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魔法使いが束になっても、俺の詠唱「カバディ」は止められない  作者: 早野 茂
第2章:異種族チーム「風」誕生

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第11話 最初の訪問先は、一番厄介な相手

武闘祭の喧騒がようやく落ち着いた翌朝。

街に漂う静けさは、昨夜の熱気が嘘のようで、道の胸にひんやりと沁みた。

宿舎の中庭で、道は一人、ゆっくりと息を吐き出していた。

「……スゥ……ッ」

肺の奥底にある空気を絞り出し、真空状態を作り、また一気に満たす。

戦いが終わっても、呼吸を止めるわけにはいかない。

むしろ、昨日の虚無獣戦での「多人数連携チェーン」の感覚が残っているうちに、肺の伸縮率を身体に覚え込ませる必要があった。

(……仲間を集めるって言った以上、動き出さねぇとな)

言葉にした決意というのは、時に人を縛る。

けれどそれは、道にとって重荷ではなく、むしろ前へ進むための“深い呼吸”のように感じられた。

ふと、背後から柔らかな気配が近づく。

「道。……精が出ますね」

振り返ると、レアが歩いてくるところだった。

淡い金の髪が朝の日差しに揺れ、品のある物腰は第一王女そのもの。

しかし昨日の共闘を経たせいか、表情にわずかに柔らかさが混じっている。

「ああ。身体がなまらないようにな。

 ……本日から仲間探しに向かうつもりだ」

「差し支えなければ、私も同行させていただけますか?

 この世界の者として、そして……あなたの戦い方を見届けた者として、

 どのような方々をお迎えになるのか興味があります」

言葉は丁寧だが、その奥には確かな信頼と、ほんの少しの好奇心が芽生えているのを感じる。

道は自然と頷いた。

「もちろん。むしろ来てくれた方が助かるよ」

「ありがとうございます」

レアは嬉しそうに微笑み、すぐに真剣な眼差しに戻った。

「それで、最初に向かうのはどちらでしょうか?」

「エルフ族の里だ。

 セリアさんが言ってた、弟子志願者だった少女……あの子に会おうと思う」

その言葉を聞いた瞬間、レアの眉がかすかに揺れた。

「……あの方に、ですか。難しい相手を最初に選ばれたのですね」

「やっぱり、そういう感じか?」

「はい。技量は飛び抜けているのですが……性格に難があり、

 セリアさまは弟子として迎えることを断念されたと伺っています」

道は準備運動で手首を回しながら聞いた。

「そうなのか……てっきり“師匠の元から逃げた”とかかと思ってた」

「いいえ。彼女は長く弟子入りを願っていました。

 ですが、協調性が著しく欠けており、教えを受ける以前の段階で断られたそうです。

 セリアさまは“人と共に呼吸できぬ者に強さを授けても意味がない”と……」

道の手が止まる。

自分は異世界から来たばかりで、セリアは迷いなく“教えてくれる側”に立ってくれた。

その一方で、必死に求め続けた少女が断られた。

(自分が彼女だったら、確かに面白くはないな)

レアが静かに、核心を突く言葉を続ける。

「そのうえ……あなたがセリアさまに認められたことが、

 彼女の心に影を落としているようです」

「俺に? なんでだ?」

「彼女から見れば、突然現れた異世界人が、自分が届かなかった場所に立っている。

 そう映ってしまうのでしょう」

「……まぁ、気持ちはわかるな」

道は苦笑して、深く息を吸った。

肺に吸い込んだ空気がマナと混ざり、静かに整っていく。

「でも、ああいう“扱いづらい”って言われるタイプほど、

 一度ちゃんと話してみねぇとわかんねぇ。

 勝手に苦手意識を持って避けるより、

 先に向き合っといた方がいいだろ」

「それを最初に選ばれるあたり……あなたらしいですね」

レアの声は穏やかだった。

「昨日の戦い──虚無獣とのあの瞬間を、私……忘れられません。

 あなたと呼吸が噛み合った時、まるで世界が拓けるような感覚でした」

「ああ、俺もだ。あれを仲間とやれたら……絶対、もっと強くなれる」

「そのためにも、彼女との邂逅は避けて通れません。

 ……ただし、挑発にはくれぐれもお気をつけくださいね」

「そんなに挑発してくる子なのか?」

「“会話の半分が挑発”と言っても過言ではありません」

「それもう性格じゃなくて戦術じゃねぇか……」

レアが、息を殺すように小さく笑った。

「行きましょう。彼女があなたにどんな言葉を投げるのか……私も気になります」

「よし、決まりだ。エルフの里へ向かうぞ」

二人は街を出て、森へと続く街道を進んだ。

エルフの里へ近づくにつれ、肌を刺す風が少しずつ鋭くなっていくのを感じる。

道は無意識に、「カバディ」の構えに近い重心へと切り替えていた。

(……なんだ、この空気)

静かな森のはずなのに、何かが暴れているような、ざらついた気配。

木々のざわめきが、歓迎ではなく拒絶の音を立てている。

「道、気をつけてください。マナの流れが……乱れています」

レアが声を低くした。

森の奥、今は使われていない旧修練場の方角。

そこから漂ってくるのは、才能と、焦りと、そして明確な敵意が混ざった“荒い呼吸”だった。

道の仲間集めの第一歩は、最も厄介で、最も才能に満ちた少女との対面から始まることになる。  道は、深く息を吸い込んだ。

(……さて、挨拶といこうか)

木漏れ日の先には、まだ見ぬ少女の“嵐”が待ち受けている。


武闘祭を終え、いよいよチーム結成に向けて動き出しました。

最初のターゲットは、師匠セリアすら匙を投げたという「天才にして問題児」のエルフ。

「会話の半分が挑発」 そんな相手に、カバディのコミュニケーション(接触)は通用するのか?

森の奥でいきなり実力行使(物理)が始まります。

次回、『弟子になれなかった天才エルフ』。

挨拶がわりの矢が飛んできます。

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