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雷の糸口、魔族の記憶

翌日、俺たちはアラクネに道案内を受ける事になり出発した。

朝食はベーコンエッグとハムサンドだ。

アラクネはバクバクと美味しそうに食べている。

「ねぇ…アラクネさんは名前とかないの?」。

トウマがアラクネに尋ねる。

アラクネはうーんと悩んだ後、「ねぇ…私に名前をつけない?」と俺に言ってきた。

確か、アラクネは種族名だと言ってたな。

アラクネと呼べばいい気がしたが、俺たちが人間って呼ばれるのと同じ気分か。

確かにいい気分ではないな。

「わかった。というか名前は無いのか?

」。

「昔、名乗ってた名前はあるけど、今はもう捨てたし、新しい名前が欲しい気分なの」。

どこか物憂げな顔をするアラクネに俺は名前を付けることにした。

うーん…。

どうしようかな。

蜘蛛…女性…糸…。

そういえばスレッド(thread)って糸という意味があったな…。

そのままだと合わないから…。

「よし、お前は今日からティレアだ」。

その瞬間、俺から何かが抜けていく感覚がした。

ライガーの時にもあったな。

この感覚。

ライガーの時よりもごっそりと抜けたが…。

「うふふ…ありがと。私はティレアね。

よろしくねご主人様。

」。

ん…?

ご主人様?

俺が理解できない顔をしていると、ティレアが続ける。

「魔物が認めた存在から名前を頂くと、従魔契約するのよ?人族でも当たり前じゃない。

」。

「えぇぇぇぇ!」。

俺とトウマは驚いていた。

「ちょっと…貴方達そんなことも知らないの?そういえば…何で森の中に居たのよ…。

ここは滅多に人間が来るような所じゃないわよ」。

俺たちはティレアに今までの事を話した。

俺は前世で死んで、神にこの世界に落とされた事。

トウマは本を読んでいて、気づいたらこの世界に居たこと。

「異世界…つまり貴方達は迷い人ね。」。

「「「迷い人?」」」。

「たまに異世界から来る人間の事よ。凄い能力を持ってたり、変わった知識を持っているのよ。

過去にも100年に一人くらいのペースで現れ、歴史を動かしたり偉業をなしとげたりしてるわね。

実際、20年ほど前にも現れたわ。

勇者とか呼ばれていて…思い出すだけで腹立たしい…。


この世界にも俺たちのような存在はいるらしい。

ティレアは勇者と呼ばれた人間に何かされたようだ。

「というか、なんでティレアはそんなに人間に詳しいんだ?」


「私、人間の国、ルーフェス聖光国ってとこで暮らしてた事があるのよ。人間達の近くに居れば美味しいご飯には困らないからね。

結構人間の姿に擬態して人里に暮らす魔物は多いのよ。

私の擬態はなかなかのもんでしょ。


どや顔で胸をはるティレア。

胸元にはプルンと双丘が…。

たしかに凄いな…。

ごくりとつばを飲み込んでしまった。

っというか胸に意識を持っていかれてしまったが、ご飯ってまさか…。

「何よ?私は人間を食べてないわよ?

人間の村の近くにはオークとかボアやベアが良くいるからご飯には困らないのよ。

あと…人間達の食事にも興味があったし。

」。

「100年くらい暮らしたかしら…。結構、人間達ともうまくやってたのにね。

ある時、聖光神教とかいう奴らがやってきて、私を魔女だと言って糾弾してきたのよ。

それでやり返してたら、今度は冒険者達がやってきて…。

それを撃退してたら、今度は勇者とか言う奴を連れてきて…」。

聖光神教という宗教は人間至上主義らしく、魔物は悪だと決めつけている宗教らしい。

その聖光神教は人間以外を見分ける魔道具を作ったらしく、それにティレアが反応した。

「人間に擬態して暮らす魔物は本当に多いのよ。それをあいつらは、魔物は全て人間の敵だ!

って言って全部追い出したの。

魔物たちももちろん反撃したんだけど、勇者とかいう奴が結構やり手でね。

結局追い出されちゃったわ。

その後の事は知らないけど、聖光神教が国を運営してるのかしら」。

勇者…。

どうやら宗教が勇者と手を組んで魔物を殲滅して回ったそうだ。

追い出された魔物たちは他の国や辺境に散っていったそうだ。

「なるほど…。それでこの森に?

そもそもこの森はどこにあるんだ?


「ここは…ルーフェス聖光国から南の方向へずっと進んだ辺りね。この森は人間達から最果ての森と呼ばれてるわ。

住んでる魔物達は一癖も二癖もあるから、生半可な腕だとすぐやられちゃうし、ルーフェス聖光国からかなり離れてるから、人間は滅多にここには来ないわ。

だからこの森に来たの。

それに、ここに居るブラッドフォレストボアが美味しいのよ!

」。

なるほど…。

人間達の追手が鬱陶しく、かつ食事に困らないココにきたのだそうだ。

ブラッドフォレストボアって、この前トウマが一突きで狩ってた猪の事かな。

確かにあれは美味かった。

独特の臭みがあったが、それを打ち消す程の強烈な旨味。

脂身も多く、ステーキにしたら溢れ出す肉汁。

豚と牛の間くらいの肉質だった。

「ここから人間の街に向かうとして、ルーフェス聖光国しかないのか?俺は宗教系にはかかわりたくないんだが…。

」。

勇者という存在には興味があるが、話を聞く限りライガーやライターが討伐されてしまう可能性もある。

だからルーフェス聖光国には近づきたくない。

ちなみにライターはトウマが作ったカバンの中で寝て過ごしている。

「ここはルーフェスから2つほど国を超えたアレクサンド王国とグレム帝国の真ん中だから、王国でも帝国でもどちらにも行けるわね。私としても、ルーフェスは嫌よ。

グレム帝国は人間同士で格差が凄いと聞くから嫌ね。

アレクサンド王国は人種の差別はしない国だから住みやすいらしいから行ってみたいわ。

私が人間達の国にいた間にも悪い噂は聞かなかったしね。

」。

「じゃあ、そのアレクサンド王国に向かってみるか。トウマはそれでいいか?


「うん。おじさんに任すよ!


俺たちはアレクサンド王国に向かう事にした。

とはいえ、外はまだ雨が降っているため、雨が止むまで洞窟に居る事にした。

雨は土砂降りで、この雨の中の移動はトウマから反対されたので、止むまで待つことにした。

------------。

2日後、雨が止み、快晴になった。

この2日でティレアとトウマはかなり打ち解けている。

この世界の事を色々と聞いていた。

「この世界では、誰もが一つだけ魔法の属性を持って生まれるの。火、水、風、土、光、闇……。

中でも“ユニーク属性”っていう珍しい力を持つ者は稀にいて、アキラの料理魔法みたいなのがそう」


ティレアはそう言って、アキラの調理シーンを眺めながら感心したように頷いた。

「それに、魔族や獣人、妖精、人間――寿命や文化もバラバラだから、国によってルールや常識も違うわ。仲良く暮らせる国もあれば、争いの絶えない国もある。

ここみたいな辺境には、元は他国から逃れてきた者も多いの」。

ティレアは500年以上生きている魔物らしく、色々とこの世界の事を教えてくれた。

とはいえ、どの魔物が美味しいとか、ゴブリンは不味いとか、食べ物の事ばかりだった。

国の名前とか言われてもピンと来ないから、随時聞くことにした。

ティレアはこの森に特に未練がなく、そろそろブラッドフォレストボアにも飽きてきた頃だから一緒に連れてってと言ってきた。

俺としてもこの世界の事を知っているティレアを連れていくのは賛成だ…。

…別に目の保養とか、あわよくば…なんて考えてない。

相手は蜘蛛だ…蜘蛛だ…蜘蛛だ…と自分に言い聞かせている。

しかし、人間の姿の時…アレはどうなっているのか…いかん、クモダクモダクモダ…。

森の生活(禁欲生活)に俺の精神はだいぶやられているらしい。

前世では人並以下だった気がするが…。

人里に降りたらトウマに内緒で娼館にでも行ってみようか。

よし、そう考えたら早く人里に向かおう。

俺がウキウキと出発の準備を整えていると、ティレアとトウマがコソコソと話した後、。

ジト目になってこっちを見てきた。

「おじさん…すっごい変な顔してるよ」。

「発情期…?本当に人間って…。

」。

「ガウ~…(やれやれ…)」。

二人と一匹からため息をつかれたが、俺達は人里にむかって出発することにした。

森の蜘蛛達はティレアの眷属らしく、ティレアが呪文を唱えると大小様々な蜘蛛が影の中に入っていった。

「別に残しといても良いんだけど、人間達に襲われたときの備えも欲しいからね。」。

ティレアはこの辺りの蜘蛛達の主らしく、眷属を使って食べ物を調達していたそうだ。

とはいえブラッドフォレストボア以外は眷属達の好きにして良いと言ってたそうだが。

俺達は森を歩きだした。

一番近くの村でも1ヶ月はかかるそうだ。

…どんだけ辺境なんだよ、ここ。

さすが最果ての森と呼ばれるだけあるな。

俺の魔法が無ければとんでもない量の補給物資を持ちながら移動しなければならない。

そりゃあティレアの追手も追ってはこれないだろうな。

1週間、森を歩き続けた。

途中、異世界(現代)の高級食材を使った料理は好評だった。

ティレアは「もう離れられない…」なんて言っていた。

がっちり胃袋をつかんでしまったようだ。

俺としても自分の作った料理が喜んでもらえるのは嬉しい。

本当にこの魔法をくれた神様に感謝だ。

それにどうやら俺の包丁はとんでもない威力があるようだ。

試しにワニみたいな奴にぶん投げてみたが、光の閃光を放ち飛んでいき、ワニは爆散した。

更に、この身体の身体能力はかなり高いらしく、木の棒を持たせたトウマと模擬戦をやってみたが、普通に動きについていけた。

「おじさんってチートだね、でも久しぶりに身の入った稽古が出来たし楽しかったよ」。

トウマは喜んでくれた。

現実世界でも武術を習っていたらしかったが、同年代は相手にならず、全力を出せるのは家族しかいなかったらしい。

俺としてもトウマの動きは非常に参考になり、非常に有意義だった。

魔物はほとんどティレアが瞬殺していき、俺が料理を作り、トウマは鍛錬をしながら森を進んだ。

ある日の休憩中、ティレアが木の枝を拾ってトウマに渡した。

「ちょっと教えてあげる。魔法ってのは、ただ願うだけじゃなくて“練習”するものよ」


そう言って、地面に指で魔法陣をなぞりながら説明を始める。

「魔力は体の中にあるの。まずはそれを手のひらに集めるところからやってみて」


トウマは真剣な顔で何度も試す。

最初は全然感覚が掴めなかったが、ある時ふと――


「……今、ピリッときた?」


その手のひらから小さな青白い火花が弾けた。

「うおっ、なにこれっ!」


「雷ね。あなた……この前見た“ライガー”の動きを真似てたでしょ?

きっと、それがきっかけになったのよ」


トウマは目を輝かせていた。

もう一度集中し、指先に魔力を集める。

パチッと小さな雷光が迸る。

その様子を少し離れた木陰で見ていたティレアが、ぽつりと呟く。

「……雷……魔族でそれを使えた者がいたわ。あれは、“王”の血筋に近い者しか……」


しかしその声は、誰の耳にも届いていなかった。

ライガー…すでに野生を失いつつあり、腹が減ったら肉を俺にせびっている。

ライターはトウマのカバンの中がお気に入りのようで、たまに外に出すがすぐカバンの中に戻ってくる。

完全にペット枠になった魔物達だったが、愛着も沸いているため森に置いていこうとは思っていない。

本来ならとてもツライ森の更新なはずなのだが、ワイワイと楽しく進み、俺達は森を抜ける事が出来た。

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