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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第3章:虚無獣の脅威

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第29話 世界会議への殴り込み

世界連合都市セントラル・ユニオン

円形議事堂の空気は、張り詰めるどころか、爆発寸前だった。

「カバディ……だと? ふざけるな!」

バンッ!

と机を叩いて立ち上がったのは、炎のフレアの将軍だ。

それに続き、氷刃王国の騎士団長、獣人連邦の長老も席を蹴った。

「我らには誇り高き魔法と武術がある!

 それを捨てて、異界の奇妙なダンスを兵に学ばせろと言うのか!」

「第2都市が消えたのは、魔族が油断したからだろう。

 我々の精鋭なら虚無獣など遅れは取らん!」

「他国の技術になど頼らん! 帰れ!」

議長や一部の文官はチーム《風》の提案に耳を傾けようとしていたが、

武力に自信を持つ大国のトップたちは頑として首を縦に振らなかった。

彼らにとって、自分たちの「強さ」を否定されることは、国の威信に関わるのだ。

どうが口を開こうとした、その時。

「――おやおや。威勢がいいのは結構ですが」

議事堂の扉が、音もなく開いた。

そこに立っていたのは、特徴のない灰色の服を着た、

一見するとただの優男やさおとこだった。

だが、全員の視線は、彼が手に持っている数本の「鎖」に釘付けになった。

鎖の先に繋がれていたのは、犬ではない。

黒いもやを纏い、凶暴な牙を剥き出しにした中型虚無獣たち――計5体。

それらはまるで飼い犬のように、男の足元で大人しく唸っていた。

「こ、虚無獣!? なぜここに!」

「衛兵は何をしているッ!!」

男は薄ら笑いを浮かべて肩をすくめた。

「衛兵さんたちなら、そこで寝てますよ。

 魔法も剣も、私の可愛いペットたちには『ご飯』でしかなかったようですから」

通路には、マナを吸い尽くされて気絶した衛兵たちが転がっていた。

魔法防御結界を素通りし、放たれた魔法攻撃をすべて吸収してここまで来たのだ。

「貴様……何者だ! ここでテロを起こしてタダで済むと……」

「…………」

男は答えることすらしなかった。

ただ冷ややかな目で将軍を見つめ、指先で小さく合図を送るだけ。

それが、炎の国の将軍の逆鱗に触れた。

「舐めるなよ、下郎が!!」

将軍が、怒りと共に炎の剣を抜いた。

同時に、氷の騎士が槍を構え、獣人の長老が爪を伸ばす。

世界屈指の武力を誇る三人が、一斉に男へ飛びかかった。

「我らの武威を見せてくれるわ!!」

炎が渦巻き、氷が走り、爪が閃く。

だが。

ジュボッ。

男は動かなかった。

代わりに、彼のペットたちが前に出て、大口を開けた。

将軍たちの必殺の魔法攻撃は、虚無獣の口に掃除機のように吸い込まれ、一瞬で消滅した。

「な……!?」

驚愕する隙すら与えない。

マナを食らって活性化した虚無獣たちが、カウンターで黒い触手を伸ばす。

バギッ!

ドカッ!

三人の達人は、子供のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「ガハッ……! ば、馬鹿な……マナが……通じない……!?」

完敗だった。

自慢の武力は、進化した虚無獣の前ではただの餌でしかなかった。

「ほらね? あなた方の『誇り』なんて、こんなものです」

男は嘲笑い、指を鳴らした。

「さあ、食事の時間だ。この国のトップたちを食い尽くせ」

虚無獣たちが鎖を引きちぎり、議場へ雪崩れ込む。

誰もが死を覚悟した――その瞬間。

「カバディカバディカバディッ!!」

奇妙な詠唱と共に、黒い影が割り込んだ。

ドォォォォォンッ!!!

先頭の虚無獣が、ハンマーの一撃で頭部を一瞬で粉砕され、その動きを止めた。

ドワーフのバルドだ。

スーツの内圧でパンパンに膨れ上がった腕から煙が出ている。

「へっ、硬ぇ肉だが……ドワーフの『圧』なら通るぜ!」

続いて、ヒュンッ!と閃光が走る。

エルフのライラの矢が、二体目の虚無獣の核を正確に貫いた。

「カバディッ……! 的が大きいから外し様がないわね」

一瞬で二体が処理された。

男の顔から余裕が消える。

「なっ……魔法じゃない!? 純粋な物理圧力……だと!?」

「その通り。お前らの天敵だ」

道が前に出る。

残りの虚無獣が道に襲いかかるが、彼は最小限の動きで触れ、

「カバディ(圧導)」で力を流して同士討ちさせる。

あっという間に、ペットたちは肉塊へと変わった。

男は後ずさり、壁際へと追い詰められる。

「くそっ……! 計算外だが……関係ない!!」

男は懐から、赤いボタンがついた魔導装置を取り出した。

顔が歪み、狂気の笑みが浮かぶ。

「こいつらの体には、都市一つを吹き飛ばせるほどの『マナ爆弾』が仕込んである!

 ここでお前らが勝とうが、全員仲良く消し飛び――」

男が親指でボタンを押そうとした。

ヒュンッ。

風が吹いた気がした。

男の親指が空を切る。

いや、親指だけではない。

装置を持っていた右手首から先が、無かった。

「……え?」

「リモートスイッチ押してごらんよ。あんたの腕もリモートで動かせるならね」

声は、議場の反対側の壁際から聞こえた。

そこには、金色の残像を纏ったリィナが立っていた。

彼女の手には、男の手首ごと奪い取った起爆装置が握られている。

「カバディカバディ……って言ってると、ついつい張り切りすぎちゃうんだよね」

リィナはペロッと舌を出した。

速すぎて、誰も彼女が動いたことすら視認できなかったのだ。

「う、うわぁぁぁぁぁッ!! 俺の手がぁぁぁ!!」

男が絶叫して手首を押さえる。

勝負あった、かに見えた。

だが、男は血走った目で叫んだ。

「くっ、くくっ……! そんなこともあろうかと思ってな!

心拍停止と連動した『時限スイッチ』も入れてあるんだよ!!

虚無獣が死体になった時点で……カウントはスタートしてるのさッ!!」

男の言葉通り、床に転がっていた虚無獣の死体が、カッと赤く発光した。

臨界点突破。

自爆シークエンス。

もはや止める術はない。

「終わりだァァァッ!!」

議場が白光に包まれようとした、その時。

――ズゥゥゥゥゥン……。

重く、深い音が響いた。

それは、議場の隅で、誰にも気づかれずに“準備”をしていた男の足音だった。

ノワールだ。

彼は戦闘に参加せず、壁際でずっと「空気椅子(魔道圧縮姿勢)」を維持していた。

額には血管が浮き、両足は痙攣寸前までプルプルと震えている。

周囲の人々には、その意図が理解できなかった。

なぜこの緊急事態に、彼はあのような奇妙な体勢で固まっているのか。

この国にはない風習だが、まるで「罰ゲーム」でも受けているかのような不思議な姿。

だが、その姿勢こそが、彼なりの迎撃態勢だった。

「待っていたぞ……この『圧』を吐き出す瞬間を……ッ!!」

ノワールは限界まで圧縮したマナを、足裏から影へと一気に流し込んだ。

「《魔族流・重圧脚シャドウ・プレス》・黒棺ブラック・コフィンッ!!!」

ドワォォォォォンッ!!!

床から噴出した漆黒の影が、発光する虚無獣の死体を包み込むように球体へと変化した。

爆発のエネルギーが影の中で膨張する。

だが、ノワールの「飽和した影の圧力」が、それを外へ一ミリたりとも逃がさない。

ギュウウウウウッ……ポンッ。

中で何かが弾けるくぐもった音がして、影が消えた。

後には、圧縮されてビー玉サイズになった黒い塊が転がっているだけだった。

都市を消し飛ばすはずの爆発を、完全な圧力で「押し潰した」のだ。

「……ふぅ。

 私は、あんな特殊な服を着なくても、魔力操作だけでこの圧導が使えるがね」

ノワールは涼しい顔で(実際は足がガクガク震えていたが)コートを直した。

その言葉は強がりだったが、成し遂げた偉業の前では、ただの真実でしかなかった。

静寂。

呆然とする各国の代表たち。

炎の将軍が、震える声で呟いた。

「……これが……『カバディ』なのか……?」

魔法を無効化する敵を物理で粉砕し、音速で武装解除し、爆発すら圧力でねじ伏せる。

その圧倒的な実力を前に、もはや反論できる者はいなかった。

議長がおずおずと頭を下げる。

それに続き、炎、氷、獣人の長たちも、屈辱と、それ以上の敬意を込めて膝をついた。

「……認めよう。我々の完敗だ」

「頼む……その『カバディ』とやらを、我々にも伝授してくれ……!」

議場が拍手と同意の声に包まれる中、どうだけは動いていた。

彼は混乱に紛れて逃げようとしていた、「もう一人の男」の背後に音もなく立っていた。

男の腕を捻り上げ、耳元で囁く。

「さて……。

 右手を失った実行犯はあっちで伸びてるが、

 それを監視していた『本命』はお前だな?」

道は最初から気配を読み、混乱の中で指示を出していたこの男に目星をつけていた。

「……なっ、いつの間に……!?」

「俺はレイダーだからな。

 息を殺して死角に入るのは得意なんだよ」

道は男を拘束し、ニヤリと笑った。

「洗いざらい吐いてもらうぜ。

 お前らの『組織』のこと……そして、世界中に埋めた『種』の場所をな」

世界の承認と、敵の手がかり。

その両方を手に入れたチーム《風》。

ここから、世界を巻き込んだ大反撃カウンター・レイドが始まる。


魔法が効かない虚無獣をペットにする「庭師」の襲来。

手も足も出ない各国の将軍たちを尻目に、チーム《風》が圧倒的な「物理」で蹂躙しました。

リィナの音速窃盗と、ノワールの「空気椅子待機」からの爆発処理がお見事でしたね。

これで世界のトップたちはひれ伏しました。

残るは、この事件の黒幕「組織」の情報だけ。

次回、第3章クライマックス。

世界あなたの呼吸』。

敵の親玉「虚無災主」の名が明かされ、物語は動き出します!

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