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リスタールの街到着

 ギルバ砦を出て山を越え、数日の旅路の末──トウマたち一行は、ついにリスタールの街に到着した。


 そこはギルバ砦よりも華やかで、開けた大通りには露店と人々の賑わいがあふれていた。赤や青の装飾が軒を彩り、どこか陽気な雰囲気が漂っている。騎士や冒険者風の人物もいるが、武装していない町娘や子供たちの姿も多く、街全体に平和と活気が広がっていた。


「……なんだか、すごく明るいね」


 トウマは荷物を背負いながら、目を細めて街を見渡す。


「この感じ、好きだな。ギルバ砦も悪くなかったけど、ここはちょっと……お祭りみたい」


「ここは交易の中心地の一つらしいからな。人も物も情報も、自然と集まる街だって話だ」


 アキラがにこやかに答える。軽装の装備にアタッシュケースを持つ姿も街並みに馴染んでいる。


 ティレアはフードを深く被って、街の人々の様子をじっと観察していた。


「警備兵の数は多くないけれど……目が利いている。魔族でもうかつに動けば、目立つわね」


 その言葉に、ライガーとライターがトウマの脇にすり寄った。従魔たちは常に周囲に警戒しながらも、街中では控えめに振る舞っている。

 人間史上主義の国ではないが、やはり魔族や異種族はあまり良い目では見られないので、隠せるなら隠した方が良いだろう。


「ライガーもライターも、偉いぞ」


 トウマが小声で頭を撫でると、従魔の二匹は誇らしげに鳴いた。

 街並みを歩く人を見てみると、従魔を連れている人たちはチラホラと居る。

 肩に鳥のようなものを乗せている旅人、恐竜のような魔物が引く馬車も見える。


 目的の宿はすでに調べてあった。

 こういった情報収集は屋台を開く事で行われおり、すでにある程度計画を立てている。


「ここだよ! ほら、去年の料理大会で優勝した人がいるっていう宿」


 トウマが掲げた看板には、《白銀の皿亭》 と書かれていた。建物は二階建てで、木の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気。庭先にはテラスと従魔用の広場と小屋も併設されていた。


 受付の女性が笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、こちらの宿は冒険者用の設備も整っております。従魔の設備もございますので、ご安心ください」


「ありがとうございます」


 アキラが軽く頭を下げると、奥から料理人風の男が現れた。どうやら昨年の料理大会で優勝した人物らしい。名前はロバート・グレイン。丸顔で恰幅の良い中年男性で、笑顔の奥にプロの気迫が漂っていた。


「おう、いらっしゃい。今日からの飯は任せろ」


 ロバートは豪快に笑った。宿泊客を見て得られる情報からその客に合った料理を提供するのが白銀の皿亭のスタイルだ。見た目と雰囲気からみて、どういった料理を提供するか決めているプロの仕事だった。

 

「ん?お前さん料理人か?」


 ロバートはアキラに近づくとそう問いかけた。どうやら、アキラの雰囲気に何か感じるモノがあったようだ。

 

「あぁ。そうだ。ギルバ砦で屋台を開いていた。俺も料理大会に出ようと思っている。」


「あぁ!!奇跡の屋台とか言われて噂になっていたその屋台か!俺も食ってみたかっぜ」


 アキラとロバートはお互いに自己紹介しながら打ち解けている。

 その流れで一行も自己紹介を行う。

 

「料理大会では手加減はしないからな!よろしくたのむ。料理大会の説明はレストン商会が行っているからそこで聞くんだな」


 そう言われ、ひとまず宿の部屋に案内された。

 宿の部屋に荷物を置き、一行はレストン商会のリスタール支部へ向かった。


 大通りを抜け、商業地区に入ると、豪奢な看板が掲げられた建物が見えてくる。中には丁寧な応対の女性が待ち構えており、すぐに料理大会の詳細なルールが説明された。


「テーマは『じゃがいもを使った新しい料理』だそうだ」


 アキラがパンフレットを読み上げる。


「じゃがいも……か。王国北部で豊作だったらしい。余りすぎて困ってるんだってさ」


「なるほど。料理で需要を作るということだな」


「うーん……ポテトの形を崩すか、逆に極めるか。グラタン風に焼いてもいいし、もちにしてもいい。甘いスイーツにしても面白いな」


「スイーツ!? じゃがいもで!?」


 トウマが目を丸くする。


 ティレアは静かに聞いていたが、不意に目を細めた。


「じゃがいもは保存が利く。飢饉のとき、私たち魔族の一部でも栽培していたわ。……それを甘くするとは、人間の発想は面白いわね」


 審査員には伯爵夫妻が来賓として招かれているという。名前はフリードリヒ伯爵と、その妻リリアン夫人。格式と味にうるさいことで有名らしく、彼らに認められれば商会からの支援や王城への推薦も夢ではないという。


「なんかちょっと、緊張してきたかも……」


 トウマが呟くと、アキラが笑って肩を叩いた。


「大丈夫だ。お前も手伝ってくれれば、百人力さ」


 エントリーを済ませて、アキラとトウマは街をぶらつきながら宿に戻るという。

 そんな中、ティレアは別行動をとった。街の裏手にある古書店の裏口から、魔族の情報ネットワークに接触していた。


 そこで得たのは──“魔王の国・ナグリアス”で何やらきな臭い動きがある、という話。


(……勇者と、今の魔王が揉めた……?今頃になってなぜ?)


 ティレアは森にこもった後の勇者の情報を仕入れていた。その情報によれば、ティレアを襲った勇者と当時の魔王は死闘の末、和解したと聞いていた。その後、魔王は引退し、その後継が現魔王だったはずだ。人間の勢力と魔王の勢力も円満だったと聞いていたが…。


 さらに情報屋から、現魔王の人相書きが手渡される。

 

(この雰囲気…どことなくトウマに似ている気がする…?)


 夜、ティレアが人相書きを手に宿に戻ると、トウマがそれを覗き込む。


「……母さんに似ている……」


 少年の呟きは、夜の静けさに溶けていった。



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