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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第3章:虚無獣の脅威

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第21話 黒いローブの秘密

森の地下深くに作られた石室。

そこは今、日の光が届かない冷たい牢獄となっていた。

湿った空気に、錆とカビの匂いが混じる。

静寂を破るのは、鎖の擦れる音と、捕らえられた男の荒い呼吸音だけだ。

石造りの椅子に縛り付けられているのは、先の戦いでどうが捕獲した小柄な斥候だった。

彼の目の前には、闇そのもののような男――ノワール・ヴェイルが立っている。

「……言え。虚無獣をどこから呼んだ?」

ノワールの声は、地下の冷気よりも冷たかった。

彼の足元の影が生き物のように蠢き、鋭利な刃となって男の喉元にピタリと突きつけられている。

「ひぃっ……!

し、知らない……!

俺はただ、指定された場所に“香炉”を置いただけだ……!」

「嘘だな。貴様の影が震えているぞ」

「本当だ!

信じてくれ……!

ただ……香炉の中身は、“種”だと聞いた!」

「……種、だと?」

ノワールの目が鋭く細められた。

「ああ……虚無獣は自然発生じゃない……。

何者かが意図的に“植え付けて”いるんだ……!

あいつらは、災害なんかじゃない。……兵器だ」

男の告白は、この世界の前提を覆すものだった。

虚無獣とは、マナの淀みから生まれる自然現象だと誰もが信じていた。

だが、それがもし何者かの手によって管理され、拡散されているとしたら。

世界を食い荒らしているのは「不幸な事故」ではなく、「明確な悪意」ということになる。

「……誰だ。

誰がその種を撒いている」

「わ、分からない……!

 俺たちも顔を見たことはない。

指令はいつも影を通して届くんだ……!」

男はガタガタと震え出した。

これ以上の情報は持っていないようだ。

ノワールは影を解き、冷たく吐き捨てた。

「……興が削がれた。貴様の怯えに嘘はないようだな」

ノワールは背を向け、石室を出た。

重い扉が閉まる音が響く。

廊下を歩きながら、彼は拳を強く握りしめていた。

(誰かが世界を“食わせよう”としている……? 

目的は何だ?

我々魔族を、いや、この世界の生命すべてを根絶やしにする気か?)

孤高を貫く彼にとって、見えない巨大な敵の存在は、かつてない焦燥をもたらしていた。


◆◆◆


一方、地上の研究室は、地下の重苦しさとは対照的に、異様な熱気に包まれていた。

「すごい……!

信じられないわ……!

これ、世紀の大発見よ!」

エルフの研究者・リュミエラが、作業机の上に広げた黒い布を凝視しながら叫んでいる。

机の上には、魔力測定器や顕微鏡のような魔道具が散乱し、魔法陣がいくつも展開されていた。

その中心にあるのは、あの斥候が身につけていた「光学迷彩のローブ」だ。

「どうしたんだ、リュミエラ。

そんなに珍しい素材なのか?」

トレーニングを終えた道が、汗を拭きながら部屋に入ってきた。

リュミエラはバッと顔を上げた。

徹夜明けなのか目の下にクマができているが、その瞳は研究者特有の狂気じみた輝きを放っている。

「珍しいなんてもんじゃありません!

 道さん、この布……ただ姿を消すための迷彩服じゃないんです」

「違うのか?

 俺はてっきり、カメレオンみたいに色を変える布かと……」

「ええ、光学迷彩の機能もあります。

でも、それだけじゃノワールさんの感知は誤魔化せません。

この布の繊維、特殊な術式で編み込まれていて……

内側からのマナ放出を『100%遮断』する機能があるんです!」

「マナ放出を、遮断……?」

道が首を傾げると、リュミエラは早口でまくし立てた。

「この世界の生物は、常に呼吸や皮膚から微量のマナを放出しています。

それが“気配”となり、魔法的な探知に引っかかるんです。

このローブは、

それを内側に完全に封じ込めることで、

外界との境界を曖昧にし、

完璧な透明化を実現していたんです!」

道は、机の上の黒い布を手に取った。

しっとりとしていて、重みがある。

絹のようだが、どこか金属的な冷たさも感じる不思議な手触りだ。

(……マナを、外に逃さない素材?)

その瞬間、道の脳裏に電流のような閃きが走った。

それは、彼がこの世界で生き抜くために編み出した「呼吸」の原理と、奇妙なほど一致していた。

「なぁ、リュミエラ。

 この素材を使って……身体にぴったりの服を作れないか?」

道は言いながら、自分の荷物袋をごそごそと探った。

そして取り出したのは、ボロボロで少し色褪せているが、彼にとっては何よりも大切な戦闘服。

元の世界から着てきた、カバディ日本代表のユニフォームだった。

「これだよ。この形を参考にしてほしい」

リュミエラが目を丸くする。

「これは……道さんが着ていた、異界の服ですね。

でも、これじゃあ腕も脚も出てますよ?

全身を覆わなくていいんですか?」

「ああ、いいんだ。

 俺は『マナ不導体』だから、吸い込んだマナ入りの空気を肺で圧縮して、

体幹に溜め込んでる。

重要なのは『胴体』だ。

肺と、その周りの筋肉さえガッチリ密閉できれば、圧力は逃げない」

道はユニフォームの胸の部分を叩いた。

「俺だって、手足の指先まで使ってマナを圧縮してるわけじゃないしな。

 末端まで覆うと、逆に動きにくくなる。

 カバディは一瞬のステップが命だ。

関節の可動域は殺したくない」

リュミエラが感心したように頷く。

「なるほど……。

全身を密閉する潜水服のようなものを想像していましたが、

それだと確かに戦闘には不向きですね。

重要な『タンク』である胴体部分を重点的にこの素材で覆い、

手足は動きやすさを優先する……」

「そうだ。

 そうすれば、バルドやリィナみたいなマナ導体の奴らも、

俺と同じ『圧力鍋』になれる。

俺の呼吸法カバディを、

本当の意味で使えるようになるんだ!」

リュミエラは震える手でペンを取り、猛然と設計図を描き始めた。

道のユニフォームをベースに、黒いローブの素材をインナーとして組み合わせた、

ハイブリッドな戦闘着のデザインが生まれていく。

「できます……!

 このローブを分解して、

繊維レベルで再構築すれば……

世界初の『対マナ遮断式・カバディウェア』が作れます!!

理論上、着用者のマナ内圧は通常の十倍以上に跳ね上がりますよ!」

「頼んだぞ。それが、次の戦いの切り札になる」


◆◆◆


そこへ、地下からノワールが戻ってきた。

不機嫌そうな顔で、研究室の喧騒を一瞥する。

その纏う空気はいつも以上にピリピリしていた。

「……騒がしいな。尋問は終わったぞ」

「ノワール! ちょうどよかった、お前の分の採寸も……」

道が駆け寄ろうとすると、ノワールは冷たく手をかざして制止した。

「断る」

「え?」

「話は聞こえていた。

マナを閉じ込める服だと?

 ……馬鹿にするな。

私は魔族だ。

マナの扱いに長けた高位種族だ」

ノワールはプライドの高い瞳で道を見据えた。

彼の「影」という魔法は、繊細なマナ操作の上に成り立っている。

それを服で物理的に塞ぐなど、彼にとっては退化でしかなかった。

「道具に頼って、無理やりマナを抑え込むなど……美学に反する。

 そのような『蓋』がなくとも、私は私のやり方で、

貴様と同じ領域ゾーンへ到達してみせる」

「……そう言うと思ったよ」

道は苦笑したが、無理強いはしなかった。

ノワールにはノワールの、孤高の理論がある。

それをへし折っては、彼の強さが死ぬことを道は理解していた。

「分かった。お前のは作らない。

 その代わり……置いていかれるなよ?

 このウェアが完成したら、みんなの動きは劇的に変わるぞ」

「フン。誰に物を言っている」

ノワールは黒いマントを翻し、研究室を出て行った。

だが、その背中は拒絶だけでなく、新たな決意を滲ませていた。

彼もまた、斥候から聞いた「組織」と「種」の話に危機感を抱き、独自の進化を模索し始めていたのだ。

リュミエラが顔を上げる。

「道さん、彼以外のメンバーの分……急ぎます!

 おそらく、時間はあまりありませんから」

「ああ。頼む」

窓の外、遠くの空がわずかに赤く滲んでいた。

虚無の気配は、刻一刻と濃くなっている。

見えない敵の足音が、すぐそこまで迫っていた。

(待ってろよ、みんな。

 お前らに、最強の“翼”を着せてやるからな。

 ……もっとも、その翼は最初は重すぎて、

着こなすのに死ぬほど苦労するだろうけどな)

道は拳を握りしめ、来るべき地獄の特訓を見据えてニヤリと笑った。

この服が完成した時、異世界の戦士たちは、本当の意味で「カバディ(=呼吸の格闘技)」を知ることになる。


虚無獣は自然災害ではなく、何者かが仕組んだ「兵器」でした。

見えない敵の正体と、世界を「治療」するという狂気。

しかし、道たちはただ手をこまねいているわけではありません。

敵の技術ローブを逆用し、ついに「あの計画」が動き出します。

マナを持たない道だからこそ思いついた、とんでもない発明品とは?

次回、『なれなかった弟子と、森の再会』。

一方その頃、エルフの森では“嵐”が吹き荒れています。


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