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リスタール料理大会

 料理大会の前日、リスタールの中央広場はまるで祭りのような熱気に包まれていた。広場には白いテントが並び、木造のブースが展示会のように設営されていく。


「……すごいね!まるで花火大会みたいだ!」


 トウマは屋台の準備を手伝いながら、広場を見渡して目を輝かせた。広場はトウマの言うように人がごったがえしており、日本のお祭りをどことなく思い出させた。


「この盛り上がり、完全に街の一大イベントだな」


 アキラが鉄鍋を磨きながら頷く。彼の前には、すでに仕込み済みの食材と、シンプルながらも丁寧に用意された調理器具が並んでいた。


「こういった形式というのは面白いですね。観客が自由に試食し、投票で評価する……公平でもあり、厳しくもある」


 ティレアは屋台の飾りつけをしながら、少しだけ口元を緩める。


「俺らが居たところでは、よくあった形式だな。展示会と言って色んな企業がブースを出して客が好きにまわる。この形式だと、有名なお店や事前に知り合いを多く呼べるお店は有利だな」


「へぇー。そうなんだねー。じゃあおじさんのお店は不利なの?」


「まぁ有利ではないが、それでも問題ない。やり方はいくつかあるからな」


 アキラはニヤッと笑い自分達のブース準備に取り掛かった。

 当日はブースがずらりと並び、それぞれの料理人が工夫を凝らした「じゃがいも料理」を披露していた。中には、香辛料をふんだんに使った東方風の炒め物や、まるで芸術品のように細工されたじゃがいも細工のプレートなども。


「うわっ、これ全部じゃがいもか!?」


「うむ、これは……目でも楽しむ料理だな」


 観客の感嘆の声があちらこちらから上がる。様々な料理人が工夫を凝らした料理が並べられていた。 

 アキラの屋台では、「庶民が作れて、腹がふくれて、そして美味しい」──そんなポリシーのもと、三品を用意した。


・ジャガイモのもちもちチーズ焼き

・ジャガイモと豚肉の甘辛炒め(山の味噌仕立て)

・じゃがいものカスタードプリン風デザート


 素材はすべてこの辺りで調達できる素材にしたので、非常に低コストで実現できる。味付けには最低限の調味料しか使っていないにもかかわらず、その味は絶品だった。また、価格設定も安く設定している。


「ほら、できたぞ」


「すごい……見た目は地味なのに、香りが……!」


 トウマは配膳と皿洗いを担当し、ティレアはアキラの作戦で呼び込みと説明役を買って出た。その説明の際にもちもちチーズ焼きを一つプレゼントしている。興味を引けたなら、実際に購入につなげる作戦だ。また説明の際にレシピを惜しげもなく提供している。


「おいしいですよー! お子様にも人気の味です!」


「すべて現地で採れた素材。保存も効きます」


 ティレアの流れるような営業トークに、どんどん客が集まり、気づけば屋台前には行列ができていた。またアキラの流れるような手さばきと調理の実演も興味を引いたらしく、ティレアから渡されたレシピと比べながら食い入るように見ている主婦たちも居た。 


 そのとき──貴族用のブースから、一組の華やかな姿が近づいてきた。


「ふむ、ここが例の奇跡の屋台の所か。庶民たちからの評判はよさそうだな」


 白銀のタキシードに身を包んだ男性と、優雅なドレスの女性──審査員のフリードリヒ伯爵とリリアン夫人だった。


「お口に合えば、幸いです」


 アキラは自信ありげにもちもちチーズ焼き差し出した。


 伯爵が一口食べ、無言で咀嚼した後──不意に目を見開いた。


「これは……!」


「シンプルだが、計算し尽くされている。素材の甘さと旨味を、これほどまでに引き出せるとは……!」


「もう一つ、もらえますか?本当に美味しいわ!」


 夫人の言葉に、観客たちが一斉に「おぉ!」っと歓声を上げた。他の料理も食べるということで、席を用意し他の二品を提供する。そのどちらでも満足いただけたようだ。


「これは…。使っている食材や調味料は庶民でも手に入るもので作られているが、味は奥深い…」


「そうね。レシピも頂けたから屋敷に戻っても作れるわ」


 アキラはもう一つの秘密兵器を出すことにした。


 「良かったら、お屋敷の料理人にこちらを…」


 そういってアキラが渡したのは、大衆的な調理方法ではなく"貴族向け"の高級志向なレシピだった。


「これは…!家に帰るのが楽しみになったよ!」


 アキラの料理大会は大成功で終わったが…。


「他のブースを見に行きたかったな…」


 アキラのブースは大盛況だったため、常に客足は途切れず調理しっぱなしだったので他のブースが見れていなかったのが心残りだった。トウマとティレアがたまに近くのブースから差し入れを貰って食べたが、非常に興味深い味わいの物が多かった。自分だったらこう扱う、こう味付けをする、こんな組み合わせもあったのか等と勉強になる事がおおいため、他のブースを心行くまで見れなかったのは若干の心残りではあった。まぁアキラは自分の料理が一番美味いと自信を持って言えるが…。


 その日の夕刻、表彰式が行われた──

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