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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第3章:虚無獣の脅威

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第28話 第2都市の惨状と“巣”の発見

ジェネラル級虚無獣が崩れ落ち、黒い霧となって消滅すると、戦場には重苦しい静寂が戻ってきた。

舞い上がっていた砂煙が、風に流されて晴れていく。

その先に広がっていたのは――やはり、「無」だった。

「……本当に、何も残っていないのね」

ライラが呆然と呟く。

かつてここには、魔族たちが誇る第2都市ノクサスがあったはずだ。

黒曜石で組まれた美しい尖塔、賑わう市場、多くの家族が暮らす石造りの家々。

それら全てが、直径数キロメートルに及ぶ巨大なクレーターとなり、赤茶けた土肌を晒している。

唯一残っていた都市の痕跡――城壁や瓦礫さえも、先ほどの虚無獣の鎧として使われ、ノワールの影によって粉砕されてしまった。

「……私の友も、この瓦礫の中にいたのかもしれんな」

ノワールが、足元の砕けた石片を拾い上げた。

そこには、誰かの家の表札だったと思われる、魔族語の文字が微かに残っていた。

彼はその石片を握りしめると、静かに目を閉じた。

「……すまない。守れなかった」

いつもの傲慢さは消え、そこにあるのはただ、一人の若き王族としての慟哭だった。

道は、かける言葉が見つからなかった。

「勝った」とは言えない。敵は倒したが、失ったものはあまりに大きすぎる。

だが、感傷に浸る時間すら、彼らには残されていなかった。

「おい、待て……! こりゃあ何だ!?」

クレーターの中心部、ジェネラル級が立っていた場所を調べていたバルドが、大声を上げた。  道たちが駆け寄ると、そこには異様な光景があった。

地面に、巨大な「穴」が空いていた。

それはただの空洞ではない。地下深くへと続く大穴の側面が、びっしりと「何か」で覆われている。

ドクン……ドクン……。

赤黒い肉の壁。

脈動する血管のような管が岩盤に根を張り、地下から吸い上げたマナを貪欲に吸い上げている。

そして、その肉壁には――無数の半透明な「胞子」のような袋がぶら下がっていた。

「……うぷっ」

リィナが口元を押さえる。

袋の中には、胎児のような形をした小型の虚無獣が丸まり、蠢いていたのだ。

数百、いや数千。

孵化を待つ災厄の種子が、壁一面に植え付けられている。

「これが、『ハイブ』か……!」

道は、第21話で斥候が言っていた言葉を思い出した。

――『種』を植え付けた。

虚無獣は、自然発生する災害ではない。

この「巣」という拠点がマナの豊富な土地に根を張り、都市のエネルギーを吸い尽くして、兵隊(虚無獣)を生産し続ける工場なのだ。

第2都市が消滅したのは、この巨大な臓器を育てるための養分として吸い尽くされたからだ。

「焼き払うぞ! 今すぐにだ!」

ノワールが叫び、影の刃を生成する。

バルドもハンマーを構え、ライラも矢をつがえる。

このおぞましい繁殖炉を、一つ残らず消し去らねばならない。

だが、攻撃を加えようとした瞬間。

ギギギギギッ……!!

巣全体が、不快な高周波を上げて痙攣した。

防衛本能か、あるいは「親」を守るための反応か。

肉壁から無数の触手が飛び出し、穴の入り口を塞ぐように絡み合った。

「邪魔をするなァッ!!」

ノワールの影が触手を切り裂く。

ライラの矢が肉壁を貫く。

しかし、再生速度が異常に速い。

切っても切っても、すぐに新しい肉が盛り上がり、傷を塞いでしまう。

「物理攻撃が効かない!?

いや、回復が早すぎるんだ!」

「核だ!奥にある核を潰さねぇと!」

道が穴の奥を覗き込む。

深淵の底に、心臓のように強く脈打つ赤黒いコアが見えた。

あそこがマナの供給源だ。

「リィナ! 俺とお前で突っ込んで――」

道が指示を出そうとした、その時。

ボコォッ……!

奇妙な音がした。

巣の核が、自ら破裂したのだ。

「えっ……自爆?」

違う。

核が弾けた瞬間、巣を構成していた肉壁、卵、全ての組織が、ドロドロの黒い液体へと変質し始めた。

固体を維持するのをやめ、汚泥のような流動体となって、穴の底へ――地下深くの「地脈」へと雪崩れ落ちていく。

「逃げる気か……ッ!!」

ノワールが影を伸ばして液体を掴もうとするが、指の間をすり抜けていく。

黒い濁流は、ものすごい勢いで地下水脈よりも深い、惑星のマナが流れる「本流」へと混ざり込み、拡散して消えた。

「消えた……?」 「いや、溶けたんだ」

道は、背筋が凍るのを感じた。

「あいつら、自分たちが危なくなると、身体を溶かして『マナの流れ』そのものに逃げ込むんだ。

川に毒を流すみたいに……世界中の血管の中に」

逃げたのではない。

ウイルスのように、惑星全体へ拡散したのだ。

この場所から消えた「巣」の成分は、地脈を通って別の場所へ運ばれ、そこでまた凝固して新たな「巣」を作るだろう。

残されたのは、空っぽになった大穴だけ。

「……なんてことだ。

 これじゃあ、モグラ叩きどころの話じゃねぇぞ」

バルドがハンマーを下ろし、呆然と呟く。

物理的な実体を攻撃しても、核さえ逃げれば無限に再生し、移動する。

根絶するには、世界中の地脈を同時に浄化するしかないが、そんなことは神でも不可能だ。

その時、ライラの懐にある通信水晶が激しく明滅した。

彼女が応答すると、青ざめた顔で道を見上げた。

「……道、大変。

 世界会議本部からの緊急連絡よ」

「どうした?」

「『巣』の反応……ここだけじゃないって」

通信機から、焦燥しきったオペレーターの声が漏れ聞こえる。

『――炎のフレア、火山帯地下に大規模生体反応!!』

氷刃王国グラシア、永久凍土の下からマナ汚染液の噴出を確認!!』

沙海拳宗メルダ、砂漠中央に巨大な流砂発生!! 全て“巣”の波形と一致します!!』

報告は止まらなかった。

世界中の主要都市、マナの豊富な場所の地下で、一斉に「種」が芽吹いたのだ。

さきほど溶けて消えた「巣」の一部が、世界中に転移したのかもしれない。

「同時多発テロかよ……」

道は拳を握りしめた。

チーム《風》は一つしかない。

いくらリィナが音速で走り、ノワールが影で移動できたとしても、世界中で同時に起きているパンデミックを、たった6人で止めることは物理的に不可能だ。

「……詰み、か?」

バルドが弱音を吐きかける。

だが、道は空を見上げた。

赤く染まり始めた空。

このままでは、世界中の都市が、この第2都市と同じ「無」になる。

「いいや。詰んでない」

道の瞳に、強い光が宿る。

「手が足りないなら、増やせばいい」

「増やす?

 どうやって?

 私たちみたいなスーツも、適性者も、そう簡単には……」

「いるだろ。

 世界中には、戦える奴らが山ほどいる」

道は、かつて武闘祭で拳を交えたライバルたちの顔を思い浮かべた。

炎のバーン。

氷のシルヴァ。

砂のサーディン。

彼らは強い。

だが、虚無獣への有効打(カバディ呼吸)を知らないだけだ。

「俺たちの技術を、世界に配る」

道は全員を見渡して言った。

「リュミエラのスーツと、俺たちの『カバディ』。

この二つをセットにして、各国の軍隊や戦士たちに教えるんだ。

俺たち6人が戦うんじゃない。

俺たちが『指導者コーチ』になって、世界中に何千、何万というカバディ使い(戦士)を育てる」

ノワールが顔を上げた。

「……貴様、正気か?

 各国の軍隊に、他国の技術を教えるなど……政治的な壁が……」

「壁なんて言ってる場合かよ!

 地面ごと食われて無くなっちまうんだぞ!」

道の一喝に、ノワールは口を閉ざし、フッと自嘲気味に笑った。

「……違いない。  更地になってからでは、国境線も引けぬからな」

「決まりだ。 一度戻って、世界会議に殴り込みだ。

 ……カバディを、世界の共通言語にするぞ」

更地となった悲劇の都市。

その中心で、チーム《風》は次なるフェーズへの決意を固めた。

それは、「戦う」ことから「広げる」ことへ。

一個のチームが、世界を巻き込む大きな渦へと変わる瞬間だった。


序章・第1章・第2章・第3章(各10話構成)までを毎日更新します。

12/18から、1/4までの間投稿予定です。

よろしくお願いします。


また、この作者のもう一つの連載中の作品

「異世界召喚されたので、『前借スキル』で速攻ラスボスを倒して楽をしようとしたら、理不尽にも“感情負債140億ルーメ”を背負うことになったんだが?」

https://ncode.syosetu.com/n1424ll/

もよろしければ、お読み頂けましたら幸いです。

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