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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第2章:異種族チーム「風」誕生

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第19話 見えざる手、狩られる監視者

六人が手をつなぎ、物理的な回路チェーンがつながった瞬間。

戦場の空気が変わった。

「――行くぞ!!」

道の合図で、圧縮されたエネルギーが爆発する。

先陣を切ったのは、最前線で虚無獣を押し返していたバルドだ。

「うぉぉぉぉぉッ!! 空でも飛んでな!!」

ドゴォォォォンッ!!

バルドの大鎚が下から上へと振り抜かれる。

純粋な筋力と「圧導」によるブーストが生んだ衝撃は、数十トンある虚無獣の巨体を軽々とカチ上げ、宙へと浮かせた。

「逃がさん!」

「縫い止めるわよ!」

浮いた標的を、ノワールとライラが見逃さない。

ノワールが影を伸ばして空中の巨体を拘束し、ライラが風の矢で四肢を壁に釘付けにするように撃ち抜く。

巨大な的が、空中で完全無防備になった。

「リィナ!中身を暴け!」

「任せてーッ!!」

リィナが地面を蹴る。

「圧導」のエネルギーを全身に纏った彼女は、一筋の金色の弾丸と化した。

狙うは、分厚い汚泥の奥にある「核」。

ズバァァァァァァッ!!!

リィナの体当たりが、虚無獣のど真ん中を貫通する。

猛スピードで通り抜けた後には、風穴が開き――その奥で、ドクドクと脈打つ赤黒い核が露出した。

「レア! 今だッ!!」

道が叫び、つないだ手から残った全ての圧をレアへ送り込む。

「はいッ!

 魔法が効かないなら――純粋なエネルギーとして叩き込みます!」

レアは杖を構えた。

魔力を込めない。マナを使えば吸収される。

彼女が撃ち出すのは、仲間たちがつないできた「物理的な破壊エネルギー」の塊。

それを魔法陣を通して収束・放射する、即興の最終奥義。

「《圧導砲アツドウ・キャノン》!!!」

カッッ!!!!

杖の先から放たれたのは、光り輝く衝撃波。

それは露出した核に直撃し、虚無獣の再生能力が追いつく間もなく、細胞の一つひとつまで粉砕した。

ドォォォォォォン……!

虚無獣が霧散し、黒い雨となって降り注ぐ。

圧倒的な勝利だった。

「やっ……た……?」

リィナが着地し、振り返る。

「勝った……! 私たち、勝ったよ!」

ライラがへたり込み、バルドがハンマーを掲げて雄叫びを上げる。

精霊の光も、安堵したように柔らかく輝きを取り戻していた。

歓喜に湧くメンバーたち。

だが、その輪の中に――「彼」の姿がなかった。

「……おい、道はどこへ行った?」

バルドが周囲を見回す。

さっきまでレアの手を握っていたはずの道の姿が、忽然と消えている。

「吹き飛ばされたのか!?」 「いや、まさか……!」

ノワールが血相を変えて周囲を探る。

魔族の感知能力を全開にするが、反応がない。

マナ反応ゼロ。生体反応ゼロ。  完全に「無」だ。

(馬鹿な……私の探知から消えるなど、あり得ない。

死んだとしても死体は残るはずだ)

戦場の余韻が冷め、不安が広がろうとした、その時。

「――おーい。こっちだ」

森の茂み、誰も注意を払っていなかった「死角」から、呑気な声が響いた。

「道!?」

全員が振り返る。

そこには、首根っこを掴んだ「何か」を引きずりながら、平然と歩いてくる道の姿があった。

「悪い悪い。

ちょっと“面白い奴”を見つけたもんでな」

道が引きずってきたのは、全身を光学迷彩ローブで包んだ小柄な男だった。

男は気絶しており、その懐からは「虚無獣を誘導する香炉」が転がり落ちた。

「なっ……!?」

ノワールが絶句する。

「そいつは……隠密の斥候スカウトか!?

 馬鹿な、私はずっと影を展開していたんだぞ。

気配など微塵も……」

「ああ。魔法的な隠蔽は完璧だったよ。

お前ですら気づかないレベルでな。

光学迷彩のローブで完璧だと思ってたんだろうな。

めちゃくちゃ粗い呼吸をしてたけどな」

道は気絶した男を放り投げ、淡々と言った。

「だから、俺には感じた」

核を粉砕した爆風の瞬間。

道は、勝利を確信した瞬間に息を止めたのだ。

呼吸停止によるマナ遮断。

さらに、体内に残った「圧導」エネルギーを皮膚表面に薄く展開し、光を屈折させる「光学迷彩」を発動。

完全な透明人間インビジブルとなった道は、戦場の誰よりも深く潜り――

物陰で「成果」を確認しようとしていたこの斥候の背後を、音もなく取ったのだ。

「俺はマナを感じられない。

だからこそ、『空気の不自然な揺らぎ』と『呼吸音』にだけは誰よりも敏感なんだよ」

道は親指で背後を指した。

「こいつが、この場所に虚無獣を誘導した犯人だ。

 ……ま、俺を上回る隠密じゃなかったのが運の尽きだな」

全員が、言葉を失って道を見つめた。

巨大な怪物を倒した力も凄いが、それ以上に。

魔族のノワールすら欺く隠密を、魔法を使えない人間が、乱戦の最中に捕獲してみせた。

その底知れない「カバディ(狩人)」としての実力に、戦慄にも似た感情が走る。

「……あんた、本当に何者なのよ」

ライラが呆れたように呟く。

「ただのカバディ選手だと言ってるだろ」

道はニカっと笑い、汚れた服をパンパンと払った。

「さて。これで精霊も守れたし、お土産(犯人)も確保した。

 ……そろそろ、手をつないで帰ろうぜ?」

その軽口に、今度は誰も反発しなかった。

バラバラだった六人の影が、夕暮れの森に長く伸びていた。


虚無獣撃破! そして、騒ぎのどさくさに紛れて、黒幕の斥候をひっ捕らえた道。

「カバディ選手は呼吸音に敏感」 この設定が、まさか隠密狩りに役立つとは。

戦いは終わり、夕暮れ。

精霊に見送られ、彼らは一つの「名前」を冠することになります。

次回、第2章最終話。

『風が吹く場所、チーム《ウインド》の誕生』。

最強で最悪なチームの、伝説の始まりです。


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