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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第3章:虚無獣の脅威

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第27話 孤高の解答

リィナの必殺の一撃によって、大型虚無獣が崩れ落ちた。

だが、勝利の余韻は一瞬で吹き飛んだ。

ズズズズズズ……ッ!!

大地の底から、不気味な振動が伝わってくる。

クレーターの中心が爆発し、泥のような高濃度のマナと共に、絶望そのものが姿を現した。

《城塞型虚無獣・ジェネラル級》。

食らった第2都市の城壁、塔、そして石化した魔族たちの残骸を全身に埋め込み、鎧として再構築した超大型個体だ。

その巨体は、先ほどの大型種すら赤子に見えるほど。

「オ……オォォォォ……ッ」

怪物が唸る。亡国の嘆きのような咆哮。

その巨腕――崩れた城壁の塊が、ゆっくりと振り上げられた。

「逃げろッ!! リィナ、立てるか!?」

どうが叫ぶが、スーツ組の動きが鈍い。

リィナはマナ酔いでフラつき、バルドもライラも内圧の維持で手一杯だ。

この状態で、あの質量の攻撃を受ければ全滅する。

(くそッ、俺が囮になって引きつけるしか――!)

道が前に出ようとした、その時。

黒い疾風が、道たちの前に滑り込んだ。

スーツを着ていない、漆黒のコートの男。

「ノワール! やめろ! スーツ無しじゃマナが持たねぇぞ!」

道が制止する。

マナを閉じ込めるスーツがない生身の魔族が、

カバディ(圧導)の真似事をすれば、

マナが霧散して終わるか、回路が焼き切れる。

だが、ノワールは振り返らなかった。

彼はただ静かに、自身の「両足」を見下ろしていた。

「……道。貴様の理論は正しかった」

ノワールの声は静かだった。

「出口を塞ぎ、内部で圧を高める。その理屈は完璧だ。

だが、貴様らのやり方は美しくない。

全身を布で覆うなど、マナの呼吸を殺す愚行だ」

彼はコートの裾を払い、両足を肩幅に開いた。

「見せてやる。

 道具になど頼らずとも……“器”は作れる」

ヴゥゥゥン……ッ。

ノワールの両足――太腿から爪先までが、漆黒の光に包まれた。

影ではない。

極限まで密度を高めたマナの皮膜だ。

彼は卓越した魔力操作によって、脚部の表面にマナを飽和状態にまで集中させ「マナによる遮断壁」を形成したのだ。

あたかも、ロングブーツを履くかのように。

「脚部表面をマナ飽和させ、壁を作る。

 そして、その内側にある筋肉と骨格の中で……

 さらにマナを圧縮・循環させる」

ノワールの脚が、黒曜石のように輝き始める。

脚というパーツだけを「圧力鍋」に変える、超高等技術。

「だが、この内圧に耐えるには……強靭な土台が必要だ」

ノワールは、ゆっくりと腰を落とした。

膝を90度に曲げ、背筋を垂直に伸ばす。

両腕を胸の前で伸ばし、こぶしを握る。

そして、微動だにしない。

その姿勢は、武術の達人のようであり、儀式のようでもあり。

そして、道の目には――あまりにも馴染み深いポーズに見えた。

「……ん?  おい、あれ……」

道が思わず吹き出しそうになる。

緊迫した戦場で、目の前には城塞のような巨人が迫っているのに。

最強の魔族が取ったそのポーズは。

「……空気椅子エア・チェアじゃねぇか……ッ!」

ププッ、と道が口元を押さえる。

だが、ノワールは大真面目だった。

この「空気椅子」の姿勢こそが、大腿四頭筋に最大の負荷をかけ、

暴れ回ろうとする脚部内の圧縮マナを物理的に封じ込める、唯一のロック機構だったのだ。

「笑うな……ッ! こっちは必死だ……!!」

ノワールの額に脂汗が浮かび、両方の太腿はプルプルと震える。

脚の中でマグマのようなエネルギーが渦巻いている。

それを、空気椅子の姿勢による筋肉の緊張だけで押さえ込む。

スーツを着て「カバディ」と叫ぶのとは訳が違う、純粋な我慢比べ。

虚無獣の巨腕が、ついに振り下ろされた。  ビル一つを粉砕する質量攻撃。

その直撃の瞬間。

ノワールは、空気椅子の姿勢のまま、足裏にある「解放口」を一気に開いた。

「消えろ――《魔族流・重圧脚シャドウ・プレス》!!!」

ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

世界が反転したかのような衝撃が走った。

ノワールの足裏から噴出したのは、圧縮された「影」の奔流。

それは地面を突き破り、虚無獣の真下から、巨大な黒い柱となって逆噴射された。

ズガガガガガッ!!

振り下ろされた巨腕が、下からの圧力で弾き返される。

それだけではない。

黒い柱は虚無獣の巨体を丸ごと持ち上げ、空中でミシミシと締め上げ始めた。

「貴様が纏っているのは、我が同胞の墓石だ。

 ならば……あるべき場所(土)へ還れ!!」

ノワールが、空気椅子のままさらに腰を深く落とす。

内圧が限界を超え、ブーツ状のマナ被膜にヒビが入る。

「砕けろぉぉぉッ!!」

 バギィィィィィンッ!!!!

閃光。

下からの超高圧プレスによって、虚無獣の身体を構成していた城壁と瓦礫が、一斉に粉砕された。

鎧を失った核が露出する間もなく、影の圧力が中身ごとすり潰す。

断末魔すら上げられず。

ジェネラル級の巨体は、砂上の楼閣のようにサラサラと崩れ落ち、黒い霧となって消滅した。

圧倒的な、単独撃破。

戦場に静寂が戻る。

舞い落ちる砂塵の中、ノワールはゆっくりと立ち上がろうとして――。

カクンッ。

生まれたての子鹿のように、膝から崩れ落ちた。

「……ぐっ」

「おいおい、大丈夫かよ、空気椅子の王様」

道が駆け寄り、肩を貸す。

ノワールの脚は、痙攣して小刻みに震えていた。

マナの使いすぎと、筋肉疲労のダブルパンチだ。

「……誰が、空気椅子だ……。

 あれは……『魔道圧縮姿勢マナ・コンプレッション・スタンス』だ……」

ノワールは顔をしかめながらも、言い張る。

だが、その横顔には、同胞の無念を晴らした安堵が滲んでいた。

「へいへい、そういうことにしておくよ。

 ……でも、すげぇ一撃だった。

 お前、やっぱり天才だよ」

 道が素直に称賛すると、ノワールはフンと鼻を鳴らした。

「当然だ。

 貴様らの珍妙なダンス(カバディ)と一緒にするな」

そう言いながらも、彼が差し出された道の腕を払いのけなかったのは、

彼なりにチームを――そして「圧導」という技術を認めた証だった。

スーツ組の三人も、呆気に取られた顔で集まってくる。

「あんなの……ありなの?」

「脚だけマッチョになりそうだな……」

呆れと敬意が混ざった視線の中、チーム《風》は最大の脅威を退けた。

だが、崩れ落ちた虚無獣の残骸の下から、さらなる絶望への入り口が見つかったのは、その直後のことだった。


笑ってはいけません。彼は大真面目です。

「空気椅子(魔道圧縮姿勢)」からの超高圧プレスで、ジェネラル級を圧殺したノワール。

やはりこの男、天才ですね(あと脚力がすごい)。

最大の敵を倒し、一安心……といきたいところですが。

クレーターの底で、彼らは見てはいけないものを見つけてしまいます。

虚無獣が「兵器」である決定的な証拠。

次回、『第2都市の惨状と“巣”の発見』。

敵は一体だけではありませんでした。

世界中が同時に「詰み」かけます。


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