第20話 風が吹く場所、チーム《風(ウインド)》の誕生
戦闘の熱気が引き、森に静寂が戻ってくる。
道の手によって捕らえられた斥候の男は、ノワールの影によってぐるぐる巻きに拘束されていた。
「……私の感知をすり抜けた屈辱、たっぷりと味わわせてやろう」
ノワールが冷徹な瞳で男を見下ろす。
「魔族領の地下牢で、背後の組織から目的まで、全て吐かせる。……良いな?」
「ああ、頼む。お前の尋問なら確実だろ」
道が頷くと、ノワールはフンと鼻を鳴らしたが、その表情には少しだけ信頼の色が混じっていた。
その時だった。
戦いの中心にいた小さな光の球――精霊が、ふわりと道の目の前に漂ってきた。
「……礼を言ってるのか?」
言葉はない。だが、温かい波動が伝わってくる。
精霊は道の胸元に触れた。
すると、酷使した肺や筋肉に蓄積していた「熱」が、スーッと引いていく。
マナを持たない道に力を与えることはできない。
けれど、その傷ついた体を癒やすことはできるようだ。
精霊はその後、バルド、ライラ、リィナ、ノワール、そしてレアの周りを一周し、最後に感謝を示すように強く瞬くと、マナの噴出点の中へと溶けて消えていった。
「……行っちまったな」
「ええ。でも、もう大丈夫でしょう。この森のマナ循環は正常に戻りました」
レアが安堵の息をつく。
「さて……帰るか」
道が伸びをすると、全員の腹の虫が盛大に鳴った。
極限の集中と「圧導」の連携。エネルギーの消費は半端ではなかったようだ。
「腹減ったー! 肉! 肉食べたい!」
リィナが騒ぎ出す。
「やれやれ……。ま、労働の後の飯は美味いからな」
バルドが苦笑いし、ライラも
「……少しは甘いものでも食べたい気分ね」と呟く。
一行は夕暮れの街道を歩き出した。
行きとは違い、その足取りは揃っている。
ふと、森を抜けた丘の上で、道が足を止めた。
視界が開け、沈みゆく夕日が世界を茜色に染めている。
そこへ、一陣の風が吹き抜けた。
ザァァァァ……ッ。
汗ばんだ肌を撫でる、涼しく、力強い風。
それはバラバラだった彼らの隙間を埋め、一つの方向へと背中を押すようだった。
「……なぁ」
道が口を開く。
「俺たちはバラバラだ。
種族も、考え方も、戦い方も違う。
きっとこれからも、喧嘩ばかりするだろう」
「否定はしないわ」
ライラが即答し、バルドが喉を鳴らして笑う。
「だけど」
道は空を見上げた。
「目に見えないけど、確かにそこにある。
時には優しく、時には嵐のように荒れ狂う。
掴みどころがなくて、自由で……一度吹き荒れれば、誰も止められない」
そして、道は自分の胸に手を当てた。
「それに、俺の名前『道』は、風が吹き抜ける“通り道”だ。
バラバラな俺たちの呼吸が、一つの道となって重なれば……世界を動かす暴風にだってなれる」
今日の戦いがそうだった。
形のない空気(呼吸)をつなぎ、巨大な敵を吹き飛ばした。
「俺たちのチーム名、決めたぞ」
道は振り返り、仲間たちを見渡した。
エルフ、ドワーフ、獣人、魔族、女神国の王女。
この個性的な連中にふさわしい名は、一つしかない。
「このチームは――《風》だ。 チーム《風》の誕生だ!」
その宣言は、夕暮れの空に溶け込んだ。
「……《風》、か。悪くない」
ノワールが口元を緩める。
「風任せってこと?
あたしっぽくていいかも!」
リィナが跳ねる。
「岩をも削る風なら、ドワーフも認めてやろう」
バルドが頷く。
「……ま、私の矢に乗るには丁度いい名前ね」
ライラが髪をかき上げる。
「ふふっ。素敵な名前です、道」
レアが微笑む。
反対意見はなかった。
彼らはもう、自分たちが一つの大きな流れの中にいることを自覚していたからだ。
「よし! 帰って宴会だ!
今日はバルドの奢りだからな!」
「なんでそうなる!? 一杯だけだと言っただろ!」
「えー!ケチおじさんー!」
「誰がおじさんだ毛玉!」
再び騒がしい日常が戻ってくる。
だが、その騒音さえも、今は心地よいハーモニーのように響いていた。
異世界カバディ部、チーム《風》。
メンバーは6名。
最強で最悪、そして最高に噛み合わない奴らの伝説が、この丘から始まろうとしていた。
(第2章 完)
これにて第2章「仲間集め編」、完結です!
エルフ、ドワーフ、獣人、魔族、王女。
種族も性格もバラバラな奴らが、「風」という一つのチームになりました。
しかし、捕らえた斥候が持っていた「香炉」。
虚無獣は自然災害ではなく、何者かが仕組んだ「兵器」でした。
物語はここから、世界を巻き込んだ組織戦へとスケールアップしていきます。
次回、第3章『世界を繋ぐ呼吸』編、スタート!
開発される「カバディ専用スーツ」!?
そして明かされる、黒幕の正体とは──。
世界会議へ、チーム《風》が殴り込みをかけます!
(※第2章も最後までお読みいただきありがとうございます!
「チーム結成熱い!」「続きが気になる!」と思っていただけた方は、
ぜひブックマークと【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!
モチベーションが爆上がりします!)




