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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第2章:異種族チーム「風」誕生

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第13話 頑固な職人は、実績しか信じない

エルフの森を離れ、街道を半日ほど進んだ先。

緑が途絶え、地面の色が赤黒い岩肌へと変わっていく。

「この辺りからが、鉱山王国ドワーフの採掘領です」

レアが地図を確認しながら言った。

周囲には、幾何学的に組まれた石壁と、整然と並ぶ坑道の支柱。

派手さはないが、何百年も崩れないであろう堅牢な構造が一目で分かる。

「……几帳面だな。魔法で固めてるわけじゃないのか」

「ええ。

 彼らは魔法よりも“石と鉄”を信じています。

 物理的な強度は、魔力切れで消えたりしませんから」

「なるほど。頼もしいな」

その時だった。

ガン、ガン、ガン……。

重く、腹に響くような打撃音が坑道の奥から響いてきた。

二人が近づくと、そこには屈強な背中があった。

身の丈は低いが、横幅は道の倍はある。

丸太のような腕でツルハシを振るう姿。

白髪混じりの髭を蓄えた、ベテランの風格漂うドワーフだ。

「すいません、少し話せますか?」

 道が声をかけると、ツルハシの音が止まった。

ドワーフがゆっくりと振り返り、煤に汚れた顔で眉をひそめた。

鋭い眼光が、道とレアを射抜く。

「……あぁ?

 人間と……女神国の王女様か?

 こんな埃っぽい現場に、観光客が何の用だ」

低い、岩が擦れるような声。

レアが一歩前に出て礼をする。

「突然申し訳ありません。

私はレア・エルフェリア。

こちらは異界の戦士、我波道です。

この鉱山を取り仕切る親方、バルド殿とお見受けしますが」

「いかにも俺がバルドだが……異界の戦士だ?」

バルドと呼ばれたドワーフは、道を上から下まで値踏みし、鼻で笑った。

「ヒョロいな。

 ツルハシ一本満足に振れそうにねぇ。

 で、その異界人が何しに来た」

「スカウトに来た。俺のチームに入ってくれ、バルドさん」

道が直球で告げると、バルドは呆れたように嘆息した。

「断る」

即答だった。

「俺は忙しいんだ。

最近は地脈が不安定で、補強工事に追われてる。

どこの馬の骨とも知らん人間と遊んでる暇はねぇ」

「遊びじゃない。

 世界規模の危機が迫ってるんだ。

 あんたの力が要る」

「口だけなら何とでも言える」

バルドは背を向け、再びツルハシを握った。

「ドワーフはな、“積み上げた石”しか信じねぇんだよ。

 お前が何者か知らんが、俺の目には“実績のない若造”としか映らん。

 怪我しないうちに帰んな。

 ここは命懸けの現場だ」

取り付く島もない拒絶。

初対面ゆえの、完全な門前払い。

レアが口を開こうとしたが、道は首を横に振って止めた。

言葉で動く相手じゃない。

職人の信頼を得るには、相応の何かが必要だ。

その時――。

ズズズッ……。

地底の奥深くから、不穏な地鳴りが響いた。

「……チッ、また揺れやがったか」

バルドが舌打ちをして天井を見上げた瞬間。

メリメリッ!!

経年劣化していた古い支柱の一本が弾け飛び、巨大な岩盤が崩落を始めた。

「危ないッ!!」

バルドが叫ぶ。

彼の頭上へ、数トンはある岩塊が直撃コースで落ちてくる。

避ける隙はない。

「――カバディッ!!」

轟音よりも速く、影が動いた。

道だった。

バルドを突き飛ばすのではなく、バルドの“上”へ滑り込む。

守備アンティの基本姿勢。

低く構え、背中と肩で荷重を受け止める「キャッチ」の応用。

ズドォォォォンッ!!

凄まじい衝撃音と粉塵が舞い上がった。

レアが悲鳴を上げる。

「道ッ!!」

煙が晴れると――。

道は、潰れていなかった。

片膝をつき、両腕と背中で巨大な岩盤を支えながら、歯を食いしばっている。

「ぐ、ぅぅ……ッ!!重ぇな……クソッ!!」

全身の血管が浮き上がり、戦衣が軋む。

肺で圧縮したマナを「硬化」として肉体に留める。

攻撃を流す「圧導」ではない。

圧で己を柱に変える「剛体」だ。

「……おい、若造……」

目の前で守られたバルドが、目を見開いて硬直していた。

「なんで弾かねぇ? 避けるか弾くかできたはずだろ!」

「流したら……後ろの支柱が……折れて……全部崩れる……だろッ!!」

道が血を吐くように叫ぶ。

「早く……補強しろッ!

 俺が……あいつの代わりになってる間に……ッ!!」

道が、折れた支柱の代わりになっている。

その瞬時の判断に気づいた瞬間、バルドの目の色が変わった。

「よそ者を見る目」から、「職人を見る目」へ。

「……くそッ、度胸だけは一丁前だ!!」

バルドは猛然と動いた。

予備の鉄柱を担ぎ上げ、道の横へ叩き込む。

その動きに迷いは一切ない。

ガンッ! ガンッ! ガンッ!!

的確なリベット打ち。岩盤の重心を見極めた補強。

数秒の早業で仮設の柱が完成する。

「よしッ! 離れろ若造!!」

「……おうッ!!」

道が限界まで溜めた息を吐き出し、転がるように脱出する。

直後、岩盤が新しい柱にズシリと沈んだが、もう崩れることはなかった。

静寂が戻る。

道は大の字になって荒い息をついていた。

「ハァ……ハァ……。死ぬかと思った……」

バルドは、岩を支えている鉄柱と、道の身体を交互に見た。

そして、ドカッと道の隣に座り込んだ。

「……人間は脆い生き物だと思ってたが、訂正する」

バルドが、煤だらけの手で髭をさする。

「あの一瞬で、自分の身を守ることより『現場全体の被害』を計算しやがった。

 お前……いい“土台”してるじゃねぇか」

「褒め言葉として受け取っとくよ……」

「当たり前だ。ドワーフにとって『硬い』は最上級の賛辞だ」

バルドはニカっと笑い、道の方をバシッと叩いた。

「俺はバルド。改めて名乗る。

 仲間になるかは、まだ保留だ。

 実績はまだ『岩一個分』だからな」

そう言いながらも、その声には確かな敬意が混じっていた。

「だが……今日の現場仕事の礼に、一杯くらいは奢ってやる。

 そこで話くらいは聞いてやってもいいぞ、異界の戦士殿」

「……助かる。喉カラカラだ」

初対面の壁は厚かった。

だが、頑固な職人の心の扉は、理屈ではなく「身体を張った守り(アンティ)」で確かにこじ開けられた。

(……まずは一杯、か。悪くないスタートだ)

道は痺れる腕をさすりながら、確かな前進を感じていた。


自らの体を柱にして崩落を止め、バルドの信頼を勝ち取った道。

「ドワーフにとって『硬い』は最上級の賛辞」 これ以上ない褒め言葉ですね。

まずは一人目の(仮)加入です!

次は獣人連邦。

ドワーフとは真逆の「止まれない」少女が待ち受けています。

……これ、どうやって会話するんだ?

次回、『暴走する虎、止まれない呼吸』。

最強のブレーキがあって初めて、最速のアクセルが踏めるんです。


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