている。

だが、

「…………」

「…………」

全員、腰から下だけがピチピチの黒いタイツだった。

上半身は魔王軍の精鋭なのに、

下半身だけはエアロビクスのインストラクターか、

あるいはスピードスケートの選手のようだ。

数百人が整列していると、

遠目には「下半身だけ別次元の生き物」に見える。

「よく来てくれた……」

タイツ軍団の中から、一人だけ豪奢なマントを羽織り、

しかし下半身はやはりタイツの長身の男が進み出た。

魔族軍の将軍、ゼクスだ。

「ゼクス将軍、その格好は……クールビズか何かで?」

「笑うな、人間。これは『魔導遮断脚衣アンチ・マナ・レギンス』だ」

ゼクスが苦渋の表情で説明する。

彼らが参考にしたのは、ノワールが開発した戦闘形態だった。

ノワールは自身のマナを高密度に圧縮し、

ブーツのように足に纏うことで重力を制御していた。

だが、その高等技術を再現できる魔族は少ない。

「そこで開発されたのが、この不導体繊維のタイツだ。

 これを履けば、我らの下半身に溜めた魔力は逃げ場を失い、

 強制的に『圧縮』される。ノワール殿の状態を、物理的に再現しているのだ」

「なるほど、理屈は分かる。分かるが……」

道は視線を泳がせた。

上半身がカッコいいだけに、下半身のタイツの主張が激しすぎる。

「で、だ。道殿。

 貴殿のカバディとやらを見せてもらったが……一つ言っておく」

ゼクスが腕を組み、キリッと言い放った。

「我らは魔族。手は繋がん」

「は? いや、手をつながないとエネルギー循環が……」

「断る! 美学に反する! 我ら魔族は孤高。手など繋げられん!」

そこは譲れないらしい。

下半身タイツは許容できても、手つなぎはNG。

魔族のプライドの基準は独特だ。

「だが、循環が必要なのは理解した。

 そこで我々は、魔族独自の『システム』を構築した」

ゼクスがパチンと指を鳴らす。

タイツ軍団が動いた。

「陣形、『魔界の螺旋回廊ダーク・スパイラル』!!」

号令と共に、魔族たちが円を描くように整列する。

そして全員が同時に、腰を深く落とした。

何も無い空間に座る、空気椅子の姿勢だ。

「魔族流・重力魔法による姿勢維持……!」

ノワールが解説する。

彼らは円形に並び、

前の者が、

後ろの者の空気椅子によって作られた「膝(に見立てた空間)」に、

腰を下ろした。

さらにその後ろの者も座る。

数百人が互いの空気椅子に座り合い、巨大な円環構造が出来上がった。

「そ、そして……手は!」

道が見守る中、彼らは両手を前に伸ばし、

スッ……と、前の人の「肩」に置いた。

「「「装着セット……完了」」」

全員が真顔で、前の人の両肩に両手を置いている。

見た目は完全に、幼稚園児の「電車ごっこ」もどきだ。

上半身はいかつい魔族たちが、

下半身タイツで繋がり、

肩に手を置いている。

シュールという言葉では生ぬるい。

「行くぞ! 圧縮駆動ドライブ、開始!」

ゼクスが叫ぶ。

「「「イエス・マイ・ロード!!」」」

次の瞬間、円環全体が動き出した。

全員がリズムを合わせ、腰を前後に揺らし始めたのだ。

ワッせ、ワッせ。

ワッせ、ワッせ。

「……なんだその動きは!? 踊ってるのか?」

道が驚愕すると、ノワールがサングラスの奥で目を細めた。

「違うぞ、道。あれは踊りではない。『機関エンジン』だ」

「エンジン?」

「他種族のカバディは、

 個々が体内でマナ圧縮を行い、

 それを手をつなぐことで循環させているだろう?

  だが、このシステムは根本が違う」

ノワールが、ワッせワッせと揺れる黒タイツの脚部を指差した。

「あの前後の反復運動そのものが、

 マナを圧縮する『ピストン』の役割を果たしているのだ。

 全員が同じ角度、

 同じ速度で揺れることで、

 タイツの中のマナが物理的に押し潰され、

 高圧化する」

道はハッとした。

獣人やドワーフは「エネルギーを作ってから、合わせる」だった。

だが魔族は、「合わせる動きによって、エネルギーを作る」のだ。

「つまり、動きそのものが圧縮装置……!」

「そうだ。エネルギーの発生源が『同期した動き』にある以上、

 その波長がズレることはあり得ない。

 個人の呼吸に頼る他種族とは比べ物にならない、

 完全なる『共振』が生まれる」

ワッせ、ワッせ。

数百人の魔族が、無表情で前後に揺れている。

見た目はシュールな電車ごっこだ。

だが、その中心には、笑い事では済まされないほどの重力場が発生し、空間がひしゃげていた。

「ぐ、おおおお……!

 完璧だ、完璧な同期だ!」

「前の者の揺れが、俺の揺れを加速させる……!

 圧縮が止まらない!」

肩から肩へ。太腿から太腿へ。

強制的に同期された動きは、

個人の意思を超えた巨大なシステムとなり、

幾何級数的にエネルギーを増大させていく。

「見よ! これぞ魔族の知恵と科学の結晶!

 名付けて『魔導・無限軌道メビウス・トレイン』!!」

ゼクスが高らかに宣言する。

ワッせ、ワッせ、と揺れながら、魔族たちが誇らしげに胸を張る。

上半身の威厳と、下半身のタイツと、愛らしい動き。

その全てが、恐ろしいほどの破壊力を生み出している。

「……カバディというより、永久機関に近いな」

道は引きつった笑みを浮かべながらも、その威力に戦慄した。

手をつながずとも、心を通わせずとも、「システム」によって最強の連携を生み出す。

それは実に、理屈っぽくて不器用な魔族らしい答えだった。

「うむ!

 我らは歩みを止めん!

 いつの日かこのタイツを脱ぐその日まで、

 座りながら進み続けるのだ!」

こうして、魔族領には独自のスタイルが確立された。

上半身は精鋭魔族、

下半身はエアロビ。

肩に手を置き、リズムよく揺れる「魔導・無限軌道」。

その光景はあまりにもシュールで、

他国から来た視察団を困惑させたが、

発生する重力振動の威力だけは、

間違いなく世界最強であった。


「魔導・無限軌道メビウス・トレイン」。

見た目は「黒タイツの電車ごっこ」ですが、威力はブラックホール級でした。

これで主要4カ国の指導が完了。

世界中に「本物のカバディ」が植え付けられました。

これらを束ねるのは、王女レアの仕事。

バラバラな種族の特性を、どうやって一つの戦術に組み込むのか?

次回、『王女の描く設計図グランドデザイン』。

レア様が徹夜で書き上げた「最強の攻略本」が完成します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ