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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第2章:異種族チーム「風」誕生

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第17話 背後の7人目、鉄壁の防衛線

「どけ、ドワーフ! 私の射線が塞がる!」

「うるせぇ! てめぇこそチョロチョロ動くんじゃねぇ!」

「私の獲物だよ! 横取りしないで!」

「影が薄くなる。全員邪魔だ」

精霊を守るために集まったはずの四人は、虚無獣の前で最悪の不協和音を奏でていた。

ライラの放った風の矢が、前衛に出たバルドの兜をかすめて火花を散らす。

リィナの高速移動が砂煙を巻き上げ、ノワールの視界を塞ぐ。

ノワールの影棘が地面を隆起させ、リィナがつまずきそうになる。

個々の能力は高い。

高すぎる。

だが、それが一点に集中せず、互いを打ち消し合っていた。

「グルルルゥ……ッ!!」

虚無獣――黒い汚泥の巨体が、その混乱を見逃すはずがなかった。

奴は四人の攻撃を、不定形の身体をスライムのように変形させて受け流す。

そして、攻撃の合間にある致命的な「隙間」を縫って――

黒い触手が、彼らの戦線のさらに奥、震える「光(精霊)」へ一直線に伸びた。

「しまっ――!?」

ライラが息を呑む。矢がつがえられていない。

バルドは大振りの直後で戻れない。

リィナは空中にいて方向転換できない。

ノワールは影の再生成中。

全員の手が届かない。

精霊が食われる――その絶望的な瞬間。

「――そこだッ!!」

横合いから飛び込んだ影があった。

道だ。

彼は武器を持っていない。魔法も撃てない。

だが、誰よりも速く「守るべき場所」を理解していた。

道は精霊の直前に滑り込み、呼吸を圧縮する。

吸気。加圧。硬化。

「カバディッ!!」

 ドォォォンッ!!

黒い触手が道の交差した腕に激突した。

強烈な衝撃が骨を軋ませ、足元の地面がひび割れる。

だが、道は一歩も引かなかった。

「圧導」による衝撃分散。触手の破壊力を、背中の筋肉から地面へと逃がす。

「ぐ、ぅぅ……ッ! お前ら、何やってんだ!!」

道は触手を受け止めながら、前方の四人に怒鳴った。

背後には怯える精霊。道はその盾となり、さらにその前に四人が展開している形だ。

「強いのは分かった!

 けど、お互いの足を引っ張り合ってどうする!

 『個』で戦うな! 後ろを見ろよ!!」

四人がハッとする。

彼らが守るべき小さな光は、道の背中で震えていた。

自分たちの攻撃の余波で、精霊のマナがさらに乱れている。

「いいか、よく聞け!

 カバディの正規ルールは、コートに7人だ!

 俺とレア、ライラ、バルド、リィナ、ノワール……俺たちは6人しかいねぇ!」

 道は触手を弾き返し、荒い息で叫ぶ。

「残りの1人は――俺たちの背後にいる、こいつだ!

 この精霊を『7人目の仲間』だと思え!!」

「な……7人目……?」

 バルドが呆気にとられる。

「そうだ!

 俺たちが敵との間に立ちふさがる『アンティ』になるんだ!

 ここから先は通すな!

 ここが俺たちの『最終防衛線ライン』だ!!」

道が指示を飛ばす。

カバディの基本戦術。

守備陣が横に並んで鎖となり、背後の自陣(精霊)へ侵入しようとする敵レイダー(虚無獣)を物理的に塞ぐ最強の布陣。

「手をつないでチェーンになれ!

 一枚岩になって押し返すぞ!」

だが――。

「「「「断る!!」」」」

返ってきたのは、見事なまでの拒絶だった。

ライラが顔をしかめる。

「生理的に無理! 汗臭い!」

バルドが唾を吐く。

「ドワーフが男の手を握るか! 吐き気がするわ!」

ノワールが冷たく言い放つ。

「魔力回路が濁る。論外だ」

リィナが地団駄を踏む。

「じっとしてるのヤダ!

 走りたいー!」

「……お前らなぁ!!」

道はガクッと膝をつきそうになったが、すぐに持ち直した。

想定内だ。

こいつらが素直に手をつなぐなら、最初から苦労はしない。

「分かった!

 手はつがなくていい!

 その代わり――『意識』のラインだけはつなげろ!!」

道は瞬時に思考を切り替えた。

物理的なチェーンが無理なら、戦術的な配置フォーメーションで壁を作るしかない。

「バルド!

 お前は『柱』だ!

 俺より前へ出ろ!

 精霊と虚無獣の一直線上に立ちふさがれ!

 どんな攻撃も正面で受け止めて、視界を遮断しろ!」

「ライラ!

 お前はバルドの後方、俺の斜め前だ!

 バルドが受け止めた瞬間の隙を狙え!

 精霊に流れ弾を当てるなよ!」

「リィナ!

 お前は『遊撃』だ!

 左右に走って敵の気を散らせ!

 ただし精霊のラインより下がるな!」

「ノワール!

 お前は『底』だ!

 影から敵の足を止めて、バルドへの負担を減らせ!」

「レアは全体の支援バックアップ!」

矢継ぎ早に指示が飛ぶ。

精霊を頂点とし、バルドを最前線に置いた扇形の防衛陣。

それぞれの性格と特技を完璧に把握した配置だった。

「俺が一番後ろ、精霊の直前で最後の盾になる!

 文句があるなら後で聞く!

 今は――7人目の仲間を守り抜けッ!!」

その声には、有無を言わせない迫力があった。

四人は顔を見合わせる。

好き嫌いはある。

プライドもある。

だが――道の指示は、不思議と腑に落ちた。

「……チッ、一番前で受けるだけなら、俺の本職だ!」

バルドが大鎚を構え、ドスドスと虚無獣の真正面へ歩み出る。

その広い背中が、精霊への視界を完全に遮断した。

「私の矢をサポート扱いなんて……。でも、外したら承知しないわよ!」

ライラがバルドの死角をカバーする位置取りをし、弓を引き絞る。

「走り回るのなら得意ー! こっちだよー!」

リィナが戦場を大きく迂回し、虚無獣の側面へ回り込む。

「影からの拘束……地味だが、私の性に合っているな」

ノワールが影に沈み、バルドの足元の影とリンクする。

形はいびつ

手はつないでいない。

だが、精霊を守るための「意思ある壁」が、初めて戦場に出現した。

「グルァァァァッ!!」

虚無獣が再び触手を振り上げ、邪魔なバルドへ殺到する。

だが今度は違う。

「ドワーフの岩盤を舐めるなァッ!!」

バルドが正面からハンマーで触手を叩き落とす。

その衝撃で虚無獣の体勢が崩れた瞬間。

「そこよ!」

ライラの風矢が、露出した核を狙って正確に突き刺さる。

「ギャアアッ!?」

虚無獣が怯んで後退しようとすると、

「逃がさないよー!」

側面からリィナが飛びかかり、足を切り裂く。

「動きを封じる」

影から伸びた黒棘が、残りの足を縫い止める。

完璧な連携。

いや、連携ではない。

“自分の仕事を勝手にやった結果”、精霊を守る壁として機能しただけだ。

だが、その配置の中心軸には確かに――司令塔である道と、背後の7人目の精霊がいた。

「……よし! いけるぞ!」

道が拳を握った。

しかし、虚無獣もただの獣ではなかった。

追い詰められた黒い汚泥が、不気味に脈動を始める。

周囲の空間ごとマナを飲み込み、その体積を倍以上に膨れ上がらせたのだ。

「……おいおい、まだ大きくなるのかよ」

バルドが冷や汗を流す。

中型種から、大型種への進化。

個々の技だけでは押し返せない質量が、6人と1つの光を押し潰そうとしていた。

道は深く息を吸う。

(……意識の連携だけじゃ足りねぇ。

 こいつを倒すには、やっぱり『物理的なパス(圧導)』が必要だ)

だが、彼らの手はまだ離れたまま。

本当のチームになるための、最後の壁が立ちはだかっていた。


精霊を「守るべき7人目の仲間(自陣)」と定義し、即席の守備陣形を完成させた道。

個性が噛み合い、虚無獣を押し返し始めました。

しかし、敵もただでは終わりません。

マナを吸って巨大化・進化する虚無獣。

レアの魔法障壁すら通用しない絶望的な質量差に対し、道が下した決断は──。

「魔法じゃねぇ! 肉体フィジカルをつなぐんだよ!!」

次回、『嫌々ながらの最強連携チェーン』。

ついに、彼らが手をつなぎます。

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