第33話 鋼鉄の肉体と循環する城壁
エルフの森での技術指導を終えた一行は、
次なる目的地――大陸南部の山岳地帯に位置する
「ドワーフの地下帝国」へと向かっていた。
馬車が山道に差し掛かると、周囲の気温が目に見えて上がり始めた。
岩肌からは蒸気が噴き出し、地面を通してドンスコ、ドンスコと重い振動が伝わってくる。
「暑苦しい場所だ。湿気がないだけマシだがな」
我波 道は襟元を寛げながら、外の荒涼とした景色を眺める。
その隣で、ドワーフの親方であり、
チーム「風」の盾役を務めるバルドが、
髭を撫でながら豪快に笑った。
「ガハハ! 我が故郷の熱気は、鍛冶場の火と漢たちの熱意よ!
どうだ道、エルフの優男どもの歌声を聞いた後じゃ、
むさ苦しくて敵わんか?」
「いや、俺は嫌いじゃない。分かりやすくていい」
道はニヤリと笑った。
エルフの「調和」も悪くないが、カバディの本質はやはり肉体と肉体のぶつかり合いだ。
ドワーフたちの頑丈な肉体は、カバディにおいて最強の武器になり得る。
だが、その期待は地下帝国の巨大な鉄扉をくぐった直後、またしても裏切られることになった。
◆◆◆
「見よ! これぞ我らが考案せし『ドワーフ式・金剛石カバディ』じゃ!」
溶岩流の照明に照らされた円形闘技場。
そこで行われていたのは、カバディというよりは「我慢比べ」だった。
守備側のドワーフ七人が、腕を組んで横一列に並び、仁王立ちしている。
そこへ、攻撃手の巨漢が、全身の筋肉を岩のように硬直させて突っ込んでいく。
「ヌンッ! フンッ!」
ドォォン! と鈍い音が響く。
守備側は顔を真っ赤にして息を止め、歯を食いしばって衝撃に耐えている。
足が地面にめり込み、額には青筋が浮かんでいる。
「どうだ道殿!
この圧倒的な耐久力!
虚無獣の攻撃など、この『息止め金剛立ち』で全て弾き返して……」
「……馬鹿か、お前らは」
道の冷たい声が、熱気渦巻く闘技場を一瞬で凍らせた。
案内役の長老が目を丸くする。
「な、何が不満だと言うんじゃ! この筋肉の鎧が見えんのか!」
「筋肉は立派だ。だが使い方が石ころレベルだ」
道は呆れ果てて、闘技場へと降りていった。
「お前ら、攻撃を受ける瞬間に『息を止めて』全身を固めているな?
それじゃあエネルギーが体内でロックされて、
ただの『硬い物体』になるだけだ。
強い衝撃を受ければ、
中身が壊れるか、
そのまま吹き飛ばされるぞ」
道はバルドを手招きした。
「バルド、お前が真ん中に入れ。俺がレイダーをやる」
「おうよ! 久しぶりに親方の『盾』を見せてやるわい!」
バルドが守備側の列の中央に割り込む。
両脇のドワーフたちが、
いつものようにガチガチに力を入れてバルドの手を握ろうとするが、
バルドはそれをパンッと弾いた。
「力を抜け! 馬鹿者!」
「ひっ!? で、でも親方、力を入れんと吹き飛ばされ……」
「いいから抜け!
手は卵を持つように優しく、だが離れんように指を絡ませろ!
我らドワーフは指が太い。
柔らかく握っても充分に圧は流れる。
力を指に込めすぎると、かえって伝導が止まる。
呼吸を止めんな、止めると『流れ』が止まるぞ!」
バルドの怒声に、ドワーフたちが恐る恐る脱力する。
七人のドワーフが手をつなぎ、チェーン(鎖)を組む。中心にはバルド。
見た目は頼りない、ゆるりとした鎖だ。
「いくぞ、吸え!」
バルドが号令をかける。
中心のバルドが大きく息を吸い込むと、
彼の体内で練り上げられたエネルギーが、
繋いだ手を通して左右へ流れ出した。
「うおっ……!?」
隣のドワーフが目を見開く。
熱い。だが、痛くない。
バルドから送られてきた莫大なエネルギーが、
自分の腕を通り、
胸を駆け抜け、
そして反対側の腕へと抜けていく。
「く、苦しくない……!
圧縮されたマナのエネルギーが、手を伝わって流れていくのが分かるぞ!」
「ワシの力も持っていけ!
止めるな、回せ!」
ドワーフたちが直感的に理解する。
今まで彼らは、自分の肺と筋肉という「個人の器」だけでエネルギーを耐えていた。
だからすぐに限界が来て、体が悲鳴を上げていたのだ。
だが今は違う。
七人が手をつなぐことで、七人分の肉体と肺が、一つの巨大な「回路」になっている。
個人の限界を超えたエネルギーが、抵抗なくグルグルと七人の間を高速循環していく。
(なんだ、この出力は……!)
対峙していた道は、目の前の変化に息を呑んだ。
さっきまでの彼らが、
個々にピストン運動するだけの「単気筒エンジン」だとしたら、
今の彼らは互いのエネルギーを増幅し合う「火力発電所」だ。
ドワーフの頑強な肉体だからこそ耐えられる、桁違いの高出力エネルギー。
ゴゴゴゴゴ……と、彼らの足元の岩盤が、何もしていないのに振動し始めている。
「へっ、待たせたな道! 試しに突っ込んでみろ!」 「……上等だ。消し飛んでも知らねぇぞ!」
道は不敵に笑い、構えた。
全身のバネを使い、トップスピードで突撃する。
「『カバディカバディカバディ……!!』」
岩をも砕く道のショルダータックル。
それがドワーフたちのチェーンに接触する寸前――
「『返せぇぇぇぇ!!!』」
バルドの号令と共に、七人が一歩、踏み込んだ。
その瞬間、循環していた莫大なエネルギーが、不可視の壁となって道に叩きつけられた。
ドガァァァァァン!!!!!
「ぐ、おぉぉっ!?」
道は、巨大な爆風に煽られたかのように弾き飛ばされた。
受身を取る余裕すらなく、数メートル吹き飛び、地面を転がる。
「……ってぇな。なんだありゃ」
道は痺れる腕をさすりながら、起き上がった。
ドワーフたちの前には、揺らめく陽炎のようなエネルギーの壁が発生している。
それは魔法ではない。
マナを体内で極限まで圧縮・循環させ、純粋な「物理的振動エネルギー」へと変換して放出されたものだ。
「ガハハ! 見たか道! これがワシらドワーフの新しい力、全身を巡る灼熱の循環……名付けて『焦熱溶鉱炉』じゃ!」
バルドが親指を立てて叫ぶと、
周りのドワーフたちも、
自分たちの生み出した力の大きさに震え、
興奮の声を上げた。
「すげえ……! この『焦熱溶鉱炉』状態なら、何でもできるぞ!」
「さっきの壁は、さしずめ『焦熱溶鉱炉・剛壁』じゃな!」
「いや、敵を囲んで逃がさない『焦熱溶鉱炉・鎖』もいけるぞ!」
「捕まえて締め上げる『焦熱溶鉱炉・万力』はどうじゃ!」
地下帝国に、男たちの雄叫びと、新たな必殺技のアイデアが飛び交う。
道は埃を払いながら、ニヤリと笑った。
「なるほどな。
『焦熱溶鉱炉』という高出力エンジンさえあれば、
壁にも鎖にも、あるいは槍にもなるってわけか……」
一つの技を教えただけではない。
彼らは「ドワーフ流カバディ」という、無限に発展する基礎を手に入れたのだ。
エルフの高周波に続き、ドワーフの超火力と無限の応用力。
道の予想を超えて進化していく「カバディ」の可能性に、彼の心臓は高鳴りを抑えきれなかった。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「息止め金剛立ち」とかいう我慢大会をしていたドワーフたち。
道の指導により、彼らの強靭な肉体は「焦熱溶鉱炉」へと生まれ変わりました。
エネルギーを回して壁にも鎖にもなる。
攻防一体の陣形完成です。
お次は獣人連邦。
野生の本能全開の彼らには、言葉よりも「拳」での指導が必要なようで……?
リィナ姉御が大暴れします!
次回、『暴走する野生と肉球の刻印』。
全員の額に、可愛いスタンプが押されます。




