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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第2章:異種族チーム「風」誕生

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第12話 弟子になれなかった天才エルフ

エルフの森の奥、使われなくなった旧修練場。

木漏れ日が落ちる静寂な空間に見えたが、

どうは一歩足を踏み入れた瞬間、肌が粟立つのを感じた。

(……空気が、張り詰めてる)

風の音がしない。鳥の声もしない。

まるで、空間全体が“何か”を狙って息を止めているような緊張感。

ヒュッ――。

音よりも先に、殺気が眉間を刺した。

道は思考するより速く、肺を圧縮して上体を反らした。

キィィィンッ!!

目の前数センチの空間を、緑色の閃光が通過する。

それは矢だった。

だが、ただの矢ではない。

風のマナを螺旋状に纏い、ドリルのように空気をえぐりながら、後方の巨木へ突き刺さった。

ドォォォンッ!!

幹が爆ぜ、木屑が散る。

「……おいおい。挨拶にしては激しすぎないか?」

「道、下がって! 次が来ます!」

レアの警告と同時、森の茂みから二の矢、三の矢が連射された。

ヒュヒュヒュッ!

すべてが急所狙い。

威嚇射撃と言うにはあまりに慈悲がない。

(速ぇ……!しかも風に乗せて軌道を変えてきやがる!)

道は「圧導あつどう」を脚に流し、ステップを踏んで回避し続ける。

一発かわすたびに、頬に風圧の刃が走る。

「そこ」

涼やかな、しかし氷のように冷たい声が降ってきた。

見上げると、高い枝の上に一人のエルフの少女――ライラが立っていた。

身の丈ほどある長弓を構え、弦を引き絞っている。

その指先には、すでに次なる矢がつがえられていた。

「人間と、お姫様。

 ……ここが誰の縄張りか分かって入ってきたの?」

銀色の短髪、射抜くようなエメラルドの瞳。

彼女は矢の切っ先を道に向けたまま、冷淡に言い放った。

「スカウトに来た。仲間を探してる」

「仲間? 足手まといの間違いでしょ」

ライラは嘲笑し、指を離した。

放たれたのは三本の矢。

それぞれが別々の軌道を描き、道を包囲するように襲いかかる。

(逃げ場を塞ぐ気か。……なら!)

道は下がるのをやめた。

大きく息を吸い込み、肺を一気に加圧する。

「カバディッ!!」

前進。

矢の雨に向かって、真正面から突っ込む。

迫る一本目の矢。

道は手の甲に圧縮した空気を纏わせ、矢の側面を叩いた。

パァンッ!

軌道が逸れ、矢が地面に突き刺さる。

二本目、三本目は首を捻って紙一重でかわす。

「は……? 矢を、手で弾いた……?」

枝の上のライラが目を見開く。

その隙に、道は樹の幹を蹴り上がり、一気に距離を詰めた。

「降りてこい! 話はそれからだ!」

「調子に乗るなッ!!」

ライラは弓を背に回すと同時に、枝から飛び降りた。

空中で身体を捻り、風を纏った回し蹴りを放ってくる。

弓だけじゃない。接近戦もできるタイプか。

ガギィンッ!!

道の腕とライラの蹴りが衝突し、金属音のような音が響く。

ライラは風圧を利用して宙に静止し、そのまま連撃を繰り出してきた。

掌底、肘打ち、膝蹴り。

すべての攻撃に鋭いカマイタチが乗っている。

「私の“風弓術”は矢だけじゃない! この身そのものが暴風よ!」

「確かに荒れ狂ってるな! 呼吸の音が五月蝿ぇぞ!」

道は防戦一方に見えたが、その目は冷静に観察していた。

彼女の動きは速い。

だが――弓使いの癖が出ている。

(攻撃の瞬間に、狙いを定めるために“息を止める”。

 弓ならそれでいい。

 だが格闘戦でそれをやると、リズムが途切れる!)

ライラが大技のために深く息を吸い込み、止めた瞬間。

そこが、台風の目だ。

(――今!)

道は相手の蹴りを紙一重で流すと、その懐へ滑り込んだ。

カバディにおける「レイダー」の侵入。

誰よりも速く、誰よりも深く。

「なっ――!?」

ライラが反応しようとした時には、もう遅い。

道の右手が、彼女の眉間に伸びていた。

握り拳ではない。

人差し指一本が、そっと彼女の額に触れる。

「……タッチ」

風が、止んだ。

ライラの動きが硬直する。

もし指先から「圧導」を放っていれば、脳震盪で倒れていただろう。

だが道は、ただ触れただけだった。

「……あんた、今……」

ライラが着地し、後ずさる。

顔色が蒼白から、屈辱の朱色へと変わっていく。

「弓は一流だ。接近戦のセンスもある。

 けど、呼吸の切り替えが下手すぎる」

道は息を整えながら、淡々と言った。

「遠距離と近距離で、呼吸のリズムを変えてねぇだろ。

 だから隙ができる。

 セリアさんが断ったのは、そういう“器用貧乏な頑固さ”じゃないのか?」

「……っ!!」

 図星だったのか、ライラは言葉を失い、ギリッと歯を食いしばった。

 殺気よりも濃い、純粋な悔し涙が目に浮かぶ。

「今日は帰る。

 無理やり連れて行っても、今のままじゃ連携チェーンなんて組めねぇ」

道は背を向け、レアに目配せをした。

「ふざけんじゃないわよ……!

 勝負はまだ――!」

「また来る。

 お前がその“弓と身体の呼吸”を繋げたくなったら、な」

道はライラの罵声を背中で受け止めながら、森を後にした。

背後で、悔し紛れに放たれた矢が地面をえぐる音が聞こえたが、道は振り返らなかった。

「……道。あえて、一番痛いところを突きましたね?」

帰り道、レアが苦笑混じりに言った。

道は自分の手を見つめる。

「いや、惜しいんだよ。

 あいつの矢の精度と、あの暴風みたいな動き……。

 呼吸さえ噛み合えば、最強の“遊撃手”になる」

拒絶と殺意から始まった出会い。

だが、道の指先には確かに、嵐のような才能に触れた感触が残っていた。

(絶対に必要な戦力だ。

 ……次はもっと荒れるだろうけどな)

道はニヤリと笑い、仲間集めの手応えを噛み締めていた。


「呼吸のリズムを変えていない」 天才エルフ・ライラの弱点を、初見で見抜いた道。

勧誘は失敗しましたが、その言葉は彼女のプライドに深く刺さったようです。

さて、気を取り直して次の国へ。

次は「岩しか信じない」頑固なドワーフの親方です。

言葉も理屈も通じない相手を、どうやって口説き落とすのか?

次回、『頑固な職人は、実績しか信じない』。

カバディの「守備アンティ」は、岩盤事故すら支えます。

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