第18話 嫌々ながらの最強連携(チェーン)
「グルルルゥ……ォォォオオッ!!」
虚無獣が咆哮と共に膨張する。
周囲のマナを飲み込み、質量を増したその黒い身体は、もはや「泥」ではなく「津波」のように六人に覆いかぶさろうとしていた。
「くっ……!重さが……桁違いだぞ……ッ!!」
最前線で仁王立ちするバルドの膝が、ガクガクと震え始める。
大鎚で受け止めている触手の重量が、数トンから数十トンへと跳ね上がったのだ。 背後のライラが援護の矢を放つが、分厚くなった汚泥の装甲に弾かれる。
「ダメだ! マナの密度が高すぎて、矢が通らない!」
「切ってもすぐ再生するよ! キリがない!」
リィナとノワールも攻めあぐねていた。
防衛線が崩壊する――そう思われた瞬間。
「――させませんッ!!」
凛とした声が響き渡った。
レアだ。
彼女は杖を掲げ、黄金の光を戦場に展開させた。
「女神の加護よ、戦士に力を!
《ブレイブ・オーラ》!
そして聖なる光よ、盾となれ!
《サンクチュアリ・シールド》!!」
キィィィンッ!!
バルドの全身が金色の光に包まれ、筋力が底上げされる。
同時に、精霊と道の周囲に、半球状の強固な光の障壁が出現した。
「おおっ! 力が湧いてきやがった!」
バルドが息を吹き返し、押し込まれていたハンマーを押し戻す。
「さすが王女様! いい支援だ!」
道が叫ぶ。これで持ち堪えられる――かと思われた。
だが。
バギィッ……!
嫌な音がした。
レアが展開した絶対防御の障壁に、虚無獣が「噛みついた」のだ。
「なっ……!?」
レアが目を見開く。
「結界が……吸われている……!?」
虚無獣はマナを喰らう獣。
高純度な魔法であればあるほど、奴にとってはご馳走だった。
障壁がガラスのように噛み砕かれ、そのエネルギーを取り込んだ虚無獣は、さらに一回り巨大化した。
「嘘だろ……魔法が逆効果なのかよ!?」
ノワールが舌打ちする。
魔法を使えば吸収されて強化される。
かといって使わなければ、質量で押し潰される。
完全な詰み(チェックメイト)。
「……なら、魔法じゃなきゃいいんだろ!!」
道が吼えた。
彼は瞬時に判断した。
この場の全員がマナ使い(魔法タイプ)だ。
唯一、マナを使わず、肺の空気圧と肉体のバネだけで戦う「物理タイプ」を除いては。
「バルド! 歯を食いしばれ!」
道は精霊の前から飛び出した。
レアの結界が砕け散る中、彼は崩れかけたバルドの背中へと滑り込む。
「道!? お前、守備位置は……!」
「ここが最終ラインだ! 一人で支えきれないなら、二人で支える!」
道はバルドの分厚い背中に左手を当て、右手を後方の空間へ突き出した。
「レア! 俺の手を掴め!!」
「えっ!?」
「魔法は使うな!
お前の身体そのものを俺につなげ!
全員だ!
魔法じゃねぇ!
肉体をつなぐんだよ!!」
道は肺で限界まで圧縮する。
一人分の「圧導」では、この質量は支えきれない。
だが、全員の骨格と筋肉を一本の「杭」として連結すれば――!
「……信じます!」
レアが杖を捨て、道の手を両手で強く握りしめた。
その瞬間。
フッ……。
道の肺から、苦痛が消えた。
パンパンに膨れ上がっていた圧力が、回路を通ってレアへ、そしてバルドへと奔流のように流れ込んだのだ。
(……詠唱が、要らねぇ)
道は目を見開く。
圧を逃がすための「カバディ」という発声が不要になる。
それはつまり――呼吸を止めたまま、全力が出せるということ。
「ぐぅぅ……ぉぉぉおおおッ!?」
バルドが絶叫する。
マナによる強化ではない。
背骨に鉄柱を埋め込まれたような、圧倒的な「物理的支柱」が身体を貫いた感覚。
「なんだこりゃあ!? 背中が……燃えるように熱ぇ!!」
押し込まれていた大鎚が、ピタリと止まる。
「ライラ!
ノワール!
リィナ!
お前らもだ!
レアに!俺に!
どこでもいい、掴まれ!!
この『熱』を回すんだよ!!」
三人は一瞬躊躇した。
触れ合うことを嫌っていた彼らだ。
だが、目の前で起きている現象――バルドが巨大な質量をたった一人(+道の支え)で押し留めている光景が、理屈を吹き飛ばした。
「……ええい、ままよッ!あとで消毒するわ!」
ライラがバルドの肩を掴む。
「面白そう! 混ざるー!」
リィナが道の腰にしがみつく。
「……今回だけだ。計算外の事態ゆえな」
ノワールがライラの背に手を当てる。
ガシッ! ガシッ! 六人が、歪な形で一つにつながった。
その瞬間。 回路が完成した。
「――――ッ!!」
言葉はない。
全員の肉体が共鳴し、道の「圧導」が増幅され、最前線のバルドへ一点集中する。 道は無言で、しかし強烈に、全員の重心をコントロールする。
「うぉぉぉぉぉッ!!
力が……力が溢れて止まらねぇぇぇ!!」
バルドの筋肉が岩のように隆起する。
魔法ではない。
純粋な肉体強度が、ドラゴンの鱗をも超える硬度へと変質していた。
「押し返すぞ!! せぇのッ!!」
ズドォォォォンッ!!!
信じられない光景だった。
山のような虚無獣の巨体が、バルドのハンマーの一振りで、風船のように弾き飛ばされたのだ。
「「「「!!??」」」」
全員が自分の手と、つながった仲間を見る。
嫌悪感?
そんなものは消し飛んでいた。
今、彼らの掌に残っているのは――血管を巡るような、熱く、確かな「生命のつながり」だけだった。
「……へっ。
見たかよ。
これがカバディの……『チェーン』だ」
道がニカっと笑い、親指を立てた。
呼吸は乱れていない。
つながっている限り、彼は無限に戦える。
虚無獣は大きく後退し、体勢を崩している。
反撃の狼煙は上がった。
世界中の地下に植え付けられた「巣」。
同時多発パンデミックを前に、たった6人のチーム《風》では手が足りません。
そこで道が出した答えは、 「俺たちの技術を、世界中に配る」こと。
国境も種族も関係ない。
全員をカバディ選手にする壮大な計画です。
まずは頭の固い各国のトップを説得しなければなりません。
場所は世界会議。
手段は……もちろん「実力行使」です。
次回、『世界会議への殴り込み』。




