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料理人と少年の出会い

(アキラ視点)


 神様から異世界に送り届けられた。


 真っ白な光に包まれて、ふと目を開くと森の中にいた。

 360度周りを見渡しても木と草しか見えない。

 遠くから謎の鳴き声も聞こえる。

 木の幹は太く、間隔は広い。

 藪の中を突っ切っていく必要は無さそうだな。

 

 いきなり森林か…。

 たしかにこんな所に子供がいれば食べる物にも困るだろう。

 しかし、人気がないな…。見渡す限り森だ。

 これは…異世界にきて、いきなりサバイバルか…。

 創造魔法があって助かるな。寝床だけ心配すれば良い。

 食料に困らなければなんとかなるだろう…。

 今まで目の回るような忙しい日々を過ごしてきたのだ。

 たまには、ゆっくりと料理の研究をするのも悪くない。

 

 幸い飢え死にする心配はないのだ。


 さて、神様の指令通り料理を作ろうか…。


 まずは…水を出してみよう。

 頭の中に水を思い浮かべ、手のひらから水を出すイメージを想像する。

 すると…


 おぉ!水が出てきた!


 自分が魔法を使っていると思うと、感動する。

 冷たい水をイメージすると温度が下がってきた。

 俺はいったん水を止めて、ボウルを創造し、そこに改めて水を貯めた。

 この森は非常に蒸し暑いので、冷たい水で顔を洗った

 四季があるのかはわからないが、今は夏なのかな?


 次に生涯を共にしたと言っても過言ではない相棒(包丁)を思い浮かべてみる。

 手のひらに光が集まり、最初からそこにあったかのように包丁が現れた。

 包丁を手に持つと物凄く落ち着く…。よかった…。

 この世界でもまた相棒をふるえると思うと本当に嬉しい。

 

 新天地に来た動揺も引いていくような気持ちになった。


 よし、まずは簡単な料理を魔法で作ってみよう。

 神様からの依頼もあるしな。


 そう思ったが、調理器具は魔法で作り出せるが、火がない。

 さすがにコンロは作れないだろう。

 

 …そう思っていたが、カセットコンロをイメージしたら出来た。

 調理器具…?うーん、確かに調理器具かなぁ…。

 うん。調理器具だ。誰が何と言おうと調理器具だ。

 

 俺は深く考える事をやめ、調理台(普通のテーブル)を作り出し、鍋をカセットコンロに乗せた。

 作るのはベーコンとオニオン、ニンジンのコンソメスープとパスタを作ろうかと思っている。

 材料を人通り魔法で作り出した。

 俺は一つニンジンをかじってみる。

 ビックリする位、イメージ通りの味だった。

 俺が想像したのは、糖度が高めのブランド人参だ。

 これならサラダでも食べられるし、テストするにも丁度よかった。

 ベーコンを軽く炒め、野菜と鍋に入れた。

 ぐつぐつと煮立てていると、いい匂いが漂ってきた。


 あとは…。パスタをゆがこう。

 暑いので、サラダパスタにしようかな。

 

 異世界に来て、初めて魔法で作った料理だし、簡単な物になってしまった。

 まぁ元々プライベートでの料理は適当だったからなー。

 ひたすらタマゴかけご飯を食べてた下積み時代もあったしな。

 

 神様の言う通り、このあたりに子供が居るのなら、コンソメスープの匂いに釣られて来るだろう。

 パスタが完成する頃、森の中からガサガサと聞こえる。


「お…子供か?」


 とはいえ念のため包丁を構える。


 ガサガサと茂みの奥から何かが近づいてくるのが解る。

 あれ…?なんか人間じゃない気がする。


「ガウッ!!!」


 茂みの中から大型犬サイズの犬が出てきた。

 俺は犬に押し倒されマウントを取られてしまう。


「やば…」


 ピンチとはいえ、なぜか思考は冷静そのものだ。

 狼の咢はなぜかよく見える。マウントを取られていてもかわせる。

 今手に持っている包丁を突き刺せば、この狼を殺せる事に確信がもてる。

 しかし、返り血を盛大に浴びてしまうんだろうなと考えると、なかなか踏ん切りがつかない。

 

 狼の牙をよけながら、とりあえず包丁を犬の目の前に出す。

 狼は包丁を見た瞬間、ビクっと飛び上がって離れた。

 狼はやせ細っており、見るからに飢えた顔つきをしている。


「よしよし…、なんだ腹が減っているのか?」


 俺は創造魔法を使い、黒毛和牛のフィレを作り出す。

 さっきのニンジンと同じだとすると味もしっかりと再現されているだろう。


 狼の目の前に肉の塊を投げてやる。とりあえず2キロ程だしてやった。

 前の世界だと、何円するんだろうなーなんて事を思いながら。


 犬はこちらを警戒して食べないようだ。

 しかし、鼻はひくひくしてよだれを垂らしている。

 もうひと押しか…。


「おい、食べていいぞ。」


 そう言って、手に持っていた包丁を消し、離れた場所に座り込んだ。

 これで賢い狼なら警戒を解くだろう。

 俺に襲い掛かってきても包丁を出せばいいだけ出しな。


 狼はもう我慢の限界だったらしく、ガツガツと食べ始めている。

 味を覚えてしまうから生肉を与えたらダメとか言われていたが、

 異世界だし良いだろう。


 狼は食べ終わったが、全然足り無さそうだ。

 さらに追加で2キロ出してやる。俺の目の前に出したにもかかわらず、飛びついてきて食べている。

 警戒心はなくなったようだ。


 よく見ると頭の上から角が生えているな。

 シベリアンハスキーのような見た目で、愛嬌もある。


 俺がそんな事を思っていると、狼が食事を中断した。


 狼は耳をぴくぴくさせながら、森のほうを見る。

 何かが近づいてきているようだ。


「グルルルル」


 狼の警戒している鳴き声の向けられる方をみると、

 子供が茂みの中から飛び出してきた。


 俺と狼の丁度真ん中に駆け込んできて、犬の方に向いている。。


「おじさん!逃げて!!」


 ボサボサな黒髪、毛皮を腰に巻いただけの服、木の棒に石を括り付けただけの槍、見た目は10歳くらいの少年だ。


 どうやら狼から俺を守ってくれるつもりらしい。

 狼に槍を向けている。


 しかし…。


「大丈夫だ、こいつとは今は敵対していない。」


 俺がそう言い、さらに狼と少年の間に入る。


「え…そうなの?」


 バツの悪そうな顔で苦笑いを浮かべる少年。

 おそらく神様が保護しろと言っていた子だろう。

 それにこの見た目…。

 少年はボロボロの服、ぼさぼさな頭、自前で作ったであろう草履…

 こんな狼がうろついているような森で一体何日過ごしていたのだろうか…。

 先ほど守られた時も、少年には特に怯えはなかった。

 おそらく狼相手でも負けるつもりはなかったのだろう。


 俺がこの少年の年の頃、森で一人で暮らせと言われても、

 絶対無理だったろうなぁ…。

 牙を剥いている狼とか怖すぎだもんな。

 小さい頃、近所の野良犬に追いかけられて、泣きながら逃げ回ってた俺とは大違いだな。

 そんな事を思いながら、目の前の少年に話しかける。


「とりあえず…飯にしよう!」


-------

 創造魔法のおかげで、前世で食べた素材の味が見事に再現されている。

 そして、この場の雰囲気も良い。

 大自然の中で食べる料理はやはり格別な物だった。


 目の前には涙を流しながらサラダパスタを食べている少年と、

 横にはもっと肉が欲しいとウルウルした目ですりよってきている狼がいる。

 うーむ…まずは。


「これが最後な。」


 狼のほうに骨付き肉を与える。

 骨付きにしたので、食べ終わっても少しは楽しめるだろう。


「さてと…。名前は?」


「イカリ トーマです。おじさんは?」


「おじさんって年じゃねえ…っていってももう30歳だから、10歳とかから見たらおじさんか…。

俺は、アジカワ アキラだ。」


「あれ?アジカワ…?。日本人なの?」


 そういえば日本語で話しているけど、問題なく通じてたな。


「どっからどう見ても日本人だろ?」


 そういった時、ふとこっちに来てから自分の姿を見ていない事に気づいた。

 鍋に水をはって覗き込んでみる。


「うぉっ!なんじゃこりゃあ」


 金髪青眼のダンディなイケメンがそこにはいた。

 そういえば神様が身体を作ったとか言ってたな。

 その後、お互いが簡単な自己紹介を交わす。


 なんとトーマは、元の世界で本を読んでたらいきなりこっちに飛ばされたらしい。

 そのまま森の中で暮らす生活をしているそうだ。

 すでに1年以上生活をしているらしい…ってまじかよ。

 10歳でいきなりサバイバルをして1年間生き残るって普通はあり得ないだろ…

 俺なら最初の数時間でさっきの狼に食われて死んでたな。


 森に飛ばされたトーマは衣食住を自分で揃え、なんとか毎日生き延びれているそうだ。


 父親がキャンプ(サバイバル)マニアで色々と小さい頃から習っていたおかげで生き延びれたとのこと。


 俺が今日来たばかりだというと、トーマは住処に案内してくれるとのこと。

 なぜか狼もセットだが…。

 狼は俺が肉を与えたせいか、やけに懐いている。モフモフを堪能した。


 途中、何もない所からいきなり現れる2メートルくらいのカマキリがいたが、トーマがなんなく手に持っていた自作の槍で一突きだった。

 カマキリのカマの部分を湯がいて食べると美味しいらしい。

 …この子、たくましすぎるだろ…。


 最初に俺がこの世界に来たところから、2時間くらい走った。

 それはもう全力疾走に近い速度で。でもこの身体は全然疲れないな…。

 やはり神様の作った特別性だからだろうか。

 明らかに前世でできなかった動きができるようになっている。


 しかし、俺は転生チートのおかげで普通に走れているが、生身の10歳児でチート並ってどうなのよ…。

 本当にこの子何者…?


 「え?この森に来てから、身体が少し軽いけど、これくらいなら日本にいたときにも出来たよ?」


 …今時の10歳児はすげえな…。

 森の中を全力疾走並の速度で2時間走り続けてもまだ余裕って感じだ。

 元々、神童とか呼ばれていたのだろうか。

 息一つ切らしていないとは…。しかし、ここに来てから身体が軽い…?

 まぁ今考えても解らない。魔法があるのだから何か不思議な力があっても驚かない。



 全力で走ってきたにもかかわらず、息一つ乱れていない。

 

 「こんなに動いても、誰も怒らないんだな……」


 トウマがつぶやいた。


 今までは「力を見せるな」「目立つな」と言われて育ってきたという。

 けれど、ここでは思いきり走って、思いきり叫んでも、誰も咎める者はいない。

 そんな当たり前のようで、初めて味わう“自由”に、彼の顔が少しだけ緩んだ。

「ついたよ」


 たしかに生活感のある空間がある。カマドや焚火のあと、果物や肉が干されている。

 家は…、木の上か。むき出しの石と木で作ったテーブルがあり、そこに置かれている丁度いい高さの石に座る。


 こんなジャングルの中でどうやって生きてきたんだと思ったが、

 意外にも文化的な暮らしをしているようだ。

 しかし、この自然の中で1年も自給自足で暮らしていると考えただけで、ぞっとする。

 神様が保護しろと言ってくるのも頷けるな。


「なんか日本の物でもいいから食べたい物とかあるか?」


 俺は創造魔法というものを神様からもらっていて、大抵の料理が再現できる旨をトーマに伝えた。

 薄汚れていて、日焼けで真っ黒で、ところどころ古傷がある…。

 力強く生きているトーマを見ていると、自然と涙がこぼれてくる。

 

 俺が好きなだけ、食べさせてやろう。

 元の世界に戻れるかは解らないけど、親御さんの元へ帰してやりてぇ。

 よし!と俺は決意した。


 俺はトーマを両親の元に送り届けてやる。

 それが無理なら俺がトーマを成人まで面倒をみよう。

 こちらの世界の使命ができた瞬間だった。

-----------

 トーマの家は快適だった。

 いやもちろん、現代とは比べ物にならないくらい不便だけど。

 藁草を敷き詰めて、その上に葉っぱをひいたベットがあり、

 果物や野菜も蓄えてあり、聞けば魚のいけすもあるらしい…。


「やっぱとんでもないな…この子。」


 俺よりはるかに生活力がある。こんな森林でも生き抜ける力はすごい。


 さて…料理でも作るか。っと思ったが、

 ここでも火がないじゃないか…。

 またカセットコンロを出すか…。しかし大自然でカセットコンロは風情がないよなぁ。

 せっかくだし直火を使って料理を作ってみたいな。


 トーマの事だ、火おこしとかお手の物だろう。

 トーマがどうやって火をつけているのか少し興味がある。


「最初は自分で火起こしをしようと思ったんだけど、なかなかつかなくて…。」


 少年らしい笑顔で近くの茂みをガサゴソと探り始めた。


「いつもありがとね」


 そう言ったトーマの右手にはトカゲが大人しく捕まれている。


「じゃあ、お願い」


「ボッ」


とかげの口から火が飛び出し、木に燃え移った。


「おぉぉぉすげー」


「えへへ〜。凄いでしょ。この子はライターって名前なんだ」


 なんというネーミングセンスの無さ。

 しかし、ライターは目がクリクリしてカメレオンのようなトカゲだ。

 非常に愛嬌がある。


 トーマに聴いてみると、昔、葉っぱをめくるとトカゲを見つけて、最初は食料目的で捕まえたんだと。

 その後は肉を食べたそうに見ていたから、何度も肉をやっているうちに懐いたと。


 さすがは異世界…。トカゲが火を吐くとか…。


 そんな事を言っていると、「その狼も雷を出すよ?」と言ってきた。

 まじかよ…さすがは異世界…。

「何度か危ない目にあってさ、ここら辺の要注意動物だよ。」


「そういえばこの狼にも名前をつけなきゃな。」

 

 なんだかんだと俺たちに懐いている。このままペット枠として飼ってもいいだろう。

 モフモフ要素があったほうが人間は充実するもんだ。

 こんな殺伐とした森に居るんだから癒しは必要だろう。


 名前かぁ…ポチとかつけたらトーマの事言えないな…。

 しかし名前を付けるのは苦手なんだよなぁ。


「よし、お前の名前はライガーだ。」


「良い名前だね!」


「ウォン!」


 ライガーも嬉しそうだ。どこかの獣神レスラーから取ったのは内緒だ。

 さすがにトーマも世代的には知らないだろう。

 さて…しばらくここを拠点にして、トーマに美味いものをたくさん作ってやろう。


 さっそくライターにつけてもらった焚火で調理を開始する。


「うわぁ…おじさん凄いね〜」


 トーマは俺が魔法で材料を作り出すたびにしきりに感動している。

 少し気分が良くなってきた。


 

 鍋から立ち上る湯気に、ニンニクの香ばしさとオリーブオイルの甘い香りが混ざり合う。

 ジュワッと油が跳ねる音が耳に心地よく、鷹の爪の辛味が空気に漂って少しだけ目を刺激した。


 茹であがったパスタをソースに絡めると、もちもちとした食感がトング越しに伝わってくる。

 皿に盛りつけ、パセリを一振り――仕上げにすりおろしたチーズがふわりと雪のように舞い降りる。


まずは簡単な料理から…と、鍋にお湯をため、パスタを湯がく。

 オリーブオイルとニンニク、鷹の爪を出し、ペペロンチーノを作ってみた。


「おいしい…。」


 トーマは涙を流しながらパスタをほうばっていた。よく見ると、調味料が全然ないもんな、この家。

 調味料がないとか…キツイな。


 しかし、トーマが取ってきている食材も気になるな。

 果物とか、葉っぱ、キャベツのようなもの、魚、肉の干物がある。

 異世界の食材はどんな味がするのか…。

 

「トーマ。ここにある食材を食べてみたいんだが…。」


 トーマは快く許可してくれた。好きなだけ食べてもいいそうだ。

 確かに保存がききそうな物が山ほどある。

 俺は干されている肉を一つかじった。

 

「美味いな…」


 独特な野生の臭みを感じるが悪くない。

 この使われている調味料がまた良い味を出している…。

 ん?調味料…?

 

「なぁ、トーマ。この肉に使われている調味料はどこから手に入れたんだ?」


「えっとね。このザラザラした草を煮出して干すと塩みたいな粉が出来上がるんだ。

あと、木に生えてる黒い粒をすり潰すと黒コショウみたいな味だったから、それを使ってるよ」


 おぉ…なんという異世界仕様。食材に対しても俺の常識は通用しないようだ。

 むしろよくトーマは見つけたな…。

 そう思って聞いてみると、野生の魔物を観察して食べてる草とか果実を片っ端から食べたらしい。

 なんと恐ろしい事を…。

 しかし、トーマはヤバいと思った物はなんとなく解るらしい。勘を信じて生きてきたようだ。

 もう、トーマに驚くのは止めよう。そういう子なんだと考える事にした。

 

 その日は日本人トークを楽しみながら、トーマの寝床で寝た。


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