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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第4章:カバディ文化の世界拡散

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第34話 暴走する野生と肉球の刻印

地下帝国の熱気を背に、チーム「ウィンド」の一行は、

大陸東部に広がる広大なサバンナ――獣人連邦へと足を踏み入れていた。

見渡す限りの草原。しかし、そこに漂っているのは平和な風ではない。

ピリピリと肌を刺すような、過剰なエネルギーの飽和状態だ。

「……匂うな。火薬庫みたいだ」

我波 がば・どうが馬車の窓から外を見て呟く。

その視線の先、集落の広場では、

大勢の獣人たちが「カバディ」の真似事……

いや、ただの「エネルギー暴走大会」を繰り広げていた。

彼らはリュミエラが開発した「マナ遮断インナー」の複製品らしきものを身につけている。

それにより、体内のマナを無理やり物理エネルギーに変換し、

常識外れの馬力とスピードを手に入れていたのだ。

「ウオオオオ! 力が溢れてきやがる!」

「すげえ! 岩でも大木でもへし折れるぞ!」

「キャント? 細けぇことはいいんだよ! 叫んで殴れば最強だ!」

ドガァッ!

バキィッ!

制御のない超パワー同士がぶつかり合い、土煙が舞う。

彼らはまるで、初めて刃物を手に入れた子供のように、力の大きさに酔いしれていた。

「……レベルが低すぎて見てられないね」

馬車の屋根から、冷ややかな声が降ってきた。

チーム「風」の攻撃手レイダーであり、この国出身の虎獣人、リィナ・タイガーテイルだ。

「ただエンジンを吹かしてるだけ。

 あれじゃあ、虚無獣に会った瞬間に自爆して終わりだよ」

「ああ。だが、言葉で言っても聞かねぇだろうな」

道が肩をすくめる。

血気盛んな獣人たちには、理屈よりも「格付け」が必要だ。

「リィナ、行ってこい。『本物』を教えてやれ」

「任せて! ボッコボコにしてあげる!」

リィナはニシシと笑い、尻尾を揺らして広場の中央へと降り立った。


◆◆◆


「あぁん? なんだこのチビは」


広場で暴れていた巨漢の熊獣人が、リィナを見下ろして鼻を鳴らした。

周りの獣人たちも、リィナの小柄な体格を見て嘲笑う。

「おい嬢ちゃん、怪我するからどいてな。俺たちは今、最強の力を手に入れて……」

「うるさい」

リィナの言葉は短かった。

だが、次の瞬間、彼女が取った行動に全員が息を呑んだ。

スゥゥゥゥ……。

リィナが深く息を吸い込む。

ただそれだけの動作で、広場の空気がリィナの中心に向かって渦を巻いた。

彼女の肺の中で、莫大なマナが圧縮され、臨界点まで高まっていく。

その密度は、獣人たちが無自覚に垂れ流しているエネルギーとは桁が違った。

(な、なんだこの圧力は……!?)

嘲笑っていた獣人たちの本能が警鐘を鳴らす。

目の前の少女は、爆弾だ。

そして、リィナは口元を僅かに緩め、安全弁を開いた。

「『カバディ』」

ズンッ。

声量ではない。

空気の重みが、獣人たちの内臓を揺らした。

完璧に制御された「圧導あつどう」のキャント。

それは、彼女が体内に「超高圧炉」を持っていることの証明だった。

「……嘘だろ。立ってるだけで、空気が歪んで見えるぞ……」

「か、格が違う……」

多くの獣人が戦意を喪失し後ずさる中、リィナはつまらなそうに首を鳴らした。

「次は速さね。瞬き禁止だよ」

言い終わるか終わらないかの刹那。

フッ、とリィナの姿が消えた。

「は?」

「消え……!?」

獣人たちがキョロキョロと周囲を見渡す。

風が吹いた。全員の額に、何かがペタペタと触れる感触があった。

そして、リィナは元の位置に戻っていた。まるで一歩も動いていないかのように。

「はい、終わり」

リィナが指差す。

獣人たちが互いの顔を見合わせ、絶句した。

全員の額に、朱肉で押された可愛らしい「肉球マーク」がくっきりと残っていたのだ。

「い、いつの間に……!」

「全然見えなかった……!」

屈強な戦士たちが、額にファンシーな肉球スタンプをつけ、冷や汗を流しながらへたり込む。

それは恐怖と羞恥が入り混じった、完全なる敗北の光景だった。

だが、

「……認めん! 俺は認めんぞォォ!!」

先ほどの熊獣人が吠えた。

彼は額のスタンプを擦り消そうとしながら、リィナを睨みつける。

「速いのは分かった!

 だが、カバディは接触する格闘技だ!

 パワーで負けなきゃ負けじゃねえ!

 俺のこの剛腕で、お前をひねり潰してやる!」

熊獣人が筋肉を膨張させる。

マナ遮断服が悲鳴を上げるほどのバルクアップだ。

リィナはため息をつき、道の方を見た。

道が「やってやれ」と頷く。

「いいよ。じゃあ、『指一本』も動かせないようにしてあげる」

リィナは熊獣人の前に歩み寄ると、右手を差し出した。

熊獣人はその手をガッチリと掴む。大人と子供ほどの手の大きさの違いだ。

「後悔するなよ! ヌンッ!」

熊獣人が全力で握りつぶしにかかる。岩をも砕く握力だ。

しかし。

リィナは微動だにしなかった。

それどころか、彼女は目を細め、深く、長く息を吸い込んだ。

「……ッ(吸気)」

リィナの肺が稼働する。

マナ不導体の特性を活かした、超高密度のエネルギー圧縮。

彼女は今、守備アンティとして熊獣人と手を繋いでいる。

その役割は「循環」だ。

リィナは体内で爆発寸前まで高めたエネルギーを、繋いだ手を通して、熊獣人の体内へ一気に流し込んだ。

「ぐ、お……ッ!?」

熊獣人の目が飛び出そうになる。

熱い。

重い。

鉛のようなエネルギーが腕から逆流し、血管を引き裂きそうな勢いで全身を駆け巡る。

許容量オーバーだ。体が内側から破裂する。

熊獣人は本能的に口を開き、その圧力を逃がそうとした。

「カ、カバ……ッ!」

「だめ」

リィナがさらに握る力を強めた。

「キャントをするのは攻撃手レイダーの時でしょ?

 今、あんたは私を捕まえてるアンティなんだから……

 一滴も漏らさず耐えなさいよ!」

「ガ、ブ、アアアアッ……!!」

リィナがさらにエネルギー出力を上げる。

キャントを許されない熊獣人の顔が紫色になり、白目を剥いて痙攣を始めた。

キャントという安全弁を封じられた状態で、達人の圧導エネルギーを注ぎ込まれる。

それはもはや拷問だった。

「お、落ちる……!?」

熊獣人が失神寸前になった、その時だ。

「……やりすぎだ、リィナ」

スッ、と横から手が伸びた。

道が、熊獣人の空いているもう片方の手を握ったのだ。

「俺に流せ」

道が熊獣人の体内ではち切れそうになっていたエネルギーを引き取る。

すると、ダムが決壊寸前だった熊獣人の体内圧力が、一気に適正値へと下がった。

苦痛が消える。

代わりに、全身の細胞が活性化するような、心地よい全能感が満ちてくる。

「は、ぁ……? 楽になった……? いや、力が漲ってくる……!」

「そうだ。それが『循環』だ」

道は隣にいた狼獣人に「俺の手を握れ」と指示し、さらにその隣の獣人にも手を繋がせた。

「よし、全員つなげ! 一つの輪になれ!」

広場にいた獣人たちが、次々と手をつなぐ。

そして最後の獣人が、リィナの空いている手をつかんだ瞬間。

ドクンッ!!

巨大な回路ループが完成した。

リィナが発し、道が制御し、数百人の獣人の肉体を駆け巡るエネルギーの奔流。

それは個人の暴走とは次元が違った。

全員の感覚が繋がり、莫大なマナが一切のロスなく高速で回転する。

「な、なんだこれは……!」

「俺たちの力が、何百倍にも増幅されている感じだ……!」

「さっきまで俺たちがやっていたのは、ただの子供の火遊びだったのか……!」

獣人たちは戦慄した。

これが本物の「圧導」。

これが本物の「カバディ」なのだと。

そして、循環の中で増幅されきったエネルギーが、再び中心点である熊獣人へと集まっていく。

「う、うおおお! 体が! 力が溢れて止まらねぇ!!」

「よし、兄さん。その有り余る元気、あそこの山にぶつけてみなよ」

リィナが楽しそうに、遠くの岩山を指差した。

熊獣人は頷き、パンパンに膨れ上がった胸を逸らし、山に向かって大きく口を開いた。

「『ウオオオオオオオオオオオッ!!!!!』」

それは言葉ではなかった。

エネルギーの塊となった咆哮ブレス

可視化された衝撃波が一直線にサバンナを切り裂き、彼方の岩山に着弾する。

ズドォォォォォン!!

轟音と共に、岩山の頂上がごっそりと消し飛んだ。

土煙が晴れると、そこには綺麗な半円状の抉れ跡が残っていた。

「…………」

全員が口を開けたまま静止する。

魔法でもない、ただの「呼吸」と「循環」が生み出した破壊力。

「分かったか。これが『群れ』の力だ」

道が静かに手を離すと、獣人たちは一斉にその場にひれ伏した。

「「「ご教授願いますッ!!!」」」

「一生ついていきます! 姉御! 兄貴!」


◆◆◆


熱狂する獣人たちを制し、道は一本、指を立てて釘を刺した。

「ただし、勘違いするな。

今のブレスはあくまで『大砲』だ。

当たらなければ意味がない」

獣人たちが顔を上げる。

「敵は虚無獣だ。

あの山みたいに止まってはくれない。

奴らにその大火力を確実に叩き込むには、まず逃げ回る足を止める必要がある。……そのための『鎖』だ」

道は、獣人たちが手をつないだ長い列を指差す。

「お前たちの強みである野性とスピードで、このチェーンを『網』に変えろ。

あるいは『投げ縄』だ。

 獲物を囲み、伸縮自在に締め上げる。

 誰か一人がアンティとして捕まえれば、全員のエネルギーがそこに瞬時に移動し、拘束力となる」

獣人たちは目を輝かせて頷く。

今までの彼らは、個人の牙と爪だけで戦っていた。

だが今は、仲間全員の力を背負って戦うことができる。

「名付けて『獣人式・狩猟網ハンティング・ネット』。最強の包囲網を作れ」

夜のサバンナに、統率された獣たちの遠吠えが響く。

暴走する烏合の衆はもういない。

そこには、世界最強の機動力と連携を持つ、誇り高き狩猟部隊が誕生していた。


「速いのは分かった。じゃあ、ネットになれ」 暴走族だった獣人たちを、統率された「狩猟部隊」へと変えたリィナと道。

これで機動力も確保しました。

最後は、一番の難関・魔族領。

「手をつなぐのは美学に反する」 そんな彼らが編み出した、独自の連携システムとは?

……笑ってはいけません。

彼らは大真面目です。

次回、『漆黒の下半身と空気椅子の輪舞曲ロンド』。

シュールすぎて直視できない、最強の陣形が爆誕します。


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