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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第3章:虚無獣の脅威

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第24話 魔族領消滅の報

女神国が所有する高速飛空艇が、分厚い雲を切り裂いて飛行していた。

目指すは北方、魔族領シャドウバル

普段なら静寂を好む魔族たちの空域だが、今は眼下の雲の隙間から、不吉な赤黒い光が漏れ出しているのが見えた。

船内の兵員輸送区画には、重苦しい空気が充満していた。

だが、その沈黙を埋めるように、低く、奇妙な“音”が響いている。

「……カバディ……カバディ……」

「カバディ……カバディ……カバディ……」

「カバディカバディカバディ……」

それは、チーム《風》のメンバーたちが刻む、戦闘用呼吸の予行演習だった。

リュミエラ特製の「封魔カバディウェア」に身を包んだ彼らは、移動中のわずかな時間さえも惜しんで、マナ圧縮の訓練を続けているのだ。

このスーツは、着用しただけでは何も起きない。

だが、意識して体内でマナを練り上げれば、逃げ場を失ったエネルギーは行き場を求めて暴れだす。

実戦で瞬時にトップギアへ入れるためには、今のうちに少しでもこの感覚――体内でエネルギーを循環させ、言葉カバディで制御する感覚――を肉体に叩き込んでおく必要があった。

ドワーフのバルドは、腕組みをして目を閉じ、重低音で唱えている。

その全身は岩のように硬化し、座席がミシミシと悲鳴を上げている。

エルフのライラは、自身の弓を抱きながら、細く鋭い声で唱える。

指先からは放電のようなマナの火花が散っては消える。

獣人のリィナに至っては、貧乏ゆすりのような高速振動と共に早口で唱え続けていた。彼女の周囲だけ空気が熱で揺らいでいる。

「……傍から見たら、怪しい宗教団体だな」

どうは苦笑しながら、彼らの様子を見守っていた。

だが、その目は真剣だ。

彼らは今、自身のマナを限界まで圧縮した「臨戦状態」を維持し続けている。

これまでの戦いとは次元が違うエネルギー量だ。

「……笑えない冗談だ」

窓際で一人、外を睨みつけている男がいた。

ノワールだ。

彼だけはスーツを着ていない。

いつもの黒いロングコート姿だが、その足元からはどす黒い影が滲み出し、床を侵食していた。

「第2都市ノクサスは、魔族領でも有数の人口を誇る。

私の……古い友人も多く住む街だ」

ノワールの声には、隠しきれない焦燥が混じっていた。

魔族は個を重んじる種族だが、それは決して冷淡という意味ではない。

同胞への誇りは誰よりも高い。

「大丈夫だ。報告じゃ『消失反応』って言ってたろ?

通信が途絶えただけかもしれない」

道が声をかけると、ノワールは首を横に振った。

「貴様は虚無獣の食欲を知らん。

奴らはマナを食う。そして魔族は、身体そのものが高濃度のマナで構成されているようなものだ。  奴らにとって、我々の都市は……極上の餌場に他ならん」

ギリッ、とノワールの拳が握りしめられる。

「急げ……!

 これ以上、私の庭を荒らさせるな……!」

その時、操縦席から通信が入った。

『まもなく現地上空!

 雲を抜けます!

 総員、衝撃に備え――なっ!?』

操縦士の言葉が、驚愕の悲鳴に変わった。

『おい、計器が狂ってるのか!?

 高度計とソナーが……地面を感知しない!?』

「どういうことだ!?」

道が駆け寄って窓の外を見る。

雲が晴れた。

そこに広がっていた光景に、全員が言葉を失った。

「…………は?」

街が、なかった。

破壊されたのではない。

瓦礫の山があるわけでも、火災が起きているわけでもない。

そこにあったはずの巨大な城塞都市が、土台となる大地ごと、綺麗さっぱりと“抉り取られて”いたのだ。

直径数キロメートルに及ぶ、巨大なクレーター。

いや、クレーターですらない。

底が見えないほどの深淵が、口を開けているだけだった。

「嘘……でしょ……?」

ライラが口元を押さえる。

「街が……丸ごと……食われたってのか……?」

バルドが絶句し、カバディの詠唱が止まる。

途端にスーツの内圧が上がり、彼は慌てて「カバ……ディッ!」と息を吐き直した。

ノワールは、窓ガラスにへばりつくようにして下界を見下ろしていた。

その顔から、表情が消えている。

「……何もない」

彼の呟きが、静かな船内に響いた。

「城壁も、塔も、市場も……人々の気配も。

 塵一つ残さず……“無”にされたというのか……」

怒りよりも先に、理解を超えた絶望が襲う。

これが「虚無」の正体。

破壊ではなく、存在そのものの抹消。

『前方、熱源多数!!

クレーターの縁に反応あり!!』

操縦士が叫ぶ。

深淵の縁、かろうじて残った大地の上に、黒い染みのような群れが蠢いていた。

虚無獣だ。

それも、今まで見たことのないサイズと数の群れ。

彼らの体表は、食べたばかりのマナでてらてらと黒光りし、不気味に脈動している。

「あいつら……満腹で休んでやがるのか」

道が低い声で言った。

都市一つを平らげて、消化を待っている捕食者の群れ。

その光景に、恐怖よりも激しい感情が湧き上がってくる。

ガタガタと、船体が揺れた。

ノワールの魔力が暴走しかけているのだ。

彼の影が船内を埋め尽くさんと膨れ上がる。

「……殺す」

ノワールが、血を吐くように絞り出した。

「一匹たりとも残さん。

 我が同胞を糧にしたその汚い腹を……切り裂いて中身をぶちまけてやる!!」

彼はハッチへ向かおうとした。

だが、道がその肩を掴んだ。

「放せッ!!」

「一人で行くな!!」

道は、ノワールの殺気立った瞳を真っ向から見据えた。

「気持ちは分かる。

俺だってらわたが煮えくり返りそうだ。

だが、あいつらは進化した。

都市一つを食ったエネルギーを持ってる奴らだぞ。

お前一人で突っ込んで、もしお前まで食われたら……

誰がこの街の仇を討つんだよ」

「……ッ!!」

「俺たちを見ろ。

 今の俺たちには、お前と同じくらい“腹に溜め込んだ”もんがある」

 道が指差した先。

 そこには、震えながらも立ち上がる仲間たちの姿があった。

「カバディ……カバディ……ッ!!」

バルドがハンマーを握りしめる。

「カバディ……カバディ……!」

ライラが矢をつがえる。

「カバディカバディカバディ……ッ!!」

リィナが爪を立て、唸り声を上げる。

彼らの詠唱は、恐怖を消すための祈りから、敵を粉砕するための“アイドリング音”へと変わっていた。

スーツの中で圧縮されたマナが、今にも弾け飛びそうなほどの殺意となって渦巻いている。

「俺たちはチーム《風》だ。

 お前の怒りも、悲しみも、全部共有する。

 ……全員で叩き潰すぞ」

ノワールは、道の目を見て、次に仲間たちの姿を見て、深く、長く、息を吐き出した。

暴走しかけていた影が、彼の足元にスッと収束していく。

だが、その濃度は以前よりも遥かに濃く、鋭くなっていた。

「……指図は受けん。

 だが……足手まといにはなるなよ」

それが、彼なりの承諾だった。

「よし。

 降下準備!!

 目標、クレーター縁の虚無獣群!!」

ハッチが開く。

高度数千メートル。

吹きすさぶ風。

眼下には、都市を食い尽くした絶望の化身たち。

道は、深く息を吸い込んだ。

肺に圧を込める。

「行くぞッ!!」

「「「カバディッ!!!!」」」

三人の咆哮と、ノワールの無言の殺意と共に、  四つの影が空へ飛び出した。

未完成のスーツ。

急造の連携。

だが、その心には「絶対に許さない」という共通の火が灯っていた。

魔族領消滅の報。

それは終わりではなく、世界規模の反撃が始まる狼煙のろしとなった。


都市がまるごと一つ、食われて消滅していました。

「虚無」の本当の恐ろしさを目の当たりにし、激昂するノワール。

彼を止めたのは、仲間の熱い「詠唱カバディ」でした。

さあ、反撃開始です。

都市を食って進化した化け物の群れに、上空数千メートルからのダイビング!

次回、『それぞれの流儀スタイル』。

スーツを着た彼らの「圧」は、もう以前とは別次元です。


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