表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

森に潜むモノ

翌日

 俺は目を覚ました。

 俺は朝ごはんを準備中だ。

 トーマとライガーは朝の見回りに出かけていて、今帰ってきた。

 

 「おかえり」


 「おじさん、ただいまー!」


 トーマとライガーは元気よく茂みから飛び出してきた。

 俺もこの世界ジャングルの生活に慣れてきた。


 そろそろ出発しても大丈夫だろう。

 とりあえず、まずは人里に行こう。

 この世界の料理も色々みてみたいし…

 俺はトーマにそのことを提案してみた。

 

 「よし、そろそろ人里を探して移動してみようか。」


 「おじさん、大丈夫?まだちょっと早いんじゃない?」


 「うーん…俺が思っている以上にこの身体は強いみたいだ。

 全然体調も崩さないし、常に身体が軽い。神様のおかげだろうな。」


 この森の中にあるトーマの家に来てから、毎日自作で作った神様の像を拝んでいる。

 やはり感謝の気持ちは忘れたらダメだね。


「それならいいけど…。どの方向に向かうの?

 僕としては川沿いに下っていくのが人里に近づけると思うよ。

 水辺は人が暮らしやすいから、村や町が出来ていることが多いって父さんが言ってた。

 でも、下流の方に進むと大きい蜘蛛が多くなってきたから引き返したんだ。」


「そうだな…とりあえず、トーマの言う通り川沿いを下っていこう。

 もし海まで出たならその時考えよう。

 蜘蛛か…蜘蛛の巣が多くなってきたら迂回していこう。」


 蜘蛛は嫌だな…。と思ったが、他に良い案もないため、トーマの指示にしたがい川沿いを下る事にした。

 イカダで下るのは無理だとトーマは言う。

 とんでもなくデカいワニや魚が沢山いて危ないらしい。

 なので徒歩で進み、動物や蜘蛛が居たら迂回しながら川沿いを進むことにした。

 

 …川沿いを下り始めてかれこれ3日が経過した。

 

 5メートルはあるんじゃないかってワニが水の玉を飛ばして来たり、忍者がせなかに乗ってそうなサイズの蛙が襲い掛かってきたりとなかなか愉快な道中だった。

 

 俺たちはライガーとトーマが仕留めたワニを食べている。

 このワニは群れからはぐれたのか、一匹で歩いていたのでライガーが雷を放ってトーマが槍を突き立てた。

 他の調味料は魔法で作り出して、簡単にクリームパスタにした。

 

「おじさんの料理ってホント飽きないねー。何回食べても美味しい~」


「そりゃあ、これでも元プロだったからなー。海外にも修行に行ったし。世界一と言われる店で働いてたぞ。」


「そうなんだ。たしかにこの味なら毎日でも通っちゃうかも。」


 ワニの肉とエリンギのクリームパスタを頬張るトーマ。

 こういう笑顔が見たくて料理人を始めたんだよな…。

 結局最後は過労死?だったのかな。

 本当は流れの料理人にあこがれてたんだよな…。

 常にスーツケースに料理道具を持っていて、何百万という大金で料理を作っていくあの漫画の主人公に…。

 というのは内緒だ。

 

 しかし、このワニの肉は美味いな。

 旨味がギュッと詰まっていて、それでいてしつこくない。

 コリコリとした食感は上質な地鶏を彷彿とさせる味わいだった。

 

「おじさん、そろそろ蜘蛛が増えてくるよ…。糸に気を付けてね。

 意外とくっつくし、見えにくいから。」


 確かに蜘蛛の巣が増えてきている。

 トーマの先導で進んでいくと、蜘蛛の巣だらけになってきた。

 良くわからない動物の骨とかあるし…。不気味だ。

 

 この蜘蛛の糸は結構見えにくい、トーマとライガーは器用にひょいひょいと避けながら進んでいる。

 

 「おじさん、ここ切って。」

 

 トーマに言われ、俺は包丁で蜘蛛の巣を切っていく。

 木の棒だと全く切れないのだが、包丁だとスパスパ切れる。

 それに包丁に蜘蛛の巣が巻き付いたとしても、消して出せば問題ない。

 本来は包丁を料理以外に使いたくないが、非常事態だと自分を納得させた。

 それに包丁を握ると落ち着くのだ。料理人の性だろうか…。

 蜘蛛の糸も鮮明に見えるし身体が軽くなる…。

 これはきっと、神様からの贈り物なのだろう。

 

 蜘蛛は姿が見えないが、そこら中に潜んでいるらしい。

 縦横無尽に張られている蜘蛛の巣にかかったらすぐに襲い掛かってくるようだ。

 今遠くでワニが蜘蛛4匹に襲われていた。


「うぉぉ…蜘蛛でけえ…」

 

 俺は目の前に広がる捕食劇を遠目で眺める。

 蜘蛛は人間が四つん這いになったくらいの大きさがある。

 どうやら、こちらから何かをするか糸に引っかからない限り、積極的に襲ってくるわけではないらしい。

 料理人の俺としても蜘蛛は益虫だと思っているから、基本的に殺したくはない。

 前世では軍曹さんにはお世話になった。

 

 そんなことを考えながら、森を進んでいた。

 雨がポツポツと降ってきた。どこか木の陰にでも入りたいが、木の近くは蜘蛛の巣が多く危険だ。

 俺たちは駆け足気味に森を進んでいた。やっと蜘蛛の巣が無くなってきた。

 ついに蜘蛛のテリトリーを抜けたかなと思ったら、目の前に洞窟を見つけた。

 

「丁度いいから、今日はあの洞窟の入り口で野営をするか。」

 

 さすがに何が居るか解らない洞窟に入るほど恐れ知らずではない。

 洞窟の入り口は大きく、洞窟というより谷の裂け目のようにも見える。

 入り口付近は光も差し込んでおり、雨風をしのぐには丁度いい。

 先ほどの蜘蛛の巣まみれの森よりも遥かに良い景色だ。

 

 俺たちは食事の準備を始めた。

 さすがに雨の中狩りに行くのは面倒くさいため、俺が全て用意する。

 ライガーが肉をせびるため、黒毛和牛のステーキを焼くことにした。

 溶岩プレートを作り加熱していく。サッと火を通す。

 

「よしよし、良い感じに焼きあがってきた。」

 

 ステーキを大量に焼き、トーマとライガーに渡す。

 そのとき、何かが頭をよぎった感覚に襲われ包丁を手に持つ。

 包丁を手にした瞬間、ざわざわとした感覚に襲われた。

 

 「おじさん…どうしたの…っ!」

 

 トーマとライガーが一斉に飛びのく。

 

 「あらあら、美味しそうな匂いがするから来てみたのだけど。」

 

 洞窟の奥から女性が歩いてきた。

 声質はとても柔らかく、服装は官能的だった。

 話しかけられた言葉は日本語ではないが、アキラはなぜか意味が分かった…。

 

 「その言葉…。」

 

 トーマが若干動揺している…。何かあったのだろうか…。

 それより…。

 

「美味しそうなのは…料理か…?それとも俺たちか?」

 

 そう…。こいつは人間じゃないと第六感のようなものが伝えてくる。

 横にいるトーマとライガーも震えている。

 そう…トーマ風に言うとこいつはヤバい奴だ。

 

「もちろん…貴方達よ!…と言いたい所だけど、私は人族も狼は好きじゃないわ。

だからそこまで警戒しなくて大丈夫よ。

できればそのお肉食べさせてくれないかしら。」

 

 どうやら敵意はないらしい。

 好きじゃない…ということはやはり食べようと思えば食べられるという事か…。

 

「解った。俺たちに敵対しないという事であれば、お前の分も焼いてやるよ。」

 

 俺はこの良く解らない奴にステーキを焼いてやる。

 トーマとライガーはまだ警戒しているようだ。

 

「貴方達が私に敵意をもたないかぎりこちらからは何もしないわ。」

 

 そんな事を言ってくるがどこまで本気か解らない雰囲気がある。

 俺は焼きあがったステーキを女性に渡す。

 ジュウジュウと溶岩プレートの上で音を立てるステーキが一瞬で消えた。

 どうやら一瞬で食べたようだ。モグモグと咀嚼していると思ったら目を見開いた。

 結構な大きさの塊だったが・・・。

 

「んっ…!? 何っ…これっ…こんな美味しいお肉食べたことないわっ!」

 

 お気に召してくれたようだ。

 俺は魔法で肉を作り出し、どんどん焼いていく。

 

「塩で食べるのもいいが、わさび醤油も美味いぞ。あとナイフとフォークを使え。」

 

 俺はナイフとフォークを作り出し、肉の横にわさびと醤油を置く。

 女性は器用に切り分け、ちょんちょんとわさびと醤油をつけて食べる。

 

「このツーンと来る感じ、この香ばしさ…たまらないわ!」

 

 完全にステーキの虜のようだ。

 ふにゃふにゃになった雰囲気の女性を見て、やっとライガーとトーマも警戒を解き、一緒にお肉をほうばっている。

 ライガーは生肉よりレアぎみの焼き具合が好みらしく、最近では焼かないと食べなくなってしまった。

 野生どこいった…。

 

「さて…と。そろそろ自己紹介でもしようか。俺はアキラ、この子がトーマでこの狼がライガーだ。」

 

「私は…アラクネよ。人間達からは蜘蛛の女王とか言われているわね。」


 そういいながら、アラクネの目が赤く光り、下半身が大きな蜘蛛になった。

 

「そうなのか…。俺たちは訳あってこの森に迷い込んだんだが、人里に行きたい。

もし知っていたらで良いんだが、道を教えてくれないか? えっと…アラクネさん?」

 

「アラクネは種族名で名前じゃないわ。そうねえ…。貴方…アキラの魔法は面白いわね。これからずーっとお肉を出してくれるなら案内してあげるわよ?」

 

「それは出来ないな…。森を出るまでじゃだめか?」

 

「ダメよ。ずーっとよ。うーん…貴方が言う事を聞かないのなら、この子達を食べちゃおうかしら?」

 

 その瞬間、アラクネから殺気が放たれた。

 あまりの殺気にトーマは動けないでいる。

 俺は全力で包丁を投げつけた。

 心の声に包丁を投げつけろと命じられた気がしたからだ。

 俺が投げた包丁は光の筋を残し、アラクネの頬をかすめ後ろの洞窟を斜めにえぐりそのまま消えていった。

 

 「え…」

 

 アラクネが固まっている。

 俺も予想以上の威力に固まっていた。

 

「じょ…冗談よ…。冗談に決まってるじゃない。」

 

 アラクネはダラダラと汗を流しながら、人間の姿に戻った。

 

「一言言っておく、俺の仲間に手を出したら次は外さないぞ。」

 

「わ…解ったわ。」

 

 アラクネは大人しくなり、人間の姿のまま座り込んでいる。

 トーマとライガーはまだ固まったままだ。

 

 洞窟がガラガラと音を立て崩れ始めた。

 横でアラクネが「あぁ…私の家が…」と嘆いている。

 少し悪いことをしたかな…。

 

 「ねぇ…おねーさん。その言葉何で知ってるの?」

 

 トーマがぎこちない言葉使いで話しかけた。

 トーマこそなんで喋られるんだ…。

 

 「言葉?私はこの言葉しか知らないわよ。」

 

 トーマは納得がいかない様子。

 詳しく話を聞くと、母親の母国語らしく、小さい頃からこの言葉を家族感で使っていた。

 俺に関してはおそらく転生特典で着いてきたのだろうという事になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ